パナソニックAVナビStrada(ストラーダ)、その2022年モデルのトップグレードCN-F1X10BGDは同社モデル史上最高音質ではないかというほどの高評価を受け、当サイトのAuto Sound Web Grand Prix 2022でSilver Awardを獲得している。同社のAVナビは上級のF1シリーズのほか、ポピュラークラスのHシリーズもラインナップしている。このHシリーズが、実は大改革を実施しており、そのサウンドパフォーマンスに大きな影響を及ぼしていたのだ。本稿ではストラーダHシリーズのサウンドインプレッションをご紹介しよう。

文/写真=長谷川 圭

試聴取材したパナソニックCN-HE02D。7型ディスプレイを搭載した2DINサイズAVナビである。価格はオープン。メニュー画面はじめ、インターフェイスなどは上級モデルのFシリーズを踏襲した設計だ。

上級モデルの出来の良さが過ぎて
聴かずにはいられなくなったStrada Hシリーズ

 パナソニックの(Panasonic)のStrada、そのHシリーズは、大画面モデルが注目されがちなAVナビ市場で7V型画面の2DINおよび200mmワイドボディモデルをラインナップするポピュラークラス、いわゆる及価格帯の製品である。とはいえ、DSPはFシリーズと同じデバイスを搭載しているし、ハイレゾへの対応でもPCM96kHz24bitをネイティブ再生するなどの仕様が与えられているし、USB経由でスマートフォン接続ができたりBTによるワイヤレス接続も可能としている。TVチューナーもワンセグではなく地デジ受信ができるなど、なかなかの内容なのだ。

 音質面では、カスタムパーツの採用などは叶わないもの、「音の匠」モードを搭載しStradaらしい部分も持っている。しかも2022年モデルのCN-HE02DおよびCN-HE02WDでは、スピーカー出力部のパワーアンプデバイスを従来のAB級アナログパワーアンプからデジタルパワーアンプへと変更している。これはオーディオ的には大規模な変更といえるものである。

 実は、2022年11月に行われたメーカー発表会でもこのデジタルアンプの存在を気にしていたものの、その音の確認はしておらず、現在に至ってしまっていた。しかし、Fシリーズの実力をまざまざと見せつけれらると、『信号増幅部が違っているものの、このStradaのサウンドエッセンスがHシリーズにも息づいているのかも……』という思いが募っていき、年明けの野村ケンジ氏との取材で、いてもたってもいられなくなってしまった。こうしてStrada Hシリーズの試聴機会を設けることとなった。

 試聴取材にあたり、オートサウンドウェブの試聴室には2021年モデルCN-HE01D(アナログアンプモデル)と2022年モデルのCN-HE02Dを準備、試聴を実施した。

オートサウンドウェブの試聴取材のようす。手前のStradaを聴くために使用しているのは大型のプレーンバッフルに装着したカロッツェリアの上級スピーカーTS-Z900PRSだ。

画面左が2022年モデルのCN-HE02D、右が2021年モデルCN-HE01D。アナログパワーアンプ搭載のHE01にはアルミダイキャスト製の放熱用ヒートシンク(側面中央より右の色が濃い部分)があるのに対し、デジタルアンプ搭載のHE02にはヒートシンクがなくなっていることがわかる。

CN-HE02D(左)とCN-HE01D(右)。パワーアンプデバイスをデジタルに変更したことにともない、回路基板の設計も変わっており、背面の端子配置にも若干の変更が実施された。DTVコネクタ接続端子の位置が移動していることがわかる。

オーディオ回路のスピーカー出力部を見る。中央の黒いデバイスが4チャンネルデジタルアンプである。従来のアナログデバイスに比べると発熱が抑えられるため、大型のヒートシンクを必要とせず、そのために回路上でのレイアウトの自由度も高くなっている。画像内デジタルアンプの上には、4チャンネル分のローパスフィルターも確認できる。デジタルアンプからの信号はこのフィルターを通ったのちスピーカーへと送られる。

リアリティに富んだ音楽再生が
何とも言えず心地よいひと時を演出してくれる

 CN-HE01D(2021年モデル)は、勢いのあるサウンドで煌びやかな高音とあまり腰高にならない中~低音というバランス。歌声はやや若く聴こえる。興味深かったのは、Fシリーズ同様、USBメモリー経由で聴いたCDからのリッピング音源(WAV)よりも、CDを聴いた方が音の鮮度が高く聴くことができたところ。やはり、最終的な音の決定をする同社のエンジニア田食氏の手によるものだからと言えそうだ。このあたり、Fクラスと音質を左右する高品位デバイスの差があるとはいえ高音質への設計思想には相通じるものがあるようす。さしづめストラーダイムズとでも言えるものかもしれない。

