カロッツェリア サイバーナビ χ シリーズ
2018年でパイオニアは創業80周年になる。ちょうど本日(2018年4月18日)、最新のサイバーナビをベースにしながらも設計を深化させ、高音質パーツを相当数採用し、前例のない高音質化を実現したという「サイバーナビ χシリーズ」を新たにラインアップとして発表した。この「サイバーナビ χシリーズ AVIC-CZ902XS」に、80周年の感謝の気持ちを込めた80台限定のスペシャルパッケージ版が「AVIC-CZ902XS-80」だ。このモデルを開発したテストルームで試聴したが、その音はさまざまな要素においてボトムアップが図られ、総合的な音質向上を果たしていた。80周年記念モデルのサイバーナビがレギュラーモデルとどこが変わったか、個々の説明の前にそのイメージを短く書けば「サイバーナビがcarrozzeria χになったかのよう」という言い方をしていいと思う。あの研ぎ澄まされた音の世界がサイバーナビから立ち上がってくる(詳細は後述)。
さらに80周年記念モデルならではの重みは、そのパッケージ内容にも表現されている。ナビ本体はサイバーナビ χシリーズAVIC-CZ902XSと同じだが、シリアルナンバーが入った専用の起動画面、ステンレス製のシリアルナンバープレート、取説などを入れる革製のマニュアルケース、スペシャルパッケージの化粧箱。そしてミュージッククルーズチャンネル1年分やレコチョクプリペイドカード1万円分といった、音楽ソフトのサービスまで含んでいる。自らの80年周年を祝福しつつ、顧客に対するプレゼントでもあるようにも感じた。
銅メッキシャーシをはじめ大幅な高音質設計を実施
スペシャルパッケージのスタイリッシュな箱から本体を取り出してまず印象的なのは、銅メッキの多用ぶりである。シャーシ(側面、背面、中間)、ホルダー、ヒートシンクと多岐にわたり、モノとしての魅力すら感じる(装着すれば見えなくなるのだが)。もちろんこれらは見た目だけでなく、振動や熱の管理、電磁波などの問題をコントロールしている。その要素のひとつとしてビスも銅メッキのものが使われているのだが、単に銅メッキにしただけでなく、音質を検証しながら採用しているため一部は銅メッキにしていない。見た目じゃないのだ。このあたりからも入念な開発の過程が伝わってくる。見た目で言えば、ディスプレイ下のボタンにROSE GOLDが配されていて、車両搭載時の象徴的なデザインに仕上げられている。
銅つながりで言うと、電源ハーネス、AV入出力ハーネス。これらの導体をOFC採用の高音質タイプを同梱している。
電源関係が相当凄いことになっている。トロイダルコイルの線径およびコアを変更。アルミ電解コンデンサーのさらなる制振化を図り、アナログオーディオの負電源用にリップルフィルターも追加。このあたり、徹底してノイズ除去を目指していてその結果は計測グラフにももちろん出ているが、実際に聴いても歴然と体感できるほどだ。
D/A変換において筆者が重要視しているひとつはマスタークロックだが、従来モデルでも低位相雑音品を採用したが、さらにノイズレベルの低い超低位相雑音品を搭載。グラフを見ると1kHzあたりで3~4dB。100kHz以上では5dBもの位相ノイズを低減させている。
DACデバイス自体はバーブラウン製32bitの差動電流出力型であるPCM1795DBを17年サイバーナビからキャリーオーバーするが、その後のバッファーアンプ部には新日本無線社製、MUSESブランドのオペアンプを6基搭載。さらにDAC、IV回路、LPF回路、プリアウトのアナログラインの各回路の定数やゲインを見直し、しかもそこには非磁性体のfマーク入りの高性能抵抗器を投入している。2017年のサイバーナビだって、たった1年で基板を新設計し、専用の高性能電子ボリュウムや高音質の薄膜高分子積層コンデンサーを投入しているのだ。その積み上げた先に以上のような設計や仕様、高品質パーツを大量にぶち込んでいる。えげつないと言うか、尋常じゃない。
これが内蔵アンプの音?! 伝わってくる情報量が上がった
ホームオーディオを含めてさまざまなメーカーの試聴室に行くが、カロッツェリアの試聴室はその広さ、静粛性、響きのコントロール、そして鳴らしているリファレンスのスピーカー(TAD R1)といった試聴環境のレベルがすこぶる高かった。特にR1は広帯域でノイズフロア低く、きわめて表現力の高い、言い方を変えると実に厳しいモニタースピーカーで、このレベルのものを鳴らすカーオーディオの試聴環境もそうそうないだろう。これをサイバーナビの内蔵アンプで駆動しようというのだから厳格なことこの上ない。
