ラジカセ、コンポ、ウォークマン――そしてオーディオ&ビジュアル黄金期。その時代をリアルタイムで楽しんできた世代にとって、趣味の機材やソフトは単なる「モノ」ではない。青春の記憶であり、長年かけて築き上げた情熱の結晶だ。
一方で、音楽や映像の楽しみ方はストリーミング中心へと移り変わり、手元に残った膨大な機材やソフトをどう管理し、どう次世代へ引き継ぐかが、多くの愛好家にとって新たな課題になっている。
本連載では、あなたにとっての「名機」を家族の「負債」にしないために、AV機器やソフトを「AV資産」として見える化し、整理・管理する方法を紹介する。大切なコレクションを未来へつなぐための実践術を考えていきたい。

第2回 その「愛着」、本物ですか? 使っていないAV機器の価値を調べてみた

筆者プロフィール

鳥居一豊/オーディオ・ビジュアル評論家

雑誌編集を経てフリーランス。AVに加え、PCオーディオ、ヘッドホン、ガジェット分野にも造詣が深い。自ら設計したシアター空間「架空劇場」はドルビーアトモス/DTS:X対応の6.2.4構成。最高の映像と音を求め、日々システムを更新している。大のアニメ好きでもあり、深夜アニメのエアチェックも欠かさない。

第1回では、いきなり機器を処分するのではなく、まず「何を持っているのか」を把握するために、「AV資産管理台帳」を作った。(第1回の記事はコチラ

メーカー、型番、使用頻度、付属品の有無――。まずは10点だけ書き出してみる。すると、「今も使っているもの」と「ほとんど使っていないもの」が、思った以上にはっきり見えてくる。

では、次に何をすればいいのか。今回も鳥居一豊さんと話しているうちに、一つの言葉が浮かび上がってきた。

「愛着」である。

使っていない。場合によっては壊れている。それでも、なぜか捨てられない。今回は、鳥居さんの台帳に並んだ機器を見ながら、その「愛着」の正体と、手元のAV機器が今どのくらいの市場価値を持っているのかを考えてみる。

1.問題は「使っていない機器」だった

前回、鳥居さんにも実際にAV資産管理台帳へ記入してもらった。

毎日使っているテレビもあれば、仕事で月に一度程度使う機器もある。一方、使用頻度が「ゼロ」の機器も何台かあった。

第1回では、使用頻度は4段階程度で記録すればいいと紹介したが、鳥居さんは「毎日」「月イチ」「ゼロ」と、自分に分かりやすい書き方で記入している。それで十分だ。

下津:毎日使っているテレビは、そもそも整理するかどうか迷わないですよね。

鳥居:まったく考えませんね。月に1回でも仕事で使うなら、それも残す理由があります。

下津:問題は「ゼロ」の機器ですか。

鳥居:そうですね。愛着も何も考えず、使用頻度だけで判断するなら、真っ先に整理の対象になるものです。今回の台帳には、そういうものを意識して入れています。

考えてみれば当然だ。日常的に使っているアンプやスピーカーを前に、「これをどうしよう」と悩むことは少ない。整理が止まるのは、「最後に使ったのがいつか分からない。でも、なくす決心もつかない」という機器の前である。

ラックの中で何年も使っていないレコーダー。故障していることは分かっているのに、そのまま置かれているプレーヤー。あるいは、壊れているわけではないものの、何年も電源を入れていない機器。なぜ、そうしたものは残り続けるのだろうか。

鳥居さんに記入してもらったAV資産管理台帳

2.その「愛着」、実は面倒なだけ?

下津:鳥居さんの場合、使用頻度ゼロの機器にも愛着はありますか。

鳥居:今回挙げたものについて言えば、かなりゼロに近いですね(笑)。

下津:それでも残っている。

鳥居:そこなんです。「愛着があるから」と思っているものの中に、実は「処分するのが面倒だから」というものが、かなり混じっているんじゃないでしょうか。

耳の痛い話である。

「高かったから」「いつかまた使うかもしれない」「昔よく使ったから」「なんとなく捨てるのは惜しい」――理由はいくらでも出てくる。もちろん、本当に思い入れの強い機器もある。初めて給料で買ったスピーカーや、長年システムの中心だったアンプを、市場価格だけで割り切る必要はない。

ただし鳥居さんは、「愛着」という言葉を最後の砦にしない方がいいという。

鳥居:「誰かが代わりに全部やってくれるなら、じゃあ処分していいよ」と言える程度なら、本当に愛着なのか。それとも単に面倒なだけなのか。一度考えてみるといいと思います。

下津:愛着があるかどうかも、決めつけなくていい?

