2024年のオートサウンドウェブグランプリでゴールドアワードを獲得したカロッツェリアのカスタムフィットスピーカー「TS-V174S」。2ウェイを構成するウーファー、トゥイーターとも新設計し、低音強化、臨場感ある中高音など、従来のOPEN & SMOOTH 構想を進化させるべく研究、開発し完成させたという。車両に純正装着されているスピーカーとシンプルな工程で交換できるカスタムフィットというモデルながら、国内生産にこだわった同シリーズ最上のモデルである。ここでは選考会で各賞を確定した直後の座談会を紹介する。[編集部]
パネラー・オートサウンドウェブグランプリ選考メンバー
[石田功、鈴木裕、長谷川圭、藤原陽祐、黛健司、脇森宏]
(まとめ=ASW編集部/写真=嶋津彰夫)
Auto Sound Web(以下ASW):ゴールドアワードとなりましたカロッツェリアのカスタムフィットスピーカーTS-V174Sについて、選考メンバーの皆さんの評価をうかがいます。本機は7年ぶりのモデルチェンジを受け、ウーファーもトゥイーターも大幅な変更を遂げました。TS-V174Sの魅力はどのようなものだったでしょうか。まずは先日、本機の開発を行った東北パイオニアを訪れた石田先生からお聞かせください。
石田 功(以下、石田):このスピーカーをはじめに見た時、トゥイーターがバランスドドームになっていてちょっとがっかりしたんです。どこか普通になったなと。でも音を聴いてみると、素晴らしいんです。試聴をした際には前モデルのTS-V173Sとの聴き比べができたんですが、圧倒的に174が良かった。
何がすごいかって、まず低音がしっかりしているのと、前モデルと比べてわかったんですが高音域が圧倒的に綺麗なんです。174と比べると173が荒い音に聴こえて……あくまで比較してなので、単体で評価したら173もよくできたスピーカーなんです……というところが一番評価した点です。とても洗練された音でした。しかも、今までのカロッツェリアのスピーカーと比べて、人間的な音がするんです。
鈴木 裕(以下、鈴木):確かにそうですね。その表現は正しいと思います。
石田:有機的な音というか、そういう部分がとても気に入りました。
ASW:では続いて、鈴木先生お願いいたします。
鈴木:スピーカーというものはカーもホームも関係なく低域のレンジとか量感がとても大事なんですが、このTS-V174Sはその部分がとても良かったですね。広いレンジだし、たっぷりした量感、さらに密度も濃く聴かせます。同時にトゥイーターが出す重たい高音がとても魅力的でした。
個人的にはもう少しクロスポイントを下げて鳴らしてもいいかなとも思えました。パッシブネットワークもよくできていたんですけれど、それを捨ててアクティブに、マルチアンプドライブに挑戦して、尖ったチューニングにしても楽しめそうだと思います。ただ、ドライブするアンプに対して要求する能力は高いですね。いいアンプを向けるほどいい音で鳴る。これはスピーカーの秘めた能力の高さを証明していると思います。
ただ、カスタムフィットスピーカーという性格上、もっと鳴らし易くてもという想いは湧きました。
ASW:なるほど、クルマの純正スピーカーとの交換だけでも存分に鳴る方がいいのではという懸念ですね。
鈴木:そういうことなんですが、AVナビの内蔵アンプでも音の良さは感じられるので、ただの老婆心とも言えます。
ASW:ありがとうございました。続いては藤原先生、お願いいたします。
藤原陽祐(以下、藤原):カスタムフィットスピーカーというカテゴリーで、最上級機種ではあるんですがコスト的な制約はあっただろうと想像するのですが、その中で作り手のセンスの良さを感じました。仕上げの上手さとでも言いますか、磁気回路も振動板もバスケットフレームも全部新規で作っていて、磁気回路にはネオジウムマグネットが搭載されているんですが、ネオジウムマグネットを使うとエンジンが軽くなるので、低音の量感は出すのが難しくなりがちなんですけれど、174Sでは上手く……バスケットの設計なのか振動板との兼ね合いなのか、バランスのとり方がひじょうに上手くて、気持ちのいい低音が出せてますし、それと連動して空間の高さとか自然な定位などがあって、作っている人のまとめ方の上手さを感じました。
磁気回路まで収めるバスケットフレームは結構特殊だと思うんですけれど、このあたりの設計は音質にかなり効いているように感じました。振動板もコーンの形状に深さをつけて面積を広げていますが、こういう手法をとると低音に癖が出たりしがちなんですね、少し重めになるようなね、このウーファーユニットについてはそういって違和感がない。カーボンと裏に張り合わせた抄紙の兼ね合いがうまいです。
鈴木:コルゲーションエッジなどもうまくバランスしているように感じますね。
藤原:ですよね、とても上手いまとめかたです。
鈴木:よく作ってますね。
藤原:単にコストをかけていい音を出しているんじゃない物造りの上手さみたいなものをとても感じるスピーカーだと思いました。
ASW:藤原先生、ありがとうございました。では次に黛先生お願いいたします。
黛 健司(以下、黛):石田さんにおたずねしたいのですが、今回スピーカーの開発エンジニアの方とお話しする機会があったのですが、東北パイオニアにおいでになった際にいろいろなお話をされたのではと思います。作り手側の意識として今までのものとだいぶ変わったのだろうなと思うのですが、そのあたり何かお気づきになったことはありましたか?
