最高評価を獲得したパイオニア の2ウェイスピーカーTS-Z1GR、その魅力とは。ここでは選考委員全員によるレビューを紹介する。
<製品解説>
TS-Z1GRは、カロッツェリアブランドではなくパイオニア名義でリリースしたハイエンド車載用スピーカー。同社のスピーカー開発を担う東北パイオニアが、同社内でホーム用ハイエンドスピーカーTAD(Technical Audio Devices)のテクノロジーを盛り込んだモデルでもある。特徴的な独自の中高域を再生する同軸構造のCSTドライバーには、トゥイーターに蒸着ベリリウムダイヤフラムを、ミッドレンジには開織カーボンクロスを採用する。組み合わされるウーファーには、ミッドレンジ同様開繊カーボンクロスが用いられている。CSTドライバーとウーファーという2ユニット3ウェイ構成である。各ユニットの帯域分割はCSTドライバーには専用のパッシブクロスオーバーネットワークが設定されるものの、ウーファーとCSTドライバーにはなく、DSPなどを利用したドライブ構成が必要となる。
CSTドライバーは、26mmバランスドドームトゥイーターと73mmコーン型ミッドレンジによる同軸型ユニット。ウーファーは170mmコーン型だ。同軸ユニットはトゥイーターの外周とミッドレンジのコーンの間に専用設計のマッチングホーンを配置して、振動板面をそろえるなど構造上の特徴を備えるほか、ハウジングには半密閉構造を組み込むなどメカニカルな独自設計が施されている。
ウーファーユニットはモーター部をロングプレートショートボイスコイルの内磁型とし、磁気回路に使用する鉄材にも吟味を重ねている。同社コーン型スピーカーユニットの定番ともいえるコルゲーションエッジは、本機のために専用設計されたものだ。
まるでオーディオ機器など通っていないようだと錯覚してしまうほどのリアルさ
文=石田 功
4月に天童の試聴室やデモカーでGRスピーカーの音を体験し、その素晴らしさはわかっていたのだが、今回、改めてステレオサウンド試聴室で聴き直してみてその思いは確信に変わった。とにかく音がリアル。ミッドレンジの中央にトゥイーターを配置し、原理的に位相ズレを起こさないCRTドライバーの良さに加えて、トゥイーター部に蒸着ベリリウムを採用して以前のPRSシリーズから大幅にグレードアップ。アルミ振動板よりも強くリアルな高域再生を実現したことにより、異次元のリアリティを身につけた。とにかく音像に立体感があるし、楽器や歌い手そのものが目前に現れる感じ。まるでオーディオ機器など通っていないようだと錯覚してしまうほどのリアルさで、音楽を聴かせてくれる。一番最後にこのスピーカーを聴いたのだが、もしこれを先に聴いてしまったら、他の機器の評価は一気に下がったのでは? と感じるほどレベルの違う音だったのは間違いない。
観客一人一人の拍手が良く立ち上がり空間の見通しも良好、人数を数えられそう
文=鈴木 裕
ジェーン・モンハイトのアルバム「テイキン・ア・チャンス・オン・ラブ」の「ハニー・サックル・ローズ」では、ウッドベースのピチカートの音像が小さくまとまり、その定位もどっしりとしている、音の立ち上がりも良い。同時にベースとヴォーカルのエフェクター成分の広がりがきれいで、空間の透明度も高い。こういった要素を聴くと、位相成分の精度の高さが良くわかる。クラプトンの「アンプラグド」の「ロンリーストレンジャー」を聴くと、観客一人一人の拍手が良く立ち上がり空間の見通しも良好、人数を数えられそうな程。ライブ会場の臨場感も高い。クラシックのオーケストラ、「ワーグナー前奏曲と間奏曲集」から、マイスタージンガーへの前奏曲を聴いたが、トゥッティの音の重心は充分低く、分解能も自然な感じを残しつつ高かった。音色感としては、バイオリンの高域、チェロやコントラバスの低弦の領域ともにアキュレート。中間で出てくる室内楽的な部分での、フルートやクラリネット(高域の倍音を含む音色感)も見事だ。かなり優秀なドライバー・ユニットと判断できたが、よりパワフルなアンプによるこのスピーカーの音を楽しんでみたいと強く思わせた。
