これは面白い。感情移入できない中年日本人など、いないのではないか。「こうなってしまった場合、自分だったらどう感じるだろう。どう行動するだろう」と、見終えた後も想像の翼を広げることができる。何百年も前の遠い外国の物語だと、こうはいかない。

 鳥取県出身の漫画家、谷口ジローが1998年に発表した同名漫画が原作。よって作品上の「現在」は1998年となる。主人公は建築デザイナーの中原博史(48歳)。妻や二人の娘と、まあ円満な家庭生活を送っている。が、ふとしたきっかけで彼は1963年の時空、つまり14歳の頃に舞い戻ってしまう。見かけも声も少年、だが中身は48歳のまま。1998年の時点では「懐かしい風景」や「もう亡くなってしまったひとたち」や「すっかり年をとってしまったひとたち」となってしまった事象が1963年当時の状態のまま生き生きとしているのを中原は確認する。が、彼だけは「14歳に見える48歳」だ。

 タイムスリップしてきた彼には、そこに住んでいる人々にどんな未来が待っているのかがわかる。とりあえず学校には通うのだが、「48年分のスキル」を持ったままだから中学2年生程度の勉強やトラブルなどはお茶の子さいさい。その頼もしさ、「渋さ」に、クラスのマドンナが思いを寄せてきた。中原が最初に体験した1963年の時は、声すらかけることのできなかった高嶺の花が、今度の、つまり二度目の1963年では向こうから親しみをもってくれたのだ。未来が徐々に変わっていくということは、「あのこと」を食い止めることができるかもしれない。「あのこと」とは、ずばり、この年に起きた父の失踪。大人になってからも中原は、それを食い止められなかったことを悔いていた。今度の新「1963年」では、是が非でも父の失踪を阻止したい。それは息子としても、母やきょうだいのことを考えても、当然のことだろう。

 2010年にルクセンブルク、フランス、ドイツの合作で映画化されたそうだが(筆者未見)、今回は錦織良成が脚本と監督を担当。48歳の博史を大谷亮平、14歳の博史を及川桃利、博史の初恋相手・長瀬智子を磯谷萌々子が演じる。ほか滝藤賢一、戸田菜穂らも出演。バック・トゥ・ザ・フューチャー的な描写などもあり、そこも楽しい。ロケは倉吉市で行われた。

映画『遥かな町へ』

10月9日(金)全国公開

出演:大谷亮平 及川桃利 磯谷萌々子 戸田菜穂 滝藤賢一
脚本・監督:錦織良成
原作:谷口ジロー
音楽:瀬川英史 エグゼクティブプロデューサー:山本敬 企画プロデュース:結城豊弘(ANOSA) プロデューサー:安川唯史 制作:goen 製作:BARCOS 配給・宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト 配給協力:渋谷プロダクション
2026年/日本/カラー/シネマスコープ/126分/PG-12
(C)2026 映画「遥かな町へ」BARCOS