今話題になっている「ガラス振動板」。

 これはガラス素材メーカーの日本電気硝子㈱と台湾のGlass Acoustic Innovations Co.,LTD.(以下、GAIT。ゲイトと読む)の協業で生まれたもの。超薄板に成形されたガラスを振動板にするという斬新さで大きな話題を集めているが、斬新さだけでなく音質的な点でもなかなか優れており、大きな注目となっているのだ。すでにGAITから供給されたガラス振動板Sonarion(ソナリオン)を用いたイヤホンやスピーカーが様々なメーカーから製品化されているが、ここで紹介するこのモデルは開発メーカーであるGAITが、2ウェイブックシェルフ型スピーカーBSP-24に続いて発売するインイヤー型のイヤホンだ。

Earphone
GlaXfi
eOne Duo
¥16,580 税込 ※イヤホン2組セット

●型式:ダイナミック型有線イヤホン

Perfect Balance Tuning(Clear)
●使用ユニット:10mm口径25μm厚超薄板ガラス振動板
●出力音圧レベル:100dB
●インピーダンス:16Ω
●質量:6g

Impact Tuning(Green)
●使用ユニット:10mm口径50μm厚超薄板ガラス振動板
●出力音圧レベル:105dB
●インピーダンス:23Ω
●質量:7.1g

 

クリアー筐体のPerfect Balance Tuning。比較的オーソドックスな設計が施された10mm口径のダイナミック型イヤホンだが、振動板素材に超薄板ガラスを用いているのが新しい。中心付近に磁気回路と一体となっている振動板の姿が見える

 

Perfect Balance Tuningの筐体は、透明なポリカーボネート系素材だ。やや大きめサイズではあるが、質量は6gと軽量で、巧みな立体的デザインと合わせて、フィット感は上々

 

 

音質傾向が異なる2組のガラス振動板イヤホンをセット

 GlaXfi(グラスファイ)がブランド名、eOne Duoが製品名となるが、「Duo」の名の通り、2組のイヤホンがセットになっていることがユニークだ。それぞれは異なる音質チューニングが施され、好みや聴く音楽に合わせて使い分け、幅広い音楽を楽しめることを提案している。

eOne Duoは、「デュオ」の名の通り、ハイファイ指向のPerfect Balance Tuning(写真左)と、低音重視のImpact Tuning(写真右)の2組のイヤホンが同梱されるユニークなセットアイテム。イヤーピースは好みにあわせて自由に選択できるが、鳥居さんはPerfect Balance Tuningにはシリコン製の、Impact Tuningにはウレタンフォーム製のパーツを組み合わせた

 

 

 それぞれ「Perfect Balance Tuning」と「Impact Tuning」と呼称され、前者は振動板の厚さが25μmで抵抗は16Ω、出力音圧レベルは100dB。後者は厚さが50μm、抵抗は23Ω、出力音圧レベルは105dBとなっている。

 イヤホンのハウジングはどちらも透明なポリカーボネート製で、Perfect Balance Tuningはクリアー、Impact Tuningは緑の色分けになっている。イヤホン側が2ピンタイプ、反対側が3.5mmステレオミニタイプの無酸素銅アンバランス接続ケーブルが1本付属しており、2種のイヤホンはケーブルを付け替えることで使い分ける仕組みだ。イヤホンが2組セットになっているといっても、2人で同時に使うことができるわけではないので注意しよう。

 イヤーチップはシリコン製とウレタンフォーム製のものがそれぞれ3サイズ付属する。取材機には日本語マニュアルがなかったため、明確な指示は見つけられなかったが、商品写真などを見ると、Perfect Balance Tuningにはシリコン製、Impact Tuningにはウレタンフォーム製を組み合わせるという前提だと思われ、試聴でもその組合せで聴いている。

 このほかの付属品としては、航空機用アダプター、USB Type C / 3.5mmステレオミニ変換アダプター、収納用セミハードケースがある。

 

引き出し線で示した部分がガラス振動板。Perfect Balance TuningとImpact Tuningはともに磁気回路にネオジム磁石を採用しているようだ。両者の違いは、ガラス振動板の厚みが、前者が25μm、後者が50μmであることとアナウンスされている。それ以外にも細かなチューニングが施され、前者の高解像度指向の音と、後者の低域のインパクト重視指向に作りわけられている

 

 

自然なPerfect Balance Tuningと低音重視の音楽にあうImpact Tuning

 まずは一般的なイヤホンと同じように、いつも使用するアステル&ケルンのデジタルプレーヤーPD10で音を聴いてみた。付属ケーブルを使用したアンバランス接続だ。まずはPerfect Balance Tuning。質量は6g。前述の通り、シリコン製イヤーフォームを装着して聴く。

 ウラジーミル・フェドセーエフ指揮モスクワ放送響による「チャイコフスキー:交響曲第6番<悲愴>第3楽章」を聴くと、解像度の高い、しかしながら音質的に硬い感触になるようなことのないニュートラルな音。低音が特に強調されているわけではないが、しっかりと下の低音まで伸びていたため、かなり低音が出ていると感じる。周波数特性としてはフラット。ややタイトな感触だが、芯のある力強い低音だ。個々の音がくっきりと鳴る傾向で、楽器の音の余韻やホールの残響など、微少音もきめ細かく描く。音場感としてはことさら広いというタイプではないが、ステレオ録音された音場をストレートに再現している。確かに自然でありのままに音楽を表現するタイプで、不自然なクセや主張のない名前通りの音だ(パーフェクト、とは言い過ぎかもしれないが)。

 続いてはImpact Tuning。質量は7.1gと少し重いが、Perfect Balance Tuningと比較して体感できる差ではなく、ほぼ同じ。イヤーチップにウレタンフォーム製を用いたので、装着感がやや異なり、Impact Tuningのほうが、密閉度が高いという感覚だ。

