AVセンターを入れ替える動機・タイミングとはなんだろう。いまの音に飽き足りなくなったから、新しい規格が発表されたので古くなってしまった、システムの一部を新しくしたのでバランスが変わった……、そこにはいろいろな思惑と理由がある。

 私は今般、仕事部屋「開国シアター」のAVセンターを、マランツが今春発表した新製品AV 30に入れ替えた。

Control AV Center
Marantz AV 30
¥594,000 税込

●型式 : 11.4chプロセッシング対応コントロールAVセンター
●接続端子 : HDMI入力7系統、HDMI出力3系統、アナログ音声入力7系統(RCA×6、MMフォノ)、デジタル音声入力4系統(同軸×2、光×2)、11.4chアナログプリ出力2系統(RCA、XLR)、LAN1系統、ほか
●寸法/質量 : W442×H189×D414mm/11.1kg

 

 それまで愛用してきたAVセンターの使用期間は3年ほど。定期的にファームウェアのアップデートが実施されていたので古くさくなったわけでなく、パフォーマンスとしては、いまもって第一級。それでも私は入れ替えを断行した。

 その動機はなんだったのか。私は本誌前号で、開国シアターの現状のサラウンドサウンドを「あまりに濃密で息が詰まりそうなほど」と記した。実はそれはポジティブな心情でなく、ネガティブな意味合いも半ば含んだものだったのだ。

 それもこれも、スピーカーをジェネレックに入れ替えたことがきっかけだ。全帯域に渡って均整の取れた分厚いエネルギーが覆い被さってくるように放出される8381Aのパフォーマンス。その音とAVセンターとが、まるで取っ組み合いの喧嘩をしているようなムードになっていたのだ。

「これは少し方向性を変えるしかないかな……」

 ジェネレックの持ち味を引き伸ばしつつ、より伸びやかに鳴らせるようなパフォーマンス。そんなAVセンターはないだろうかと考えるようになったのだ。

マランツの最新コントロールAVセンター、AV 30。最大11.4ch構成に対応したマランツのブランニューモデルで、サラウンドバック付き5.2chスピーカーシステムに、オーバーヘッドスピーカー6本を用いた5.2.6構成に過不足なく対応できる。プリ出力は、マランツ独自の高速アンプモジュールHDAM-SA2を搭載、広帯域に渡るフラットな特性とハイスルーレート(過渡特性)を追求している

 

 

AV 30の音質的な重要ポイントは広々とした空間再現力にある

 そんなことをぼんやり意識し始めた時に出会ったのがマランツのコントロールAVセンター、AV 30で、初めて聴いた時、その広々とした空間再現力に感心した。

 いうまでもなくAV 30は、マランツの孤高のトップエンド機AV 10の弟分として企画され、コストダウンとコストセーブ双方の観点から、多くの部分で共通化を図ったモデルである。

 プリアンプ部はAV 10譲りのHDAM-SA2による電流帰還型バランス出力方式で、DSPといったデジタル信号処理部も、AV 30はAV 10と実は共通している。

 音質を司る部分の双方の違いは、同社の伝家の宝刀「HDAM」周りの回路構成とその規模で、AV 10はチャンネル毎に独立基板になっているが、AV 30では大きくL/Rチャンネルでまとめた2枚構成だ。

 パネルフェイスは瓜二つで全高も変わらないが、アルミ製サイドパネルのAV 10に対して、AV 30は板金加工によるコの字型ボンネットを採用している。他方、ベースプレートを追加して剛性を高めた積層構造の筐体、銅メッキビス、シールドケース入りの電源トランスや大型ブロックコンデンサーといったマランツ流儀のメソッドはきっちり伝承されている。回路パート毎のローカルレギュレーターも、全てディスクリート構成だ。

AV 30からパワーアンプへのプリ出力は全てバランスケーブルを用いている

 

 

ジェネレックと『補完し合う』ことを<間>に満ちたAV 30に求めた

 では、なぜトップエンドのAV 10でなく、セカンドグレードのAV 30にしたのか。

 第一に、開国シアターのドルビーアトモス環境にAV 30がジャストフィットのプロセッシング・チャンネル数であったこと。15.4chのAV 10に対して、AV 30は11.4ch。ベッドスピーカー5.1ch+オーバーヘッドスピーカー6chの開国シアターにはドンピシャリなのである。

 プリアウト端子にバランス出力が併設されている点も、開国シアターのマルチチャンネルパワーアンプ環境にはぴったりで、アクティブ型スピーカーのジェネレックは原則バランス接続。6本のオーバーヘッドスピーカー/イクリプスTD508MK3を鳴らすアキュフェーズPX-650との接続もバランスなのでちょうどいい。

