ジェームス・バロー・ランシングが、最初に創業した「ランシング・マニュファクチャリング・カンパニー」以来、JBLは現在に至るまでホーン+コンプレッション・ドライバーを搭載したスピーカーを世に送り出してきた。その中には時代を席巻したスピーカーも数多くあり、現在も、その先進的な設計と高い性能で世界的なスピーカーメーカーとしての確固たる地位を確立している。
 ホーン+コンプレッション・ドライバーという組合せの始まりは、スピーカーそのものが誕生した19世紀後半~20世紀頃に遡る。当時はアンプの能力が低く、効率を高めるためにコンプレッション・ドライバーが生まれたのである。この技術は現代でも有効で、軽量な振動板で微細な音にも反応し、リニアリティの高いサウンドを可能としている。
 そして、「JBL」は2013年にフラグシップ・スタジオ・モニター「M2」を発表。この開発で得られた“イメージコントロールウェーブガイド”を始めとする新技術やノウハウを、ニアフィールドモニターの「3 Series MKⅡ」と「7 Series」にも投入し、ラインナップの拡充を図っている。ここでは、昨年夏に「7 Series」に加わった、パワード・スタジオモニター「705P Powered」をワークルームに導入した、Teruo“Mu-”Murakami(村上輝生)氏に話を伺った。

PS 村上さんがエピキュラス・スタジオで仕事を始めた頃、「JBL」の「4331A」をラージ・モニターとして使われていたそうですね。

村上 はい。この仕事を始めた頃から好きなメーカーで、僕にとって「JBL」製品は、ラウドスピーカーの代表みたいな存在です。なぜ、「JBL」に惚れ込んだのかというと、位相がとても良かったからなんです。特別な調整はしていなかったのですが、ファントム・センターなのにグッと音が出てきて、これはすごいスピーカーだなと。それで、同じスピーカーを自宅にも置きたくて、「4331BWX」をローンで購入しました。仕事が忙しくて深夜帰宅が多く、また、マンションだったので聴くことは少なかったのですが、時間ができた時に聴いてみると、低音にはパンチがあって、高音は伸びやか。そして、キビキビというかソリッドで乾いた感じで、まるでアメリカの西海岸のような音がしたんです。それがたまらなくよかった(笑)。ただあまりにも使う機会がなかったので、「4331BWX」は、実家に送りました。実家ではいまでも父が音楽を楽しんでいるそうです。当時は、せめて車載スピーカーだけでもと思って「JBL」に入れ替えましたね。

PS その後、1985年に渡米されています。色々なご経験をされたと思いますが、その中で印象に残っている仕事はありますか?

村上 例えば、シカゴにいた時に「Stradivari society(ストラディバリ・ソサエティ)」という協会の仕事をしました。本物のストラディバリウスの音を協会が評価するために、一流のヴァイオリニストの演奏を録音するというものです。用途が用途なだけに、全ての機材に細心の注意を払う必要がありました。そこで録音に使ったのが、早稲田大学の山崎芳男先生が特注で作ったDSDレコーダーでした。まだ、世の中にはまったく知られていない頃から、僕はDSDレコーダーを使って録るという仕事をしていたので、時間軸上の解像度がとても高いDSDの良さに触れ、今でも頻繁にDSDで録音しています。
 その後、LAでエンジニアとして仕事をしていた時、友人に紹介されたデビット・ペイチのスタジオで「すごく上手いバンドが演奏しているな」と思いながら録音したんですが、そのバンドが実は「TOTO」で、「お前は上手いから、俺たちのエンジニアをやれ」と言われてね(笑)。それから「TOTO」のレコーディングに携わることになりました。

TOTOのアルバム“FAHRENHEIT”で、Gold Diskを獲得

7 Seriesは素直でワクワクする楽しい音

PS 「705P Powered」以前のスピーカーを教えてください。

村上 僕はいろんな人が聴き慣れているので「ヤマハ NS-10M Studio(以下、10M)」を長年使っています。「10M」は、かなり真剣にミックスしないと、まともな音で鳴ってくれません。だから、「10M」で聴いてみて良い音がしているのは、だいたい良いミックスだと分かります。でも、あまり楽しい音とはいえません。
 またそれとは別に、ミックスやバランスの評価ができ、ラージ・スピーカーに準ずるようなモニターとして「B&W 805」を使っていました。ニアフィールドとしては充分な低域も出るし、スピードも速く、定位も良いのでけっこう気に入っていたんですよ。