鳥居:もちろんです。今日は「もういらない」と思っても、明日になったら「やっぱり残したい」でもいい。売る直前まで悩んだっていいんです。

3.本当に残したいなら、ちゃんと動きますか?

鳥居さんとの話でもう一つ印象的だったのが、「残すなら、使える状態を保つ」という考え方だった。

鳥居:本当に愛着があって、いつか使いたい、誰かに渡したいと思っているなら、その機器は今ちゃんと動きますか、ということなんです。

下津:置いてあるだけでは「残している」とは言えない。

鳥居:電気製品は使わなくても劣化します。残すなら、ときどき動作を確認する。それも所有するコストだと思います。

第1回では、型番や付属品を確認した。今回は、その一歩先である。

電源は入るか。映像や音声は出るか。HDDに録画できるか。ディスクを読み込めるか。リモコンは使えるか。「たぶん動く」と「実際に動くことを確認した」は違う。特に長期間使っていない機器では、その違いが市場価値にも直結する。

4.「中古店に持っていく」だけではない時代になった

ここで、AV機器の整理を考えるうえでもう一つ知っておきたいことがある。中古品の売買環境が、以前とは大きく変わっていることだ。

かつては、使わなくなったAV機器を手放すとなれば、中古専門店やリサイクルショップへ持ち込むのが一般的だった。値段がつかなければ廃棄する。もちろん今も有力な選択肢だが、最近はメルカリなどのフリマサービスを使い、個人同士が直接売買することが珍しくなくなった。

下津:鳥居さん、メルカリは使ったことがあります?

鳥居:ないです。個人同士のやり取りは、どうしてもトラブルが心配で。

実は今回の打ち合わせに同席したStereo Sound ONLINEの編集担当も、メルカリを使ったことはないという。

「ステレオサウンド」の読者にも、同じような人は少なくないだろう。「メルカリ」という名前は知っていても、「若い人が服や小物を売るサービス」という印象で止まっている人もいるかもしれない。しかし現在は、カメラ、ゲーム機、パソコン、オーディオ機器、ビデオデッキなど、実にさまざまなものが個人間で売買されている。

しかも、正常動作品だけではない。「HDDが故障して録画できない」「ディスクを読み込まない」「一部の機能しか使えない」といったジャンク品にも、修理や部品取りを目的に買い手がつくことがある。代金の決済、匿名配送、取引後の相互評価など、個人間取引を支える仕組みも整っている。

もちろんトラブルがゼロになるわけではない。商品の状態を正確に説明する必要もあるし、個人売買に抵抗があるなら無理に利用する必要はない。

ここで知っておきたいのは、「中古店で値段がつかない=誰にも価値がない」とは限らなくなった、ということである。

5.録画できないBDレコーダー、これってもう「ゴミ」?

ここで鳥居さんの台帳から、一台を取り上げてみよう。REGZAのBDレコーダー「DBR-M3010」である。2021年に発売された3TBモデルで、地デジ・BS・110度CSの中から最大6チャンネル分の番組をまるごと録画する「タイムシフトマシン」を搭載している。

下津:台帳では「不動」となっていますが、実際にはどんな状態ですか。

鳥居:電源は入ります。テレビ放送も見られます。ただ、録画ができません。

下津:HDDの不良ですか。

鳥居:たぶんそうだと思います。以前録画したものも見られません。ただ、BDのディスクは再生できます。

つまり、完全に動かないわけではない。テレビチューナーとしては使える。BDプレーヤーとしても使える。しかし、本来の目的である録画ができない。普通に考えれば「壊れたレコーダー」である。

下津:これ、普通だったらどうします?

