[photo:Akio Shimazu]

DSP→パワーアンプを192/24デジタル伝送
膨大な情報量、なにより音に屈服させられた

文=鈴木 裕

 ドイツのオーディオテックフィッシャー社のブランドのひとつ「ブラックス」。そのフラッグシップのDSPとパワーアンプだ。その大きさや重さ、消費電力など、省エネや省スペースを強く求められる現代のカーオーディオにおいていかがなものかと言われても仕方ない。しかし考えてみると、オーディオテックフィッシャー社には「マッチ」というブランドがあり、今回もM-5DSP MK2という、DSP機能を持った相当に小型のパワーアンプが受賞している。まさに省エネ、省スペース。こうした製品作りも出来るメーカーがあえて物量を投入し、理想主義的に開発したDSPとパワーアンプだ。ともに7年間の開発期間を持つという。

 この存在自体ひとつの見識であり、ブランドとしてのメッセージとも言える。また、組み合わせて使って最高の結果を得られるものとしてリリース。それぞれのテストの結果もとても良かったが、セットで聴いて、あるいはクルマの中という状況を想定してみて、これはというすこぶる付きの音がした。ブラックスというブランドが持つコクのある音色感で、抜群の駆動力の高さやその音の鮮度感、透明感を伝えてくる。特にデジタル接続時の膨大な情報量など、音自体に屈伏させられた。オーディオに夢があったのだ。

 詳細は割愛するが、組み合わせた時の一番の特徴はその設計思想だ。BRAX DSPへの入力はデジタルはもちろん、スピーカー出力などの8chのアナログ入力にも対応。192kHz/32bitに変換してDSP処理。32bitということはフルビットでのダイナミックレンジが確保されていることを意味する。そして出力も一般のアンプ用にアナログ出力を持ってはいるが、MX4 PROとの組合せでは192/24(同軸ケーブル接続時。TOS LINK光ケーブルの場合は96/24で伝送)のデジタルで接続。そのフルビット状態からD/A変換した後に、アナログ領域で音量調節。アンプ部で増幅してドライバーユニットに送り込む構成。これを実現させた技術力、そして音自体が素晴らしかったのだ。

DSP苦手な私に希望の風穴を開けたブラックス
デジタルの新時代を拓いた別格モデル

文=脇森 宏

 私事で恐縮だが、DSPが肌に合わない。デジタルに可ならざるはなしといった考え方には同調しかねるし、何より無味乾燥なその音が嫌である。車載器にDSPが搭載されるようになって四半世紀余、使用デバイスは進化したけれど本質は何も変わっていないと言わざるを得ない。デジタルの怠慢、個人的にはそう思い続けてきた。

 BRAX DSPは、こうしてDSPに対して閉ざしかけていた私の気持に希望の風穴を開けてくれた。最新鋭の高性能デバイスをふんだんに投入した高級高額機。内部処理の動作サンプルレート192kHz/32bitを実現したハイエンドモデルである。入出力はアナログ、デジタルともに豊富、音量調節機能も備えているのでプリアンプとみなすこともできる。

 とにかく静かなDSP。これまでのDSPは常にさわさわとしたノイズ感がつきまとい、落着かない思いをさせられたものだが、本機は静寂そのもの。居心地がすこぶる良い。音は鮮明かつニュートラルでありながら、充分な力感も内包。繊細なのに細身にならない高域も強く印象に残った。各種の肩特性が選択できるクロスオーバーの出来映えも見事。イートンCORE-S3スピーカーの魅力をたっぷりと引き出してみせた。まるでアナログフィルターのようなスムースサウンド。しかも周波数やレベル調整のステップの細かさと正確な反応は他に類を見ない水準。これなら調整作業も楽しく行うことができるだろう。あらゆる面において超弩級のDSPである。

