ホンダから発売されたバッテリー電源「LiB-AID E500 for Music」がオーディオ愛好家の間で注目を集めている。最大出力500Wを備え、50W出力で約4〜6時間の連続運転が可能。しかもその名の通り、“オーディオ用”として、音質向上のための細かな気遣いもされている。弊社Auto Sound Webで健筆を振るう鈴木 裕さんも、その効果を体験して大いに気に入ったという。そこで今回は、E500 for Musicの開発陣をお招きし、あらためてそのパフォーマンスを確認するとともに、製品誕生の経緯を詳しくインタビューしてもらった。(編集部)

HONDA LiB-AID E500 for Music
¥270,000(税別、200台限定、応募多数の場合は抽選)

●電源供給方式:バッテリーインバーター(独立電源)
●内蔵電池:充電式リチウムイオン電池(電池容量377Wh)
●出力:定格出力300W(VA)、最大出力500W(VA)
●運転時間:50W時(約4〜6時間)
●充電時間:約6時間
●充放電寿命(サイクル):1000以上
●電気取り出し口:交流コンセント2口、USB出力端子2口
●寸法/質量:W266×H248×D182mm/5.4kg

——「E500 for Music」という、ホンダのバッテリー電源が話題です。先月17日に発表され、200台の限定生産で価格は¥270,000(税別)。同社の特設サイトで12月18日までの期間限定で予約を受け付けており、定員をオーバーした場合は抽選での販売になるそうですが、既に予想を超える購入申し込みが入っているそうです。

 今回はそんなE500 for Musicの開発者の皆さんに、StereoSound ONLINE試聴室においでいただき、実際にその効果を確認するとともに、開発にまつわる苦労話をうかがいたいと思っています。インタビュアーは鈴木 裕さんにお願いしています。

鈴木 よろしくお願いいたします。ぼくは、E500 for Musicの効果を体験したことがあり、ひじょうにバランスのいい音を聴かせてくれる製品だと思っています。今日は、そのE500 for Musicを創った方々のお話がうかがえるとのことで、楽しみにしていました。

 オーディオにとって電源はとても重要で、自分自身ここ数年電源に注目しています。これまでもクリーン電源やアイソレーショントランスを使ってみたりしました。さらに壁コンセントやタップを交換。今年は電源ケーブルを自作しつづけています。

 その経験から、電源とはオーディオ機器にエネルギーを与えて作動させるだけの物ではなく、音色感、音像の輪郭、実体感まで支配してしまう、大切な存在であることがわかったのです。

 しかしオーディオを取り巻く電源や電波の環境は、昨今ひじょうに厳しくなっています。家庭内にもPCや携帯電話などのノイズ要因が多くあり、その影響を避けることは不可能になっているのです。

 そんな時代に、バッテリーを使ってオーディオ機器に良質な電気を供給しようというわけで、しかもあの“ホンダ”がオーディオ用として発売するのですから、効果がないはずがない(笑)。

StereoSound ONLINE試聴室に鈴木さんとE500 for Musicの開発陣おふたりをお招きし、実際に音を聴きながら開発のテーマやモノ作りの裏側までお話いただいた。写真左が進 正則さんで、右が小野寺泰洋さん

——まずはE500 for Musicの効果を確認するために、4つの電源接続方法で音の違いを確認していただきました。(1)StereoSound ONLINE試聴室の壁コンセントから電源を取った状態、(2)CDプレーヤーをE500 for Musicのベースとなった蓄電機E500(以下、蓄電機)につないだ時、(3)CDプレーヤーをE500 for Musicにつないだ時、そして最後に(4)CDプレーヤーとプリアンプを2台のE500 for Musicにそれぞれつないだ状態です。

 試聴システムは、CDプレーヤーがデノン「DCD-SX1」、プリアンプはアキュフェーズ「C-2850」、パワーアンプが同「A-75」、スピーカーはモニターオーディオ「PL300 II」という構成ですが、音の変化はいかがでしたか?

