マランツから無駄な装飾を省いた洗練されたデザインが特徴的な完全一体型のオーディオシステム、MCR60nが登場、10月に発売される。横幅28cmの小さく、引き締まった本体サイズからして、インテリアに溶け込むお洒落オーディオを指向した製品であることは間違いない。ただその内容を細部まで確認していくと、随所にHi-Fi志向のオーディオ機器としての流儀が受け継がれているのが分かる。

CD Player/Network Player/Integrated Amplifier
Marantz
MCR60n
¥176,000 税込 10月発売

●型式:CDプレーヤー、ネットワークプレーヤー内蔵プリメインアンプ
●定格出力:65W+65W(4Ω、1kHz、THD+N 0.7%)
●接続端子:アナログ音声入力2系統(RCA[うち1系統MMフォノ])、デジタル音声入力2系統(光、HDMI ARC)、アナログ音声出力1系統(RCA)、サブウーファー出力1系統(RCA)、LAN端子、ヘッドホン出力1系統(3.5mmフォーン)、ほか
●寸法/質量:W280×H111×D280mm/4.2kg
●5年保証

 

 まずウェイブド・トップ・メッシュと名付けられた天板の網目デザインに注目していただきたい。よく見ると平板ではなく、かすかに波打っているでなはいか。見る角度によって、マテリアルの表情が変わり、インテリアとしての楽しさの演出を意図したものだという。

 しかも、このウェイブド・トップ・メッシュは、ただデザインだけの見せかけのものじゃない。小型化を追求していくと、筐体空間の拡がりが抑えられ、その結果、どことなく窮屈なサウンドになりがちだが、空気が自然に行き交うメッシュ構造にすることで、この弊害の払拭を目指した。つまり、天板を外したときとほぼ同等の開放感のある音が期待できるわけで、空間表現はより豊かになろう。

 さらに特殊な構造によって、放熱性が高まり、ノイズの元凶となりかねない冷却ファンの必要もなくなる。メッシュをステンレス製とすることで、内部回路に与える電気的な影響も抑えている。この波打つ網目状のカバーやシャーシには、極上の音を引き出すための工夫、アイデアで溢れているのである。

 

CD再生から音楽配信、テレビ、アナログまで、超多機能に対応する

 さてその中味だが、家庭用として求められるほぼ全てのオーディオメディアに対応するという実に欲張りな仕様だ。CD、インターネット音楽配信やBluetoothの送受信、FM/AMラジオ放送、テレビを介した放送/動画配信の対応、アナログレコード再生のフォノ対応(MM型)と、その機能性には目を見張るものがある。

 この小さなスペースにここまでの多機能を詰め込むとは……。ただただ驚くばかりだが、マランツではHi-Fiオーディオ機器としてのクォリティとマルチメディア対応を両立させるために、電源、パワーアンプ、デジタル回路、オーディオ回路と、新たに全てを設計し直して、筐体、回路基板もゼロから造り上げたという。

 特にこだわったのが、大電流負荷に対して、安定した電圧が維持できる電源回路だ。オーディオグレードの高価なパーツを厳選して投入し、単品コンポーネントと同様にサウンドマスターが繰り返し試聴。妥協することなく、仕上げられた自慢の回路だ。

 MCR60nはオーソドックスなステレオ再生機だか、パワーアンプ自体は4ch仕様とし、「BTL」、「パラレルBTL」、「バイアンプ」という3種類の駆動法から選択が可能。安定した電圧を確保するために、部品メーカーとチューニングを重ねたカスタムコンデンサーを新規に開発し、さらにアンプ回路用の高音質コイルやノイズを抑える高品質なパーツなど、高価な部品を積極的に投入している。

 ヘッドホンアンプには最新の高速アンプモジュールHDAM-SA2を搭載。抵抗、コンデンサーもより高品質のものを投じ、ハイスルーレートオペアンプに高速電流バッファーアンプを組み合わせた、本格的な回路だ。ゲイン切替えは3段階の調整が可能だ。

