文=長谷川 圭
写真=Akio Shimazu/Kei Hasegawa

普通のクルマで存分にカーエンターテインメントを楽しもう

 カーオーディオのアップグレードには金がかかる。しかし、世に溢れるエンターテインメントを、ドライブシーンとともに存分に楽しもうとなれば、純正カーオーディオのままというのは実にもったいない話だ。

 カーオーディオのカスタマイズ経験が無いドライバーにとってみれば、『何が変わるの?』、『いい音とか自分じゃわからないし……』、『やり始めると沼にハマるんじゃ……』、『クルマにとってダメージにならない?』など、疑問や不安があることだろう。でも、何が変わるかといえば明らかに良い音になるし、いい音がどういうものであるのかわからなくても聴けば「!」となる、何を変えても出てくる音が変わるのがオーディオであり、その変化を楽しむことが趣味の世界であるのだから、沼にハマるというと聞こえが悪いが、楽しいと感じられる限り取り組むべきだと思うのだ。むしろハマれることこそ幸福と言える。

 とはいえ、ものごとは何にしてもバランス感覚は大切である。かけられるコストのバランスもそのひとつ、愛車と同じクルマがもう一台購入できるほどのコストをかけていい音を目指すという強者もいないわけではないが、ごく一般的なドライバーはそうはいかない。そこで勧めたいのがカスタムフィットスピーカーである。

 カスタムフィットスピーカーは、トレードインスピーカーなどとも呼ばれるが、車両純正スピーカーを外して、そこに大幅な加工を必要としないで取り付けできるスピーカーのこと。もっと端的に言えば、クルマにダメージを与えず簡単に交換できるスピーカーなのだ。

カロッツェリアのカスタムフィットスピーカー中、中核となるセパレートタイプ2ウェイスピーカーTS-C1730SII。

TS-Cシリーズで採用されるトゥイーターの単体モデルTS-T730II。

こちらもTS-Cシリーズでされているトゥイーターの単体モデルTS-T736II。

おうち時間でD.I.Y.チャレンジ
目指すはカスタムフィット・エキスパート!

 2020年から2021年は、新型コロナ蔓延の影響もあっていわゆる「おうち時間」を過ごす人が増えた。そのおかげで、愛車をD.I.Y.でプチカスタムするドライバーも多かったようだ。実際、カーオーディオ市場では半導体不足などの事象もあいまって、AVナビは製品供給が滞る事態が発生、カー用品店では自身の手で装着が可能なカスタムフィットスピーカーの販売が好調となったという。

 カーオーディオヘヴィユーザーからすると、「カスタムフィットって、初心者がとりあえず使う物でしょう」、あるいは「もっと良い物を選んだ方が……」という声も聞こえてきそうではある。もちろんコストをかければそれだけ音質向上の可能性は増す。でも先述したように、バランスは大事。オーディオをカスタマイズするなら音の出口であるスピーカーからというのはセオリーである。そこを無理せずわかりやすく費用対効果を取ろうというなら、カスタムフィットスピーカーはとても賢い選択といえるのだ。初めてカーオーディオに取り組もうという人も、一周回って手軽なシステムで楽しもうというベテランも、カスタムフィットスピーカーはウェルバランスなカーオーディオコンポーネントなのだ。

ウェブサイトの豊富な情報で
愛車に合ったスピーカーを探そう

 今回、カスタムフィットスピーカーのラインナップを充実させているカロッツェリアを世に送り出しているパイオニアを取材することができた。カロッツェリアのカスタムフィットスピーカーは、TS-V、TS-C、TS-Fといったグレードを揃え、TS-Vではセパレートタイプ、TS-CとTS-Fではセパレートおよび同軸ユニットという布陣としている。同軸ユニットならば、ドアの内装パネルの脱着ができればスピーカーユニットの換装は容易いし、高音用スピーカーと低音用スピーカーが別ユニットのセパレートタイプであっても、純正スピーカーが同様の構成であれば、換装にはそれほど苦労することはないはずだ。

 しかも、パイオニアではカロッツェリアのウェブサイトで、人気車種を中心にドア内装パネルの外し方を動画で解説している。スマホを傍らに置いて動画再生しながら作業をすれば、悩むことなくD.I.Y.チャレンジできるだろう。加えて言うと、カロッツェリアのラインナップにはスピーカーユニットを固定するためのリングバッフル、制振や吸音のためのチューニング用部材といった製品もあるうえ、それらの施工場所についても車種別に情報公開しているので、確実な効果が期待できるだろう。