鈴木 試聴ソースは竹内まりやの『クワイエット・ライフ』から11曲目の「シングル・アゲイン」と、ヤニック・ネゼ=セガン指揮/ダニール・トリフォノフのピアノ演奏『ラフマニノフ:変奏曲集』から24〜25曲目「パガニーニの主題による狂想曲 作品43」を聴いています。どちらもCDです。

 (1)の壁コンセントにつないだ音は悪くはないのですが、竹内まりやの声の質感やキーボードの透明感がいまひとつ出てきませんでした。ストリングスが倍音を伴なって綺麗に伸びるべきところも、ざらっとしています。ラフマニノフもオーケストラが混濁。ピアノの高域の再現性が低かったですね。

 そこでDCD-SX1を蓄電機につないだところ(2)、ストリングスが澄んできて、低域のドラムスのキックやベースの音像がまとまって、立ち上がりもよくなってきました。

 ただ一方で、ヴォーカルのテンションがちょっと高い感じが抜けず、音色感がにじんでいる印象でした。ラフマニノフもピアノはなめらかなになってきたけれど、付帯音、本来のソフトに入っていない音が混ざっているように感じたのです。

鈴木さんが選んだ試聴用CDは、竹内まりやの『クワイエット・ライフ』とトリフォノフ演奏による『ラフマニノフ:変奏曲集』

 そこで(3)として、DCD-SX1をE500 for Musicにつなぎ替えたところ、空間が伸びやかに展開。竹内まりやの声年齢も録音当時の感じが出ました。音像もまとまってきたし、全体的な音の密度も上がって力感がでてきたと思います。高域の強調感も適正化され、本来の声に近づきました。

 ラフマニノフは、グランカッサやバスドラムがドンと鳴ってから、左右だけでなく上下方向にもしっかり広がっていく様が見える。ピアノも筐体の中で音が響いている、空気を振るわせているというニュアンスも出てきています。

 ただ(3)の状態でも、ピアノの高域にわずかに歪み感が残っていたのですが、C-2850をE500 for Musicにつないだら(4)、音色感もまろやかで、音が立つべきところは立ってきた。声にも竹内まりやの人柄が感じられるし、細かい質感まで出てくるようになったと思います。

 ラフマニノフも、低域の付帯音がなくなって、ピアノの歪みっぽさも減りました。スタインウェイってこんな音だよね、と素直に納得できる音になったと思います。見通しがよく、各楽器の質感・音色感も出て、音像の輪郭がしっかりするので、混濁感がなくなりました。

 総合的に言うと、S/Nや分解能が高いのは当然として、このソースは本来こんな音楽だよねという音で楽しめました。音楽を聴く楽しさを感じられるようになってきたのが素晴らしい。

 またバッテリー駆動にすると音が綺麗になる反面、力感が出なくなることも多いのですが、E500 for Musicはそんなことがなかったですね。低音の量自体は減っているかもしれないけれど、締まった音で純度高く再現されます。

E500 for Musicのベースとなった蓄電機「E500」も準備して、両モデルでの再生音の違いも確認している

——今日はE500 for Musicの開発陣から研究開発・生産・営業などの各部門を取りまとめられた開発責任者の進 正則さんと、研究開発部門のリーダーの小野寺泰洋さんにおいでいただきました。おふたりは今日の音を聴いて、どんな感想を持たれましたか?

小野寺 まさに狙い通りというか、自分たちがやってきたオーディオ電源が実現できていたんだと感じ、鈴木さんのお話を嬉しく聞かせていただきました。

 開発時にも、電源を蓄電機に変えただけで解像度が上がり、音の量が多く、細かくなるのは確認できました。ただ長く聴いていると、少し高音がキツい、尖った音に感じたのです。ロックやポップスなどなら充分聴けるし、人によってはこれでいいという話もあったのですが、私の中では音が若干尖りすぎているという印象で、曲によっては聴いていて満足感が薄くなる時がありました。

鈴木 いわゆる聴き疲れのする音ということですね。

小野寺 われわれはオーディオ機器を作っているわけではないので、音に個性をつける必要はないと判断し、聴いた後に満足感のある音を目指そうということにしました。

 例えば、パーツを変えていくとまろやかな音にもなるのですが、そんな風にサウンドをいじりすぎるのも違うと思ったのです。その結果、E500 for Musicはこの音を実現できる電源に落ち着きました。自然に聴こえる、満足感の得られる音です。

