「広島エフエム放送」は今年、新しい中継収録用コンソールとして、「ローランド」の「O・H・R・C・A M-5000C」を導入した。去る8月6日に行われた毎年恒例の式典、広島市の『平和記念式典』でも、さっそくフルに活用されたという。これまでほとんど雨に見舞われたことがなく、毎年炎天下の中で行われる『平和記念式典』。失敗が許されない現場で使用するためのコンソールとして、「O・H・R・C・A M-5000C」を選定した理由は何だったのか。「広島エフエム放送」管理本部 技術部長の寺島陸雄氏と、管理本部 技術部主任の鹿嶋康成氏に話を伺ってみた。

1982年開局のFM局「広島エフエム放送」

PS はじめに、「広島エフエム放送」さんの沿革をおしえていただけますか。

寺島 弊社は1982年12月、全国民放FMとしては9番目の放送局として開局しました。四国地方も含めると「エフエム愛媛」さんの方が数ヶ月早かったんですが、中国地方では最も早く開局したFM局となります。開局時の中継局の数は10局だったんですが、現在では13局まで増えました。

「広島エフエム放送」管理本部 技術部長、寺島陸雄氏

PS 「広島エフエム放送」さんが最近取り組んでいることというと?

寺島 10年くらい前から、若い人たち向けの番組に力を入れています。開局した80年代は、ドライバーと同じくらい中高生の聴取率が高かったんですが、今の時代は娯楽がたくさんありますので、若い人たちがラジオから離れてしまっている。これではいけないということで、若い人向けの番組に力を入れるようになったんです。例えば、月曜日から木曜日20時から22時まで放送している『大窪シゲキの9ジラジ』という番組もその一つで、悩み相談を受け付けたり、学校を訪問したりといった中高生向けの内容になっています。次の日に学校で話題になるような番組づくりを目指していますね。最近では番組宛のメールがたくさん届くようになったので、若い人たちの聴取率は確実に上がっていると手応えを感じています。

PS 現在、技術のスタッフは何人いらっしゃるんですか?

寺島 今は4人です。もちろん、協力会社にも手伝ってもらっています。とはいえ、外の現場は実質2人で回している感じですね。社内にはスタジオが3つあり、そのうち1つはワンマン・オペレーションに対応したスタジオになっています。また、広島府中のイオンモールにサテライト・スタジオもあり、毎週金曜日17時から放送している『庄司悟のカウントダウン魂』はそのサテライト・スタジオから中継しています。

PS イベントなどの中継/収録も多いのですか?

寺島 小さいものを含めれば、年に10回以上はあるのではないかと思います。最も大きなイベントは毎年8月に行われる広島市の『平和記念式典』ですが、他には東広島市の『酒まつり』や呉市の『呉みなと祭』など行政と連携して行うものもあります。また、イベントだけでなく、取材に出ることもありますね。ただ、『平和記念式典』のような大きな現場を除けば、私たちが現場に出ることはあまりなく、制作のスタッフですべてをこなしてしまうことの方が多いです。

大きな現場用中継卓としてM-5000Cを導入

PS 「広島エフエム放送」さんでは先頃、新しい中継収録用コンソールとして、「ローランド」の「O・H・R・C・A M-5000C(以下、M-5000)」を導入されたとのことですが、そのきっかけは何だったのでしょうか。

寺島 これまで外の現場では、国産の小型デジタル・コンソールを2台使用していたのですが、もう20年以上使ってきたので、そろそろ心配になってきたんです。実際、かなり老朽化していましたしね。それで昨年、開局35周年記念の『MEET the RADIO』というキャンペーンを行なった際に、「ローランド」さんにお願いして「M-5000」一式をお借りして試してみたんです。

鹿嶋 『MEET the RADIO』は、リスナーの皆様にラジオ番組に生で触れていただくために企画したキャンペーンで、社内の会議室を開放してライブなどを行いました。「M-5000」は会議室に設置し、上階のスタジオまでREACで音声を送ってみたんです。そのときの印象がとても良かったので、導入することにしました。

「広島エフエム放送」管理本部 技術部主任、鹿嶋康成氏

昨年行われた開局35周年記念キャンペーン『MEET the RADIO』の様子。このときに「M-5000」を試用し、導入を決定したという

PS 導入の決め手になったのは?

