ここ数年、電車の中でも街角でも、ヘッドホンやイヤホンをつける方が増えてきた。そのほとんどがワイヤレスタイプのモデルだ。スマホやDAPをトランスポートとして手軽に音楽を楽しめるし、ファッションアイテムの側面もある。音質を最優先にしたワイヤードタイプで音を追い込んできた僕だけど、ワイヤレスモデルは最近音質が上がってきたし、何より多くの人が気軽に良い音へ手を伸ばせる状況は、素直にうれしく思う。

 だけど、ワイヤレスヘッドホン/イヤホンは音質や装着感だけで選びきれない。Bluetoothの対応コーデック、ノイズキャンセリング、通話、電池持ちまで多くの選択肢があり、その全ての能力を高く備えたモデルは、当然のごとく高価である。

 そのような中、登場したのがEarFunの「EarFun Wave Pro X」だ。

 EarFunは、工業デザイナーや音響エンジニア、音楽愛好者が集まり、2018年に設立されたブランド。世界100以上の国・地域で展開しているけど、そんな同社、とにかくコストパフォーマンスの高さで注目を集め、累計販売は1000万台以上だという。

 10月上旬、自宅に試聴機が届いた。公式ページでは16,990円という価格に、ワクワクとした気持ちと「性能はどうなんだろう」という一抹の不安が混じる。普段は有名メーカーのフラグシップモデルを使っているということもあり、「どこまで迫れるか?」と個人的にも興味津々でテストを開始した。

ワイヤレスヘッドホン
EarFun
EarFun Wave Pro X
¥16,990(税込)

製品の主な仕様
Bluetooth規格:6.0
対応コーデック:SBC、AAC、atpX、aptX HD、aptX Adaptive、aptX Lossless、LDAC、LC3
ドライバー:40mm径DLC複合素材振動板+10mm径LCP振動板(同軸仕様)
バッテリー持続時間:最大約90時間(ANCオフ)、最大約50時間(ANCオン)
急速充電:〇(15分で約10時間再生対応)
ノイズキャンセリング:〇(ハイブリッド・アクティブノイズキャンセリング)
マイク:8基
マルチポイント:〇
Auracast:〇
Google Fast Pair:〇
アプリ:〇(EarFun Audio)
オーディオ入力:〇(AUX、USB-C)
質量:約259g
付属品:収納ケース、AUXケーブル、充電用USB-Cケーブル、取扱説明書

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●対象商品:EarFun Wave Pro X
●商品リンク:➀Amazon公式ストア、➁EarFun公式サイト
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通常価格:16,990円(税込)➡ クーポン適用後:12,743円(税込)

デザイン性も高く、所有欲を高めてくれる仕上がり。必要充分な機能面を備える

 実物と対面してまず感じたのは、外観は思いのほか洗練されていたこと。丸みのあるハウジングと、円周状のCDパターンを施した航空機用アルミニウム合金外装が印象的で、約259gと軽量である。イヤーカップは90度回転し、折りたたんで付属の専用キャリングケースに収納できるなど、全体のビルドクォリティは悪くない。いや、率直にいえば、それ以上かも。パッと頭にかけたが、側圧も適切で付け心地も良い感じだ。

 また、スペック上の期待は高い。核となるSoCチップは、主にミドルクラスのワイヤレスヘッドホン、ヘッドセット、ワイヤレススピーカー向けに設計された、クアルコム社の「QCC3095」。Bluetooth 6.0に対応しつつ、高速で安定した接続と低消費電力をうたい、Snapdragon Sound認証も取得している。コーデックはSBC、AAC、LDAC、aptX、aptX Adaptive、aptX Lossless、aptX HD、LC3と幅広い。標準規格団体「Bluetooth SIG」が発表したBluetoothの次世代音声規格である「LE Audio」、Android端末と簡単に接続できるBluetooth規格である「Google Fast Pair」にも対応する。こうした機能を有効利用できるかは、接続先のスマホやDAPにもよるが、選択肢の多さを、組み合わせる機器に応じて生かせるのはうれしいところ。

操作ボタンは右側のカップに装備

 音を担うのは、独自のDCAA同軸デュアルドライバー構造。40mmのDLC、すなわちダイヤモンドライクカーボン複合振動板と、10mmのLCP、液晶ポリマー振動板を同軸上に配置する。大口径側が力強い低音、小口径側が繊細な高音を受け持ち、「高音域から低音域までのレンジは広そうだな」と予想したが……。

搭載ドライバーは、振動板の素材・口径違いの2種類のダイナミック型を、同軸配置している

 上述のようにワイヤレスヘッドホンは、音質以外にもライフスタイルを支える機能も要確認点だが、8基のマイクによるAdaptive Hybrid ANCは環境に合わせて騒音を低減し、通話にはAI cVcノイズ低減技術を採用。外音取り込みも備え、物理ボタンでANC、外音取り込み、ノーマルを切り替える。スマホやタブレットにインストールする専用アプリ「EarFun Audio」も用意されており、パラメトリックEQ、ANC、操作設定を調整したり、低遅延のゲームモードも有効にできる。2台を同時につなぐマルチポイント機能も備わる。