もうエントリーモデルの呼び方は相応しくない
カーオーディオの基本性能を備えた立派なコンポーネント

 ところで、車両にはじめから装備されている純正スピーカーとカスタムフィットスピーカーは何が違うのだろうか。低音再生をするウーファーユニットでいえば、振動板素材、スピーカーのモーター部の構造や採用磁石、高額モデルではフレーム素材や形状なども異なる。高音再生用のトゥイーターユニットでも、振動板、磁石といった部分が大きく異なる部分として挙げられる。

 もともとクルマに着いているスピーカーでも音楽は聴ける。だが、市販品に交換すると純正スピーカーでは聴こえていなかった音があったことに気づくことができる。イヤホンなどでも同様の体験をしたことがある音楽ファンは多いはずだ。これこそ“いい音”に触れた瞬間だ。このような変化を体験できるのは、メーカーが音量の大小にかかわらず正確な音を再生するため……小音量だと上手くきこえない音があったり、大音量だと音が潰れたり歪んだりということがない……に設計している、つまり音楽に含まれている音を余すことなく再生するために素材の吟味や構造技術を研究、開発しているからである。

Photo:Akio Shimazu

TS-Vシリーズで採用されているパーツ類。写真奥はアルミダイキャスト製バスケットフレームとカーボンファイバーコーン振動板。手前はトゥイーター構成パーツで、左からハウジング、ヨーク&銅製ショートリング、ネオジウムマグネット、トッププレート、イコライザー、デュアルアークリングダイアフラム。

Photo:Akio Shimazu

TS-Cシリーズの構成パーツの一部。画像奥はウーファーのアルミダイキャストフレームと2層構造アラミドファイバーコーン。ウーファーコーンには上級機譲りのコルゲーションエッジを採用している。手前は、トゥイーターで採用されているアルミバランスドドームダイヤフラム。左はTS-C1730SIIで採用29mmパーツ、右はダイアフラムそのものは共通ながらエッジが拡大されて実質的な口径を40mmまで大きくしたTS-C1736SIIに採用されているパーツだ。手前右は、フィルター用ハイグレードコンデンサー。

Photo:Akio Shimazu

TS-Fシリーズを構成するパーツの一部。奥はウーファーのスチールフレームとカーボン素材を利用したIMCC(Injection Molding Carbonized Cone)。IMCCは軽量かつ高剛性で優れた伝搬速度と応答性を兼ね備えているという。手前左は同軸配置されるトゥイーターの29mmバランスドドームダイアフラム。その右からウーファーボイスコイルボビン、磁気回路を構成する上下のヨーク。

カスタムフィットスピーカーとして、軽量化、車両に合わせたサイズでの設計など、制約が多い中で高音質のための技術が惜しみなく注がれていることがわかる。

 取材に応じてくれたカロッツェリアカースピーカーの開発を行っている東北パイオニアによれば、カスタムフィットスピーカーには製品開発に独特な特長を持っているという。同社はカロッツェリアの最上級グレードであるRSのモデルナンバーを持つモデルや、昨年のオートサウンドウェブグランプリでシルバーアワードを受賞したTS-Z900PRSを生み出したところ。素材技術や構造技術は世界的に見てもトップレベルだ。

 カスタムフィットスピーカーは、車両純正スピーカーとほぼ同寸法のフォルムに造るという制約がある。ウーファーユニットなどは奥行き寸法を小さくしたいのだが振動板のコーン形状を浅くすると低音が出しにくい、大型のマグネットが使えないため小型で高効率の磁気回路を設計しなければならないと、相反する要素をバランスさせて開発しなければならない。また、コーン形状は浅いけれど充分な振幅(振動板の可動範囲)を大きくとれるように工夫したり、2ウェイ構成に必要なフィルターに高音質素子を採用するなどしている。

 さらにカロッツェリアでは、スピーカーの基本コンセプトであるOPEN & SMOOTHをカスタムフィットスピーカーでも踏襲しており、広い帯域が再生可能なトゥイーターとすることで、中高音をトゥイーターに、低音をウーファーに分担させることで、クルマでの再生パフォーマンスをよりよくしている。

 スペック的に見ると、純正スピーカーと比較して、耐入力、出力音圧レベル(能率)、再生周波数帯域、といった音質に関わる部分で数値的に勝っている。一方で重量については純正スピーカーよりも重くなるが、この点も再生音には大きく関わるポイントである。そして、これはメーカーのこだわりの一つといえるだろうが、見た目のデザインも上質感が得られるよう腐心している。