 MATRIX MX4 PROは、MX4をベースにデジタル入力に対応するとともにブラッシュアップを図ったハイエンドアンプ。同ブランドならではの透徹したパワーと近年、著しく向上した表現力が融合したスケールの大きなサウンドが聴ける。そしてBRAX DSPとデジタル接続するとまさにポテンシャル全開。精緻にして豪快、爽快ながら味わいもある超一級のサウンドが出現する。これこそ可ならざるはなし、を実感させる音といえるだろう。

 このようにBRAX DSPとMATRIX MX4 PROは、デジタルの新時代を拓いたといっても過言ではない真の実力機。スペシャルアワードに相応しい別格のモデルと思う。

ブラックス brax
MATRIX MX4 PRO/BRAX DSP
¥820,000/¥820,000(税別)

SPECIFICATION
MATRIX MX4 PRO
●定格出力:300W×4(4〜1Ω)、600W×2(4〜2Ω)
●入力:アナログ4チャンネル、S/PDIFデジタル2系統(同軸最大192kHzまたは光TOS最大96kHz)
●出力:スピーカーレベル4チャンネル
●入力感度/インピーダンス:1〜8V/10kΩ
●SN比:116dB以上
●全高調波歪率:0.0005%以下
●周波数特性:10Hz〜80kHz
●ダンピングファクター:1400以上
●アイドリング電流:7A
●D/Aコンバーター:バーブラウン24bit DAC
●外形寸法:W360×H79×D360mm
●重量:12kg
BRAX DSP
●入力:デジタル1系統(S/PDIF同軸<最大192kHz/24bit>または光TOS<最大96kHz/24bit>)、アナログラインレベル8チャンネル、ハイレベル8チャンネル、USBデジタル1系統(別売USB HD AUDIO Card<¥30,000>搭載時)、Bluetooth(別売B/T AUDIO Card<¥30,000>搭載時)
●出力:12チャンネル(RCAライン2ch出力×6)<同軸または光TOSデジタル2ch出力モジュール(¥40,000)に換装可>、サブDSP用同軸/光LINK1系統(B/T AUDIO Card搭載時)
●デジタルイコライザー:30バンドパラメトリックイコライザー(-15〜+6dB、0.1dBステップ/Q値0.5〜15、0.1ステップ)中心周波数1/24オクターブ微調整可
●フィルター:ハイパス、ローパス(リンクウィッツ[スロープ・12、24、36dB/oct.]、バターワース/ベッセル/チェビチェフ[6、12、18、24、30、36、42dB/oct.]、セルフディファイン[スロープ・12dB/oct. Q値0.5〜2.0])<カットオフ周波数・20Hz~20kHz(1/52オクターブステップ)>、位相調整(Low/Full/etc・0度/180度、High/Mid・0〜348.75度<11.25度ステップ/31ステップ>、SubFf・0〜354.375度<5.625度ステップ/63 ステップ>)機能あり
●タイムディレイ:0~1062.5cm/0~418.31インチ/0~31,24ms(ステップ・0.01ms/0.18cm/0.07インチ)
●PC接続:USB(2.0)、マイクロソフトWindows7、Windows8、Windows10対応
●調整用PCソフトウェア:ATF DSP PC-Tool(ウェブよりダウンロード)
●D/A、A/D変換:32ビット(旭化成)
●DSP:64bit、295MHz(動作サンプルレート192kHz/32bit)
●周波数特性:5Hz~80kHz
●SN比:122dB以上(デジタル入力)、116dB以上(アナログ入力)
●入力感度:1〜8V(ライン)、3.5〜30V(ハイレベル)
●外形寸法:W310×H56×D200mm
●重量:3.8kg
●備考:付属品・PC接続用USBケーブル(1.5m)、別売コントローラー・DIRECTOR(タッチスクリーン装備¥40,000)/URC-3(¥6,600)価格はいずれも税別

■問合せ先:
株式会社エムズライン
電話番号:048-642-0170
Eメール:office@ms-line.co.jp

≫Auto Sound Web Grand Prix 2019受賞製品一覧