家庭用HiFiスピーカーの量産メーカーとして「世界最高峰」に君臨する英国・Bowers & Wilkins。創業60周年を迎えた2026年、旗艦シリーズ800 Series Diamondを第5世代の800 D5シリーズへと進化させた。ここでは2026年のオーディオ界、そしてオーディオビジュアル界の最大のトピックというべき800 D5シリーズの詳細を紹介するとともに、HiViのレギュラー筆者陣によるサラウンド環境での体験リポートを一挙お届けする。(編集部)

豊かな表情で歌うステレオ再生と有無を言わさぬ力強い立体音響再生。これぞ、進化するベンチマークサウンド

 世代交代ごとに最大級の注目を集めるのは市場を牽引するベンチマークならではの宿命だ。ハイエンドスピーカーの世界でベンチマークといえば、Bowers & Wilkins(以下、B&W)の800 Series Diamondの製品群が思い浮かぶ。世界中のユーザーだけでなく同業他社も動向を注視する同社のフラッグシップだ。

 その800 Series Diamondが第5世代の800 D5シリーズに生まれ変わった。800 D4シリーズの発売から5年が経ち、予想通りのタイミングで新製品が発表されたのだ。今回はウィーンや香港のオーディオショーで事前に発表会を開催するなど、意気込みがこれまでと違う。創業60周年を迎えた節目の年、「60年の集大成」と銘打ってB&W史上最高峰と高らかにうたう。すでに日本でも予約受け付けが始まり、10月上旬の出荷開始を予定しているというから、入手できる日は目前に迫った。

801 D5
¥9,240,000(ペア)税込 
※写真はライト・ウォールナット仕上げ

●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター、150mmコーン型ミッドレンジ、250mmコーン型ウーファー×2
●出力音圧レベル:90dB/2.83V/m
●インピーダンス:8Ω
●寸法/質量:W447×H1,221×D597mm/106.4kg
●カラリング:ステルス・ブラック(¥9,460,000ペア税込)、ウォーム・ホワイト、ライト・ウォールナット、ダーク・ウォールナット(以上、¥9,240,000ペア税込)

802 D5
¥7,260,000(ペア)税込 

※写真はステルス・ブラック仕上げ
●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター、150mmコーン型ミッドレンジ、200mmコーン型ウーファー×2
●出力音圧レベル:90dB/2.83V/m
●インピーダンス:8Ω
●寸法/質量:W413×H1,218×D589mm/91.4kg
●カラリング:ステルス・ブラック(¥7,260,000ペア税込)、ウォーム・ホワイト、ライト・ウォールナット、ダーク・ウォールナット(以上、¥7,040,000ペア税込)

803 D5
¥5,610,000(ペア)税込 
※写真はウォーム・ホワイト仕上げ

●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター、130mmコーン型ミッドレンジ、180mmコーン型ウーファー×2
●出力音圧レベル:90dB/2.83V/m
●インピーダンス:8Ω
●寸法/質量:W359×H1,165×D499mm/63.7kg
●カラリング:ステルス・ブラック(¥5,720,000ペア税込)、ウォーム・ホワイト、ライト・ウォールナット、ダーク・ウォールナット(以上、¥5,610,000ペア税込)

804 D5
¥3,740,000(ペア)税込 
※写真はステルス・ブラック仕上げ

●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型●
使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター、130mmコーン型ミッドレンジ、165mmコーン型ウーファー×2
●出力音圧レベル:89dB/2.83V/m
●インピーダンス:8Ω
●寸法/質量:W308×H1,101×D392mm/40.3kg
●カラリング:ステルス・ブラック(¥3,740,000ペア税込)、ウォーム・ホワイト、ライト・ウォールナット、ダーク・ウォールナット(以上、¥3,630,000ペア税込)

805 D5
¥2,134,000(ペア)税込 
※写真はダーク・ウォールナット仕上げ/スタンド別売

●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター、165mmコーン型ウーファー
●出力音圧レベル:88dB/2.83V/m
●インピーダンス:8Ω
●寸法/質量:W241×H439×D363mm/16.4kg
●カラリング:ステルス・ブラック(¥2,200,000ペア税込)、ウォーム・ホワイト、ライト・ウォールナット、ダーク・ウォールナット(以上、¥2,134,000ペア税込)
●オプション:専用スタンド(FS-805 D5、¥264,000ペア税込)あり

