最高評価を獲得したカロッツェリア のサイバーナビ、その魅力とは。ここでは選考委員全員によるレビューを紹介する。

音の透明感が大きく向上し、よりクリアで高解像度になった

文=石田 功

 音質の担当者が変わってリリースされた2023年モデルは、外観こそまったく変化がないものの音はまったくの別物。音の透明感が大きく向上し、よりクリアで高解像度になった。それもそのはずで、回路の基本設計は同じながら低ノイズオペアンプのMUSE8820など、サイバーナビの最高峰「Xシリーズ」に採用していたパーツを投入している。このあたりは、以前から提案はあったもののコストの問題で実現できなかったものらしいが、今回、販売価格は実質据え置き(物価上昇分で多少はあがっているが)で販売に踏み切ったというから太っ腹。パイオニアの底力を感じさせる。

 当然、パーツを変えただけでは音が良くなるわけではなく、かえってバランスを崩すこともあるわけだが、そこは徹底的に試聴を繰り返して音を決めていったという。そこには、かつてカロッツェリアXを担当していた人も加わり、スペックよりも楽しさを求めたわけだが、狙い通り生き生きとした感じが伝わる音になっている。

短く言えば、見通しのいい音場感。詳述すると……

文=鈴木 裕

 サイバーナビに接続して鳴らし出した途端、視界がぱっと開けたような感覚さえあった。短く言えば、見通しのいい音場感だが、さらに詳述する必要を感じる。曲は山下達郎のアルバム『ソノリテ』から「マイダス・タッチ」、一般的なポップスのマルチマイクの録音だが、空間自体の透明度が高く、高周波のノイズの影響を受けている時のような、何かもやっとした不純な響きが音像にまとわりつくこともない。音像それぞれの輪郭にぼやけたところがなく、にじみなく、すっきりと見えてくる。

 そして、次に気づくのは、サウンドステージの前後方向の深さだ。さらに、ヴォーカルの音色感の絶妙な再現性も見事。そして、くっきりした音成分となめらかな音の描き分けも印象的だった。また、試聴用のUSBメモリーからハイレゾ音源を再生すると、上記のポイントについてハイレゾ音源の方が印象がよく、その持っているポテンシャルが素直に再現されている印象も付け加えておきたい。

音楽も楽しく聴かせる能力を得た、サイバー史上最高音質機

文=長谷川 圭

 サイバーナビは、歴代HiFiぶりを発揮し、多くのカーオーディオファンから支持されている実力モデルだ。2023年のモデルナンバーは、前年の912マークIIからマークIIIとなったが、回路パターンは同じだし、機能的にも変更はない。だが、サイバーナビ史上最高音質と謳う言葉に偽りなしである。

 本機は、音の要ともいえるオペアンプ、マスタークロックのデバイスを変更し、それに伴って周辺回路素子の最適化を実施、電源回路のブラッシュアップも行われた。これで音が変わらないわけがないのだが、その音を整えるのは並大抵のことではない。この音に仕上げたエンジニアを大いに称えたい。

 聴こえてくる音は、端正で繊細ながら芯を感じさせる力強さも備える、バランスも秀逸だ。特筆すべきはどんな音楽を再生しても楽しいところ。分析的になりすぎず、音楽の躍動感や実体感を魅力的に伝える表現力を感じた。パイオニア、カロッツェリアのカーオーディオメーカーとしての矜持を聴かされた思いだ。

ステージの演者の情景が目の前に浮かんでくるような圧倒的とも言える表現力

文=藤原陽祐

“史上最高音質のサイバーナビ”を自負するパイオニア、サイバーナビの最新モデルだ。外観、及びオーディオ関連の基本設計は前作から踏襲しているが、音質評価を入念に重ねつつ、クロック、オペアンプ、各種コンデンサーなど、各種パーツを吟味した成熟型のモデルだ。

 さてそのサウンドだが、音の粒子まで感じさせるような繊細な感触が実に新鮮だ。基本的なS/N感の良さもあって、微小信号の描きわけが明確。響きの成分が豊かで、レコーディング現場の気配、雰囲気まで感じさせる。

 カーナビのオーディオ再生と言うと、線の細い、弱々しい音をイメージするかもしれないが、本機にはその概念はまったくと言っていいほど当てはまらない。大振幅の信号は躊躇なく一気に吹き上がり、フワッと空間に放出される。ステージの演者の情景が目の前に浮かんでくるような圧倒的とも言える表現力に、聴き入ってしまった。