鈴木 チェックに竹内まりやのCDを使っているのは日本人の声なら、ニュアンスや年齢といった細かいことまでわかるからです。

 蓄電機だと若々しいニュアンスになって、それはそれで好ましいのですが、オーディオ用としてはこの曲を歌っていた年齢、’89年当時の彼女の声に近づくのが正しいと思います。E500 for Musicではそれができていました。

 われわれ自身はオーディオのプロではないので、聴感評価は難しかったのですが、今日の違いはわかりやすかったですね。もともとは電源として供給する電気の品質を高めることで、音のクォリティに貢献できないかと思っていました。CDプレーヤーからプリアンプ、ひいてはスピーカーなどのオーディオ機器の性能をフルに引き出す電源を作りたいと開発チームのメンバーと語り合っていたのです。

 今日も壁コンセントから蓄電機、E500 for Musicと聴き比べて、音がどんどん鮮明になって、聴きやすくなってきました。本来の竹内まりやの声に近づいているとサウンドに評価をいただき、とても嬉しかったです。

<当日の試聴システム>
●SACD/CDプレーヤー:デノンDCD-SX1
●プリアンプ:アキュフェーズC-2850
●パワーアンプ:アキュフェーズA-75
●スピーカーシステム:モニターオーディオPL300 II
●オーディオ用バッテリー:ホンダE500 for Music×2

鈴木 ここからは改めて、ホンダがオーディオ用バッテリー電源を開発した経緯について教えていただきたいと思います。最初は、蓄電機のユーザーからオーディオ用に使ったら音がよくなったという反響があったのがきっかけだったそうですね。

 ホンダでは以前から、ガソリンエンジンで動く発電機を手がけていました。ただ、ガソリン式の発電機は屋内で使えないということもあり、2017年に蓄電機を発売しました。リチウムイオンバッテリーを搭載した小型・軽量ながら充分な出力を持った電源です。当初は、場所を選ばない“どこでもコンセント”というコンセプトだったのですが、発売してみたら想定とは異なる様々な使い方が出てきました。

 特にオーディオ愛好家はいい電源を求めている方が多いようで、ユーザーアンケートにも熱いメッセージをいただきました。そういった声に応えるためにHondaの蓄電機が使えるのではないかというところから始まったわけです。

鈴木 では、2017年に蓄電機を開発した段階では、オーディオ用電源という発想はなかったのですか?

小野寺 まったくありませんでした。もちろん屋外のキャンプなどで音楽を聴くといった意味での、手軽なBGMの電源としての使い方は想定していました。

 ただ、話に出ていたアンケートでも、オーディオ愛好家の方は本当にぎっしり回答を書いてくれて、その内容が凄かったのです。名前を聞いたことのないアンプやスピーカーの型番が記されていて、調べてみたらかなり高額なシステムに蓄電機を使ってくれていたのです。その熱意がとにかく凄くて、印象に残りました。

 それもあり、漠然とキャンプや釣り、天体観測などの用途が挙げられる中で、決め打ちでオーディオ用が欲しいと熱烈に言われてしまうと、これは何とかしなくてはいけないということになって、だんだんみんなの気持ちも動いていったのです。

 正直にお話しすると、最初は私たちには、オーディオ機器の電源を変えると音が変わるということ自体が理解できなかったのですが、やってみると確かに変わる。それなら、そこを極めていこうと考えました。

インタビューにご協力いただいた、本田技術研究所 ライフクリエーションR&Dセンター PG開発室 設計ブロック 研究員の進 正則さん(左)と、同ライフクリエーションR&Dセンター PG開発室 研究ブロック研究員の小野寺泰洋さん(右)

鈴木 そうだったんですか。蓄電機を購入された方のアンケートでは5%くらいがオーディオ用に使っているとの回答があったそうですね。

 その5%の中に、さらにアツい方がいらっしゃって、逃れられなくなってしまいました。もともとホンダの発電機は屋外で使う物でした。それもあり、蓄電機で想定した使い方も基本的に屋外用途ばかりでした。