HDMI ARC端子が搭載している点に注目。スピーカー端子は2系統を装備。BTL、パラレルBTLの接続では1組のスピーカーケーブルを、バイアンプでは2組のスピーカーケーブルを接続する形になる。A、Bの端子それぞれに2組のスピーカーを接続し、切り替えて鳴らしたり、同時に鳴らして独立した音量調整をすることも可能だ。筐体が小さい分、端子間隔は広くはないので、スピーカーケーブルはバナナプラグなどで端末加工を施して、裸線の接触がないように心がけたい

 

立体的な造形が施されているメッシュ状の網目天板「Waved top mesh」を採用。MODEL 10やMODEL M1などの上級モデルで採用された技術で、高い放熱性と安定性だけでなく、開放的な音質の獲得も目指す独自技術だ。本体上部には、4つの「Smart Selecter」ボタンを装備。入力やストリーミングサービスの特定プレイリスト、音量などをプリセット登録し、ワンタッチで呼び出すことが可能だ。リモコンにも同機能のボタンを搭載する

 

単体CDプレーヤーCD 50nと同じCDドライブメカニズムを内蔵。安定かつスムーズな動作を目指す

 

 

強力な4chアンプを内蔵。バイアンプ駆動の表現力が凄い!

 今回の試聴用として用意したのは、HiVi視聴室のリファレンススピーカーの1つ、Bowers & Wilkinsの805 D4。どう考えても格上スピーカーであるが、MCR60nのパフォーマンスの極限を定めるため本機を用いた。まずはQobuzから宇多田ヒカル、チョ・ソンジンと、聴き慣れた楽曲を再生。アンプ動作モードとしての、前述した①BTL、②パラレルBTL、③バイアンプの3パターンを試し、その再現性の変化について確認していこう。

 ①BTL駆動は、全体に刺激の少ない穏やかなサウンドで、空間の拡がりも緻密でしなやかだ。音の鮮度、空間描写は悪くないが、バランスがやや腰高で、低域表現にボリュウム感を加えたい。

 響きの質感が滑らかで、雰囲気よく聴かせるという基本的な音調は、②パラレルBTL駆動でも変わらない。ただ全体にバランスが下り、足元の踏ん張りが強くなる印象だ。空間表現も悪くないが、欲を言えば、ベースの躍動、オーケストラの吹き上がりと、もう少し厚みのある響きがほしい。

 スピーカーケーブルが2組必要となる③バイアンプ駆動に替えると、歌声は気張りがなく、温かく聴き心地が良い方向に変化する。全体の躍動感が増して、ベースはほどよく厚く、しなやかに伸びる。声のニュアンス、空間の拡がり、低域の実在感と、総合的な表現力として③バイアンプ駆動がベスト。以降、この接続のまま試聴を行なった。

限られた空間の中に、様々な回路がぎっしり組み込まれている。多機能な小型モデルではどうしても内部配線や基板配置に制約ができ、乱雑な構造になりがちだが、このスタイルでの一体型コンポーネント設計に長けたマランツらしく、要所要所でのパーツ配置の工夫が感じられる手慣れた内部デザインといえよう

 

HDMI ARC端子の装備が機能面での最大のトピック。AVセンターやHDMI対応プリメインアンプなどでの経験が豊富なマランツだけあって、パナソニックの最新有機ELテレビTV-55Z95Cと組み合わせたときの動作は非常にスムーズだった

 

 

CDからQobuz、そしてHDMI。溌剌とした小気味良い音が好ましい

 MCR60n内蔵のCD再生機能を活用し、CD『Famous Blue Raincoat/ジェニファー・ウォーンズ』の1曲目「First We Take Manhattan」を再生。ドライブメカは単体CDプレーヤーCD 50nと同じ仕様。リモコン操作に加えて、本体の静電容量式のタッチボタンで、再生・一時停止/曲送り/曲戻しといった基本操作が可能だ。また本体手前の上面には音量ボタンも配置している。

