2021年のオートサウンドウェブグランプリにおいて、最高位であるゴールドアワードを獲得したアルパインのビッグXシリーズ。昨年のASWGP2020に続く2連覇を果たした。しかし、基本的な回路構成は2020年モデルと同じであるのに、選考メンバー全員が最高評価と判断し、本年のゴールドアワードとなった。それほどまでに評価せしめたものは何であったのか。メンバーそれぞれの意見をご紹介しよう。[編集部]

オートサウンドウェブグランプリ選考メンバー。左から石田功氏、鈴木裕氏、藤原陽祐氏、黛健司氏、脇森宏氏、長谷川圭氏。

パネラー・オートサウンドウェブグランプリ選考メンバー
[石田功、鈴木裕、藤原陽祐、黛健司、脇森宏、長谷川圭]
(まとめ=ASW編集部/写真=嶋津彰夫)

ASW:Auto Sound Web Grand Prix 2021の最上位ゴールドアワードを獲得しました、アルパインのAVナビ「ビッグXシリーズ」について、皆様のお話を伺いたいと思います。おのおの、どういったところを評価されたのかお願いします。まず脇森先生から。

脇森 宏(以下、脇森):どういったところというか、すべてが素晴らしいんです。「なんという音だ」というのがね……。試聴日程の関係で、すべてのエントリーモデルの中でビッグXを一番最初に聴いたんですが、『今年のグランプリはこれで決まったな』と、1機種目にもかかわらず思ったほどです。

一同:(笑)。

脇森:それほど良かった。オーディオももちろんだけれど、クルマなどでもものすごくバランスのいいエンジン積んだクルマというのは、ああいう感じなんですよね。とても軽快なのだけれども、パワーもあるトルクもある、そしてどこまでも気持ちよく回ってくれる……みたいなね、そんな雰囲気が、音とクルマという全く違うものなのだけれども、すごく共通性を感じて、とにかく音楽聴いていて気持ちいいんです。たいていの製品は、聴くとああでもないこうでもないと言いたくなるものだけれど、『そんなことはどうでもいいや』と、『これだけ聴けていたら楽しいぞ』と、そして『ほかの曲も聴きたいぞ』と、そういう、すべての面で、聴き手をびっくりさせながら喜ばせるという、稀に見る音でした。

脇森宏氏

ASW:藤原先生はいかがでしたか?

藤原陽祐(以下、藤原):このビッグX、オーディオ回路の部分では昨年のモデルとほぼ同じだということで、ただ、あの、開発者の小堀氏(アルプスアルパイン社)の部品のチューニングが施されていて、なので、素性としてはひじょうに良いわけで、基本的に駆動力とか情報量とかS/N感にしても、AVナビとしてというよりオーディオとしてレベルの高い音でしたね。

 驚いたのは、倍音が……というか気配みたいなのがすごく生々しいんです。反田恭平のピアノの音を聴くと、ピアノの響きがとても豊かで、空間の生々しさが出るんだけれど、そこにその中の情報が聴こえてくるというか……こういうのはなかなかAVナビに限らず、家庭用のオーディオでもなかなかここまでの音を出せるものは少ないです。こういう表現力ってきっと脇森さんの言われた気持ちの良さにつながると思うんですけれど、感性的なところをくすぐるというか、単に駆動力が強いとか情報量が多いとかそういうものじゃなくて、音楽を奏でる手法というか技法というか表現力がとても豊かなんです。こういう音はなかなか……カーオーディオの単体アンプでも表現できない……まあ一体型だからできるということもあるかもしれないけれど……とても新鮮だし、驚きました。

 部品のチューニングなどいい音へのアプローチをいろいろやっていますが、他社のナビでも良いDAC使っていたりする中で、システムのDACですからね。そこですごく高価なデバイスを使っているわけではないのに、コンデンサーやパワーICなどは、カスタムパーツを使ってます。コスト的にはそれほど重くならない部分なのですが、そこでエンジニアのノウハウでここまでの音に仕上げるっていうのは、驚異的です。

藤原陽祐氏

ASW:ありがとうございます。続いて、石田先生お願いします。

石田 功(以下、石田):脇森さんと違って、僕を含めたメンバーは試聴順が逆なんですよね。

ASW:そうでしたね。

石田:僕らはほかのAVナビを聴いてから、このビッグXを聴いたわけです。そして、他社のAVナビがとても良くなってきていたので、『アルパインは最後でどうなってしまうだろう』と思ってました。そして、聴いてみたら……ねぇ(笑)。

ASW:ずいぶん驚かれてましたよね。

石田:驚きました。で、聴けばやはりアルパインなんですよね。昨年モデルで、低音部分で何分の1オクターブかズレがあったというじゃないですか。去年聴いていたときそういうズレなど感じさせなかったんですが、今年改めて聴いてみると、『そうだったのか』と納得できるほど低音の音階が安定していて、なんていうのかな、音そのものの音……ピアノの音がピアノそのものという聴こえ方するようなね……そう聴ける。そして、ピアノが整って聴こえるだけじゃなく、ほかの楽器もすべてそのままリアルに聴こえるんです。

