当サイトの年次企画オートサウンドウェブグランプリ、その2020年で堂々の受賞を果たしたパナソニックの大画面カーナビ ストラーダ。同AVナビは本企画で2014年以来7年連続受賞するなど、そのクォリティは高く評価されている。ここでは、2020年モデルフラッグシップ機であるCN-F1X10BLDを改めて取材、高性能モデル誕生のバックグラウンドを探った。

文=鈴木 裕/Photo:Atsuko Goto, Kei Hasegawa

CN-F1X10BLD搭載車両で取材する筆者。(Photo:Kei Hasegawa)

市販AVナビ市場初、有機EL採用AVナビは画質だけでなく音質も進化

 2020年10月に発売されたストラーダの最新モデル。その最上位機は型番で言うと2019年モデルと一文字しか変わっていない。末尾のBDがBLDになっただけだ。しかしその内容は大きく変化。市販AVナビとしてははじめて有機ELディスプレイを搭載し、オーディオのクォリティもさらに向上した。

 まずその概要をまとめてみよう。
 2016年から投入された独自のフローティング構造は健在だ。当初は160車種に取り付けられるという説明だったが、年々、対応できる台数が増え、ついに460車種以上に装着できる大画面のAVナビに進化している。

 そして液晶パネルに替わって有機ELパネルを採用したことが大きい。すっきりと見やすい画面だが、特に黒の表現が図抜けていて、夜間になると液晶パネルと比較しなくてもその差は明確に感じられる。また、斜めからでも視認性が高く、横の方からでも見やすい。

試乗取材をした、デモカーのトヨタ・シエンタ。車両純正装備にストラーダナビを搭載した仕様で、スピーカーなどは交換されていない。その中でも、CN-F1X10BLDの実力を確認することができた。(Photo:Kei Hasegawa)

 しかもそうした視認性の向上と共にディスプレイ部の厚さを最薄部約4.7 mmにできたのも大きい。ひとつ前のモデルからディスプレイ部背面をマグネシウムダイカスト製ハウジングにしているが、これによって高い剛性を確保。ディスプレイ部の重量も従来のモデルと比較して約30%減の約0.7 kgに。この軽量化やハニカム構造によって耐振動性も高まっている。これは実際に走りながらディスプレイを見る時に、そのチラつき感を抑えられることになる。

 そして、実は音質も向上。より透明感高く、低域の剛性感も向上している。その技術的な面について、パナソニックの開発陣に話を聞いていった。

極薄設計の有機ELディスプレイは、従来機以上に斜め方向から見たときの視認性に優れる。

Interview
CN-F1X10BLD開発エンジニアに聞いた

<パナソニック(株)オートモーティブ社 音響設計担当 田食寛之氏/同 設計担当 中川洋平氏>

パナソニック株式会社オートモーティブ社 音響設計担当 田食寛之氏。

パナソニック株式会社オートモーティブ社 設計担当 中川洋平氏。

市販AVナビ初、有機ELの投入

鈴木:さて、市販AVナビ初の有機ELディスプレイ採用となりましたが、搭載している有機ELパネルは新規開発された物ですか?

中川:ストラーダ用に新規で開発したものです。車載というのはこうしたAV機器にとって特殊な環境で、夏場の日中の締め切った時や冬の寒冷地など厳しい温度環境になります。また振動の問題もあって、これらに耐えられるように設計・製造されています。

鈴木:460車種以上の車種に取り付けられるというのもストロングポイントですね。

中川:ほんとにたくさんのデータがあって、非常に細かく計算していますし、実際に取り付けて検証をしています。たとえばハザードランプのスイッチが隠れるとか、シフトレバーが当たるとか、このサイズにしたら当たるだろうとか、そういったさまざまな要素を検証してサイズや可動域を決めています。膨大なデータの蓄積が弊社の財産です。

鈴木:左右の角度に振れるダイナビッグスイングディスプレイですが、技術的には難しいんですか?

中川:あれも相当に大変なんです(笑)。ちゃんとデータベースがあったので実現できました。ダイナビッグスイングディスプレイは本体とディスプレイの間にあるフレキシブルな部分の構造がキモで、実は特許も取得してあります。この技術があって実現できた動きでもあります

新旧ディスプレイ部を比較してみた。画像左は前作のディスプレイ部で背面パネルが取り除かれたもの、右がCN-F1X10BLDだ。圧倒的な薄型設計が実現されていることがわかる。(Photo:Atsuko Goto)

ダイナビッグスイングディスプレイの可動部分は、倒す方向および左右方向に可動できる。この構造には特許技術が採用されている。(Photo:Kei Hasegawa)

有機ELディスプレイのサイズや構造

鈴木:10インチというサイズですが、画面がきれいなせいか、もっと大きく見えますね。

中川:Fシリーズに入るギリギリまで画面を大きくしています。昨年までは10インチだったんですけど、現行モデルでは実は10.1インチと、0.1インチだけ大きくなっています。その分は額縁を細く設計、デザイン的にもかなり良く仕上がっています。

