名古屋を拠点とするスタジオトライデント
PS 岩田さんの「スタジオトライデント」は、普段どのような仕事を手がけられている会社なのでしょうか。
岩田 僕が約35年前に立ち上げた会社で、音楽の作詞・作曲・アレンジをメインに、レコーディングからPAまでいろいろ手がけています。拠点の名古屋にはレコーディング・スタジオがあり、そこでは「Avid System-5 Fusion」を使用しています。現在スタッフは私と、スタジオ・オペレーター兼キーボーディストの森井由美子が在籍しており、あとは仕事に合わせて外部に依頼しています。
PS PA業務を手がけられるようになったきっかけは何だったのですか?
岩田 アレンジや演奏でお付き合いさせていただいているアーティストさんからお話をいただいたのがきっかけで、それがもう20年以上前のことですね。そのときに「Bose」のスピーカー・システムや「ヤマハ」の小型コンソールなど自前で機材を揃えました。使わないときはビア・ガーデンに1シーズン貸し出したりして(笑)。コンソールはその後、「Soundcraft」や「Midas」など、どんどんグレード・アップしていきました。PAの仕事ですと、AUXの数が重要になってきますから。
PS かなり本格的ですね。
岩田 自分でPAまでやるようになると、いろいろ欲が出てくるんです。「こうしたい、ああしたい」って(笑)。僕は『NHKのど自慢』で、東海北陸7県開催のときにギターを弾かせていただいているのですが、各地域のPA屋さんを見聞きすることで色々と勉強でき、自分の仕事にフィードバックできるのが幸せです。
約2年前にM-5000を導入
PS 現在、PAの仕事では「ローランド O・H・R・C・A M-5000」を中心としたREACのシステムを使用されているそうですね。
岩田 「ローランド」の音響機器に関しては、最初に小さい現場用に「V-Mixer M-200i」を導入して使っていたんです。それから間もなく、パーソナル・ミキサーの「M-48」を導入して。PAの方ではキュー・ボックスは使わず、モニターは卓返しでやっていたんですが、モニターって凄く大変なんですよね。ステージ上のミュージシャンと「あの音をください」とかやり取りをして決めていくわけですけど、気が短い人だと「さっき言ったのに違うじゃないか!」とイライラしたりして。モニターを決める30~40分って、もの凄くテンションが下がる有益ではない時間なんです。そんなときに「M-48」のことを知って、これは素晴らしいということですぐに導入しました。そこでREACという禁断の果実を知ってしまったわけですけど(笑)。
昔はギターやベースはアンプで鳴らすのが当たり前でしたけど、最近はラインが普通になってしまったじゃないですか。そうなるとモニターの音が命なんですよ。プレーヤーとしては、モニターの音が良くないと、それだけでテンションが下がってしまう。なので「M-48」は、レコーディングでも使っていますね。
PS 「M-5000」を導入されたのは?
岩田 いろいろなコンソールを使ってきて、約3年前に最新の某コンソールを導入したのですが、比較試聴会で「M-5000」の音の綺麗さに驚き、早速デモ機をお借りして試してみたんです。ヴァイオリン、サックス、ガット・ギターなどの生音がとても気に入り、「M-5000」を導入することにしました。
PS 一番の決め手となったのは音質ですか?
