数々の名作映画を送りだしてきた、角川大映スタジオ潜入リポート第二弾は、映画ファンが一番気になるであろう撮影スタジオを紹介しよう。映画やドラマ、CMはどんな場所で作られているのか、またそれに欠かせない美術セットはどんな風に作られているのか。今回は、自身も角川大映スタジオでCM制作に立ち会ったことがあるという酒井俊之さんにリポートをお願いしよう。(編集部)
編集部注:角川大映スタジオでは一般見学は受け付けていません。ゲート横のアンテナショップ「Shop MAJIN」ではグッズ購入が可能です。
角川映画といえば1970年代から1980年代にかけて映画館でよく観た。けれどそこからさらに時代を遡る大映作品はいまひとつ馴染みがない、という方もいらっしゃるかもしれない。しかし「市川雷蔵映画祭」や「若尾文子映画祭」は今も全国各地で繰り返し上映されるほどの人気企画だし、先日の第77回ヴェネチア国際映画祭では『無法松の一生』(1943)の4Kデジタル修復版が上映された。また東京・京橋にある国立映画アーカイブでは間もなく「公開70周年記念 映画『羅生門』展」が始まる。意外と“いつもどこかで大映映画”なのである。
そんな日本映画黄金時代の大映作品はここのところすっかりウチでもヘビーローテーション。年齢を重ねるごとにその面白さや素晴らしさにいまさらながらに気づかされる毎日である。そんななかにあって角川大映スタジオを取材する機会を得た。
映画でもお馴染みの大魔神像に迎えられ、市川雷蔵にちなんだ雷蔵門をくぐる。目をやれば80年代を代表する角川映画のスチルをはめ込んだ窓が目に留まるし、ガメラもいる。するともう取材とは名ばかりで、すっかり映画ファンの撮影所ツアーのように楽しんでしまった。営業部 部長の久保啄真さんと美術部 部長の久保埜孝さんに、スタジオ内をじっくりと案内していただいた。
広さ305坪。角川大映スタジオ最大のステージG
大魔神像がそびえる入り口から入ってすぐのビルがステージGを備えるG棟だ。ステージGはW25×H10.5×D40.4m、広さ305坪という広大な空間で、天井部には井桁状にキャットウォークが設けられている。このキャットウォークを使って、任意の場所に照明を取り付けたり、セットを固定したりなど、実に効率的に考えられている。3階部分にはサブコントロールルームも設けられ、ここから全体を見下ろしながら指示もできるそうだ
今から30年ほど前にこのスタジオにはたびたびCMの撮影で訪れていたことがある。足を踏み入れると見違えるように最新のスタジオに生まれ変わっているので驚いた。とりわけ最大の規模を誇るステージGは圧巻。
これだけの広さがあれば今の日本映画の規模ではセットの建て込みなどかなり贅沢にステージが使えるはずだ。天井高が高いのも目を引く。天井部にはキャットウォークが張り巡らされているのでライティングの作業もやりやすいしセッティングの自由度もある。
3F部分に設けられているサブコントロール室も使い易い。撮影時の俳優陣の控室としてやメイクルーム、CM撮影などではクライアント用としても流用が出来る。CMの撮影用として重宝しているというプロダクションも少なくないというのも納得の設備だ。
効率のいいスタジオ運営を可能にした、2階建てのステージC/D
第一回の小畑社長インタビューでも紹介した通り、角川大映スタジオには2階建てという珍しい構造のスタジオがある。ステージA/Bが1階でそれぞれ広さは209坪、ステージC/Dは4階部分にあり広さは167坪というものだ。限られた空間を有効活用することで、スタジオとしての運営にも大きなメリットがあったそうだ。
映画やドラマ、CMなど各種の撮影に対応するそれぞれのステージの充分な広さもさることながら、撮影スタッフにとっては仕事の効率がアップする環境になっている。撮影というものはなにかとストレスがかかる。しかしこれだけ至れり尽くせりのスタジオになっているならば各スタッフの仕事も捗る。撮影がスムーズに進めば製作費に負担もかからないというわけである。
古くからある撮影所というところはどこか雑然としているようなイメージがあるが、こと角川大映スタジオについては効率第一、といった印象だ。自身も大道具のスタッフ出身という久保埜さんの神経や創意工夫が隅々まで行き届いているのだろう。
まるで工房のようだ。自由な空気が溢れる美術&塗装部
個人的に面白かったのはセットの建て込み時に使用する日本家屋用の建具がびっしりと詰め込まれた倉庫。ここには新しく制作されたものから相当に古くから使い込まれたものまである。何百、ではきかないほどのさまざまな大きさ、形状の建具がすべてナンバリングされて保管されている。新作への転用も容易で外部からの問い合わせも多いという。
そしてなかでも感心させられたのが撮影所で働く若い美術スタッフたちの活き活きとした姿だ。大映作品と言えば美術。長年の伝統がある。いまも脈々と受け継がれた……というよりも、日々の作業のなかから生まれてきたより働きやすい環境づくり、そのアイデアがスタジオ内の至る所に活かされているのに感心させられた。
撮影所、というよりもどこか “工房” のような雰囲気が満ち溢れていて、スタッフそれぞれが自由に創造や創作を楽しんでいるようにも感じられる。 “箱” だけにはとどまらない血の通った環境がスタジオを支えているスタッフのヤル気を引き出しているのだ。なによりそういった現場の空気感は不思議なことに映像にも出るものなのである。
映画ファンなら気分が上がる。あちこちにちりばめられた映画への想い
東京・調布市に位置する角川大映スタジオ。「映画のまち調布 シネマフェスティバル」の開催や京王線調布駅に隣接する「イオンシネマ シアタス調布」で映画ファンにもより広く映画の街と知られるようになってきた。その中核にありシンボルになっていると言っても過言ではないのが角川大映スタジオの存在だ。ここでどんな作品が新たに生み出されていくのか。往年の大映映画、角川映画ファンとしてこれからもとても楽しみにしている。
※次回は、9月18日公開予定。角川大映スタジオのポストプロダクションについて紹介します。