 

筐体構造の徹底強化と低域ドライバーが改良点だ

 ラインナップは基本的に800 D4シリーズと共通で、801 D5から804 D5までフロアー型4機種とブックシェルフ型の805 D5、さらにセンタースピーカーはHTM82 D5とHTM81 D5の2機種で、さらに既存モデルのランニングチェンジとなるサブウーファーも3機がニューカラー仕様へと変更された。ステレオ再生だけでなくフラッグシップ製品群でサラウンドシステムが組めるスピーカーシリーズは他にあまり例がないので、音を極めたいホームシアターファンにとっても800 D5シリーズは重要な選択肢となる。

 今回のモデルチェンジのテーマは2つに集約できる。エンクロージャーの剛性をさらに高めて共振を排除すること、そして低音用ドライバーの磁気回路を改良して音の純度を高めること。いずれも外からはほぼ見えない改良なので、外観で800 D4シリーズと800 D5シリーズを見分けるのは難しい。そこだけを見るとこれまでで一番地味なモデルチェンジと思うかもしれない。

筐体内部は、背面に1枚、垂直方向に2枚、水平方向に4枚の積層合板を補強材として強固に組み合わせたマトリックス構造を採用(写真左)。さらには前面に分厚いアルミニウム製インナーフレームが本体内側から取り付けられている(写真右。以上、801 D5の内部)。これは800 D4シリーズから継承された基本構造だが、800 D5シリーズでは、背面側の内部補強用部材を強化した新設計品として、エンクロージャー内の共振をさらに抑制したことが新しい

 

 だが、今回の2つの技術はどちらも音質改善に直結し、期待される改善効果も大きい。剛性強化は複数の手法の合わせ技で実現しており、ユニットをバッフルに内側から固定するインナーフレームの厚さと重量をほぼ倍増させたことと、リアフレームを背面全体に拡大し、形状を見直した肉厚リアパネルとの接合強度を劇的に高めたことが大きい。800 D4世代以降、804と805も上位機種と同様に前面を曲面に仕上げるリバースラップ形状を採用しているため、強度に機種と同様に前面を曲面に仕上げるリバースラップ形状を採用しているため、強度に不安はないように思える。だが、今回の構造強化によって、馬蹄形に湾曲させた積層合板が筐体の内圧を受けて内側または外側にたわもうとする動きを抑え、エンクロージャー全体の強度を飛躍的に高めることができたという。

2005年登場の800 Series Diamond以来、各世代に共通して採用されているのが、ダイヤモンド・ドームによる25mm径のトゥイーター振動板。ダイヤモンドの軽量かつ高剛性という特性を活かし、振動板の分割振動を可聴帯域のはるか上へ追いやることで、分割振動の影響による余計な音色の付加を抑え、音源に収録された情報を忠実に再現することを目指している。写真は801 D5、802 D5、803 D5、804 D5、805 D5に搭載される切削アルミニウム製ハウジング。振動板背面に発生する不要なエネルギーを処理し、トゥイーターの動作を最適化するという、オリジナル・ノーチラス以来のB&Wの設計思想を受け継いでいる。前面グリルが801 D4 Signatureなどで採用されたパターンへと変更を受けている

 

801 D5に搭載されている250mm口径の低域ユニット。複層構造のエアロフォイルコーン振動板やEVAマシュルーム構造ダストキャップ、デュアル・ネオジムマグネット、シングルダンパーなどの800 D4シリーズでの美点を受け継ぎつつ、2つのネオジム磁石とヨークに非磁性体のセラミック素材によるパーツを追加している。805 D5以外の3ウェイモデルでも同じ改良が加わっている。なお805 D5ではドライバー後方形状を歯車状に加工するなどの変更が加えられるという大きな刷新が施されている

 

 