 オーディオ機器の場合、完全な新規開発のモデルよりも、既存の製品をベースに音質改善策を施した“MKⅡ”モデルの方が、いい結果が得られることが少なくない。今回のサイバーナビ912Ⅲのサウンドは、この考えが間違いではないことをしっかりと証明してくれた。

演奏家が音に託した感情の揺れを克明に再現、音楽に惹き込まれていく

文=黛 健司

 サイバーナビ2023年モデルは、回路などの基本構成は変えずに、使用部品をアップグレードした、いわばマイナーチェンジ機と、開発担当者から説明を受けた。音質に大きな影響のあるマスタークロックとオペアンプを変更すると同時に、周辺部品を見直して、音質を最適化するチューニングを施したという。

 しかし、2022年モデルと2023年モデルを比較試聴すると、2023年モデルは「マイナーチェンジ」の範疇を超えた、大きな音質向上をはたしていて驚いた。最初の音が鳴り出した瞬間、音の鮮度の高さに圧倒される。なんと瑞々しい音なのだろう! 分解能の向上と高S/N化の相互作用で、演奏家が音に託した感情の揺れが克明に再現され、音楽にグイグイ惹き込まれていく。PCM192kHz/24bitのハイレゾ音源の再生も秀逸だった。また、プリアウト出力も高音質で、外部パワーアンプのドライブ能力も高く、カロッツェリア単体パワーアンプとの組み合わせでは、抜群の相性のよさを聴かせた。

温度感が高まった人声の素晴らしさが印象に残った味がある
さあ、みんなでCDを聴こう

文=脇森 宏

 メモリー系メディアもいいけれど、CDが好きだ。データ量重視の考えも理解できる。だが良いCDには、限られた容量の中に規格を超えて演奏のすべてを盛り込もうとする作り手の意志と気概が感じられ、それが音楽をより一層、魅力的に聴かせてくれるからである。噛めば噛むほどというか、尽きせぬ味わい、魅力がある。そのCD再生が可能な車載デッキが近年、激減し今や絶滅危惧状態。もはやこれまでかと観念しかけたところに、サイバーナビがCDは主要な音楽ソースとの姿勢を堅持、新たな音質向上策を施して登場した。聞けば、サイバーナビのユーザーにはCD支持派が多いのだという。

 試聴はもちろん、CDで行なった。質感の高さは従来機どおり、しかし今回のモデルは気配が違う。腰をぐっと落とした安定感あるサウンドで、聴きごたえがひとしお。とりわけ厚みと潤いが増し、温度感が高まった人声の素晴らしさが印象に残った。味がある。ライン出力は内蔵アンプよりストレートな方向だが、クォリティは一級品。本格的なシステムにも安心して使うことができる。さあ、みんなでCDを聴こう。