寺島 コンソール自体の設計がとても優れているなと感じたのと、あとは音質の良さですね。昨年スタジオ用コンソールの更新候補として検討しましたが、素晴らしい音質だなと思いました。鹿嶋 それと使い勝手の良さですね。『平和記念式典』では2台のコンソールを並べて2人でオペレーションを行なうのですが、「M-5000」のチャンネル・フェーダーは8フェーダー単位で完全にアイソレーションできますから、1台のコンソールを2人で使用することができる。今まで2台でやっていたことが1台でできるというのは大きな魅力でした。

寺島 もちろんREACも大きな決め手になりました。これまでは太いアナログ・マルチ・ケーブルを引き伸ばしていましたから、それが細いケーブルで取り回せるようになるのは凄く良いなと。

PS 「広島エフエム放送」さんで導入された「M-5000」のシステム構成をおしえてください。

寺島 コンソールはコンパクトな「M-5000C」で、ステージ・ボックスは「Digital Snake S-1608」を2台導入しました。1台で多チャンネルの入出力が行える「Digital Snake S-2416」なども検討したのですが、運搬や設置のことを考えると軽量・コンパクトな「S-1608」を2台導入する方がいいかなと。これまで使用していたアナログ・マルチ・ケーブルも16chでしたから、チャンネル数的にも問題ありませんでしたしね。また今回、それらと同時に「V-Mixer M-200i」も導入しました。番組のスタッフだけでこなさなければならない小さな現場も多いので、「M-200i」だったら気軽に持ち運べますし、イベント会場ではPA用コンソールの脇に置くこともできる。「V-Mixer M-300」とどちらを導入するか迷ったのですが、本体に十分な入出力が備わっている「M-200i」を導入することにしました。必要に応じて「S-1608」も接続することができますからね。

『平和記念式典』での「M-5000」の運用

PS 毎年手がけられている大きな現場、『平和記念式典』での「M-5000」の運用について伺いたいのですが、今年はどのように使用されたのでしょうか。

寺島 実は昨年も「ローランド」さんからお借りして「M-5000」を使用したのですが、今年は導入した機材が間に合ったので、自分たちの「M-5000」を使用することができました。現場では、「S-1608」をPAブースに2台設置して、放送席の「M-5000C」に接続しました。「S-1608」は、実際に使用したのは1台で、もう1台は予備です。『平和記念式典』では、ケーブルが表に見えてはいけないという制約があるので、音声回線も映像回線も電源もすべて土管の中に通さなければならないんです。しかもその土管が、それほど太さがあるわけではないので、ケーブルを通すのも大変。しかし「M-5000」によってアナログ・マルチ・ケーブルがREACケーブルになったので、これまでと比べれば随分ラクになりました。デジタルなので、ノイズの面でも心配要りませんからね。「S-1608」が置いてあるPAブースと「M-5000C」が置いてある放送席の距離は、大体70~80メートルくらいです。

毎年8月6日に行われる『平和記念式典』での設営の様子。ケーブル類はすべて土管の中を通さなければならない

鹿嶋 コーラスやブラス・バンドなどの生演奏は、PAからの頭分けで貰っているので、「S-1608」はPAブース側に設置しています。「M-5000」のシステムは、96kHzではなく48kHzで運用しています。

PS 先ほど『平和記念式典』は2人でオペレーションするというお話がありましたが、今年も2人で「M-5000C」を操作されたのですか?

