久しぶりの再上陸となったケンブリッジオーディオは、顔つきこそシンプルながら現代的に洗練された印象を感じたが、音を聴くと中域を主体にした聴きやすいバランスだ。ああ、この安心して聴ける感じはイギリスのブランドならではの良さだなぁ。と、懐かしさにも似た気持ちになった。
ケンブリッジオーディオのHiFiカテゴリー上位のペア
今回紹介するCDトランスポートのCXC v2とDAC内蔵プリメインアンプのCXA81 MkⅡは、同ブランドのHiFiカテゴリーの中の上位に位置するモデル。アンプ側にDACを内蔵するところがユニークだが、ソース機器としてデジタル系の機器が主力になっている現在では、アンプにDACを内蔵し、アナログ/デジタルの多彩なソースに幅広く対応するのが合理的と言えるだろう。
CXA81 MkⅡは、DACチップにESSテクノロジー製ES9018K2Mを搭載。アンプはAB級で、電源部は専用設計のデュアルタップ巻線トロイダルトランスを採用する。出力は80W+80W(8Ω)。決して大出力というわけでもないが、一般的な家庭での再生ならば必要十分な出力を備えている。機能的には、無駄を省いた必要最小限の要素に絞り、ショートシグナルパス指向のアンプ設計で音楽性を重視した作りとしている。Bluetoothも備えるデジタル回路セクションはRoon Tested認証を取得するなど、機能性に過不足はない。
CXC v2は、精密なドライブ機構のカスタムS3 Servoドライブを搭載したCDトランスポートで、ディスクの信号読み取りに特化し、音響的に制振処理されたシャーシを備える。また、両機種には専用コントロール端子を備え、1つのリモコンで両モデルを簡単に操作できる連携機能も持っている。
CD Transport
CXC v2
オープン価格 (実勢価格12万5,400円前後)
●型式 : CDトランスポート
●再生対応ディスク : CD
●接続端子 : デジタル音声出力2系統(同軸、光)、ほか
●寸法/質量 : W430×H85×D315mm/4.7kg
CDのデジタル信号を同軸もしくは光端子から出力することに徹したCDトランスポート。ドライブメカニズムは、独自開発のS3サーボドライブを搭載。シャーシは、音響的にダンピングされた構造で、クリーンなデジタル信号の供給に特化している。同社製品との連携操作が可能な、コントロールバス端子も備えている。当然の仕様ながらCDのギャップレス再生に対応している
現代オーディオとして必要な要素を全て備えつつ音楽性の高い音が美点
まずはCXC v2とCXA81 MkⅡを同軸デジタル接続し、CD再生をしてみた。スピーカーはHiVi視聴室のリファレンスの1つBowers & Wilkinsの805 D4。メインで使っている802 D4ではなく805 D4を用いたのは、CXA81 MkⅡの80W+80W(8Ω)という出力値が理由の1つだが、イギリスブランドのスリムなアンプには、大型の立派なスピーカーよりも出来の良いブックシェルフ型モデルが似合うと考えたからだ。
SACD/CDハイブリッド盤『ガウチョ/スティーリー・ダン』から1曲目「バビロン・シスターズ」のCDレイヤーを再生すると、ヴォーカルを中心とした聴きやすいバランスに、懐かしく、そして音楽を楽しめている実感を覚えた。もちろん、懐古趣味的な古い音という意味ではなく、現代的に洗練され情報量は十分に豊富な音で、中域が主体であるとはいえ、高域から低域まで周波数レンジの点でも不足はない。「音楽を楽しめている実感」は、現代のオーディオとして必要な要素を全て備えながら、最終的に音楽性の高い音にまとめ上げたと感じられたからだろう。特定の誰かに向けて「この音こそが真理だ」というものではなく、より多くの人にとって良い音だと感じる、そんなテイストに仕上がっている。ヴォーカルの生き生きとした感じや、バックの演奏のノリの良さは誰が聴いても好ましいに違いない。
