クルマ購入時に搭載されている標準装備やメーカーオプション、ディーラーオプションのカーオーディオ、いわゆる「車両純正オーディオ」を実車で体験。本稿では純正カーオーディオのシステム概要やサウンドについてレビューする。今回、紹介するのはフォルクスワーゲンの上級セダン「アルテオン(ARTEON)」。同車にはステーションワゴンタイプのシューティングブレイクもラインナップされているが、今回はセダンモデルを取材した。メーカーオプションの、米ハーマンカードンプレミアムシステムを搭載する車両である。街乗りから高速道路走行まで、実際に走行して体験した。最後までお読みいただきたい。

文/写真=長谷川 圭

アルテオンのキャビン。充分な広さを持った空間に加えて静粛性も備えており、上質な印象を感じさせる。ダッシュボード形状はメーターナセル部分の隆起を控えめにしているおかげで平坦に近い。その効果か、左右シートによる音楽の聴こえ方の差は少なかった。

ディスプレイオーディオ化したVWのエンターテインメント装備
米ハーマンカードンプレミアムサウンドシステムは11スピーカー合計700W

 2021年、フォルクスワーゲン(Volkswagen)は人気のゴルフ(GOLF)を8世代目にフルモデルチェンジするとともに、上級セダンのアルテオン(Arteon)を2世代目としてリリースした。このモデルチェンジにより、同社の車載オーディオはCD再生を廃し、ディスプレイオーディオへと全面移行、新たなカーエンターテインメントへとシフトした。

 今回、試乗したのはアルテオンTSI 4MOTION R-Line Advance、同車セダンタイプのミドルグレード車両である。アルテオンにはステーションワゴンタイプのシューティングブレイクもラインナップされ、車両グレードはセダンタイプと同じくR-Line、R-Line Advance、Eleganceの3種が設定される。

VWのエンブレムデザインも進化したフォルクスワーゲン、新時代に合わせてだろうかハーマンカードンのシステムを2021年のモデルから採用している。harman/kardonのロゴバッジは、ドアのトゥイーターグリルに飾られている。

フォルクスワーゲンの上級車両であるアルテオン。先代から比べてワイド&ローな印象を与えるボディシルエットが採用された。2021年より販売を開始。取材車両はミドルグレードのARTEON TSI 4MOTION R-Line Advance(税込車両本体価格¥6,545,000<2021年10月より>)。メーカーオプション「ラグジュアリーパッケージ」(¥275,000)および「有償オプションカラー」(¥33,000)が加わる。

 アルテオンのオーディオシステムは、カーナビやスマートフォンおよびメモリー、さらにBluetooth機器の接続・再生をするインフォテインメントシステム「Discover Pro」をソースとし、標準装備では8スピーカーをドライブする。ハーマンカードンプレミアムサウンドシステムは、R-Line AdvanceとEleganceでメーカーオプション設定とされ、「ラグジュアリーパッケージ(¥297,000/税込)」として電動パノラマスライディングルーフとともに搭載される。

 米国ハーマンカードン(Harman Kardon)のプレミアムサウンドシステムは、フロントドアに3ウェイスピーカー、リアドアに2ウェイスピーカー、ダッシュボード中央のセンタースピーカー、ラゲッジフロアのサブウーファーを合計700Wを出力する16チャンネルアンプでドライブするという構成。

フロントドアには高音用25mmトゥイーター(リリースノブ前方)、中音用80mmミッドレンジ(ドアハンドル前方)、低音用200mmウーファー(ドアポケット前方)の3ウェイ構成が配置される。

ダッシュボード中央、ウインドシールドに迫る奥まった場所に100mmセンタースピーカーがマウントされている。画像右側に見えているのは、格納型ヘッドアップディスプレイ。

リアドアのスピーカーは2ウェイ構成となる。リリースハンドル前方に高音用25mmトゥイーター、ドアポケット前方に低音用168mmウーファーがレイアウトされる。

テールゲートを開けると、広大なラゲッジが出現。そのフロア部、スペアタイヤ搭載スペースに搭載できるサブウーファーユニットが納められる。バンドパスタイプと思われるエンクロージュアには、160mm口径のユニットが採用されている。ポートの向きを正しくセッティングするため、天面には「▲FRONT」と固定方向を示すマーカーが表示されている。