どのような楽曲にも対応するが、なかでも声の再現性と浸透力は一級品
文=栗原祥光
カロッツェリアブランドではなくパイオニアの名を冠するあたりに誇りと自信、覚悟と未来をのぞかせる意欲作。90kHzまで再生可能だという蒸着ベリリウム振動板トゥイーターをセンターに置く同軸ユニット「CSTドライバー」に目が行くが、開繊カーボンを2層構造にしたミッドレンジとウーファーの振動板にこそ本機の魅力があると思う。それゆえ中高域ユニットとネットワークの販売もしているが、ウーファーとセットでの使用をオススメする。カラレーションの少なくリニアリティの高いハイスピードサウンドが信条。情報量の多さは比類がない反面、うるささを感じさせないあたりに手練れの技を感じる。どのような楽曲にも対応できる懐の深さがあるが、なかでも声の再現性と浸透力は一級品。「異次元の音」「グランドレゾリューション」という謳い文句に納得すると共に、改めて「音楽は音を楽しむと書く」を思い起こさせた。名機の誕生だ。
ロックもポップスもクラシックも
楽器も声も死角のない鳴りっぷりには完全脱帽
文=長谷川 圭
一音出た瞬間に、眼前に展開される音の世界に圧倒されてしまった。空間そのものが鳴っている印象で、ステレオ再生とはこれほどの没入感が得られるものなのかと聴き入ってしまったのだ。この空間表現と情報量の多さ、細部まで見渡せる解像度の高さは、とりもなおさずCSTドライバーの威力だろう。そして、組み合わされる170mmウーファーのレスポンスの良さ、音楽信号に忠実に追従する動きは、CSTドライバーをしっかり下支えしていて、その優秀性を感じさせる。ロックもポップスもクラシックも、楽器も声も死角のない鳴りっぷりには完全脱帽だ。世の素敵な音を奏でるパワーアンプをいくつも組み合わせたくなる。そんな衝動に駆られてしまった。CSTドライバーだけの購入も可能だが、ぜひともウーファーまで含めた購入をお勧めしたい。
同軸型による点音源の放射により、音場やディテールの再現性が高い
文=土方久明
我が国のコンテストシーンにおいて、本スピーカーの登場意義は大きい。TS-Z1000RSの後継機として多くのファンが待ち望んでいた製品であり、数年にわたり海外製ハイエンドスピーカーの存在感が高まっていた中での、純国産スピーカーユニットの登場に心が高鳴った。クルマに搭載された状態で複数台、聴いているが、分解能、周波数レンジ、ダイナミックレンジといった基本的な要素をしっかりと備えつつ、同軸型による点音源の放射により、音場やディテールの再現性が高い。指向性の強い高音域と中音域を同一箇所から放出できるという理論的なメリットが、実際の音にも現れている車両が多かった。複数のポイントにユニットを設置しなければならないというカーオーディオ特有の難しさを解決できるスピーカーなのである。質感はフラットだが、単なるモニター調という言葉では収まりきらない、音楽的な聴かせどころも備えている。セットとなるウーファーユニットの性能も総合的な出音を後押ししている。
ステージの演者の情景が目の前に浮かんでくるような圧倒的とも言える表現力
文=藤原陽祐
最高の音を求める世界のカーオーディオファンに向けて、パイオニアが総力を上げて開発した話題作。蒸着ベリリウム振動板のトゥイーターを組み込んだCSTドライバー、2層構造 開織クロスカーボン振動板を投じたウーファーとミッドレンジ、そして部品を厳選し、最適な基板レイアウトとして仕上げられたクロスオーバーネットワークと、技術面の話題には事欠かないが、本システムの最大の注目点は、間違いなくそのサウンドにある。
ヴォーカル、ピアノ、ジャズトリオと、普段から聴き慣れた楽曲を選んで聴いてみると、品位の高さを感じさせる響きの緻密さ、粒子のきめの細かさに驚かされる。ストレスなく、フワッと浮かび上がる歌声は、口の動き、表情までもが感じ取れるほどの生々しさで、そのニュアンスの豊かさにゾクッとするほど。