 CDのサウンドだが、柔らかなテイストで的確にリズムを刻み、低域は締まり、反応が良くもたつきがない。ストリングスやギターの響きには、艶やかな潤いが感じられ、各楽器のテクスチャーをとても丁寧に描き出す。歌声もおおらかで開放的。溌剌とした小気味良いサウンドが持ち味で、細かな音階の変化まで、描き分けていく様子が好ましかった。

 続いてQobuz純正アプリがそのまま使えるQobuz Connectで聴き慣れたハイレゾ楽曲をストリーミング再生した。声、楽器ともに、十分なダイナミックレンジを確保しながら、繊細で丁寧な聴かせ方で、荒っぽさは全くと言っていいほどない。

 「デスペラード/リンダ・ロンシュタット」は、ピアノの響きの細かな揺らぎや、ヴォーカルのヴィブラートがあいまいにならず、力強さがある。響きは繊細かつしなやか。目の前の空間に解き放されるように拡がるリンダ・ロンシュタットの声に惹き付けられ、ついつい聴き入ってしまった。

 「ビッグ・ショット/ビリー・ジョエル」は低域の張り出し、躍動はやや控えめに感じられるが、怒りを込めて激しく歌うビリー・ジョエルの声は、厚みがあり、鮮度が高い。ピアノ、ギター、ベース、ドラムスと、各楽器のバランスは良好。基本的な分解能が高く、音源に対するレスポンスがいい。

 「モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番/チョ・ソンジンほか」のピアノは浸透力のある響きが、ホールの空間に放出され、染み込むように拡がる様子が、実に生っぽい。耳障りなエッジの強調は全くと言っていいほど感じさせず、鍵盤のタッチもしなやか。このまま最後まで聴き続けたいと感じさせる、馴染みのいいサウンドだった。

 パナソニックの有機ELテレビTV-55Z95CとHDMI ARCで連携を試す。HDMIケーブルを繋ぐだけで、テレビとMCR60nともに特に何も設定せずに、テレビ内蔵スピーカーと同等の使いこなしが可能となった。そのサウンドは、明瞭度が高く、声も自然で聴きやすい。操作性を犠牲にせず、充実した音響システムが得られた。

 この小さな一体型のシステムで、正統派モニターの血筋を受け継いだ805 D4をどこまで鳴らすことができるのか、少し不安だったが、全く問題なし。逆に、ここまでしっかりと駆動できるとは驚いた。低音のドライブ力にしても、細部の解像感にしても、派手さはないが、生々しい声のニュアンス、響きの質感の高さ、音離れの良さと、随所で再生システムとしての素性の良さを感じさせてくれた。

カラリングはシャンパン・ゴールドのほかに、ブラック(写真)も用意される。塗装は指紋がつきにくい新仕上げとなっている(シャンパン・ゴールドも同様)。フロントパネル下にディマー(減灯)可能なライトが仕込まれている

 

 

コンポーネントの都合を押し付けず使う人に寄り添った本格アンプ

 昨今、手軽に使えて、省スペースのアンプ内蔵スピーカー(=アクティブスピーカー)が人気を集めているが、クォリティと機能性、そしてデザインと3拍子揃ったモデルとなると、現段階ではそう多くはなく、選択肢も限定される。

 サウンド、そしてデザインで気に入ったスピーカーを自由に選びたい。それが多くのオーディオファンの本音だと思うが、組み合わせるアンプ選びは簡単ではないし、CD、音楽配信、ラジオ、アナログレコード、そしてテレビ放送/動画配信と、多彩なコンテンツを取り込もうとすると、どうしてもシステムが複雑になり、納まりも悪い。

 そんな悩みを一気に解消し、リビングルームの傍らにスマートで、良質なオーディオシステムを完成させてしまう一体型コンポーネントMCR60n。言ってみれば、大きな可能性を秘めた魔法の小箱。ぜひ1度、自分の耳と目で、その魔法をご体験いただきたい。

 

>本記事の掲載は『HiVi 2026年秋号』