 しかしそこにひとつだけオーディオという宅内で使う使い方が入ってきた。家の外で使うことを意識した製品なのに、ひとつの用途だけ屋内に向いている。オヤっと感じるわけです。割り合いで約5%というのはマーケティングの立場からは切り捨てるべきデータなのかもしれませんが、そうするには届いた声があまりにもアツかったのです。

鈴木 そこからE500 for Musicの開発がスタートしたわけですね。開発メンバーはオーディオ好きな人たちだと思いますが、それは会社がチームとして集めたのか、自主的に集まったのか、気になるところです。

 開発チームにオーディオの専門家がいたわけではありません。通常の製品開発と同じで、設計やパッケージング、材料領域を含めた各部野の専門家で構成しています。

 ただ社内にもオーディオ好きがいますので、彼らの協力をもらいながら開発を進めました。周りにいるオーディオ愛好家が意見を持ち寄ってくれますので、小野寺や私はその意見を聞きながら、製品に反映していったという形です。

小野寺 これは個人的な意見ですが、あまり開発チームを強く色づけしてしまうのもどうかと思います。方向性に偏りが出ますので。

取材では2台のE500 for Musicを使い、CDプレーヤーだけつないだ場合や、プリアンプまでつないだ場合などの違いも聞き比べている。コネクターもしっかりしており、プラグの安定性も抜群だ

鈴木 E500 for Musicは今年10月に商品を発表されましたが、ベースとなった蓄電機は2017年の9月の発売でした。つまり2年間で、実質的なオーディオに関して技術的なノウハウがなかった状態からここまで仕上げたというのは凄いと思います。

小野寺 技術系メーカーでは一般的なことですが、パワーにしても燃費にしても性能が数値で表現できるので、必ず数値化して定量的に説明する必要があります。漠然としたイメージとか感想を言っても受け入れて貰えません。目標値がいくつで、それに対して今どの位置にいるから、あと何日で達成できるといった話が必要なのです。

 開発している中ではそこが一番厳しく、高音が出てきたとか、なめらかさが再現できたとオーディオ的な表現で説明しても、では何がいくつからいくつになったのか、何%変化したかを定量的に説明することがなかなか出来ず苦労しました。

鈴木 そういう苦労を経て生まれた製品は、必ずきちんとした物に仕上がっています。ホンダという自動車やバイクなどでモノ作りの実績のあるメーカーの風土があったからこそ、E500 for Musicはここまでバランスのいい製品になったのかもしれませんね。

 ところで、ホンダとして持っていたリチウムイオン電池とかインバーター回路に関する技術は、どのように投入されたのでしょうか?

小野寺 蓄電機を2017年に発売する以前、リチウムイオン電池を使ってこんなに大きな容量の製品を作ったことがありませんでした。ですので、まずは安全性について、あらゆる使い勝手を想定し集中的に検討しました。

 次にバッテリー製品は使用時間に制限がありますし、使い方によっては容量劣化の問題も発生します。そこで出力とバッテリー容量のバランスについて検討しました。このふたつが蓄電機開発の一番のテーマだったのです。電気の綺麗さについては、発電機で培った今まで通りの電源品質を貫こうという方針でした。

 そのインバーター自体は以前から持っていた技術で、性能が優れていることは社内でも分かっていました。今回のE500 for Musicでもベースとなった蓄電機と同じ回路を搭載しています。

E500 for Musicに搭載されているインバーター回路の基板

鈴木 インバーター回路の基板を拝見するとオーディオ機器でも良く採用されているSILMIC(シルミック)のコンデンサーを使っています。あれはベースの蓄電機も同じなのでしょうか?