 フロントパネルだけを見ていれば、双方の寸法の違いはわかりにくいが、実はAV 30は奥行が10cm短い。アナログ回路基板のサイズや電源規模がAV 10とは異なる辺りがその要因だが、筐体内にぎゅうぎゅうのAV 10に対して、10cm短いAV 30のほうがそれでも内部にはゆとりがある。

 この筐体内部スペース的余裕が、AV 30のパフォーマンスに大きく寄与しているのではと私は踏んだ。ここがAV 30を選択した第二の要点。というか、最大の理由はそこだ。

 実は、以前、AV 10とAV 30のパフォーマンスをじっくり比較したことがある。その時に感じたのは、圧倒的な情報量を濃密に描写するAV 10に対して、音場を広々と再現しながら、その空間内に配置された音と音との距離感や遠近感を的確にレイアウトしていく巧みさをAV 30に感じたのだ。いうなれば、イマーシブサウンドの<間(MA)>の表現が巧みなのである。ジェネレックを新たに迎え入れた私にとって、AVセンターでの「濃密さ」は、いまは前述の通り、要らないのだ。

 ジェネレック8381Aと「The Ones」8351Bによるサラウンドサウンドは、全帯域に渡って整った密度の濃い音を放つのだが、そこに私は、「濃密さ」ではなく、より「スペイシーなプレゼンス感」が足されればと考えたのである。現状欲したのは空間感と臨場感で、濃密さを構築する迫力とリアリティはジェネレックがきっちりフォローしてくれる。以前のAVセンターとの組合せが示した、競って『補強し合う』のではなく、協調して『補完し合う』方向性をAV 30には期待したのである。

ジェネレック8381AをフロントL/C/Rに3本、「The Ones」8351BをサラウンドL/Rに2本用いた開国シアター。その経緯は本誌前々号と前号で導入記を掲載しているのでご参照いただきたい。このスピーカーシステム導入をきっかけでAVシステムの中核、コントロールAVセンターがリプレイスすることになった

 

 

ゆりかごに揺られているような夢見心地のイマーシブサウンド

 もしもここで私がAV 10を選んでいたとしたら、従来路線とほぼ共通した『補強し合う』方向性に向かったに違いない。それでは入れ替える意味がない。息が詰まる感覚を、いまはもう望んでいないからだ。

 それよりも、包み込まれる空間に身を預けるようなイメージをいまの私はサラウンドサウンドに欲している。立体的かつ重層的な音場空間に没入し、映画の世界観や音楽ライヴの臨場感に浸りたい。立体的で柔らかな“ゆりかご”に揺られているような夢見心地のイマーシブサウンド。それが欲しかったのである。

 結論として、AV 30はそれに見事に応えてくれた。選択は正しかったと、私はいま電源を入れる度に一人ほくそ笑んでいる。

 大好きなアーティストの一人、アイスランドの歌手ビョークの最新ライヴBDでドルビーアトモス収録の『コーニュコピア:ライヴ』を新しいサラウンドシステムで再生すると、ビョークの描くカレイドスコープのような世界観にまさにどっぷりと浸かれる。

 全編素晴らしいのだが、「The Gate」から「Utopia」に至る冒頭の流れでは、鳥のさえずりや虫の声の効果音が頭上で響き、フロントステージに並ぶフルーティスト数名の合奏に導かれて歌うビョークの妖精のような出で立ちと天使のような歌声に引き込まれる。

 一時期ヘビロテ曲であった「Pagan Poetry」では、あまりの可憐さに感動して年甲斐もなく泣きそうになった。

 極彩色の絵と音が織り成す桃源郷への1時間40分強のタイムトラベル。AV 30+ジェネレックにて本盤に浸る時間は、いまの私には何よりも最高の心身のリフレッシュだ。

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 現状のサラウンドサウンドには、ジェネレックのスピーカー・マネージメント・ソフトウェア「GLM(Genelec Loudspeaker Manager)」が大いに貢献してくれていることは言うまでもない。5本のジェネレックにこのキャリブレーションプログラムを働かせると、夢見心地の世界への瞬間移動が叶うのだ。

 本誌前号にも書いたことだが、目下の悩みは現状の再生環境に「Dirac Live」を投入するか否かだ。というのも、「GLM」によって室内音響補正がばっちり実行されているのだが、それは6本のオーバーヘッドスピーカーを除いたベッドスピーカー5chのみの補正である。

 入れ替え前のAVセンターでも悩み、結論が出なかった「Dirac Live」。AV 30もその準拠モデルであり、こうして再び悩まされることになろうとは!

ひとまずは現状の夢見心地に浸りながら、再度熟考すると参ろうか。

 

200インチのサウンドスクリーンが、開国シアターの映像面での最大の特徴。スクリーンの超微細な穴を通して、その後ろにあるL/C/Rスピーカーの音が放たれることで、スクリーン上に映る人物から声が発せされるイリュージョンに、高いリアリティを付加するシステムだ

 

>本記事の掲載は『HiVi 2026年秋号』