「アコースティック」所属のサウンド・エンジニア、西康弘氏
 発売以来、世界的に高い評価を得ている「ローランド」のライブ・ミキシング・コンソール、「O・H・R・C・A M-5000/M-5000C(以下、M-5000)」。内部のミキサーとしての機能を自由に定義できる柔軟性の高さ、96kHz対応/高精度72bitサミング・バスによる透明感のある音質、“タッチ&ターン”オペレーションによる操作性の良さなどが評価され、ライブPA/設備音響/中継収録など、様々な現場/アプリケーションで使用されている。
 今回ご紹介する「アコースティック」は、昨年初頭に「M-5000」を導入したPAカンパニー。同じ「ローランド」のパーソナル・ミキサー「M-48」と組み合わせ、統合型のモニター・システムとして、著名なアーティストのライブ・ツアーでフル活用している。そこで本誌では、「アコースティック」所属のサウンド・エンジニアである西康弘氏に、「M-5000」を導入した理由とその使用感について話を伺ってみることにした。

M-48との組み合わせで昨年初頭に導入

PS 「アコースティック」さんと言うと、ライブ・コンサートを得意とするPA会社というイメージがありますが、創業時から音楽メインで手がけられてきたのでしょうか。

西 そうですね。 久保田麻琴と夕焼け楽団のオペレーターを務めていた山玉(註:代表取締役の山玉修市氏)が、2人の仲間とともに1980年に設立した会社で、当時から現在に至るまで仕事のほとんどが音楽のライブ・コンサートです。1990年代にJUDY AND MARYを担当するようになり、そこからホール・ツアーだけでなくアリーナ・ツアーも手がけるようになりました。現在、オペレーターは約30名在籍しており、ライブ・ハウスやイベントに体一つで乗り込む仕事も多いですね。代官山UNIT、LIQUIDROOM、ザ・ガーデンホール、表参道ヒルズ、ラフォーレ原宿といった施設の音響管理も手がけています。

PS 他のPA会社と比較した「アコースティック」さんの特徴と言うと?

西 ジャンルを問わず、様々な種類のライブ・コンサートを手がけていることでしょうか。PA会社には“こういう音”という色があると思うんですけど、ウチはオペレーターによって全然音が違うんです。他の会社の人にも、“「アコースティック」さんって、良い意味でカラーが無いですよね”とよく言われます(笑)。それは自由にやらせてくれる会社の方針も大きいと思いますね。オペレーターにとってはとてもやりやすい環境で、僕が入社して15年になりますが、その間会社を辞めた先輩は一人もいません。

PS 「アコースティック」さんは昨年、「ローランド」の「M-5000」と「M-48」を組み合わせたモニター・システムを導入されたそうですが、そのきっかけは何だったのでしょうか。

西 弊社では長年、モニター用にアナログのキュー・ボックスを使っていたんですが、少し制限があるのが気になっていたんです。それはチャンネル数もそうですし、キュー・ボックス自体の操作性もそうで。また、手がけているアーティストのバンド・サイドからも、“自分で音を調整したい”という要望があったので、業界内で評判が良かった「M-48」を試してみることにしたんです。それが2016年2月のことで、「神奈川県民ホール」で行われた椎名林檎さんのライブ映像作品の特典映像収録時に初めて使用しました。そのときは、ドラム、ベース、ギターが2人、キーボード、ブラス・セクションが3人、マニピュレーターというメンバー構成でしたね。

PS 「M-5000」との組み合わせで試されたのですか?

西 そうです。最初は「M-48」だけお借りしようと思っていたんですが、せっかくなので「M-5000」も試してみようと。そのときの「M-48」を使った印象は、これはキュー・ボックスと言うよりも小さな卓だなと(笑)。40chの入力をメンバーごとに個別にアサインできるわけですからね。音質もアナログのキュー・ボックスとはまるで違いますし、ミュージシャンはこれを一度使ってしまったら戻れないのではないかと思いました。中身は凄く多機能なんですけど、操作性はシンプル。音質だけでなく、使いやすさが評価されているのがよく分かりました。
 同時に驚いたのが、「M-5000」との深いインテグレーションです。「M-5000」があると、ステージ上の「M-48」を完全にコントロールすることができ、各メンバーが「M-48」でやっていることも一目で確認できる。なので、メンバーから何かオーダーを受けたときも話が早いですし、これはかなり使いやすいなと思いました。一応、他社のコンソールとアナログで接続して、パソコンで「M-48」をコントロールする方法もおしえてもらったんですけど、「M-5000」があるのと無いのとでは操作性がまったく違うので、これはセットで使うものだなという印象でしたね。