 チャイコフスキーを聴くとPerfect Balance Tuningよりもよく響く印象。特にホールの残響がよりよく描き出すようで、空間感というか、ホール感が出る。そのぶん演奏を間近で聴くようなダイレクトさはやや薄れ、音像はやや遠い。響き成分が多めということもあって、音の感触は柔らかい。低音は、アタックが強く、厚めの音だが、ローエンドはPerfect Balance Tuningが伸びていると感じる。どちらかというと中低音を盛り上げたわかりやすい低音感というイメージ。クラシック音楽のようなアコースティック楽器の音をそのまま楽しむ聴き方にはあまり相性がよくないかもしれない。

 そこで、電子楽器を多用したポップス曲の「JANE DOE/米津玄師&宇多田ヒカル」を聴くと、伴奏のドラムやベースがリッチに鳴り、ボリュウム感のある音で楽しめた。声はやや細めにも感じたが、よく通る力強い声だ。

 2種の音の違いを整理すると、いわゆるHiFi調の整ったバランスという点ではPerfect Balance Tuningが優れている。曲のジャンルも選ばないし、解像度が高いこともあり、細かなニュアンスなどの再現が上手い。かなり実力が高く、ガラス振動板の特徴、魅力がしっかり感じられる良い出来のイヤホンで、Perfect Balance Tuningだけを販売しても人気になりそうだ。

 Impact Tuningは、クセが強いというほどではないものの、ヒップホップやロック、ポップスに合わせた音づくりを指向していて、なかなか個性的な音調のイヤホンだ。アコースティックな楽器の再生よりも、電気的処理をふんだんに用いた楽曲再生にフィットする傾向といえよう。

 

音質傾向の違いと相性を考慮して最適な携帯プレーヤーを探す

 せっかくなので、異なる2台の携帯型デジタルプレーヤーで聴いてみた。用意したのはソニーWM-A306とフィーオM21。どちらもエントリーグレードの携帯プレーヤーとしては出来のよいモデルだ。

2つのイヤホンに最適な組合せを鳥居さんに考えてもらった。最終的にPerfect Balance TuningとはソニーWM-A306(写真左/実勢価格4万6,000円前後)をチョイス。Android OS搭載の携帯プレーヤーで、S-Master HXデジタルアンプを搭載している。Impact Tuningは元気の良さの美点が共通するフィーオM21(写真右/実勢価格7万1,500円前後)との組合せを選んだ。M21は950mWの高出力アンプを搭載する携帯プレーヤーだ

 

 まずはPerfect Balance Tuningから。WM-A306は、整ったバランスの良さがよくわかり、なかなかの実力と思わせる。『ムソルグスキー:組曲<展覧会の絵>ドゥダメル指揮ウィーン・フィル』から「鶏の足の上に立つバーバ・ヤーガの小屋」を聴くと、怖さや迫力を感じる音で、演奏の勢いやニュアンスもしっかりと出る。『ナイトフライ/ドナルド・フェイゲン』の「I.G.Y.」を聴くと、ヴォーカルはクリアーでリズミカル、バックの演奏も巧みなテクニックがよくわかる洗練された表現だ。

 フィーオM21に変えると、より音がくっきりとしたものになり、元気のいい音になる。ドナルド・フェイゲンもリズム感がいっそう良くなる。「GO GHOST/King Gnu」では、ヴォーカルがクリアーな再現になる。Perfect Balance Tuningはイヤホン自体の音の個性を前面に出すタイプではないため、どんな携帯プレーヤーとも相性は良いようで、むしろプレーヤーの音の違いがよくわかると感じた。Perfect Balance Tuningが玄人好みというか、マニア好みの音の傾向になっているのもよくわかった。

 Impact TuningをソニーWM-A306で聴くと、ドナルド・フェイゲンはよりグルーヴ感のある演奏になる。「JANE DOE」はよりバックの演奏が前に出てくる感じで、ライヴ感があるのはいいが、元気が良すぎて曲の切ない感じが薄れるとも思った。クラシック曲は全般にもっと素直な再現で聴きたいと感じる。

 フィーオM21に替えると、M21が持っている元気の良さ、リズム感の良さという美点がかなりImpact Tuningというイヤホンの音質傾向と相性が良いことがわかる。「GO GHOST」を聴くと、浮遊感というか、包囲感のある伴奏が気持ちよく広がるし、リズムやベースのノリも良い。ヴォーカルに色気が強く感じられ、自然と身体が動く感じの音になる。あまり広くないライヴハウスのようなステージ感があって、その凝縮感が気持ちいい。「PINK BLOOD/宇多田ヒカル」も伴奏やコーラスのリズム感が際立ってきて、ややドンシャリ気味な傾向が強まるものの、それだけにノリの良い楽しい音になる。

 結論としてはPerfect Balance TuningならばソニーWM-A306との組合せでHiFi調の音を楽しむのが良く、Impact TuningはフィーオM21とのコンビネーションで元気の良さ、ノリの良さを楽しむのが良いと感じた。

 ともあれ、こうして気分や聴く曲によってイヤホンを替えることができるのは、お得感が非常に高い。また同じ超薄板ガラス振動板でも、これだけ音が違うことが手軽に楽しめることも面白い。あらためてガラス振動板の可能性の高さを実感できた取材だった。

 

eOne Duoの同梱品。本体2種類のほか、OFC銅線採用ケーブル、イヤーチップ6組(シリコン、ウレタンフォーム、各3サイズ)、3.5mm/USB Type Cアダプター、航空機用アダプター、ケース。優れた音質だけでなく、豊富なアダプター類も含めて、コストパフォーマンスが非常に高い

 

 

>本記事の掲載は『HiVi 2026年秋号』