小野寺 そこは変えていません。極端な話、弊社のインバーター発電機につないでもベースの蓄電機と同レベルの音は鳴らせます。ただ発電機は排気ガスも出ますし騒音も出しますので、とてもホームオーディオの電源にはなりませんが。

鈴木 それはそうですね(笑)。

小野寺 ホンダのインバーター回路は昔から技術要件が非常に厳しいです。E500の時は、家庭用を考えていたので、もっとレベルを下げてもいいんじゃないかという意見もありました。

 しかし電装品の担当者からは、そんなことはできないと言われました。インバーターは同じ品質でないと駄目ですと。ですので、蓄電機も交流100Vが取れるアウトドア用の電源としてはかなりおごった回路設計になっています。

鈴木 E500 for Musicにはオーディオ愛好家も気になるパーツが多く使われています。これらはどうやって選んだのでしょう。

 蓄電機からE500 for Musicに変更する際には、どうすれば電源品質を高められるかと、オーディオ機器が多くある環境ではどうしても電磁波ノイズが出てくるので、オーディオ用の電源としてそれらの影響を受けないような仕様にしていきたいと考えました。

 電源品質については、電気の供給経路をきちんとしようと考えました。インバーター回路からコンセントにつながる電源ラインの質を向上させるため、オーディオグレードのケーブルを使うことに決めたのです。

 またコンセントについては、フルテック社製のコンセントがオーディオ愛好家に評価が高いとの調査結果があり、それを参考にして選びました。車ならレカロ製のシートを選ぶような発想ですね。

 その上で、実際にその組み合わせで音の違いを確かめる必要があります。そこで、いろいろなケーブルやコンセントを組み合わせて音を聴きながら進めました。最終的にはオヤイデ電気製の精密導体「102 SSC」と「GTX-D NCF(R)」コンセントに落ち着いています。

E500 for Musicではコントロールパネル部の素材にも配慮している。写真手前がE500 for Musicで使われているアルミ合金「ヒドロナリウム」製で、上側はベースモデル用の樹脂製となる

 フルテックのコンセントを取り付けるコントロールパネルは、新規に開発しました。蓄電機は樹脂製で、E500 for Musicはアルミとマグネシウムの合金「ヒドロナリウム」製です。フルテック社のコンセントが持つ性能を引き出すために、剛性と制振性に配慮した結果です。

鈴木 よく、そんな合金を使おうと考えましたね。

 社内には材料領域の専門家もいますし、オーディオ好きのメンバーの「微振動を吸収することが大事」という意見も参考にしました。

小野寺 材料を研究している人間にたまたまオーディオマニアがいて、彼は特にマグネシウムがお気に入りなのです。彼の意見は強かったですね(笑)。

鈴木 しかし、ここまで複雑な形状をひとつのパーツで作るとなると、金型もたいへんだったでしょう。

 コントロールパネルをどう造るかは我々が設計するのですが、提示された材料がは剛性や制振性に優れる一方で、流動性が低い扱いにくい材料だったので、この形に仕上げるのはとてもたいへんでした。

小野寺 また、ベースとなる蓄電機は、お客様の買いやすさの実現や組み立て性もあって部品点数をできるだけ減らしたかったので、いくつかの部品を統合してひとつのパーツに仕上げています。

 そういった前提がある中で、E500 for Musicは樹脂からアルミ合金に材料を替えてコントロールパネルを造ることになったので、たいへんでした。もし最初からアルミ合金で造るのであれば、違う形状にしていたと思います。

鈴木 ホームオーディオにおいては、インバーター電源はいいイメージはありませんでした。どちらかというとノイズを出す存在のように思われてきたのです。しかし、E500 for Musicはまったくそんなことがない。ノイズ対策もかなり気を配っているのでしょうね。

左手前は内側に電磁波シールド塗装を施したパーツで、上側はベースモデルのもの。このひと手間で音質に大きな影響がある。写真右側は電源コンセント部に使われているオーディオグレードの電源ケーブル

小野寺 ノイズとしては、ラインノイズと放射ノイズの2つに着目しました。ラインノイズは壁コンセントに電源をつないだ際に、ケーブルを伝わってくるものです。これはダイレクトにオーディオに影響しますが、今回、バッテリー電源とすることで完全に切り離すことが出来ました。また、インバーター自体が発生するラインノイズも抑えられています。

 放射ノイズは、内部回路に電気が流れる際に発生するノイズです。普通は外に出ないようにアルミボディや鉄板で囲むことで放射を抑えることが出来ます。蓄電機もインバーター自体を鉄板で囲っているのですが、E500 for Musicでは、さらに樹脂ボディの裏側に電磁波シールド材を施こしているためかなり手が込んでいます。