「アコースティック」が昨年導入した「ローランド」の「M-5000」。「M-48」と組み合わせ、モニター・システムとして使用しているとのこと

PS 西さんはそれまで、「ローランド」のコンソールを使われたことはありましたか?

西 ありませんでした。ただ、「Digital Snake」に関しては、以前イベントで使ったことがあって、凄く音が良くて便利な機材という印象がありましたね。

PS 「アコースティック」さんが導入された「M-5000」のシステム構成をおしえてください。

西 卓は「M-5000」、入出力ユニットは「Digital Snake S-4000S-3208」が2台で、「M-48」を16台、REACスプリッターの「S-4000D」も2台導入しました。「M-5000」は、コンパクトな「M-5000C」もありますが、やはりチャンネル・フェーダーは24本欲しかったので「M-5000」を選定しました。「M-5000」は、ホール・ツアーで使うのにちょうどいいサイズ感だと思います。導入したのは昨年の頭のことで、3月から5月にかけて行われた椎名林檎さんのホール・ツアー、『椎名林檎と彼奴等の居る真空地帯』から使い始めました。秋のアリーナ・ツアー、『椎名林檎 (生)林檎博'18 ー 不惑の余裕 ー』でも引き続き使用しましたね。

椎名林檎のアリーナ・ツアー『椎名林檎(生)林檎博'18 ー 不惑の余裕 ー』で使用された「ローランド」のパーソナル・ミキサー「M-48」。「アコースティック」では昨年、計16台の「M-48」を導入したが、このアリーナ・ツアーではオーケストラが入ったため、さらに台数を追加したという

M-5000は内部構成を自由に組み替えられる

PS 約1年間、現場で使用されて、「M-5000」と「M-48」のシステムはいかがですか?

西 96kHz/インターナル・クロックで使用しているのですが、音の分離と解像度が抜群に良いですね。ちょっとしたフェーダーやパンの動きも、見え過ぎなくらいよく分かる。サミング・バスが優秀なのか、たくさんチャンネルを重ねていっても定位がしっかりしているんです。デジタル卓だと、チャンネルが多くなってくると音がグシャッと飽和するというか、ハイが見えにくくなるんですけど、「M-5000」は音がしっかり分離していて、とてもクリアに聴こえる。これほど音の分離と解像度が良いと、自ずとオペレートがシビアになりますし、やることが増えますね(笑)。
 音質に関して言えば、一緒に導入した「S-4000S-3208」のヘッドアンプがかなり優秀なのではないかと思います。「M-5000」本体にもアナログ入力が備わっているわけですが、「S-4000S-3208」の方がレンジが広く、クリアなサウンドですね。

現場にセッティングされた「M-5000」

PS これまで「ローランド」のコンソールを使ったことはなかったとのことですが、操作性に関してはいかがですか?

西 最初は少し戸惑ったのですが、すぐに慣れましたね。約1年間使った印象としては、「M-5000」はカスタマイズすることでどんな操作にも対応するので、自分のやり方を見つけるまで少し時間がかかるなと。でもその分、慣れればもの凄く早く操作できるようになる。特にホール・ツアーのような現場では、日に日に操作が早くなっている実感はあります。フェーダーの感触も良く、タッチ・スクリーンの解像度も高くて見やすいですね。タッチ・スクリーンは、指先で触った感じも好きです。思ったように付いてくるので、ストレスがありません。

PS 「M-5000」は、内部の構成を最大128chの範囲で自由に定義できる点が大きな特徴になっています。椎名林檎さんのツアーでは、どのような構成で使用されましたか?