鳥居:もう使わないですからね。処分対象でしょうね。

ただ、先ほども述べたように、動かない機器にも買い手がつくことがある。問題は、その値段をどうやって調べるかだ。

メルカリで型番を検索すれば、確かに出品は並ぶ。しかし、状態も付属品もばらばらで、どれを自分の機器の目安にすればいいのかは分かりにくい。中古店に持ち込むには、まず梱包して送るか、店まで運ぶ手間がかかる。

そこで今回は、まず生成AIに聞いてみることにした。使ったのはChatGPTである。型番と症状を、思いついたままの言葉で入力するだけでいい。

6.ChatGPTに「これ、いくら?」と聞いてみる

入力したのは、難しい指示ではない。DBR-M3010について、メーカー、型番、分かっている症状をそのまま伝えた。

ChatGPTが示した予想は、次のようなものだった。

※価格は2026年9月時点でChatGPTが示した予想をもとにした目安。正式な査定額ではなく、状態・付属品・時期・売却方法などによって変動する。

鳥居:えっ、録画できないのに3万〜4万円くらいになる可能性があるんですか。

下津:そうなんです。私もそこが面白いと思うんです。「壊れているから価値がない」とは限らない。

正常に使えるDBR-M3010なら、これより高い値段が期待できる。だが今回の個体は、レコーダーとして肝心の録画機能が使えない。それでも、BDプレーヤーやチューナーとして動作し、修理や部品取りを目的とする需要も考えられるため、ジャンク品として一定の市場価値が残っている可能性がある。

鳥居:それなら、いきなり捨てるのはもったいないですね。

ただし、ChatGPTの答えは正式な査定ではない。実際の売却価格は、外観、付属品、故障の内容、その時点の需要によって変わる。また、メルカリに表示されている出品価格と、実際に売れた成約価格は別物だ。

それでも、「数百円程度なのか」「数千円なのか」「1万円を超える可能性があるのか」「故障していても買い手がいるのか」という大まかな位置を知るだけでも意味は大きい。

かつてなら、中古専門店の買取表を探し、オークションの落札履歴を調べ、何軒もの店を比較する必要があった。現在は、そこにChatGPTという入口が加わった。

そして、メルカリのような個人間市場が存在する。この二つを組み合わせれば、AV機器の中古市場に詳しくない人でも、自分の持ち物にどのくらいの価値が残っているのかを、以前より調べやすくなっている。

ChatGPTを使ったことがない人へ

ChatGPT(チャットジーピーティー)は、米OpenAIが提供する対話型の生成AIだ。文章で質問を書くと、人と会話するように答えが返ってくる。

■始め方
パソコンやスマートフォンのブラウザーで「chatgpt.com」を開く。アカウントを登録しなくても、無料で質問できる。画面の入力欄に文章を書き、送信ボタンを押すだけだ。スマートフォンには専用のアプリもある。
会話の履歴を残したい場合や、あとで同じやり取りを見返したい場合は、アカウントを登録するとよい。

■聞き方のコツ
難しい命令文はいらない。今回の質問のように、次の4つを書き添えると答えが具体的になる。
・メーカーと型番
・今の状態(電源は入るか、何ができて何ができないか)
・付属品の有無
・どこで売る想定か(フリマ、買取店など)
答えに納得がいかなければ、「その値段の根拠は?」「リモコンがない場合は?」と続けて聞けばいい。やり取りを重ねるほど、自分の機器に合った答えに近づいていく。

■注意したいこと
ChatGPTの答えは、いつも正しいとは限らない。もっともらしい説明とともに、事実と違う内容を返すこともある。特に値段のように日々変わる情報は、あくまで目安として受け止め、メルカリの「売り切れ」表示や買取店の見積もりで、実際の相場を確かめたい。
また、氏名や住所、電話番号など、個人を特定できる情報は入力しないようにしよう。

■ほかの生成AIでも
GoogleのGeminiなど、同じように使える生成AIはほかにもある。使い慣れたものがあれば、それで試してもかまわない。

7.「ただ使っていないだけ」の機器にも価値がある?