ハーマンカードンプレミアムサウンドシステムの各ユニットとそのレイアウト。

出典:Harman International

 フロントドアの3ウェイスピーカーは、高音用トゥイーターに25mmドーム型ユニットを、中音用ミッドレンジに80mmコーン型ユニットを、低音用ウーファーには200mmコーン型ユニットを採用しており、ドアの上部からトゥイーター、ミッドレンジ、ウーファーの順に配置されている。ドアスピーカーに200mmのスピーカーは、なかなかに思い切った大口径サイズの登用である、アルテオンの大型ドアパネルをもってして実現可能だったのではないだろうか。

 リアドアには25mmトゥイーターと165mmウーファーという2ウェイ構成で、こちらは、一般的なサイズのユニットが採用されている。

 センタースピーカーには100mmのフルレンジスピーカーを配している。サブウーファーは独自のバンドパスエンクロージュアに160mmのスピーカーを組み合わせたタイプが搭載されている。このサブウーファーは、ラゲッジフロア下にスペアタイヤ搭載部へぴったりはまるよう設計されたものだ。

CDを卒業したディプレイオーディオとなった「Discover Pro」は
ストリーミング音楽サービスがメインソース

 ソースプレーヤーとなる「Discover Pro」は、2021年からCDやDVDの再生機能を排したディスプレイオーディオとなった。そのため、再生できるのはUSB経由のメモリーやスマートフォン、Bluetooth経由のワイヤレスオーディオ、内臓する通信モジュールを活用したインターネットラジオやサブスクリプション音楽サービス、そしてFM/AMラジオ(ワイドFM対応)である。メディア入力端子はUSB-Cとなり、従来のUSB-Aのメモリーを持ち込む際には変換ケーブルが必要となる。今回の取材においては、USB-C〜USB-A変換ケーブルとiPhone接続用にUSB-C〜ライトニングのケーブルを用意して使用した。ちなみに、本システムではApple CarPlayを試しているが、有線/ワイヤレスのいずれでも利用することができる。今回は無線で接続された場合の情報欠落を避けたかったので、ケーブルによる優先接続でテストしている。

純正のインフォテインメントシステム「Discover Pro」は、9.2インチタッチパネルの大画面を備える。カーナビゲーションをはじめ、各種機能設定を行うことができる。エンターテインメント機能としては、メモリーオーディオ、Bluetooth、Apple CarPlay、Andoroid Auto、ラジオなどが楽しめる。CD/DVDのドライブメカはない。また、通信モジュールを内蔵しモバイルオンラインサービス「We Connect」にも対応する。

音楽再生中の画面。左はUSBメモリー再生、右はApple CarPlayでアマゾンミュージックを再生しているところ。

[画像上、下左]フロントシート間のボックス内にはUSB-C端子がある。給電および通信が可能で、取材時にはUSBメモリーとiPhoneを接続した。[画像下右]同ボックスの下、リアシート側にはAC100Vのコンセントとシガーライターソケット(DC12V)、およびUSB-C端子(給電のみ)がある。

コンソールパネルの下、シフトレバー前方にはスライドカバーがついたスマートフォントレーがある。このトレーはワイヤレス充電も可能。アップルiPhoneの場合、CarPlayがワイヤレスでも利用できるため、インフォテイメントシステムとのペアリングが済んでいるiPhoneならば、バッテリー残量を気にせず使用できる。

[画像上段]Discover Proのメインメニュー画面。15のアイコンは2つの画面に別れて表示され、画面のスワイプで表示の切り替えが可能。[画像下左]通信モジュール内蔵のDiscover Proは最大8台の端末を無線LAN接続できるほか、インターネットラジオやサブスクリプションサービスをスマホなしでも利用することができる。[画像下右]ナビ画面からプルダウンで出現するメニューでは、よく使う操作がまとめられる。