西 最初のホール・ツアーのときは、入力に40chくらい割り当て、バンドは転がしを使わずに全員イヤモニだったので、「M-48」用にフルに40ch出しました。その後のアリーナ・ツアーはオーケストラが入ったので、もう1台「M-5000」を用意して、入力で100chくらい使いましたね。1台が本人とバンド用、もう1台がオーケストラ用という使い分けで。オーケストラの方たちも「M-48」でモニターしてもらいました。
 内部構成を自由に組み替えられる卓というのは初めて使ったのですが、想像以上に便利でしたね。特に椎名さんのツアーは、リハーサルをやりながらどんどんアレンジが変わっていくんです。「M-5000」ならば、リハーサルの最中にインプットが増えたり減ったりしてもすぐに対応することができる。今は別のオペレーターがツアーに持って行っているんですけど、彼も“凄く便利だ”と言っていました。

アリーナ・ツアー『椎名林檎(生)林檎博'18 ー 不惑の余裕 ー』では、オーケストラが入ったため「M-5000」2台体制で臨んだ

現場では「M-5000」内蔵の入出力もフル活用された

PS アサイナブル・フェーダーとユーザー・アサイナブル・セクションはどのような使い方をされましたか?

西 アサイナブル・フェーダーには、本人のイヤモニのマスターやボーカルのクリックなどをアサインしました。インプットを触りながら本人のマスターをすぐに調整できるのが便利でしたね。ちなみに「M-5000」は、24本のフェーダーを8本単位でアイソレートすることができますが、僕は基本的にすべてインプットにして、ページを捲ったらアウトプットという使い方をしました。一方、ユーザー・アサイナブル・セクションのエンコーダーには、ボーカルのEQやベースのEQ、リバーブ・タイムなどをアサインしましたね。椎名さんは、楽曲によって歌唱法を変えられるので、それに合わせてローの感じを調整できるように。アサイナブル・フェーダーとユーザー・アサイナブル・セクションによって、やりたいと思ったことがかなりできる印象です。

ボーカルやベース用のEQ、リバーブ・タイムなどをアサインしたというアサイナブル・ユーザー・セクション

PS チャンネルEQ/ダイナミクスや内蔵エフェクトはいかがですか?

西 EQは凄くかかりが良いですね。繊細なんですけど、ざっくりかけることもできるEQというか。ディスプレイに表示されるグラフと音がしっかり合っているのも使いやすく、狙ったところをしっかりコントロールできます。リバーブは自然なサウンドで、プリセットを呼び出してタイムを調整するだけで十分使えますね。全般に言えるのは、どれも凄く音楽的なサウンドだと言うことです。それは内蔵エフェクトを使ったときに特に感じますね。

PS 気に入っている機能はありますか?

西 モニターが2系統出ているのがいいですね。椎名さんのツアーではイヤモニしか使いませんでしたが、ウェッジと併用するときはとても便利だなと思います。それとジャンプ・ボタンというブックマークのような機能も重宝しています。ボタン一押しで行きたいところに行ける。あとは何と言っても「M-48」とのインテグレーションですね。「M-48」を使うんだったら、「M-5000」は絶対にあった方がいいと思います。

PS 「M-5000」は、左右にパソコンやタブレットなどを置けるスペースが用意されていますが、椎名さんのツアーでは何を置いてましたか?

西 右上にはモニモニ用の「M-48」、左上にはセット・リストを置いて使っていました。卓の上に何かを置けるスペースがあるのは本当に便利ですよね。もちろん、リハーサルのときはApple iPadを使って一人でモニター・チェックを行ったのですが、本番では必要ないのでセット・リストを置くことにしました。

「M-5000」の右上のスペースには、モニモニ用の「M-48」を置いて使用したとのこと

PS 今後の活用予定があればおしえてください。

西 「M-5000」は昨年、「M-48」と組み合わせてモニター・システムとして使用したわけですが、今後機会があればメイン・コンソールとしても使ってみたいですね。「M-48」に関しては、後輩がゴスペラーズのライブで使用したのですが、今年はきっと「M-5000」と一緒に使うようになるのではないかと思います。

PS 本日はお忙しい中、ありがとうございました。

手慣れた様子で「M-5000」をオペレートする西氏

取材協力:株式会社アコースティック、ローランド株式会社

 

ローランド製品に関する問い合わせ:
ローランド株式会社
Tel:050-3101-2555(お客様相談センター)
https://proav.roland.com/jp/

 

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