PS 「7 Series」との出会いを教えてください。

村上 昨年、ある展示会で「7 Series」を聞いた時、わりと好きな音がするなと思ってね。たまたま説明員が友人で、「デモ機をお貸ししますよ」というから、試しに送ってもらったんです。そこで「7 Series」をファクトリー・リセットの状態で聴き始めたのですが、その段階ですでに音の完成度がとても高かった。「708P Powered」「705P Powered」のどちらも素直だしワクワクする楽しい音で、あっという間にノックアウトされました。早速、導入することを決め、どちらも同じ傾向の音だったので、ワークルームで置けるサイズを考えて「705P Powered」を選びました。

PS 「7 Series」もそうですが、パワード型のスタジオモニターを使っている方がかなり増えていますね。

村上 スピーカーとアンプをそれぞれ選んでいた頃は、相性の良いスピーカーとアンプを探す必要がありました。それがいま、メーカーはスピーカーの持っているキャラクターやポテンシャルを充分に引き出すパワー・アンプを独自設計し、エンクロージャーに入れるという考え方でパワード型を作り始めたのだと思います。

PS 「7 Series」の特長について、どのような点に気づかれましたか?

村上 「7 Series」は、トランジェント(音の立ち上がりと立ち下がり)が素晴らしいですね。いまも交流がある「TOTO」のドラマーだったサイモン・フィリップスは、スネアの表と裏にマイクを立てた場合、「裏のマイクで録った音が遅れるから止めてくれ」というほど、音のスピード感に敏感です。そういうドラマー達と付き合っていると、ここまでは許容してくれるんだ、という分かれ目がわかってくるんです。「7 Series」は、くっきりしていてスピード感のある低域がたっぷりと鳴る。しかも、立ち上がりだけではなく、立ち下がりでもドロンとしない。彼以外にも一流のドラマーと仕事をしたことが何度もある中で、僕も自然とユニットのスピード感を重視するようになりました。
 スピーカーを選ぶ時、音質は良いに越した事はないけれど、何をもって「音質が良い」と感じるかが問題です。周波数特性はもちろん大事ですが、それ以上に、スピーカー・ユニットがきちんと制動されているか、というところを重視しています。
 僕も、好きな低音、好きな中高音、定位のわかりやすさなど、ある部分だけにスポットを当てれば「7 Series」以外にも好きなスピーカーがありますが、総合的に「7 Series」が良いと思っています。

「705P Powered」のリアパネル。「708P Powered」も同じレイアウト。DSPコントロール用ディスプレイと回転式コントローラーを配置している。XLRタイプのアナログ入力の他、AES/EBUデジタル入力、スルーアウトも搭載

最上位機種「M2」から引き継いだ“イメージコントロールウェーブガイド”。このウェーブガイドによって、「705P Powered」は水平指向110°×垂直指向90°、「708P Powered」は水平指向100°×垂直指向90°と広いリスニングポイントを有している

DSD音源であっても違いがはっきりわかる

PS 先程スピード感について伺いましたが、「7 Series」は、高域はコンプレッション・ドライバー、ウーファーはコーンです。その2つユニットのトランジェントが揃っているから、お気に召されたということですか?