中域チャンバーを本体に内蔵した804 D5が最も大きな変更を受けた

 低音用ドライバーの改良は805 D5とそれ以外のモデルで手法が異なるのだが、いずれも音楽信号で発生する交流磁界がボイスコイルの動きに悪影響をおよぼすのを回避することが目的だ。

 まず805 D5だが、ドライバー背面に配置されたボトムヨークの形状を歯車状に加工。テーパーの角度を浅くすることによって使用する鉄の量を減らし、有害な交流磁界の発生を減らすことに成功したという。見かけない形状だが、コンピューター解析によって最適な形状に追い込んだ結果、この形にたどり着いたとのこと。

 低い帯域の再生に絞られる、805 D5以外のモデルのウーファードライバーは、センタープレートの中央に非磁性体のセラミック層を挿入することで交流磁界の影響を制御する手法を導入した。その分センタープレートの有効な厚みが減るため磁界が弱まるように思えるが、近年入手可能になった高磁力のネオジムマグネットを採用することで、磁力の低下をカバーできるという。

 さらに、804 D5にはこのモデルだけの重要な変更が加えられた。新たにミッドレンジ専用のアルミニウム製チャンバーを用いて、エンクロージャー上部に組み込んでいるのだ。ウーファーから伝わる振動の影響を受けにくくする効果が大きく、中域の透明度を高めることが期待できる。

 実は、この仕組みは前世代のセンタースピーカーHTM81 D4で先行して採用されていたが、それを804 D5にも援用し、本質的な音質改善を狙ったものだ。HTM81 D5は、それに加えて、従来は背面に左右2つのバスレフポートを配置していたが、左側の1個のポートに減らしてチューニングを変更したことが目を引く。低域の量感以上に中低域から上の帯域の質感を高める方向に微修正することがその目的だ。特にセリフの帯域で明瞭度をさらに高める効果が期待できる。

 そのほか、台座の構造を見直して重量を高め、モデルごとに台座裏側の最適な位置にチューンドマスダンパーを取り付けて振動を制御・低減するなどの改良も行なわれている。文字通り足元からエンクロージャー全体におよぶ徹底した振動対策を投入することで、800 D5シリーズがどこまで表現力を高めることができたのか、具体的に紹介していこう。

805 D4(写真左)と805 D5(写真右)の背面を比べると、背面構造の部材の変化が一目瞭然だ。細かなスリット状だったD4世代から、波打つようなカーブを描く形のD5世代へと変更されている。これはセンタースピーカー以外の全スピーカーで共通する背面デザインの変更箇所だ。細かいところだが、バイワイアリング対応のスピーカー端子の配置も「-LF/+LF/+HF/-HF」から「-LF/-HF/+LF/+HF」へと変更を受けている

 

  

別次元のサラウンド再生。極限のリアルサウンドに痺れる

 試聴はD&M社内の試聴室で実施した。まずはサラウンド再生の印象から紹介しよう。801 D5、802 D5、HTM81 D5、サブウーファーDB1Dを2基と、オーバーヘッドスピーカー6基を組み合わせたハイエンドシステムは、最新の800 D5シリーズの到達点を如実に物語っていた。

 映画はUHDブルーレイ『TENET テネット』を再生。セイターとキャットのやり取りからハイウェイ上で逆行する車とのカーチェイスまで、極度の緊張が持続する場面を通して、音が完全に映像とリンクしたときの支配力の大きさを改めて思い知らされた。セリフと効果音の立ち上がりが俊敏で、キレの良さもこれまでとは別次元。単に音が速いだけでなく、音色を正確に再現することで、音の種類と素材の感触をリアルに実感させ、映像との一体感が一気に高まる。

 音場の密度の高さも別格で、猛スピードで逆行する車が迫ってくる場面では映像に吸い込まれるかと思うほど体感距離が近く、背景で流れていく景色との対比で目が眩みそうだ。リアリティを極限まで高めたサウンドの存在なくしてここまで映像と音をシンクロさせるのは難しい。