 音のリアルさが全然違うので、びっくりしましたね。ここまでこだわると、こんな音が出せるのかと思いました。

 他社のAVナビの音の進化に、アルパインが関与してたようだというのもわかりましたね。すべての製品でというわけではないですけれど、アルプスアルパインとSTマイクロ社が共同開発したパワーICを採用したモデルが登場してきていて、どれも高い評価につながってます。

石田功氏

ASW:そういった情報もありましたね。ありがとうございます。それでは、黛先生のお話を伺えますか。

黛 健司(以下、黛):AVナビは今年4モデルが受賞してます。取材時には価格順に聴いていったんですけど、お金をかけると当然良くなっていくように聴けるんです。そのどれもが良くて、今年のAVナビは楽しませてくれるなと思っていました。ただ、ほかの3機種とアルパインは出ている音の世界が全く違うなという感じがありましたね。僕もびっくりしました。

 今までのアルパインもいいなと思っていたんですけれど、もし去年のモデルと今年のモデルを直接比較することができたとしたら、アルパインの中での進化に驚いただろうと思います。

 それと、石田さんもおっしゃってましたけど、今年のAVナビは押並べていいものが揃っていたんですね。でもその中で一頭地を抜いていたというか、『またアルパインが他を引き離したか』という違いはあったと思います。

黛健司氏

ASW:ありがとうございます。では、次に鈴木先生はいかがでしたか?

鈴木 裕(以下、鈴木):まず駆動力の高さというのをすごく感じていまして、普通……例えば低域のウーファーがどれくらい動くとか、最低域がどれくらい聴こえてくるかとか、いろんなポイントで駆動力というのを計ろうとしてるんですけど、ビッグXを聴いてるうちに中高域~高域の付帯音のなさに対して、中域~中低域~低域と下がるにつれ音像が大きくなるし、より暖かい音がしてきて……、ようするにそれは、バッフル板の音なんです。オートサウンドで試聴取材に使っている大型のバッフル板まで響かせていて、その高い駆動力に感心しました。しかも、それがわかる……ふつうはわからないんですけど……どうしてこんなにわかるんだろう? と思ってしまうほど。それくらい時間軸方向の分解能がものすごく高くて、ありありと見えてきましたね。その押引き……よく押し出しがいいと表現しますよね、そこに加えて引きの速さっていうか、そういうところまで優れていて、駆動力の高さを感じました。

 もうひとつは、音色感の部分で、それはピアノの調律師って88鍵を全部、2時間、3時間かけてひとつひとつ調律して合わせていくわけですけれど、そういうことをもっと広い……40kHzくらいまでやっていて、そしてそこで100個くらいフィルターを使っていてという、そのなんか……世界的に見ても、オーディオでこんなことやっている人いるのかなというようなことをしてるんです。そしてそれが実際に音として、例えば中低域にある品のいい感じとか、単純にこう……見通しがいいとかというんじゃなくて、『おっ、なんだろうこのニュアンス……』というのがいっぱいあって、びっくりさせられました。

 今までだと、こうS/N感がいいとか再現性が高いとか言ってしまうんですけど、徹底したチューニングをして元の音を出そうという……、元の音って、録音の音だとつまんないじゃないの? という感じがあるかもしれないですけど、こんなにも瑞々しく生命感があって、滑らかで、ちょっと聴いたことがないような音でした。

 昨年までのアルパインのAVナビとも違った印象で、従来の色彩感が濃くてわかりやすい躍動感のある音といったイメージから、また違う次元に入ったなと思います。細かい技術的な説明というのもあると思いますが、その聴こえの凄さに『日本のオーディオもここまで来たか』と感じがしましたね。アンプという意味でもプレーヤーという意味でも。すごい達成度だと思います。

鈴木裕氏

長谷川 圭(以下、長谷川):私はとてもざっくりとした印象として、昨年のモデルとの違いで、みなさんも聞かれていると思いますが、アルプスアルパインの小堀氏の説明に、今年は“ファ”の音を整えたというのがありました……。

石田:ありましたね(笑)。

脇森:あったあった(笑)。

鈴木:はいはい(笑)。

長谷川:このエピソードが強烈に頭に残っていまして、2020年モデルとの違いという点ではこのほかに倍音が正しく出るようにフィルターをかけたりといったことくらいで、基本は一緒なんですよね。まあ、その作業だけでも大変なことだと思うので、言い方が雑なのは勘弁していただきたいんですけれど、ただ基本設計は変わっていない。なのにですよ、ファを合わせただけでこんなに聴こえ方が変わるものかと……。