 なかなかの出来ではないかと、試聴機をCN-HE02Dへと繋ぎ変えると、試聴室内の雰囲気が一変した。しっかりした厚みのある中音を量感豊かな低音が支え、伸びやかな高音は過不足なく美しい響きを演出する。どんなジャンルの楽曲を聴いても感じるのは、生々しさである。特にヴォーカルやアコースティック楽器のリアルさには驚くほどで、トランペットやサキソフォンなどのブラスセクション、シンバルの音などは見事のひとこと。

 また低音の再生能力はさすがデジタルアンプといった印象、充実のドライブ能力を発揮していて、ともすると純正スピーカーではうまく再生しきれなてイコライザーで抑え気味に鳴らすことになるのではと思うほど。試聴時にはカロッツェリアの上級スピーカーTS-Z900PRSを使用しているが、ワイドレンジで、充分なダイナミズムを嫌な音を乗せずに聴かせてくれた。

 充実したエネルギーを感じさせながら聴ける音楽は、躍動感あふれているのだが、上品さを損なうことはない。これは、車両純正スピーカーでもナビの違いによる音質差をはっきり感じることができるだろうし、上質なスピーカーと組み合わせて聴いてもその実力を楽しむことができるだろうと思う。

 Fシリーズとの比較をすれば、音の解像力や情報量といったところでは明らかな差があるのだが、サウンドバランスや音場の描き方などは上級モデルに肉薄した実力を感じた。なお、「音の匠」の機能についてはFシリーズと同じで、「匠(たくみ)マスターサウンド」、「極(きわみ)サラウンド」、「和(なごみ)会話重視」が設定されており、その効果、効き方も同様である。この、開発時にはHシリーズに向けた「音の匠」のサウンドチューンが行われており、「音の匠」でおなじみのミキサーズラボによる調整がFシリーズとは別に実施しているという。

車両純正スピーカーでも「スタジオマスターサウンド」の聴き応えが楽しめる「匠(たくみ)マスターサウンド」モード。華やいだ迫力のサウンドが出現する。

「極(きわみ)サラウンド」モードでは、各スピーカー出力の位相や時間差などをDSP処理し、4チャンネルスピーカーシステムながらサラウンド再生を追求できる。サウンドステージが高く感じることも期待できる機能だ。

 時間の許す限り、さまざまな楽曲を聴いてみたが、何を聴いても音楽を音として鳴らすというよりも心地よく楽しく奏でるようで、とかく音を分析的に再生する危機が多い中にあって。人の感覚に沿った聴き方で楽しめる製品は貴重であろうと思う。それが本機のようなポピュラーな商品企画で実現できているなどもろ手を挙げて歓迎すべきことといえよう。

 カーオーディオにこだわっていきたい、ドライブで好きな音楽を存分に堪能したいといった人だけでなく、『自分は音の違いなど聴き分けられないから』と思っているドライバーにこそ体験してもらいたいと思った。パナソニックStradaの系譜は侮ることができない、改めてそう感じた次第である。

ポップスの名曲を集めたコンピレーションアルバム「NOBU'S POPULAR SELECTION」は、1曲目のアランパーソンズプロジェクト、イントロのギターを聴くだけで『これはクる』と確信が持てた。音の輪郭がはっきりしていて、歯切れよく快活な鳴り方がこの曲に実にしっくりくるのだ。4トラック目のTOTOのロザーナを聴くと、冒頭のドラムのアタック音からメリハリのある鳴り方で、一気に気持ちが昂り、間奏のめくるめくメロディワークではそのサウンドを改めて新鮮味すら感じるほどだった。

山下達郎のソフトリーでは、特徴ある声を変な味付けをすることなくぐっと前面に押し出した鳴り方として聴かせてくれる。聴き進めるうちに、曲ごとの録音技術による音の違いなどを存分に楽しめる。声の厚みの表現などは本機の最も得意とするところらしく、よい聴き心地をもたらしてくれる。

往年のオーディオファンがこぞって聴いていたリンダ・ロンシュタットのクライ・ライク・ア・レインストームは、彼女の艶やかな声の響きと、何曲カデュエットで参加しているアーロン・ネビルの歌声に惚れ惚れしてしまうほど。本機のデジタルアンプの威力は、とにかく声を魅力手に響かせることに長けているようだ。

大好きな映画、「ルパン三世カリオストロの城」サウンドトラックアルバムを、オーディオファイル向けにリファインした本作。どの曲を聴いてもドライブには最高なのだが、今回の試聴取材で心に響いたのは「ウェディング」だった。パイプオルガンによる荘厳な楽曲を、どっしりとした通奏低音でしっかり支え再生する。組み合わせるスピーカーにもよるが、純正スピーカーならば「音の匠」をONすることで、この凄味を体験できるに違いない。