寺島 そうです。1人はコーラスやブラス・バンドなどの生演奏専門で、もう1人はそれ以外を担当して。コーラスやブラス・バンドなどの生演奏は、私たちがミックスしてテレビ放送の幹事社に送らなければならないので、失敗することができない。なのであるときから2人でミックスするようになりました。

鹿嶋 私たちが作ったミックスは、ラジオ局3社とテレビ放送の幹事社に送っています。各ラジオ局へはステレオ、テレビへはモノで送っているので、音声回線としては計7chですね。ただ、モニターやVUメーターへの出力もありますので、トータルの出力は24chくらいになります。

『平和記念式典』で「M-5000C」をオペレートする鹿嶋氏

PS これまでは小型デジタル・コンソールを2台組み合わせて使用されていたとのことですが、2年連続で『平和記念式典』で運用されて、「M-5000」の使用感はいかがですか?

寺島 やはり一番感じるのは音の良さですね。これまでと同じことが、より良い音でできている。現場で聴くと音の違いは明らかで、凄く解像度の高い音だなと感じます。

鹿嶋 「M-5000」の大きな特徴である、128chの範囲で内部構成を自由に組み替えられるというのも非常に便利ですね。『平和記念式典』では半分くらいを入力に割り当て、マトリクスをたくさん使用し、AUXはほとんど使用しませんでした。各ラジオ局への送りや、テレビ放送の幹事社への送りなど、出力を多く使うので、必要な数だけマトリクスにアサインできるというのはとても良いです。現場で後から増やすこともできますしね。トータルのチャンネル数も128chもあれば余裕です。

寺島 マトリクスへの割り当てを増やす場合も、最初からやり直す必要がないのがいいですね。

「M-5000C」の下に置かれているのは、音声を各ラジオ局やテレビ放送の幹事社に送出するための「S-0816」

PS 操作に慣れるまでは時間がかかりましたか?

鹿嶋 これまで「ローランド」のコンソールは使ったことが無かったので、少し時間がかかりましたが、慣れればとても使いやすいコンソールだと思います。iPadを使えば、2画面的に使用することもできますしね。2人で操作するので、1人は「M-5000」内蔵のディスプレイ、もう1人はiPadというような使い方ができる。iPadアプリの使いやすさも想像していた以上です。会議室のイベントで使用したときはPAもすべて「M-5000」でやったのですが、そのときはオペレーターの人がステージにiPadを持って行って操作していましたね。

寺島 機能によってディスプレイの表示が色分けされるのがいいですね。それによって頭で考えなくても、自然に手が動くというか。ディスプレイに表示されるフォントも見やすいですし、タッチ・スクリーンの操作性も良好です。

PS 屋外でのタッチ・スクリーンの視認性は問題ありませんでしたか?

鹿嶋 『平和記念式典』ではテントを立てることができないので、それはとても心配していたことなんですが、「M-5000」のディスプレイは屋外でもしっかり見えます。奥のディスプレイ部分に角度が付いているのがいいのかもしれません。

寺島 『平和記念式典』はテントの無い猛暑の中で行われるわけですが、動作もまったく問題ありませんでした。

PS 特に気に入っている機能はありますか?

寺島 ステレオ・フェーダーとモノ・フェーダーを1タッチで切り替えられるのがいいですね。以前はそのやり繰りが大変でしたから、「M-5000」でだいぶラクになりました。あと機能についてではありませんが、「ローランド」さんはサポートがしっかりしているのも頼もしいんです。去年、東京から何度も来ていただきましたし、福岡にも担当者がいらっしゃる。ハードとソフト、両面でとても信頼しています。

PS 今後、システムの拡張予定はありますか?

寺島 「S-1608」が2台だけでは出力が少し物足りなかったので、「S-0816」の導入を検討しています。将来的にはREACでそのまま録音できるレコーダーが欲しいですね。

PAブースに設置された入力用の「S-1608」。予備機も含め2台設置されたという

PS 本日はお忙しい中、ありがとうございました。

PROSOUND特別企画
取材協力:広島エフエム放送株式会社、ローランド株式会社

 

ローランド M-5000に関する問い合わせ
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