 カスタムフィットスピーカーのように、求めやすい価格設定の製品を「エントリーモデル」などと呼称することが多い。しかし、開発エンジニアの話を聞けば入門者の通過点で使われるような物ではなく、オーディオの基本を備えた立派な製品であるという認識ができる。言うなればベーシックモデルであり、真剣に取り組むことでいい音を手に入れることができるものなのだ。

Photo:Akio Shimazu

ウーファーユニットは、ドアインテリアパネルの中に隠れてしまうものだが、フレームの塗装仕上げや、背面のマグネットガードデザインなど上質さを感じさせる仕上げが施されている。直接音への効果があるものではないが、良い物を提供したいというカロッツェリアのこだわりが感じられる部分だ。

実機の試聴レビュー
綺麗な帯域バランスを持った優れた音場創出能力のスピーカー

 ラインナップの中から、今年モデルチェンジしたTS-C1730SIIをASウェブの試聴室で聴いてみた。170mmコーン型ウーファーと29mmバランスドドームトゥイーター、専用パッシブネットワークからなるセパレート型2ウェイスピーカーだ。トヨタ、日産、ホンダ、三菱、マツダ、スバル、ダイハツ、スズキに適合するモデルである。試聴室でのテストでは、通常、ウーファーとトゥイーターを同一バッフル上に近接配置して聴くのだが、今回はダッシュボード上に“ポン置き”で使用できるトゥイーターの性質も鑑みて、トゥイーターの配置も変えて試してみた。

 まず、中高域を担うトゥイーターの指向特性が優秀な印象で、ステレオイメージが明確に聴ける範囲が広いことに驚いた。聴取位置を左右スピーカーの中央から移動しても、眼前に広がるサウンドステージのありさまは大きな変化をしなかった。設置場所が自在にできるセパレートモデルなので、トゥイーターの配置を変えるとサウンドステージは左右への拡がりや高さ方向もコントロールできることがわかる。ダッシュボード上への設置が可能なスタンドにはユニットの向きを微調整できるロータリー機構も備えるため、多くのクルマで音場の創生がしやすいだろう。

 ウーファーはアラミドファイバーコーン、高磁束を生み出す磁気回路、アルミダイキャストフレームを採用したユニット。上級機譲りのコルゲーションエッジなども盛り込んだものだ。フレームの形状は支柱を不要な共振を低減できるというY字型にするなど、こちらも上級機を踏襲したデザインとしている。繰り出される低音は、本当にこの薄型設計から再生されているのだろうかと思わせる深みを持った量感を伝えてくる。またレスポンスも優秀で小気味よくリズムを刻んで聴かせる。

 ハイレゾ対応を謳うモデルで、高音では64kHzまでの再生能力を備えるが、ハイレゾは超高音まで再生できることももちろんながら、重要なのは低音から高音までの全帯域で濃密な情報を余すことなく再生するところにある。本機では44.1kHz/16bitのCDクォリティ、48kHz、96kHz、192kHzとハイサンプリングのPCM音源を聴くとそれぞれの楽曲ファイルごとの情報量の違いを奏で、ハイレゾならではの豊かな音を聴くことができた。現代の高品位楽曲ファイル再生に対しても充分な能力を備えることがわかった。

実車でも充分すぎるサウンドパフォーマンスを確認

 さらに、車両でも同スピーカーを聴く事ができた。パイオニア社のデモカー日産リーフにはカロッツェリアのサイバーナビAVIC-CW912を搭載し、内蔵アンプでスピーカーをドライブしている。スピーカー装着部分にはメタル製インナーバッフルを介してユニットをマウント、ドア内にはサウンドチューニングキットを適宜施工し、ドア周辺の音環境を整えている。

 2021年のASWグランプリでシルバーアワードを獲得したサイバーナビ912のクリアで力感溢れるサウンドをしっかり伝えてくる。ドアウーファーから発せられるエネルギーを、バッフルやサウンドチューニングキットが支えてくれている証だろう。またダッシュ上のトゥイーターは、ピラーの根元近くに配置され、角度を絶妙に調整されることで、リーフの車室空間を超えた音場の拡がりを創り出している。明らかに純正スピーカーを軽く凌駕したパフォーマンスである。

 本車には、小型サブウーファー(同社ではベースサウンドクリエイターと呼ぶ)TS-WX010Aも搭載されており、低音のもっとも低い部分を賄っていた。TS-C1730SIIのウーファーも良く鳴るが、50Hzあたりから下については少々しんどそうなので、重低音の補完はあったほうがすっきり聴くことができる。この部分は車種や聴く楽曲の好みに応じてプランニングすればよいのではと考える。