鈴木 よくぞシールドしてくれました! 内側から出るノイズもあるでしょうが、最近は外から入ってくるノイズも多いので、これは効果的です。

小野寺 私も最初はこういった形で電磁波をシールドできることは知らなかったのですが、いろいろ調べていくうちに効果的な方法に辿り着きました。一枚一枚を均一な塗布厚で塗っているので、かなり手間がかかっています。

 蓄電機などの通常の製品開発では、コストをどこまで抑えるかが重要なのですが、E500 for Musicに関してはある意味でコスト度外視でした。いい製品をお客さんに届けたいという想いから、効果が高いパーツを選ぶようにしたのです(笑)。

 例えばフルテック社のコンセントも電極のメッキが24金とロジウムの2種類あって、24金のコンセントのサウンドも聴きやすくて、こっちがいいのではないかという意見もあったのですが、今回はよりバッテリー電源の長所が感じられる組み合わせとしてロジウムメッキを選んでいます。

鈴木 ロジウムメッキは分解能が高く情報量が出てくるので、オーディオ愛好家には好まれます。ただし一方では、音の温度感が低いのは好みが分かれるところですね。

 今回のコンセントはNCF(ナノ・クリスタル・フォーミュラ)を使ったパーツで、NCFは音をまろやかにしてくれるのでバランスのいい音に感じられます。

E500 for Musicは、本体の5面に電磁波シールドが施され、外部からのノイズにもしっかり対策されている

 電磁波シールドの手法も、最終的にはシールド材の処方を選んでいますが、当初はメッキや蒸着といった手法も検討しました。何パターンもサンプルを造って、どれが最適かを調べて開発を進めていきました。

 また外観についても、オーディオ機器との調和をはかるため、メタル調のシルバー色を使った仕様に仕上げています。本体のパーツは内側には電磁波シールド、外側にはシルバー塗装と、かなり手が込んでいるのです。

小野寺 外観がオーディオ然としないという意見もいただきますが、例えばご自宅と別荘でオーディオを楽しんでいる方が、両方にバッテリー電源を置くのはたいへんかもしれませんが、E500 for Musicなら簡単に持ち運んで使っていただけるのではないかと考えています。

 開発時には、“オーディオ製品に取っ手はないよね”という意見ももちろんありました。ですが、われわれは使いやすい製品が第一と考えて、敢えて残しています。このように、ホンダはお客様が使い易いことを第一に考えており、安心して信頼して使っていただける製品を常に目指しています。

鈴木 ちなみに、E500 for Musicの開発で一番苦労した点は?

小野寺 コンセントなどの部品の試聴もたいへんでしたが、それよりも難しかったのは電磁波シールドでした。いきなりシールド材を試しても効果があるか分からないので、最初は進とふたりで樹脂ボディの裏にアルミテープを貼って、効果を検証しました。手作業で貼った後に音を聴いて、さらに放射ノイズが減っているかを測定して、効果があることを確認しました。

鈴木 そこまで実証しなくてはいけないのですか?

小野寺 効果も分からないのに、いきなり試作をすることはできませんから、まずは検証をしてからということがほとんどです。私は普段からそういう仕事をしていたのでアルミテープもすぐに貼れたのですが、進は設計部門で図面を引く仕事なので、貼るのに時間がかかっていました。

 私がひとつ貼る間に、小野寺が残り全部やってくれました(笑)。もともとの部品は樹脂材で電気が流れない素材なので電磁波が透過してしまうのですが、そこに導電性のアルミ材を貼れば電磁波を遮蔽するはずなのです。でも、効果があるか実際に製品でのシールド効果を確認し、自分たちの考えが正しいことを証明する必要があります。

ホンダの研究開発施設内にある電磁波測定室(電波暗室)。写真は業務用発電機を測定している様子だが、E500 for Musicでも同様の測定を行なっている

鈴木 シールドには反射するタイプと、吸収する物がありますが、今回はどちらを使っているのでしょう?