岩田 そうですね。やはり96kHzのサウンドは非常に解像度が高いんです。シンセや打ち込みは、音が塊となって出てくるんですけど、生楽器の場合は塊ではなく、奥にも音があるんですよね。たとえばガット・ギターですと、お腹に付けて鳴らすのと、お腹から浮かせて鳴らすのとでは全然音が違うわけです。「M-5000」だと、そういう奥の音が見えるというか、しっかり再現できている。最初に聴いたときはかなり驚きましたね。現在、スピーカー・システムは「NEXO STM」をメインに使っているんですけど、「M-5000」の導入前と導入後では音がまったく変わりました。帯域が広くなり、解像度が凄く高くなりましたね。やはり96kHzは、ハマると凄いなと思います。
PS 導入されたシステムの構成をおしえてください。
岩田 「M-5000」と、ステージ・ボックスとして「Digital Snake S-4000S」を2台導入しました。最近の音楽だったら「Digital Snake S-2416」でも十分だと思うんですが、生楽器の音に色艶を出すのであれば「S-4000S」の方がいいという話を聞いて奮発しました。「S-4000S」は、「M-200i」と組み合わせて使うこともありますね。
これは余談ですが、「M-5000」を導入したとき、スタジオの建て替え工事と重なってしまったので、約1年間「Pro Tools」と組み合わせてスタジオでも使ってみたんです。今は「Pro Tools」の中でミックスもできてしまうんですけど、僕は「Pro Tools」からステレオの音を出したくなくて、絶対に外部のコンソールでミックスしたいんです。「Pro Tools」とはアナログで接続して使っていたんですけど、「M-5000」はスタジオ・コンソールとしても問題なく使えましたね(笑)。
内部構成を組み替えられるM-5000はとても便利
PS 今日お邪魔している現場は、演歌歌手のディナー・ショーとのことですが、どのようなシステムになっているのでしょうか。
岩田 「M-5000」と「S-4000S」が2台、スピーカーは「STM」で、パワー・アンプの「NXAMP」と「S-4000S」はアナログで接続しています。ステージ上のミュージシャンは、4リズムとサックス2人、ヴァイオリンの計7人で、全員モニター用に「M-48」を使っていますね。レコーディングで使った音を再生するための「Pro Tools」もあって、「RME」のオーディオ・インターフェースから11ch出しています。「Pro Tools」のトランスポートはドラマーがやってますね。
PS 「M-5000」は、最大128chの範囲で内部の構成を自由に設定できる点が大きな特徴ですが、今日はどのような構成になっていますか?
岩田 インプットは50ch以上、AUXが32ch、マトリクスが14chという感じですね。今日のステージはインフィルのモニターがあり、あとはビデオのチームにも音を送らなければならないので、マトリクスが多めになっています。「M-5000」の内部構成が自由に組み替えられるというのは、こういう現場ですと非常に便利ですね。
PS 「M-5000」の操作性はいかがですか?
河本 私が「M-5000」を使うのは今日が3回目なんですけど、自分が使いやすいようにカスタマイズできるのがいいですね。そのあたりは海外メーカーのコンソールに近い発想なのかなと思います。自分に合わせてカスタマイズすれば、もの凄く使いやすくなる。逆にいきあたりばったりで使ってはダメなコンソールだと思います(笑)。それと今日もリハーサルのときに使いましたが、iPadでリモート・コントロールできるのが便利ですね。
PS 特に気に入っている機能はありますか?
河本 最近分かったことなんですけど、フェーダーのレイヤーが凄く組みやすいですね。「M-5000」は、フェーダーが8本単位で分かれているんですけど、それぞれレイヤーを組めるのが凄いですね。
岩田 個人的にはアンカー機能が気に入っています。フェーダーをめくるのにとても便利。あとはアサイナブル・フェーダーとアサイナブル・セクションも重宝しています。
河本 アサイナブル・フェーダーとアサイナブル・セクションは便利ですね。今日はエフェクトのパラメーターなどをアサインしています。エフェクトと言えば、「M-5000」は「SDD-320」とか昔懐かしいエフェクトが入っているんですよ。そういうエフェクトはよく知っているので想像で触れるのがいいですね。
PS こういう現場でも音の良さは感じますか?
岩田 とても感じます。客席、ステージ、バンド・モニターから出る音によって、お客様、歌手、ミュージシャンのテンションも変わりますから(笑)。僕等も自費で他のコンサートに行って、良いところ、悪いところをいろいろ勉強しています。お客様とタレント様に少しでも良いサービスが出来たらと思っています。
河本 毎回ベストな機材が揃えられるわけではないですし、リハーサルに十分な時間が取れるわけではない。限られた機材、限られた時間の中で、いかに良い音に持っていくかというのが我々の仕事なんです。
岩田 もちろん、機材に助けられることも多々あるので、システムは常にアップデートしていきたいと思っています。でも現在の「M-5000」と「STM」の組み合わせにはとても満足していますね。
PS 本日はお忙しい中、ありがとうございました。
取材協力:スタジオトライデント、ローランド株式会社