故障品とは別の例もある。

鳥居さんの自宅シアター「架空劇場」の天井には、ソニーの4Kプロジェクター「VPL-VW500ES」(2013年発売)が設置されている。鳥居さんによれば、少なくとも2〜3年は電源を入れていない。コンセントも抜いたままだという。ただし、最後に使用した時点では問題なく動いていた。

下津:壊れているわけではないんですよね。

鳥居:そうです。本当に使っていないだけです。最後に使ったときは普通に動いていました。

長期間動作を確認していないため、現在正常に動く保証はない。しかし、これも市場価値を調べてみると、鳥居さん自身が想像していた以上に値段が残っている可能性があることが分かった。

鳥居:そんなに価値があるなら、一度電源を入れて確認してみようという気にはなりますね。

誤解のないように言えば、プロジェクターを今すぐ外して売ろうという話ではない。天井から取り外すだけでも手間がかかる。本機の質量は約14kgあり、売るとなれば、搬出や配送まで考えなければならない。ただ、「もう使っていないから価値もないだろう」という本人の思い込みと、実際の市場価値が一致するとは限らないのである。

DBR-M3010は「壊れていても価値が残る」例。VPL-VW500ESは「使っていなくても価値が残っている可能性がある」例。市場価値を調べると、同じ「使用頻度ゼロ」でも事情がかなり違うことが見えてくる。

架空劇場の天井に設置された VPL-VW500ES(写真上)

8.ほかの機器も見てみると……

鳥居さんの台帳には、ほかにも使用頻度の低い機器がある。

パイオニアのプラズマモニター「KRP-500M」は、画面右上に赤い画素が常時点灯する。REGZA「DBR-M180」はBDドライブが故障。ソニー「BDZ-AX1000」は長期間電源を入れておらず、現在の状態は未確認だ。

一方、OPPO「BDP-105DJP」のように、使用頻度が下がっていても、鳥居さん自身が「動く限り使う」と明確に残す理由を持っている機器もある。同じ「使用頻度が低い」でも、事情はまったく違う。また、KRP-500Mのような大型機器では、仮に市場価値が残っていても、配送費や搬出の手間が大きい。

つまり、市場価格がそのまま、自分にとっての実質的な価値になるわけではない。送料や販売手数料(メルカリの場合は販売価格の10%)を引けば手元に残る金額は減るし、専門業者に買い取ってもらった方が、金額は低くても手間を含めれば合理的ということもある。市場価格を知ることは、売却を決めることではない。次にどうするかを考えるための材料を増やすことなのである。

9.値段を知ると「愛着メーター」も動く

市場価格を調べている途中、鳥居さんから興味深い言葉が出た。

鳥居:値段がつくと、愛着メーターも動くんですよ。

下津:価値があると分かった途端に(笑)。

鳥居:それなら売ろうと思うのか、「もう少し大事に持っておこう」と思うのかは人によるでしょう。でも、扱いは変わりますよね。

これは意外に重要なポイントだ。市場価格を調べる目的は、高く売れるものを探すことだけではない。自分がその機器をどう見ているのかを客観視する材料になる。

「どうせ誰も欲しがらない」と思っていた故障品に値段がつくと分かれば、一度きちんと状態を確認しようと思うかもしれない。「何年も使っていないから価値はない」と思っていた機器が、今でも探している人のいる製品だと分かれば、扱いも変わる。

反対に、長年「愛着があるから」と残してきた機器が、よく考えてみると単に処分を先送りしていただけだったと気づくこともある。

「自分にとっての価値」と「他人から見た価値」。その両方を一度知ってみる。それでも残したいと思うなら、その愛着は、少なくとも「面倒だから置いてある」だけではなさそうだ。

10.台帳に「メルカリ出品参考価格」を加えてみよう

そこで今回、第1回で作った「AV資産管理台帳」に、「メルカリ出品参考価格」の欄を追加した。

あくまで個人的な台帳なので、正確な査定額である必要はない。「1万〜2万円程度」「正常なら数万円」「ジャンクでも値段がつく可能性あり」といった目安で十分だ。

メルカリ出品参考価格を追加したAV資産管理台帳

今回も、まだ売る必要はない。メルカリのアカウントを作る必要もない。買取業者を呼ぶ必要もない。まず、使用頻度の低い機器について、次の3点を確認してみる。

なぜ残しているのか。

今も動くのか。

今、どのくらいの市場価値があるのか。

「使っていない=価値がない」ではない。「壊れている=ゴミ」とも限らない。大切なのは、すぐ捨てることでも、すぐ売ることでもない。まず、自分が持っているものの「今」を知ることである。それが分かれば、その機器をこれからどうするかも、少し考えやすくなる。

そして、自分がこれまで「愛着」と呼んできたものの正体も、少しずつ見えてくるはずだ。

次回予告
【第3回「売る前に、まず外す」使っていない機器をラックから出してみた】

第1回の記事はコチラ