 車種によってはドアスピーカーの交換が自動車メーカーの保証外となるものもあるが、その際にはダッシュボード上にトゥイーターを配置するだけでも絶大な効果を発揮することだろう。それはこのリーフが聴かせるサウンドステージのさまを見れば明らかだ。カロッツェリアのラインナップではカスタムフィットスピーカーのトゥイーターのみの製品設定もあるので、チャレンジすることができる。

Photo:Kei Hasegawa

試聴体験したデモカーの日産リーフ。スピーカーを純正品からTS-C1730SIIに換装した状態で聴いている。エンジン音、排気音がないためカーオーディオのサウンドもよりごまかしのきかない車種である。本車には、ドア周りの制振や吸音効果をねらった同ブランドのサウンドチューニングキットが使用されているが、そのほかのヘヴィなカスタマイズは行っていない。

Photo:Kei Hasegawa

ダッシュボードの両端、奥まった位置に据えられたトゥイーター。固定後に角度調整ができるロータリー機構を備えた付属のスタンドにより、シンプルな設置が可能だ。

Photo:Kei Hasegawa

クルマのオリジナリティを一切損なわないカスタムフィットスピーカーゆえ、リーフの独特なデザインのスピーカーグリルなど見た目にカーオーディオのカスタマイズが施されたクルマとはわからない。しかし、ひとたび音を出せば、純正との差は歴然である。

Photo:Kei Hasegawa

ソースプレーヤーには、2021年のAuto Sound Web Grand Prixでシルバーアワードを獲得したサイバーナビ“912”が搭載されている。クリアで整ったバランス、プレーヤーの優等生とも言えそうなAVナビでスピーカーをドライブしている。

Photo:Kei Hasegawa

リーフに搭載されているスピーカーと、サウンドチューニング製品のパッケージを並べてみた。D.I.Y.を実践しようという方はぜひこのパッケージデザインを憶えてショップへ行こう。

Photo:Kei Hasegawa

助手席の足下には、ベースサウンドクリエーターTS-WX010Aが搭載され、低音の量感をサポートし迫力ある音楽再生を実現する。

スマホアプリから車種別チューニングデータまで
製品選びや車両インストールに関する情報を提供

 パイオニアでは「CarSoundFit」という無料スマホアプリもリリースしている。人気車種別に、純正スピーカーと同社カスタムフィットスピーカーの出音の違いを体験できるというものだ。実際の車両での録音/測定などから該当車両の音響特性を導き、そのデータに基づいてスピーカーの違いを再現しているという。

 また、サウンドチューニングキットでは、車両にチューニング部材を実際に施工、測定、試聴を繰り返し、もっとも効果が発揮できる施工法を探っており、その中にはレーザードップラーによる振動検知まで行っているのだという。非常に手間のかかる作業ながら、情報はすでに国産車で75車種を数える。今後も順次充実させていくのだという。

 カスタムフィットスピーカーと、各種パーツ、そして施工のための情報をもってすれば、クルマの内装を外した経験のない人でも、チャレンジのハードルはだいぶ低くなるはず。最終的には、イコライザーなどを活用したチューニングとなるが、これはそれこそ時間さえあればいくらでもトライすることができるので、愛車の音がどのように整えられるのかを楽しむチャンスと捉えて挑んでみて欲しい。そこまで時間をかけずに楽しみたい場合は、迷わずプロショップの力をアテにしよう。時は金なりの言葉通り、あなたの貴重な時間を費やさずに理想的な状態に仕上げてくれるはずだ。ちなみにカスタムフィットスピーカーを購入施工する場合、セットプランを設定しているショップも少なくないので、情報を集めて検討してほしい。

 バランス感覚に優れたカスタムフィットエキスパート。こうしたカーオーディオのアプローチで、ドライブは何十倍にも楽しいひとときに変わるはずである。

Photo:Kei Hasegawa

カスタムフィットスピーカーの装着は、目立たないため“装着した感”といったものは外観上得にくい。しかし、ひとたび音楽を奏で始めれば車室内を充たすサウンドステージは、ドライブの高揚感を高めてくれるはずである。見た目は普通で実は優れた実力を秘めている……どこかスーパーヒーローのようではないだろうか。この魅力、多くのドライバーにも知っていただきたい。

提供=パイオニア