 続いてアンナ・ネトレプコが題名役を歌った『トゥーランドット』、アレーナ・ディ・ヴェローナで2022年に収録されたライヴ映像を視聴した。氷のように冷たいトゥーランドット姫を玲瓏な声で演じるネトレプコは、声量の豊かさや高音域の有無を言わさぬ力強い表現で聴き手を圧倒。HTM81 D5を中心に800 D5シリーズのスピーカー群がその類まれな表現をもらさず伝え、広大だが響きの良い野外劇場の臨場感も忠実に再現していることに気付く。オーケストラと合唱の広大なダイナミックレンジも圧巻だ。

 

HTM81 D5
¥2,090,000(本)税込 
※写真はステルス・ブラック仕上げ

●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター、150mmコーン型ミッドレンジ、200mmコーン型ウーファー×2
●出力音圧レベル:90dB/2.83V/m
●インピーダンス:8Ω
●寸法/質量:W846×H334×D363mm/33.4kg
●カラリング:ステルス・ブラック(¥2,090,000/本、税込)、ダーク・ウォールナット、ウォーム・ホワイト(¥1,980,000/本、税込)
●オプション:専用スタンド(FS-HTM D5、¥220,000/本、税込)あり
●備考:ダーク・ウォールナット仕上げは2027年1月発売予定

HTM82 D5
¥1,650,000(本)税込 
※写真はウォーム・ホワイト仕上げ

●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター、130mmコーン型ミッドレンジ、165mmコーン型ウーファー×2
●出力音圧レベル:89dB/2.83V/m
●インピーダンス:8Ω
●寸法/質量:W715×H289×D363mm/26.1kg
●カラリング:ステルス・ブラック(¥1,760,000/本、税込)、ダーク・ウォールナット、ウォーム・ホワイト(¥1,650,000/本、税込)
●オプション:専用スタンド(FS-HTM D5、¥220,000/本、税込)あり
●備考:ダーク・ウォールナット仕上げは2027年1月発売予定

※サブウーファーDBシリーズは、800 D5シリーズの登場にあわせて、カラリングがブラックとウォームチタニウムの2カラーでの展開にチェンジ。価格もDB1D(¥990,000税込)、DB2D(¥770,000税込)、DB3D(¥550,000税込)へと改定された。製品仕様は同等

 

本質的かつ多岐に渡る進化を遂げた800 D5シリーズ

 ステレオ再生で聴いた各モデルの印象も紹介しておこう。最上位の801 D5はB&W史上で最も静かなスピーカーと形容できる。付帯音や歪みが全音域で圧倒的に少ないため、静寂の底が深く、無音から立ち上がる音の瞬発力とエネルギーの強さが際立つのだ。発音の速さだけでなく、大音圧で低音が鳴った後でも素直に減衰し、キレの良さでも前作を大きく上回る。

 802 D5は素直なヴォーカルの定位や音色の豊かさが801 D5に肉薄し、ディテイル描写のきめの細かさと旋律楽器のにじみのなさを新たに獲得。よほど広い部屋でない限り、802 D5が大半の用途をカバーしてくれるだろう。

 中域専用キャビネットがもたらす自然な音場再現にこだわるなら803 D5が有力な候補になる。自然な帯域バランスの良さを確保しつつ、ここぞというときに芯と厚みが両立した低音が引き出せるのが頼もしい。

 804 D5は800 D4世代からの音質改善が抜きん出て大きく、声と旋律楽器の自然な肌触りの良さときめ細かいテクスチャーは前作と一線を画すものがある。低音は量感に余裕があるが、上位機種と変わらぬキレの良さも確保している。

 805 D5は前作に比べてどの音域でも音離れが良くなり、声や旋律楽器が一歩踏み込んで豊かな表情で歌う。剛性強化の恩恵も大きく、持続する低音に余分な音が残らない。リズムとテンポを忠実に再現し、演奏の真価を素直に伝える領域への大きな進化を遂げた。

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 シリーズ各モデルに共通する音質改善は透明度の向上を中心に多岐に渡る、本質的な進化を遂げている。HiFiスピーカーのベンチマークの座はしばらく揺らぎそうもない。

 

>本記事の掲載は『HiVi 2026年秋号』