カロッツェリア CARROZZERIA
AV Navigation
AVIC-CQ912III他、サイバーナビシリーズ
オープン価格

SPECIFICATION(DC無しのモデルも同ナンバー機と同様)
AVIC-CQ912III-DC
●AV一体型メモリーナビゲーション
●画面:9V型HD静電容量方式タッチパネル
●外形寸法:W236×H134×D161mm(本体)、W227×H127×D16mm(ノーズ部)
●重量:2.7kg
AVIC-CL912III-DC
●AV一体型メモリーナビゲーション
●画面:8V型HD静電容量方式タッチパネル
●外形寸法:W200×H126×D165mm(本体)、W190×H121×D10mm(ノーズ部)
●重量:2.5kg
AVIC-CW912III-DC
●AV一体型メモリーナビゲーション
●画面:7V型HD静電容量方式タッチパネル
●外形寸法:W206×H104×D161mm(本体)、W197×H97×D14mm(ノーズ部)
●重量:2.3kg
AVIC-CZ912III-DC
●AV一体型メモリーナビゲーション
●画面:7V型HD静電容量方式タッチパネル
●外形寸法:W178×H100×D165mm(本体)、W171×H97×D10mm(ノーズ部)
●重量:2.3kg
ー以下共通ー
●内蔵パワーアンプ最大出力:50W×4
●プリアウト最大レベル:2.2V
●再生メディア(フォーマット):地上デジタルTV、DVDビデオ、CD、Bluetooth(Bluetooth4.2)、USB(USB2.0HighSpeed、マスストレージクラス・MTP、最大供給電流・1.5A、FAT16/FAT32、MP3/WMA/AAC/FLAC/WAV/DSD対応・最大PCM192kHz/32bit、DSD最大5.6MHz/1bit)、SD(class2/4/6/10、Ver.3.0、最大512GB対応、FAT16/FAT32/exFAT、MP3/WMA/AAC/FLAC/WAV/DSD対応・最大PCM192kHz/32bit、DSD最大5.6MHz/1bit)、ストリーミングビデオ、レコーダーアクセス(アプリDiXiM Play for carrozzeria経由)
●通信機能:docomo in Car Connect対応、アクセスポイントモード装備、オンライン自動地図更新、Smart Loop渋滞情報、MapFanコネクト対応
■DSP・スタンダードモード時
●デジタルイコライザー:13バンドグラフィックイコライザー(シンプルコントロール時±12dB<2dBステップ>全チャンネル共通)、31バンドグラフィックイコライザー(マスターコントロール時、±9dB<0.5dBステップ>フロント/リア/サブウーファー独立)
●スピーカーセッティング:‒24~+10dB(0.5dBステップ)・FL/FR/RL/RR/SW
●トゥイーターゲイン:‒6dB~+3dB(カロッツェリア推奨スピーカー/汎用スピーカー)
●ローパスフィルター:カットオフ周波数・25/31.5/40/50/63/80/100/125/160/200/250[Hz]、スロープ・‒6/‒12/‒18/‒24/‒30/‒36[dB/oct.]、位相・NORMAL/REVERSE
●ハイパスフィルター: カットオフ周波数・25/31.5/40/50/63/80/100/125/160/200/250[Hz]、スロープ・‒6/‒12/‒18/‒24[dB/oct.]
●タイムアライメント:<マスターコントロール>・0~490cm(0.35cmステップ)、<シンプルコントロール>・0~490cm(1.4cmステップ)
●AUTO EQ&TA:EQ.・F/R独立、TA・0cm~490cm(1.4cmステップ)
■DSP・ネットワークモード
●デジタルイコライザー:13バンドグラフィックイコライザー(シンプルコントロール時±12dB<2dBステップ>全チャンネル共通)、31バンドグラフィックイコライザー(マスターコントロール時、±9dB<0.5dBステップ>フロント/リア/サブウーファー独立)
●スピーカーセッティング:‒24~+10dB(0.5dBステップ)・FL/FR/RL/RR/SW
●デジタルフィルター
サブウーファーチャンネル(ローパスフィルター):カットオフ周波数・Flat/25/31.5/40/50/63/80/100/125/160/200/250[Hz]、スロープ・‒6/‒12/‒18/‒24/‒30/‒36[dB/oct.]、位相・NOMAL/REVERSE
MIDチャンネル:ローパスフィルターカットオフ周波数・0.63k/0.8k/1k/1.25k/1.6k/2k/2.5k/3.15k/4k/5k/6.3k/8k/10k/12.5k/16k[Hz]、ハイパスフィルターカットオフ周波数・Flat/25/31.5/40/50/63/80/100/125/160/200/250[Hz]、スロープ・‒6/‒12/‒18/‒24[dB/oct.]、位相・NOMAL/REVERSE
HIGHチャンネル(ハイパスフィルター):カットオフ周波数・0.63k/0.8k/1k/1.25k/1.6k/2k/2.5k/3.15k/4k/5k/6.3k/8k/10k/12.5k/16k[Hz]、スロープ・‒6/‒12/‒18/‒24[dB/oct.]、位相・NOMAL/REVERSE
●タイムアライメント:マスターコントロール・0~490cm(0.35cmステップ)、シンプルコントロール・0~490cm(1.4cmステップ)
●Wi-Fi:1~11ch対応、セキュリティ方式・OPEN/WEP/WPA(Personal)/WPA2(Personal)
●付属品:GPSアンテナ/地上デジタルTV放送専用フィルムアンテナ/ネットワークスティック/サイバーナビ専用スマートコマンダー(BLE)/音声認識用マイク/USB接続ケーブル/取付部品一式

サイバーナビのボトムパネルに貼られたシール。マーク3を示すモデルナンバーはここにしか記されていないため、車両に装着すると912のどの世代かは不明となる。しかし、その中身、奏でるサウンドは全く別物である。

2DINサイズのAVIC-CZ912IIIの背面。接続端子の種類も配置も前年、前々年と変更はない。しかし、回路を構成する素子は見直され、オペアンプとマスタークロック、その周辺パーツ、さらには電源回路の強化が施されている。