味わい深い重厚な響きを持ち味にしながら、温度感のあるエネルギーを音像に集中させていくような聴かせ方は、まさに同社の高級オーディオブランド「TAD」に通じるもの。クルマの中でここまで上質なサウンドが体験できるとは、驚きだ。
音楽への陶酔に誘われながら
再生音の出来栄えが的確に判断できる覚醒感がもたらされる
文=脇森 宏
きわめつきの自然な音。誇張なし、演出感なく脚色もない。あるのは生身の人声と、正確無比な楽器の響き。それらが織り成す広々とした三次元の音空間。何も足さず何も引かない、ありのままの音の世界が眼前に展開する。無論、ジャンルは問わない。聴取者は音楽への陶酔に誘われながら、再生音の出来栄えが的確に判断できる覚醒感がもたらされるため、音と音楽に対するさらなる興味が掻き立てられる。試聴時にはCSTドライバー帯域はほぼ完璧、対してウーファーは平面バッフルによる低域の回り込みが発生するため、いささか薄味に終始したが、それでも出て来る音は超一級。置かれた環境をこれほど鋭敏に音に反映させるあたりは、ただ者ではない証といえるだろう。組み合わせるコンポーネントや装着手法等々、本機導入にあたり課題は多いかもしれないが、その先にこの音が待っていると思えば苦労のしがいもあるというものだ。そうして完成の暁には、自然な音の凄みを実感できることだろう。車載TADの誕生。カーオーディオエンスージアストに福音がもたらされた。
パイオニア PIONEER
Speaker
TS-Z1GR
¥700,000(セット/税込)
SPECIFICATION
●型式:セパレート型2ユニット3ウェイスピーカー
●使用ユニット:ウーファー・170mmコーン型、CSTドライバー[ミッドレンジ・73mmコーン型、トゥイーター・26mmバランスドドーム型]
●定格入力:50W
●瞬間最大入力:180W
●出力音圧レベル:ウーファー・90dB、CSTドライバー・87dB
●再生周波数帯域:ウーファー・29Hz〜18.5kHz、CSTドライバー・154Hz〜90kHz
●インピーダンス:4Ω
●クロスオーバー周波数:ミッドレンジ/トゥイーター:3,170Hz、ミッドレンジLPF:-24dB/oct.、トゥイーターHPF:-18dB/oct.
TS-HX1GR
¥450,000(セット/税別)
●型式:同軸型2ウェイスピーカー
●使用ユニット:ミッドレンジ・73mmコーン型、トゥイーター・26mmバランスドドーム型
●定格入力:50W
●瞬間最大入力:180W
●出力音圧レベル:87dB
●再生周波数帯域:154Hz〜90kHz
●インピーダンス:4Ω
●クロスオーバー周波数:ミッドレンジ/トゥイーター:3,170Hz、ミッドレンジLPF:-24dB/oct.、トゥイーターHPF:-18dB/oct.
単品販売もされているCSTドライバー。その振動板にクローズアップすると、中央の蒸着ベリリウムバランスドドーム(銀色の部分)と開繊クロスカーボンの間に光沢のある黒いパーツが確認できる。トゥイーターとミッドレンジの振動板を一つの振動板のごとく形状的につなぐ役割を果たすマッチングホーンと呼ばれるもので、精密に作り込まれたパーツの一つだ。
CSTドライパーの背面を見ると。ハウジングに小さなスリット形状が確認できる。このハウジングはミッドレンジユニットのバックキャビティなのだが、このスリットと吸音材によって“半密閉”状態を作り出し、最低共振周波数を下げることができたという。
ウーファーユニットを横から覗くと、アルミダイキャストバスケットの中に細かいすり傷がついたようなコーンの裏側が見える。このコーン振動板は開繊カーボンクロスと抄紙を貼り合わせたレイヤー構造で、スクラッチのように見えるのはパルプ繊維だ。
CSTドライバー用パッシブクロスオーバーネットワークは、基本的にCSTドライバーに最適化された設計だが、トゥイーターとミッドレンジを別々のアンプで駆動できるバイアンプにも対応したデザインになっている。回路基盤上のジャンパープレートを外すことで、バイアンプ設定とすることができる。