大阪・豊中市の豊中市立ローズ文化ホールで開催された「ローズ名画座Vol.01 黒澤明
✕時代劇」に足を運んできた。これは国立映画アーカイブの令和8年度優秀映画鑑賞推進事業の一環で、今回の上映は黒澤明監督の『隠し砦の三悪人』と『用心棒』のカップリングとなっている。国立映画アーカイブが所蔵している35mmのプリント上映に使用される、というのが珍しい。どちらの作品も世界的な人気を誇る痛快アクション時代劇。お目当ては『隠し砦の三悪人』だ。

 普段は小さな体育館のようなホールに椅子が並べられており、映写機(2台)はホール後方に設置。映写技師を含め、機材や設置等は外注のようだ。映写機をしげしげと眺めていたら80歳前後の親切な映写技師がカバーを外してくれた。曰く “光学トラックを読むためのライトも今はLEDなんですよ”。今回はシネスコ作品なので映写機に取り付けられているのはアナモフィックレンズ。スクリーンはおそらく常設のものでスクリーンサイズにあわせてマスキングされている。音声の再生にはホールのスピーカーを流用、L/Rチャンネルを使ったモノーラル再生だ。

 35mmプリントの『隠し砦の三悪人』。フィルムのキズが気になったのは一巻目のタイトルバック明けくらいまでで、あとはほとんど気になることはなかった。プリントそのものの保存状態は悪くない。観客数は70名ほど。高齢の観客の姿が目立つ。

 結論から言うと、画質的にはもうデジタルマスター版の圧勝だ。“フィルム上映ならではの” といったロマンティックなものはそこにはない。映画は技術の進化と共にあることをあらためて実感した。

 映写機のコンディションやセッティングにも拠るだろうが、総じて画面が暗い。コントラスト感が乏しく、画も平板だ。せっかくのフィルムの解像度が活かされていないように見える。フォーカスがぼけているわけではないが、奥行きの表現も甘い。

 見つけた金塊を巡って言い争いをしている太平(千秋実)と又七(藤原釜足)。いつの間にか仁王立ちでふたりを見下ろしている真壁六郎太(三船敏郎)。画面奥のその姿がいまひとつ判然としない。自宅に戻ってパッケージ盤のデジタルマスター版を観返してみて、鮮度が高く、立体感のある映像との差異に愕然とした次第だ。

 いっぽう、音声は望外に良かった。ライブな空間を想定して整音され、硬めに仕上げられたサウンドが上映環境にはまっていたのだろう。台詞が聴き取り難いということはなく、田所兵衛(藤田進)の訛りのある早口のセリフも問題なく、雪姫(上原美佐)のセリフが聴き取りづらい箇所は滑舌が悪いテイクだったからだ、ということもよく判る。薪に隠された金塊が川の岩に跳ねて “キィーン” と響くSEもよく効いている。天井が高く、床は固く、かつての映画館のようなライブな環境なので適度に音が響き、なんだか “懐かしい映画館の音” がした。

 この国立映画アーカイブの優秀映画鑑賞推進事業は文化庁との共催で、1989年からスタート。全国の市町村との地域連携事業として、主に公共のホールを使った巡回上映が続けられている。こういった35mmのプリントでのイベント的な上映会は国立アーカイブのある東京が中心、と思われがちかもしれないが、実は意外と身近な存在なのだ。例えば令和8年度の『隠し砦の三悪人』と『用心棒』の場合は9月に新潟県で上映、10月の大阪を挟んで、以降は11月に島根県、12月には秋田県、来年2月に佐賀県で上映される予定になっている。

 フィルム上映の画と音はいったいどんなものだったのか。劇場でのDCP上映や家庭でのデジタルパッケージの再生も、出発点はいまだフィルムが中心であることに間違いはない。あらためて追体験する意味ではなかなかない機会だ。フィルムを使った上映だけでなく、DCPも併用、作品も新旧織り交ぜられたプログラム。これは! というタイトルがあればまた足を運びたいと考えている。

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