 高周波を遮蔽するタイプを採用しています。

小野寺 放射ノイズを測定するのは電波暗室で行ないますが、部屋自体もかなり大きくなくては正確に測定できません。

 小さな小部屋をイメージされるかもしれませんが、車一台が入るどころではない大きさです。小さめの体育館くらいはあるでしょうか。天井も高く、出入り用の扉も厚さが30cmほどあります。その真ん中にE500 for Musicをぽつんと置いて計測しました。

鈴木 さすが自動車メーカーですね。それだけのテストをしているとは思いませんでした。

小野寺 強度という意味では、ベースの蓄電機では限界性を知る意味で落下試験を行ないます。またボートで使う方もいらっしゃるかもしれないので、水の中にも落として何が起こるかも把握しています。

 基本的にはE500 for Musicも作業現場で使われるホンダの発電機と同等の評価を行っていますので、ちょっとのことでは壊れませんし、仮に壊れたとしても危険なことにはならないように設計されています。

 ボディのベースが樹脂なので簡単に壊れるのではないかと思われるかもしれませんが、合わせ構造を工夫して作っていますので、薄い鉄板よりも強いくらいです。表面のメタル調シルバー色についても、外に持ち出す可能性があるので、簡単に変色しないなどの配慮をしています。

ご自宅でも電源にこだわっているという鈴木 裕さん。E500 for Musicの効果がお気に入りの様子

鈴木 気になるのは、E500 for Musicの後にホンダからどんな製品がでてくるかですが、そのあたりはどうお考えですか?

 社内でもE500 for Musicの価値を認める人と認めない人がいました。しかしこの価値に賛同いただき購入いただいたオーディオ愛好家の方が満足していただくのが、確実な評価だと思います。E500 for Musicを購入していただいた方のリアルな反響を集めていきたいと思っています。

小野寺 個人的には、いい製品ができたので次につなげたいと思っています。電源の重要性、綺麗な電気を求めているお客様や業界もあるでしょうから、色々な用途に応えられる発電機も含めた電源を作っていきたいと考えています。

 E500 for Musicで、音にどのような影響を与えられるかは正直分からなかったのですが、ホンダとして世の中に出したときに、オーディオ愛好家に“駄目だね”とガッカリさせたくないと思っていました。

 最終的には鈴木さんを始めとするプロの皆さんからも効果があると言っていただき、自分たちが行ってきたモノ作りが間違いでなく正しかったと安心しました。200台のE500 for Musicを提供する中で、実際に使ってもらい、音に関するフィードバックをもらって、それから次に進めたいと思います。

小野寺 オーディオ愛好家の方々がどんな感想を寄せてくれるか、今から楽しみにしています。

オーディオは電源次第でおお化けする。
「E500 for Music」の恩恵を、多くの方に体験してほしい

 オーディオは電源次第でおお化けする。ちょっと意外な例を出すと、アナログプレーヤーは基本的にはプラッターを回転させるモーターとその制御系にしか電気を使っていないが、それでも電源ケーブルを交換することによって再生音は変化する。電気というエネルギーが盤を回転させ、音ミゾによって振動したカートリッジが発電。これが音楽信号というエネルギーに変容していく。エネルギーという形のないものという意味では、電気も音もどうやら共通したものを持っている。

 最近特に言われているのは、たとえば冷蔵庫やエアコンに使われるインバーター電源や、電気ポットやトイレの洗浄器にも使われるマイコン。あるいはPC自体やルーターといった機器から発生するノイズだ。これが再生音の足を執拗に引っ張っている。これは事実だが、じゃあそのノイズをAC100Vから除去しさえすればいいかというとどうもそうじゃないのだ。

 唐突なたとえで恐縮だが、同じ15%程度のアルコールのお酒でも酔い方は違う。ワインは大丈夫だけど日本酒は二日酔いしてしまう、という方もいるだろう。電気もノイズを除去しただけではダメなのだ。オーディオで必要な良質な電気。これを供給してくれるのが「Lib-Aid E500 for Music」だ。きれいなだけでなく、馬力感があり、音の立ち上がりのタイミングも合えば、その色彩感もきちんと出てくる。ぜひ、多くの方に体験してほしい。(鈴木 裕)

“HONDA”から、オーディオ用バッテリー「LiB-AID E500 for Music」が発売される。音楽ファンを幸せにするために、持っている技術を惜しみなく使った製品だ

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