村上 どういう仕組みになっているのかわかりませんが、「7 Series」は時間軸が揃っています。トゥイーターとウーファーの時間軸の統一については、他のメーカーでも同じようなことをしていると思うのですが、立ち上がりが良くても、立ち下がりが気になるスピーカーは結構あります。これはダンピング・ファクター(制動力)が低くて、ユニットを制御しきれていないと出てくる特徴です。「7 Series」は、そこがうまく抑制されているので、僕の好きな低音がするのだと思います。この特性を持っていると、ミックス作業でも、調整した通りに鳴ってくれるのです。

新型の「2409H」コンプレッション・ドライバーは、1インチの環状ポリマー製ダイアフラムを搭載している。金属製ドライバーが持つ固有の響きがなく、軽量なため入力信号への追従性にも優れている

「7 Series」のウーファーは、2つのボイスコイルで駆動する“ディファレンシャルドライブ”方式を採用。高出力と低歪率を両立している

 また、低域と一言でいっても、色々な音がありますよね。例えば僕が関わったゲームのサウンドトラックでは、100Hzあたりを調整して、次に50Hz辺りをかなりブーストする事で小さなスピーカーでもわかるような低音感を出したのです。この時、25Hz以下はフィルターでカット。それだけ低い帯域の調整をする場合、パワード・スピーカーでは聴こえにくくなるモデルもあります。それが「705P Powered」では、周波数特性としてはそこまでの低音は再生されていないはずなんだけれど、なぜか施した内容がわかるんです。「良い再生環境で聞いた場合、このくらいの低音感になるんだ」と感心するほど、僕が手を加えた部分をきっちりと再生するのです。これなら、レコーディングでドラマーが演奏した時でも、きっと演奏した通りに鳴ってくれると思います。

 もうひとつ、僕がスピーカー選びで重要視しているのが、DSDで録音した違いがきちんと出てくれるのかという事です。先程も話したとおり、僕はDSDが商品化される前から録音に関わっているので、おそらく世界で一番多くDSDで収録していると思っています。ですから、2.8MHzや5.6MHzのDSDで録った音の違いがわかるスピーカーでなければいけません。良い音も悪い音も全部見えるような解像度。そして、DSDならではのスピード感の再現。それが私がスピーカーに求める条件のひとつです。もちろん「705P Powered」は、DSDの音も低域から高域まできちんと再生してくれました。素晴らしいスピーカーです。

デスク右手に「KORG」のDSDレコーダー「MR2000S」が設置されている。「705P Powered」はDSDの解像度やスピード感を忠実に再現できる

スピーカー配置によってさらに再生能力が高まる

PS 以前、村上さんのワークルームの写真を拝見したことがあるのですが、スピーカー配置が変わりましたね。

村上 「705P Powered」を導入してから、より良い音にするため、レンガの上に置いてみたり、「10M」を置いていた木製スタンドに置いてみたりと試行錯誤しました。「7 Series」は、「イメージコントロールウェーブガイド」というホーンなので、指向性(水平110°×垂直90°)が広く、今のようにスピーカーの間隔がかなり離れていても、センターに音がグッとまとまります。一般的に“スピーカーを重ねるとよろしくない”と言われますよね。それに「705P Powered」は、縦に置いて使うように設計されたスピーカーだと思うんですが、この部屋では「10M」の上、そして横置きのほうが良かった。また、「10M」と切り替えた時、広がり感などの違いを聴き比べながら動かすと、どうやらこの位置が一番楽しい音ではないかと感じたので、現在はこの位置で落ち着いています。
 こういう事を言うと、設置の難しいスピーカーのように思われるかもしれませんね。もちろん、ポンと置いただけでも良い音がしますが、調整すればさらにスピーカーの良さを引き出すことができるのです。

左右の「10M」の上に「705P Powered」が置かれている

PS お仕事では、どちらのスピーカーを多く使っていますか?

村上 ステレオの仕事は、2モデルを切り替えながらミックスしています。気に入ったモニター・スピーカーが決まったら、それだけで仕事をする人もいますが、まだ「10M」が必要な場合もあるので、当分、ワークルームでは「705P Powered」と「10M」の2つを使っていくと思います。
 仕事を仕上げる際、完成の一歩前の音源をメンバー全員に送り、それぞれに好きなスピーカーで聴いてもらうんですが、そこである程度みんなが納得したら、最後はここに集まってOKかどうかを確認します。そうしたリスニングの場面では、迷わず「705P Powered」ですね。楽しくなってくるような音を出してくれますから。

サイズを超えた低音感

PS 低域ドライバーは「10M」が7インチ(178mm)、「705P Powered」が5インチ(127mm)ですよね。聴き比べた際、「705P Powered」の低域の方が「10M」よりも豊かに出ていて驚きました。