SACD/CDハイブリッド盤『交響詩 さよなら銀河鉄道999−アンドロメダ終着駅−』の「終曲〜戦いの歌〜」(CDレイヤーの再生)では、勇ましい男声コーラスが響き、少年から大人へ成長した姿が描かれる。精密なマスタリングを施された音は、本作がリリースされた当時が鮮やかに蘇る鮮烈な音質という趣。高解像度を指向しているというよりは、スムーズで滑らかな印象で、声の張り方、声の定位、コーラスの響きが生き生きと再現される。この「中身の詰まった感じ」の音は、他にない魅力だ。
Integrated Amplifier
CXA81 MkⅡ オープン価格 (実勢価格25万3,000円前後)
●型式 : DAC内蔵プリメインアンプ
●定格出力 : 80W+80W(8Ω)、120W+120W(4Ω)
●接続端子 : アナログ音声入力5系統(RCA×4、XLR×1)、デジタル音声入力4系統(同軸、光×2、USB Type B)、プリ音声出力1系統(RCA)、サブウーファー出力1系統(RCA)、ヘッドホン出力1系統(3.5mmフォーン)、ほか
●備考 : Bluetooth4.2対応、apt X HD対応
●寸法/質量 : W430×H115×D341mm/8.7kg
ESSテクノロジー製ES9018K2Mチップを搭載。USB入力時に最大384kHz/24ビットPCM、11.2MHz DSDのデジタル音声の再生に対応したDAC回路内蔵プリメインアンプ。このクラスのモデルとしては、貴重なアナログ・バランス音声入力が可能な仕様だ。トリガー入出力端子やコントロールバス端子も装備し、様々な連動動作もサポートしている。筐体の上から見て接続がしやすいように、接続端子の印字が端子の上下に並んでいる。こうした部分にも使いやすさに徹底的に注目した製品づくりを指向していることがわかる
情感表現が優れるバランス入力。USB接続のストリーミングも好調
CXA81 MkⅡには、バランス入力端子があるので、HiVi視聴室リファレンスのSACD/CDプレーヤー、デノンDCD-SX1 LIMITEDからアナログバランス接続でも聴いてみた。SACD層の再生なので、先ほどの音と音質や解像感に違いはあるが、そうした差よりも歌唱や演奏のニュアンスがよく伝わってくる。「バビロン・シスターズ」は、タメの聴いた、よりゆったりとしたスムーズさが際立つ。より深く、味わいのある歌と演奏だ。
『さよなら銀河鉄道999』はサウンドステージの広がりやコーラスの分解能の高さもわかるが、やはり歌声に込められた情感の魅力を増していることが一番の違いとわかる。CXA81 MkⅡは組み合わせた機器、ソースの性能差をしっかりと再現するのはアンプとしての実力の高さを反映しているようで、面白い。
ディスク再生に続いて、今度はデラN1A/3とCXA81 MkⅡをUSB接続して、Qobuzによる音楽ストリーミング再生を試してみた。米津玄師と宇多田ヒカルによるバラード「JANE DOE」。宇多田ヒカルはしっとりと情感の込もった声で、米津玄師の声はややハスキーだが芯が通り、生々しく男女の心の機微を描く。じんわりと染みる歌唱だ。そして、バックの演奏はリズムの低音がほどよくふくよか。緩むほどではなく、人肌のぬくもりを感じるような表現で、この感じが色気や情感を豊かにしてくれるとも解釈できよう。
ユジャ・ワン独奏の「ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番」でも、彼女の打鍵の強弱に気持ちが乗る感じ。反応の良さとかダイナミックレンジというオーディオ評価語ではなく、情感という表現をしたくなる音になっているのが見事だ。
ケンブリッジオーディオCEO
ジェームズ・ジョンソン=フリントさん
ケンブリッジオーディオは、長期的に日本市場に向き合っていきます