シャープな中高音とソフトな低音
大人らしい落ち着いた雰囲気で聴ける

 アルテオンの乗り味は、堅めの印象。ガチガチのスポーツ仕様というわけではないが、R-Line Advanceというスポーティグレードらしいしっかりした足取り。オーディオで聴ける音の印象もそれに近く、音の輪郭がはっきり感じ取れる。主に中高域のシャープさが際立っているのだが、そこを支える低音に柔らかさがあり、上質感を演出しているように聴けた。このシャープさを聴かせるのはトゥイーターとミッドレンジ、加えて100mmセンタースピーカーによるものだろう。帯域のバランスは、低音が若干膨張気味ではあるけれど、トーンコントロールで調整することで大人らしい落ち着いた雰囲気で聴くことができる。

 センタースピーカーは、サウンドステージの生成に大きく寄与しており、音場の高さや奥行きを上手く描き出している。ただし、シートポジション、特に座面の高さ、耳の高さによっては、このセンタースピーカーの効果を享受することができないようだ。個人差はあるだろうが、ウインドシールドの向こうに、ボンネットが見えるくらいまでポジションを上げて聴けることが必要になる。中にはシートポジションを目一杯低くして運転したいという向きもあろうが、あるポイントから下に耳の位置が下がると、覿面眼前に拡がっていたサウンドステージが消失して左右のドアに音像が貼り付くようになる。シートポジションは下げ過ぎないところで試してみていただきたい。左右方向の音の拡がりは、広めのキャビンに合わせたスケールで展開される。ただ、音像の定位は大雑把で、ヴォーカルはダッシュセンターで歌うものの、その他の楽器は車室内全体で鳴るイメージ。これはこれで音に包まれる聴き方として心地よく、“細かな楽器の位置が再現されなければ聴く価値無し”という要望が無ければ問題ないだろう。

 ドアに装着されるユニットとしては大口径といえる200mmウーファーは、おそらく60Hzあたりから1kHzくらいまでをカバーしていると思われ、それなりの高性能スピーカーユニットが採用されているのではと感じられた。フロントシートで聴いている限りでは、フロントスピーカーおよびセンタースピーカーの支配力が強く、リアドアの2ウェイから出ている音はサラウンドのための補完的役割のようだ。またサブウーファーは、最低域の再生に特化しているようで、一般的な楽曲の再生ではフロントドアの200mmウーファーが低音のほとんどを鳴らすようだ。充分な量感をもたらすこのウーファーの役割分担による弊害もあり、一定音量以上ではインテリアパネルがビビリ音を出してしまう。そのため低音のパワーを少し下げてやることで、音楽全体のバランスを損なわずにノイズが出ない再生ができるよう養生してあげる必要を感じた。電気的なひずみなどは感じなかったので、我こそはと思うならインテリアパネルの制振にチャレンジしてもいいかもしれない。

ハーマンカードンプレミアムサウンドシステムでは、「サウンドメニュー」で「イコライザー」調整ができる、プリセットモードのピュア/チルアウト/ライブ/エネルギの4種を選択するほか、トレブル/ミドル/バスのトーンコントロールとサブウーファーレベルの調整が可能だ。

アナログレコードに針を堕ろすビジュアルで表示されるイコライザーコントロールの「ピュア」モード。基本的に他のモードにする必要は感じなかった。音源によって「ライブ」モードにしても面白いが、ライブ盤を『ライブ」モードにするとエコー成分が……。トーンコントロールは上から2/1/-5という設定とした。

マイルドな変化を与えるサウンドチューニング機能
EQ「ピュア」&位置「サウンドフォーカス全て」で聴く

 ハーマンカードンプレミアムサウンドシステムには、4種類のプリセットイコライザーと3バンドトーンコントロールおよびサブウーファーレベルが調整できる機能を備えている。まずイコライザーは「ピュア」、「チルアウト」、「ライブ」、「エネルギ」が設定される。効果は次のように感じられた。
 ピュア:フラット、EQスルーという印象。
 チルアウト:高域〜中高域のレベルを下げてBGMのように鳴らす。同乗者との会話を妨げないサウンド。
 ライブ:中高域にアクセントをつけて、派手な演出で鳴らす印象。
 エネルギ:高域と低域を持ち上げたバランス(ラウドネスのようなEQカーブ)で聴かせる印象。
各モードの音の違いは、それほど大きくはなく、音楽そのもののフォルムをドラスティックに変化させない。ある意味、品のある調整機能といえそうだ。