鈴木:かなりスタイリッシュですね。しかしこうなると剛性や強度などの確保が大変そうです。

中川:Fシリーズの構造上、モニターの角度を変えたりCDやブルーレイなどのディスクの出し入れをするために力が加わる場所です。ゴツい造りが許されるならば開発的には楽ですが、やはり薄くしたいと。実は基準としてiPadの厚みというのがひとつの目標としてありました。同じかさらに薄いということが開発のスタートになりました。

 特に苦労したのは薄さと熱を逃がすこと。この二つの両立でした。車載での熱ということもあるんですが、モニター自体が発熱するものなので、それにどう対処するか。熱を逃がしつつ、なおかつ剛性を確保するという課題です。それを両立させたのがマグネシウムのハウジングです。中心部はハニカム構造で、コストは上がってしまうんですが、強度ということを強く意識して開発しました。

鈴木:ここ5年くらいの歴代のモデルを見ると、徐々に薄くなってきていますね。

中川:そうですね。薄さもこだわって作ってますし、額縁の細さもこだわってるポイントです。初号機は額縁が太くて、もっとスマホのようなスタイリッシュなものにしたかったんです。昨年モデルでもかなり達成できましたが、そこからさらに薄く、かつ画面をきれいにしたいという意味でも、有機ELの採用に至っています。

有機ELディスプレイは、そのデバイス自体がひじょうに薄くかつバックライトが不要な自発光であることが特長だ。画像は有機ELにガラスパネルが接合されたパーツである。(Photo:Atsuko Goto)

薄型設計で、なおかつ強度を確保するために、ディスプレイのハウジングはマグネシウムダイカスト製。しかも負荷がかかる中央部分にはハニカム構造を採用している。(Photo:Atsuko Goto)

これほど斜めから見ても、地図画面がきちんと見えるのも有機ELディスプレイならでは。高い輝度とコントラストが成せる技であろう。(Photo:Kei Hasegawa)

有機ELと液晶ディスプレイの違い

鈴木:さて、基本的な質問ですが、有機ELと液晶ディスプレイの違いについて、あらためて説明をお願いします。

中川:液晶というのは発光したバックライトを透過させたり遮光したりして画面に表示します。黒を表現する場合でもバックライトが光っている状態を遮光するわけです。これが、どうしても光が漏れるんです。コントラスト比としては、せいぜい1000対1くらいまでのものしか作れません。日中走っている時は問題ないんですが、夜間の暗い環境だと、黒の背後がボーッと光ってしまって気になります。そのコントラストを上げるためにも有機ELを採用しました。これによって、背景に溶け込んだ黒を表現できます。さらに夜間にはディスプレイの存在感が低くなり、結果としてインテリアの雰囲気も良くなります。

鈴木:HDブリリアントブラックビジョンについて教えて下さい。

中川:これは、ディスプレイの表面に反射防止のフィルムが貼られています。AGAR低反射フィルムというものですが、まずこの存在があります。さらにパネルと液晶の間に空気層のないエアレス構造により、ギラつきや反射が低減され、有機ELのもつ美しい色鮮やかさを最大限活かすことができます。

有機ELとオーディオの関係

鈴木:ところで、有機ELとすることで、オーディオ回路への影響はありましたか? 影響がある場合、どのような対策をされたのでしょうか?

田食:今までの液晶パネルですと、バックライトがノイズを発生させるという問題がありました。それに対応してバックライトの回路をオーディオ回路のグラウンドに近づけない、という対応をしてきました。当初の想定では、有機ELは自己発光式なのでバックライトノイズの影響がなくなり高音質化するという見通しだったんです。

鈴木:試作してみたところ、違う結果だったのですね?

田食:有機ELは液晶と比較すると通常の消費電流は小さいですが、映している映像によっては液晶より大きくなり、その分、高周波のノイズも発生させます。これがオーディオ回路のグラウンドに影響を与えて、音質的には膜がかかったような感じや、低域も力がなくなる方向で足を引っ張ります。その対策として、ディスプレイ用の電源専用の基板を作成し、オーディオ用の基板と完全に分離させました。

鈴木:それがカタログ等で説明されている、「DSP/DAC専用アース」ということですね。

田食:そうです。有機ELから発生したノイズがオーディオの回路に対して影響を与えさせない対策です。実はそのために基板を新しくしています。たとえば従来モデルのオーディオ回路の基板はビス3本で留めていましたが、これを4本にしました。たった1本増やすだけなんですが、ボディの金属が一番下にあって、オーディオのボードが上にある。ここを通すビス1本を増やすわけで、構造的にも強度的にも大きな設計変更になります。ここは非常に苦労しました。

鈴木:データ的にも高周波のチャンネルセパレーションが11dB改善したということがカタログにも出てきますし、実際に聴いてもそうした高周波ノイズの影響を受けない、透明度の高い音に感じました。他に何かありますか?