村上 そうでしょう。このサイズから想像できないほどの低音感がありながらも、スピードが速い。それに、「705P Powered」は、「10M」の上に載っているのに、「705P Powered」に切り替えると、なぜか音像の高さが「10M」と同じくらい下に降りてくる。

PS そして、センターがグッとはっきり聴こえてきます。

村上 位相が良いし、個体差も少ないスピーカーといえるでしょうね。また、バスドラやベースのうねりが出てくるようなドライブ感も聴こえるでしょう? ミックスの時もそうだけど、サイズから想像できないような、音楽に必要とされる低音を感じます。このスパッとしたトランジェントの良い低域が「705P Powered」最大の魅力かもしれません。ステレオの空間の広がりも充分だし、かと言ってセンターは薄くならない。同時にタムの位置までわかるほどの解像度もある。こういう広がり感とまとまり感を持ちながらパワフル。僕のような自宅のワークルームで音楽制作をする方には、超お勧めのスピーカーです。それに「ヒビノ」さんなら、出荷チェックもきちんとされているので、プロが使うなら安心ですよ。

 

Profile
村上輝生 Teruo“Mu-”Murakami
むらかみ・てるお。1980年からエピキュラス・スタジオのハウスエンジニアとして働いた後、1985年スタジオを休職して単身渡米。ロサンゼルスにてTOTO、ドンヘンリーなどを手掛ける。TOTOのアルバム“FAHRENHEIT”でGold Diskを獲得。帰国後、1986~1995年までエピキュラス・スタジオのチーフエンジニアを経て、45歳(1999年)で独立。その後、フリーランスとなり現在に至る。J-POP、JAZZ、クラシック、ゲーム音楽など、演歌以外は幅広くこなす。TOTOのリズム、Tower of Powerのブラス・セクション、スロバキア・フィル、ワルシャワ・フィルなど、海外での録音経験はとても多い。レコーディングで訪れた国の数は、おそらく日本一。また、DSDで収録したハイレゾ・タイトル数も、おそらく世界一多い。

 現在は大学で後進の育成も行っており、早稲田大学 空間科学研究所客員研究員(2000年~2010年)、早稲田大学院 国際情報通信科(2000年~2010年、音響表現/音響情報処理)、早稲田大学 理工学部表現工学科(2003年~現在、音響表現/録音技術論)、昭和音楽大学(2013年~現在、非常勤講師。PA演習/公演実習)などで教鞭を執る。

 

 

写真左は708P Powerd、右は705P Powerd

Specification
705P Powered
オープン価格(実勢価格236,000円前後/ペア)
●形式:2ウェイバスレフ型・パワード●ユニット:コンプレッション・ドライバー25mm(ポリマー製)、ウーファー127mm●周波数レンジ:39Hz~36kHz(-10dB)、45Hz~25kHz(±3dB)●指向特性:水平110°、垂直90°●最大音圧レベル(1m、Cウェイト、ピーク):107dB SPL●クロスオーバー周波数:1.75kHz●パワー・アンプ:250W×2●入力:アナログ(XLRタイプバランス)、デジタル(AES/EBU、44.1~192kHz)●外形寸法/重量:W152×H269×273mm/5.5kg

708P Powered
オープン価格(実勢価格456,000円前後/ペア)
●形式:2ウェイバスレフ型・パワード●ユニット:コンプレッション・ドライバー25mm(ポリマー製)、ウーファー203mm●周波数レンジ:35Hz~36kHz(-10dB)、41Hz~25kHz(±3dB)●指向特性:水平100°、垂直90°●最大音圧レベル(1m、Cウェイト、ピーク):114dB SPL●クロスオーバー周波数:1.7kHz●パワー・アンプ:250W×2●入力:アナログ(XLRタイプバランス)、デジタル(AES/EBU、44.1~192kHz)●外形寸法/重量:W252×H442×313mm/15kg

 

 

7 Seriesに関するお問合せ
ヒビノ株式会社
ヒビノプロオーディオセールス Div.
Tel:03-5783-3110
https://proaudiosales.hibino.co.jp/