鈴木:いやいや、それだけじゃないですって(笑)

石田:いやいやいやいや(笑)。
 ファがあってるだけであんな音になったとしたらとんでもないことですよ(笑)

長谷川:言い方良くないですね(笑)
 おそらくは、ファを合わせる以前の段階で、ことごとく整えられていて、最後のほんのわずかな修正点が、小堀氏が言うファだったんでしょう。ただ、この1ピースが揃ったときに出てくる音が、これほどまでに見事だとは。一言でいうと、ほかの皆さんと同じく「驚きました」というほかないですね。

長谷川圭氏

石田:去年のモデルで数分の1オクターブズレていたという話なんて、ふつうは聴いていても気づけるものじゃないでしょう。

脇森:気づかないですね。

長谷川:昨年モデルは昨年モデルで気持ちよく聴けていましたしね(笑)

藤原:そうだね(笑)

長谷川:2021年のビッグXでは、音の実在感というか、リアリティに富んでいました。

石田:一本筋が通った感じしますね。

長谷川:音の響きもとてもきれいだし、『ああ、そうか。全部が全部、ちゃんと出てくるとこんなにもハーモニーって綺麗なものなのか』とつくづく感じました。そして、こういう音がAVナビで出せるんだと思った反面、AVナビだからできたのかな? という思いもありました。

 アンプはアンプ、プレーヤーはプレーヤーと、各コンポーネントごとによいものを作って組み合わせてもなかなかこの域には達せないと思うわけです。それこそ一つの製品の中で、各役割を持った回路が、お互いの影響をしっかり管理された中で、トータルの性能としてきちっと整えられた結果だろうと。

藤原:そういうのはあるね。セパレートが良いかというと、必ずしも良いところばかりじゃないから。

長谷川:それから、ビッグXの内蔵アンプはスピーカーを選ばないというのがありましたね。スピーカーのインピーダンスに対して、変動に応じた補正を自動的に行って理想的なアンプの増幅動作をするというんですね。これも『なんて都合のいい話なんだ』と……。

一同:(笑)

藤原:あれはフィードバックじゃなくて、ブーストするという話でした。

長谷川:話だけ聞くと結構無茶なことをしているんじゃないかって感じるんですけれど、音楽を再生すると、至極まっとうに聴けるんですよね。じつに整然と、すまし顔ですごいことしている風なね。もっとも機械ですから、必死な表情なんてあってもわからないでしょうが(笑)。ここまでの製品を完成させたアルパインはすごい、最高評価にふさわしいと思います。

ASW:本賞については、全員が満点という結果で選ばれましたね。久々の高評価でした。また、取材時にはフローティングディスプレイモデルを聴いているわけですが、音質面に影響する回路構成などは、ビッグXシリーズすべてが共通ですので、同シリーズのほかのモデルでもこの音が体験できるというのは素敵ですね。

石田:多くの人に聴いてほしいですね。市場への供給については半導体不足の影響もないと言ってましたし。計画している生産数がまかなえるよう、パーツの確保はできていると聞いていて、それは心強いなと思いました。

鈴木:これから発売のほかの製品にも、ビッグXと同じアンプが搭載されるんですよね。

長谷川:11月下旬に、アルパインの新型ディスプレイオーディオが発表されて、そのモデルにも採用されていると言っていますね。それにしてもビッグXはデジタルアンプの印象を大きく変えた存在になりましたよね。それがディスプレイオーディオにも載ったとなれば、これは期待せずにはいられないですね。

石田:高級ホームオーディオでも、あれだけの音を聴かせられる製品はそうはないでしょう。

長谷川:デジタルアンプではないAB級動作のパワーICについて、ホーム用のAVアンプに採用したいといった引き合いがあったそうです。

石田:AB級のものというと、いま他ブランドのAVナビに載っている素子でしょうね。

長谷川:おそらくそうでしょう。このパワーICは市販のAVナビだけではなくて、純正搭載されているアンプにも波及しているそうです。なので、いずれこのデジタルアンプも広く使われるようになるんでしょうね。それを考えると、市場全体が高音質化されそうで楽しみです。

藤原:でも、デバイスだけ使えるようになっても同じ音にはできないからね。やはり使い方という面で、相当なノウハウがあるよね。

石田:小堀さんは、そう断言してましたね。このデジタルアンプ素子だけあってもこの音は出せないって。

藤原:合わせ技だからね。周辺回路もこのデバイスに合わせて造り込まれてこそのビッグXの音だよね。

鈴木:技術的な進化と、現実的な新デバイスの開発と、到達した再生音のレベルの高さ、この三拍子が揃った製品だという事ですよね。

藤原:最終的とは言わないけれど、ある意味完成形ですよね。現時点では、このグランプリ最高位にふさわしいでしょう。

ASW:多くの方にこの魅力を聴いていただきたいですね。みなさま、ありがとうございました。