専用アプリ「EarFun Audio」のメニュー。ANCはモードを選べる。コーデックはLDACだけでなく、aptX Adaptiveもサポートする

 さらに、専用アプリ「EarFun Audio」には、音色をカスタマイズできる機能も備わっている。音楽ジャンルごとのプリセットも利用できるが、特に感心したのは、パラメトリックイコライザー調整機能を備えていることだ。10のものバンドで、周波数(調整する音域の中心)ゲイン(増減)Q (調整する音域の幅)を厳密に調整可能だ。

 バッテリーは、800mAhの容量を確保しており、ANCオフで最大90時間、オンで最大50時間。実際のところは、音量や音声内容で変わるとはいえ、頼もしい持続時間である。15分で最大10時間再生できる急速充電機能もある、また、3.5mmステレオミニジャックによる AUX入力にも対応するが、その接続時でも本体の電源を入れる必要がある。

帯域バランスもよく、音楽を楽しめる躍動感を再現してくれる

 今回はアステルアンドケルンのDAP「PD10」と組み合わせる。接続はスムーズに完了。最大96kHz/24bit、990kbpsの伝送に対応するLDACで、まずはクォリティをチェックする。本来であれば、多くの人が使う「iPhone」との組み合わせも気になるところだが、音質の確認はLDAC対応のPD10で進めた。Appleは、もっと広く高音質コーデックを選べるようになってほしい。

 気になる音質だが、率直にいえばかなり印象は良かった。理由は、安価なモデルによくあるような、低音と高音を強調して勢いだけで押すのではなく、フラット傾向の帯域バランスを土台に、音楽を楽しませるほどよい躍動があること。低域はしっかり出るのに、無理に膨らませて収まりを失わない。この価格で、ここまで音楽の芯を捉えてくるのか。これは予想外だ。やるじゃん。

 アリアナ・グランデの『ヘイト・ザット・アイ・メイド・ユー・ラヴ・ミー』を聴く。アルバム「ペタル」からのリードシングルで、抑制の利いた歌声を軸に据えたポップナンバーだ。ここでうれしいのが、高域の透明感とボーカルの色艶。歌声は頭の中の中央にしっかり定位し、その周囲を逆位相の成分が取り囲むように広がる。低域も締まりを保ち、歌の艶を無意味に押し流さないのは好印象。帯域バランスの良さが音楽性に効いてくる。

 次は米津玄師の『夜鷹』。映画『キングダム 魂の決戦』の主題歌として書き下ろされた曲だ。キックドラムの切れ味にぐっと引き込まれる。高音域から低音域にかけての立ち上がりに程よいスピードがあり、低音は充分な量感を伴いながら、だらりと尾を引かない。Fレンジの伸びも良いし、音源の低域をきちんと受け止めて返してくる、米津玄師のボーカルも、低域の勢いに埋もれる感じが少ない。(もちろん迫力不足ということはない)声の魅力とリズムの鋭さを一緒に味わえるから、曲の熱が歪曲されずまっすぐ届く印象だ。

 では、アコースティック楽器はどうだろう。現代のジャズはワイドレンジと空間表現力が求められるので、まずは、ドラマーのユリシス・オーウェンス・ジュニアによる「アラウンド・ザ・ワールド・ウィズ・ユー」の5曲目、『モ・ベター・ブルース』を選ぶ。テレンス・ブランチャードとブランフォード・マルサリスが手掛けた曲を収める、現代ハードバップの息吹を伝えるアルバムだ。ここでは楽器の音が自然で、伸びやかさもある。帯域のどこかが飛び出して演奏の印象を塗り替えることなく、音楽に耳を預けられる。もちろん、価格が大幅に上がるハイエンドモデルのような、輪郭やローレベルのリニアリティはさらに欲しくなるが、それ以上にポップスで感じた帯域バランスの良さが、アコースティックな質感と音楽的なバランスが求められるジャズでも威力を発揮している。

有線接続の音質はSNもよくレンジも広い。ノイキャンや通話性能もマル

 付属ケーブルでAUX接続も試した。正直に言えば、太さを含め、ケーブルのグレードには少しチープさを感じる。しかし、この価格で有線という選択肢まで用意されていることをまずは喜びたい。実際にも、Bluetooth接続よりSN感が良く、高域から低域までのレンジ、情報量が増して感じられた。ワイヤレスで充分に楽しませたあとに、まだ先があるのは良いし。より音質を求めるなら、この使い方はおすすめだ。

 ANCにも、価格を考えるとかなり頑張っていると感じた。特に中低域の騒音を抑える力が高い。一方、高域への効きはやや弱く、若干のヒスノイズも感じる。もちろん、価格を考えれば、すべてが消えるような静寂を語るつもりはないが……。

 最後は、手持ちのiPhoneと組み合わせた通話にも使ってみた。周囲のざわめきに声が埋もれにくく、言葉の輪郭が相手へ届きやすい。たとえば外出先で急な電話を受けても、必要以上に声を張り上げず、いつもの調子で会話を続けられるなら実にありがたい。

全方位的に満足度が高く、コストパフォーマンスに優れる

 試聴を通じて感じたのは、安価だが可能な限りしっかりと作り込んでいるプロダクトだったということ。良い音を聞きつつ、ワイヤレスで身軽に音楽を楽しめる。ノイズキャンセリング、通話も、有線接続もはいっている全部入り。そして1万円台という価格は評価したい。テストを通じて、コストパフォーマンスの高さに感心させられた次第である。