 トーンコントロールは、高音の「トレブル」、中音の「ミドル」、低音の「バス」を±9ステップで調整することができるようになっている。細かな仕様は公表されていないが1ステップ1dBに設定されているのではと思われる。そのため、このあたりの調整に不慣れな人は1、2ステップ変えてもあまり音の変化を感じられないかもしれない。しかし、変化量が大きくない調整機能はオーディオ機器として正しく、繊細なサウンドチューニングが行えるコンポーネントに仕上げられている点は評価できるところだ。

 トーンコントロールをいくつかの楽曲を聴きながら調整してみた。結果は次の通り。
トレブル:2、ミドル:1、バス:-5

バスを思い切って下げているのは、前述したインテリアパネルのビビリを出さないための措置で、制振処理などを施せれば、-3程度で聴いても楽しいかもしれない。ただ、中音より高い音域のシャープさと、ソフトな低音の異なるキャラクターを考慮すると、バスは控えめにするのがベターだと判断した。なおサブウーファーレベルは0のままだ。

 イコライザーを切り替えてもトーンコントロールの設定は変化しない。個人的には「ピュア」を基本とし、同乗者がいる時は「チルアウト」、高速道路など走行ノイズが大きくなる場合には「エネルギ」を選択する使い方が合っているように感じた。

「サウンドメニュー」の中の「位置」調整は前後左右の音量を変える「バランス」(左)、と「サウンドフォーカス」が調整可能。「サウンドフォーカス」では着座位置にあわせたポジション設定(中)とサラウンド設定(右)が選択できる。いすれの設定もどれかひとつのみ有効になる。

 別のサウンドチューニング機能の「位置」は、「バランス」、「サウンドフォーカス」の2モードがある。「バランス」は前後左右のスピーカーレベルを調整する機能、「サウンドフォーカス」は着座位置ごとの定位切り替えとサラウンドが選べるモードだ。この2つのモードはどちらか一方のみが効く設定。すべて試してみたが、基本的には「サウンドフォーカス」で「全て」を選択しておけば間違いないだろう。ちなみに同モードの「左」、「右」はフロントシートの左右で、「リヤ」はリアシートにフォーカスさせるというもの。そして「サラウンド」だが、イコライザーの「ライブ」と組み合わせると、効果的に働いて面白いのではないだろうか。

 ポップス、ロック、ジャズ、クラシックなどなど、さまざまな楽曲を聴いてみていいなと感じたのは歌声だ。男声も女声も歌い手の声の特徴が良く表現されていて楽しい。それなりに静粛性ももつクルマなので、街乗りならクラシックでも楽しめるのではないだろうか。

ハイレゾの再生能力も確認
高品質な音源の良さが感じられる上質なカーオーディオだ

 Discover Proの仕様をチェックすると、再生可能ファイルはMP3、WMA、AACとだけ表記されている。試しにいくつかハイレゾファイルの再生にもトライすると、FLAC192kHz/24bitやPCM384kHz/32bitも再生することができ、それなりに高次ファイルらしいサウンドで聴くことができた。デジタルファイルの鳴らし分けができるだけのクォリティなので、再生するならできるだけ高次なもののほうがアルテオンのハーマンカードンプレミアムサウンドシステムの本領が発揮できようというもの。USBに楽曲データを格納して持ち込めるならば、それに越したことはないが、多くのドライバーはデータのコピーなど煩わしく感じるかもしれない、ならばストリーミング音楽サービスを活用するのがポピュラーなところか。アマゾンミュージックHDやアップルミュージックといった高音質を謳うサービスをおすすめしたい。

「音量設定」メニューでは、案内音声の音量のほか、「速度感応式音量調整」や「オーディオ音量の低下(駐車中)」といった機能があり、実際に使うととても便利に働くことがわかる。

タッチコントロール式採用の「レザーマルチファンクションステアリングホイール」は、押して操作できるのはもちろん、曲(または局)送りや音量調節はスワイプ動作で操作することもできるようになっている。

メータークラスターには、全面液晶を採用した「Digital Cockpit Pro」が標準装備として組み込まれる。速度やエンジン回転数、凪画面や再生メディア画面などさまざまな情報を自在に組み合わせて表示することができる。