2017年モデルのAVIC-CZ901から聴いていく。実際に開発でも使用したというドナルド・フェイゲンの「モーフ・ザ・キャット」。そしてカーペンターズの「シング」。いずれもハイレゾデータを再生した。
まずわかるのは基本的にSN感がいいこと。AVIC-CZ901だけ聴いていれば不足は感じない。最近は一般の方でもPCの波形編集ソフトを使って音楽を編集したりするが、無音に感じられる場所でも音圧を示す縦軸のスケールを上げていくと多くの音源にはノイズ成分が一定量あることがわかってくる。これをノイズの床、ノイズフロアという言い方をするが、この成分がずいぶん低いようなのだ。ただし、ノイズと言っても、サーとかジーというように聴こえるわけではない。それはたとえばヴォーカルに付帯音が感じられたり、高周波のノイズであれば音色感が妙に明るくなったり、あるいは空間の透明度が下がって、スモーキーに見えてきたりする。
これがAVIC-CZ902XS-80にすると、さらにSN感が歴然と良くなる。端的に言うと空間の透明度は上がり、声や楽器には付帯音が存在していたことが判明する。そもそも同じボリュウムなのに、音量が大きく感じられるのだ。オーディオは恐ろしいもので、比較することによってさまざまなことがわかってしまう。人によっては実際に走っているクルマの中だと、走行音や風切り音などのノイズが存在するのでそんな低いレベルのノイズフロアなど関係ないではないか、と言う方もいるかもしれないが、それでもSNのいいオーディオはその威力を発揮する。音量を上げても音の混濁がなくなり、エコー成分などの余韻の消え際の伸びが良くなってくる。
さらに低域や最低域の音色感、あるいは音の感触の伝わってくる情報量が上がっているのも印象的だ。AVIC-CZ901では量感タイプのボーンという低音だったのが、AVIC-CZ902XS-80ではドゥーンという、立ち上がりの音の形や質感が見事に見えてくる。このあたり、SNの問題だけではなくて、高性能なオペアンプや抵抗も効いているのだろう。あるいはクロックの精度が上がると音像のフォーカスが良くなるだけでなく、音色感の細やかさや高域の質感が良くなってくる。筆者は「ハーシュな感じ」とか「ささくれ成分」と呼んでいるものが収まって、しなやかに、まるっとしていながら音としてはきちんと立った高音になってくる。まさにそういうクォリティの音に到達している。
carrozzeria χを彷彿とさせる凄味のある音
サウンドステージについても言及しておかないわけにはいかない。AVIC-CZ901だけ聴いていると何の不足もないのだが、AVIC-CZ902XS-80にすると、左右のスピーカーの間、センターの密度が上がり、頭を左右に多少動かしてもヴォーカルの定位は強固だ。あるいは左の奥の方や右の奥の方の空間の実在感が高まっていたり、定位の前後方向が深くなり、なおかつ手前とその奥とさらにその奥というように精度が出てくるのも見事だった。こうした空間表現力はデジタルプレーヤーにおいて、顕著にクォリティの差が出る部分だ。
ちなみに筆者の聴き慣れたCDも試聴したが、ハイレゾデータよりもさらにAVIC-CZ902XS-80の優位性が感じられた。
総じて言えば、SNを良くし、デジタル領域の変換精度が上がり、アナログアンプ部の表現力が向上。音像のフォーカスや階調表現(トーナル・フィデリティ)のチューニングを追い込んだ音、という言い方をしていいだろう。それは単なるアキュレートな音を越えて、何か凄味さえ感じさせる音を持っている。そう、かつてのcarrozzeriaχの雰囲気なのだ。ただしデジタルの分野はどんどん進んでいるわけで、キメの細かさやしなやかさ、音に生気のある感じなど、AVIC-CZ902XS-80は現代の最先端のレベルに躍り出た感がある。
この2年間のサイバーナビの音の向上率は特に著しかったが、AVIC-CZ902XS-80はその持てる力をコスト制約の枠を外して洗いざらい投入。メーカーでは“ハイエンドオーディオ カーナビ”という言葉さえ使用している。今回取材していく中でその説明内容も驚くべきものだったが、開発陣のそれぞれのメンバーの語り口から伝わってくるリミッターが外れてしまった感じも付け加えておきたい。
獅子は目覚めた。
パイオニア・カロッツェリアのサイト
同上:パイオニア・カロッツェリア80周年記念モデルのページ
同上:サイバーナビ χシリーズ製品情報
パイオニア・カロッツェリアeショップ80周年記念サイバーナビ χシリーズ販売ページ