日本に再上陸したケンブリッジオーディオ。そのお披露目がされたOTOTEN2026にあわせて、同社CEOのジェームズ・ジョンソン=フリント氏が来日、開発思想や企業文化について話を聞いた。(取材/HiVi・辻)
われわれは、製品のハードウェア的なスペックや数値面だけではなく、日常的に使う体験そのものを重視しています。製品に関しては、様々なこだわりやコンセプトがありますが、ネットワークサービスが音楽再生の重要なポジションを占めているいま、ケンブリッジオーディオでは、アプリなどのソフトウェア面も含めて、外部企業に依存せず、全てを自社で開発した「StreamMagic」技術に、近年長期的かつ継続的な投資を行ないました。
この「StreamMagic」はいまのわれわれの大きな技術的資産、心臓部だと考えています。
また、われわれの製品は、全て「リスニングパネル」という方法で音質チューニングしています。この方法では、複数のス
タッフで試聴チームを組み、彼らが先入観を排して音を評価するためにブラインドテストを行ない、音の方向性を決め、開発にあたります。先入観を排し、複数の人数で普遍的な音の良さを目指す。これが私たちの音のフィロソフィーです。
そして、オーディオブランドにとって重要なのは、なにより「信頼」だと思います。オーディオブランドがお客さまを信頼し、お客さまもオーディオブランドを信頼する。特に自国に多数のオーディオブランドがある日本では、お客さまと信頼関係を築けなければ、ビジネスを長く続けることはできないと考えています。今回、日本市場に再び参入を果たすわけですが、これは長期的な視点にたったプロジェクトだとお考えいただけたらと思います。長期に渡って日本市場と向き合っていきます。
新製品としてストリーミング機能とアンプ、スピーカーを統合したアクティブスピーカーの新提案「L/Rシリーズ」が登場予定です。3サイズで展開し、日本でも多くのお客さまに快適にお使いいただける魅力的な製品に仕上がっていると思います。ご期待ください。
ステレオ再生ながら優れた表現力で映画世界への没入度が極めて高い
最後は、プレーヤーをパナソニックの4KレコーダーDMR-ZR1にチェンジ、CXA81 MkⅡに同軸デジタル接続。UHDブルーレイの2ch再生を試した。
『トップガン マーベリック』の冒頭を再生。音声はドルビーアトモス音声をダウンミックスした2ch設定なので、サブウーファーのないブックシェルフスピーカーによる2.0chステレオ再生になるが低音感もしっかり。空母の甲板上でのジェット戦闘機の離陸や着陸。動き回る艦兵たちの躍動がよく伝わる。もちろんケニー・ロギンスの「デンジャー・ゾーン」も力強く鳴り響く。素晴らしい導入だ。
『グレイテスト・ショーマン』のチャプター11。「ネバー・イナフ」歌唱シーンを見る。心が込もった情熱的な歌唱だが、それ以上に歌を見ているキャラクターたちが感じているはずの気持ちが良く伝わってくることが印象的だ。それは表情や身振りと音が連携した結果で、セリフや歌だけで描かれているわけではないが、感動的な曲と演奏が映画の世界への没入度を上げたのだと思う。結論的にいえば、2ch再生にも関わらず、映画の音としてなかなかの表現力の高さだ。いつでも、こういう音で映画を観たいと実感した次第だ。
●
これ以外にも様々なソースを試してみたが、単純な音質の印象だけでなく、曲、そして作品そのものの魅力や思い入れが伝わる音は貴重な存在だと実感した。オーディオ遍歴を長く重ねると様々な音に出会うが、最終的に選ぶのはこういう音かもしれない、そう、作品そのものへ近づける音なのかもしれないと思った。
リファレンス機器
●SACD/CDプレーヤー : デノンDCD-SX1 LIMITED
●スピーカーシステム : Bowers & Wilkins 805 D4
●ミュージックサーバー : デラN1A/3
●4Kレコーダー : パナソニックDMR-ZR1
>本記事の掲載は『HiVi 2026年秋号』