石田:前モデルのTS-V173Sのトゥイーターのアルミが嫌だったというのは一番感じました。
長谷川 圭(以下、長谷川):173はリングラジエーターで、ダイヤフラム素材はアルミでしたね。カロッツェリアの最高峰トゥイーターTS-T1RS IIはチタン製ですね。
石田:形状……リングかドームかというのは気にしていないようで、アルミが嫌だったというのはとても感じました。それと、低音をもっと出したいという意向は感じました。
長谷川:あと、音全体のまとめる方向性として音楽を楽しく聴けるスピーカーにしたいということも挙げられそうですね。
黛:なるほど。やはりカロッツェリアのスピーカーとしての共通項はあるものの、今までの音の傾向とはだいぶ違ったアプローチがあったようですね。従来のものにあまり引きずられないで新しいものを作ろうという意識が働いているのでしょうし、それが今回の製品の成果につながっているのでしょう。
とにかく値段を考えるとびっくりするくらいいいスピーカーというのが正直な印象ですね。
ASW:黛先生は、こういう聴こえ方が良かったなどの感想はございますか?
黛:私の場合、製品試聴には、ジャズやクラシックからJ-POPまでさまざまなジャンルの、編成も小編成から大編成まで、多彩な楽曲を聴くように心がけていますが、どのような曲を聴いても、その曲「本来の音」が十全に再現されることに驚きました。スピーカーとしての能力が高いことの証でしょう。
前作TS-V173Sとの比較は出来ませんでしたが、同時に聴いたリファレンススピーカーのTS-Z900PRSと比較しても遜色ない音で、ちょっとビックリした。価格差を考えると、たいへんな実力機だと思います。
ASW:ありがとうございます。では脇森先生のお話をうかがわせてください。
脇森 宏(以下、脇森):まず第一にですね、この時期によくもまあここまで細かいことを一所懸命やってスピーカーを作っていた国産メーカーがあったんだと感心しています。音に関して言うと、先ほどもお話が出ていたように、トゥイーターがひじょうに……“普通になった”という言い方もできるんですけど……今までが尖っていてね、そこが個性的でよかったところもあるんですが、過去から比べると今回の方が音楽になじみやすいトゥイーターを作ってきたなと思います。
低音はというと、いろいろなところが改善されて、雰囲気もあるし、なによりも声がいいスピーカーですね。それとネットワークがハイパスとローパスがセパレートになっているのでバイアンプドライブも試してみてますが、通常の接続方法で聴いてもとてもまとまりよく聴くことができる。このあたり好みかもしれませんが、バイアンプじゃなければということもないことはご報告しておきたいです。
長谷川:Vシリーズは7年ぶりのモデルチェンジだったんですよね。そんなに経っていたかという想いもありますけれど、同社ではTS-Z900PRSが間にありましたしね、そのおかげか新型スピーカーとしてのお久しぶり感が少なかったのかもですね。
脇森:173もとても良かったですけれど、174はもっと良かった。2回り3回りも上回った印象です。
長谷川:石田さんと私と、東北パイオニアの試聴室で173と174の聴き比べをさせてもらいましたけれど、びっくりしましたよね?
石田:そう、びっくりしました。
長谷川:私も石田さんも173の評価は高かったと思うんですが、174と比較したときの173の印象が『このスピーカーの音ってこんなだったっけ???』でした。
石田:7年前に新登場した時にはいいスピーカーだなと思っていたのに、今回改めて聴いたら粗さが感じられました。
長谷川:そうでしたね。とても驚きました。私も173のリングラジエーターにはとても繊細な音を出す印象があったんですが、174と聞き比べてしまうとそうでもなかった。それから、脇森さんもおっしゃいましたが、人の声がとてもよかったですね。
トゥイーターのダイヤフラム形状のほかにも、素材がチタンになったり、温度処理をしたりと、いろいろなことをしたうえで製品の完成に至ってますよね。
石田:温度処理は400度で黄色になると言ってましたね。420度で紫……。
長谷川:その中間でローズピンクになるとか。しかもダイヤフラムの面積が広いので、均一に熱処理するのが結構難しいとも聞きました。
藤原:処理する温度によって硬さなどが変わるんですよね。
長谷川:焼きを入れるのはそういうことですよね。当然色が違えば音が違ってくる。
藤原:声の良さもあるし楽器の響きが確かに嫌な音がしないですね。聴き心地がいい。
石田:あれが青くなるときっともっとキツめの音になるでしょうね。
藤原:特性としてはその方がよさそうですけどね。
石田:そうなるでしょうけど……。
長谷川:RSのトゥイーターTS-T1RS IIの色ですね。
石田:あれは思いっきり焼いたんですよ。
長谷川:そして、TS-V174Sではステレオイメージが感じられるエリアの拡大という点も謳われていますが、試聴室環境で聴くと、音場がとても広くまた聴き手に迫るような印象を受けました。実際にクルマで聴いても音場の展開の仕方はこれまでにない美点として挙げられそうです。
石田:あれはバランスドドームの効果でしょう。デュアルアークリングだとああはならない。指向特性の関係だと思うけれど、広い音場感は174のトゥイーターならではといえると思います。
カスタムフィットととして使いやすくというところでのバランスドドーム化だったのでしょうけれど、ずいぶんいい効果になりましたよね。
ASW:みなさんありがとうございました。記事をお読みのみなさんに、実際に体験して音楽をドライブを楽しんでもらいたいですね。