田食:基本的には回路構成は変えていません。FLAC/WAVフォーマットのハイレゾ音源やブルーレイオーディオの再生に対応し、192kHz/24bitのハイレゾ音源をダウンコンバートすることなく再生できます。元からTI(テキサスインスツルメンツ)社のBB(バーブラウン)ブランド、32bit DACデバイスも採用していますし、今回は低DCRチョークコイル(抵抗値の低いコイル)等をあらたに採用。音質向上を実現しています。

オーディオ電源とディスプレイ電源を別構成とするためにアースパターンを独立させた「DSP/DAC専用アース」。さらに、このアースをシャーシグラウンドへおとすために、あらたなビス留め箇所を増設した。この構成のためにオーディオ用基板は新規設計となった。(画像提供:Panasonic)

新たに採用された低DCRチョークコイル。抵抗値の低いデバイスの採用により、電源回路を最適化し、高音質化に大きく寄与しているという。(画像提供:Panasonic)

「音の匠」について

鈴木:『ミキサーズ・ラボ』トップの監修によって、絶妙にイコライジングされたサウンド再生モード、”音の匠”についてはいかがですか?

田食:今回あらたな技術を入れたということはありません。ただ、ハード的にさまざまな音質向上のポイントを持たせていますので、ミキサーズ・ラボさんのチューニングの目指しているものが素直に出ているんじゃないかと思います。

鈴木:ミキサーズ・ラボの方もこんどのモデルは、今まで到達した先まで行けそうなポテンシャルを感じた、ということをおっしゃってます。

 試聴室や車載状態で聴いた印象を総合すると、従来の音の色彩感の端正さや、しなやかな感じに、低域の躍動感や、クラシックのソフトでのコンサートホールの拡がりが出てくる感じなど、より積極的な音になったのを感じました。

中川:今回は、かなりリスクもありながら有機ELを投入しました。ディスプレイ部、そしてオーディオ回路と入念に開発したモデルです。画面の美しさだけでなく音質も楽しんでいただければと思います。

開発に携わったエンジニアから直接、話を聞くことでCN-F1X10BLDの高い能力がなぜ実現できたのか、その一端を理解することができた。(Photo:Kei Hasegawa)※新型コロナウイルス感染防止のため、距離を取ったうえ、撮影時のみマスクを外しています。

まるでフルモデルチェンジしたストラーダF1X

 カタログでは謳われていなかったが、詳しく話を聞くとCN-F1X10BLDはフルモデルチェンジしたかのような製品であることがわかった。通常、新規プラットフォームで開発された製品は3年ほど共通の基本設計でマイナーチェンジをするものだが、本機ではディスプレイおよびオーディオ回路基板を刷新するなど大幅な新規開発が行われたわけだ。

 市販AVナビ市場においては、決して安価とは言えないモデルではある。しかし、この製品内容を勘案すると相当にお買い得であるといえる。

多くの車種で装着を可能にするのが、ディスプレイ位置のアジャスト機構だろう。デモカーで実際に一番高い位置と一番低い位置を確認してみた。このアジャスト機構により、シフトレバーなどと干渉しない装着が実現できる。(Photo:Kei Hasegawa)

Panasonic CN-F1X10BLD
オープン価格

CN-F1X10BLDの主な仕様
●AV一体型メモリーナビゲーション
●画面:有機EL10V型ワイド静電容量方式タッチパネル
●内蔵パワーアンプ最大出力:50W×4
●再生メディア(フォーマット):地上デジタルTV、BD、DVDビデオ、CD(MP3/WMA)、Bluetooth、USB(オプションケーブル経由、最大32GB対応、MP3、AAC、WMA、WAV、FLAC対応・最大PCM192kHz/24bit)、SD(最大2TB対応、MP3、AAC、WMA、WAV、FLAC対応・最大PCM192kHz/24bit)、アップルiPod/iPhone(オプションケーブル経由)
●サンプリングレートコンバーター:192kHzにアップコンバート
●サウンドチューン機能:音の匠(TAKUMIマスターサウンド/KIWAMI高域強調/NAGOMI会話重視)
●エフェクト:SRS CS Auto(FOCUS、TruBass、MixToRear)
●DSP機能:タイムアライメント、サブウーファー設定、グラフィック EQ(前後席独立13バンド・-10〜10dB)
●D/Aコンバーター:アドバンスドセグメント方式32bitDAC
●HDMI入出力端子1系統装備
●外形寸法:W178×H100×D170mm(ナビゲーションユニット)、W240×H141×D13mm(ディスプレイユニット)
●重量:約2.6kg(ナビゲーションユニット)、約0.7kg(ディスプレイユニット)
●備考:TVアンテナ(フィルムアンテナ4枚)、GPSアンテナ、ハンズフリー通話用マイク付属

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