免震、耐震の専門エンジニアが作ったスピーカーの放射特性を整えるアイテム
今回採り上げる製品は、音の放射特性を整えることで、スピーカーの持つ本来の性能を引き出すというDice Cube JとCubit J。ドライブユニットの放射特性を調整する装置のようだが、この製品を理解するうえで、開発者のバックボーンを知っておく必要があるだろう。
その人は韓国の名門、高麗大学で基礎免震、耐震のエンジニアリングを学んだジェローム・キム(JEROME KIM)氏。専門は橋に関する免震、耐震。基礎免震、耐震、風力学といった知識、経験を活かすべく、ほどなく、橋、ビル、高速鉄道など、風の影響に特化した会社をスタートさせている。
高度な知識、技術が評判を呼び、事業は大成功。世界中の橋梁会社から、橋づくりに関する設計の相談が寄せられ、日本国内でも10基以上の大橋の設計に関わっている。
そして彼の趣味はオーディオ。自宅システムの音質改善に向けて、試行錯誤を重ねる中、たどり着いたのがスピーカーの置き台だった。早速、得意の免震の知識を駆使し、独自のスピーカースタンドを製作したわけだが、その音の良さが話題となり、注文が相次ぐ。
2012年にはスピーカースタンド、バイブレーションリダクション・インシュレーターなど、10モデルを製品化し、オーディオブランド、TAKTを発足させた。
次に着目したのが、スピーカーのエンクロージャーの問題だ。ユニットの潜在能力を存分に引き出すには、前面や天面、そしてエッジと、エンクロージャーに起因するノイズの低減が不可欠。この問題が払拭できれば、スピーカーの音が飛躍的に良くなる確信があったという。
そこから約2年の歳月をかけ、様々な形状のスピーカーの放射パターンを独自に解析。放射される音がエンクロージャーの存在による悪影響を受けないよう調整するS.R.A(Sound Radiation Adjuster。放射特性調整器)を完成させた。その成果が今回紹介するサイコロ型の「Dice Cube J」とタワー型の「Cubit J」というわけで、いずれも日本限定のカスタマイズを受けた製品となる。
ウエストレイクのラージモニターでDice Cube Jの大きな効果を実感
ではさっそく山中湖ラボのシステムでその効果を試してみよう。今回はウエストレイクBBSM15とリンAV5140という2種類のスピーカーでQobuzの音源を再生し、Dice Cube JとCubit Jの効果を検証した。
TAKT
Sound Radiation Adjuster
Dice Cube J
¥110,000 (ペア)税込
●寸法/質量:W55×H55×D55mm/350g
●付属品:滑り止め用シート×2
スピーカーの放射特性を調整し、ドライバーユニット本来の性能をフルに発揮させるという新しい発想で作られたアイテム。7075という超々ジェラルミン素材を55mmのキューブ状に精密削り出し加工、さらに角度や深さの異なる穴が緻密な計算の上、設けられている。個体には左右が指定されており、左右認識用の刻印が施されている。写真は、「dice³ JL」の印があるL(左)チャンネルの用の個体
まずは約5.5cm四方の立方体としてデザインされたDice Cube Jは、スピーカーシステムのユニット配置によって、最適な設置場所が異なるため、セッティング時には取り扱い説明書をしっかりと確認することが大切だ。
たとえばBBSM15は、ホーン型トゥイーターが本体中心に、その真下に25cm径のミッドレンジが、さらにその下に38cm径のウーファーが2基、シンメトリーに配置。本体天板の中央の奥にエラックのスーパートゥイーター4Pi PLUS.2を追加設置している。
このBBSM15スピーカーの場合は、天板左右中心、フロントバッフル先端位置に設置するのがセオリー。4Pi PLUS.2はDice Cube J設置の邪魔にならないため、今回の試聴ではそのまま使用している。
Qobuzによるハイレゾ音源で聴き慣れた楽曲を中心に再生してみたが、まず声の定位、響きの拡がり、空間の厚みと、目の前に表れる音の変化に唖然としてしまった。
山中湖ラボのBBSM15の場合、スクリーン下に設置されているため、低めの設置(スピーカー最上部の天板位置で高さは80cm弱)を強いられている結果、ステレオ再生では声はやや下目のファントムセンター定位となるが、Dice Cubeを設置すると、その印象が大きく変わる。
リンダ・ロンシュタット、ユーミンの歌声はバックの演奏と一緒に、上方にグッと引き上げられ、音場が立体的に拡張される。「デスペラード」ではピアノとヴォーカルで静かに始まり、その歌声は切なく響き、徐々にエモーショナルに盛り上がっていくが、その時のリバーブの重なりが団子状にならず、鮮明に描き分けられる。ここまで緻密に、響きのグラデーションがリアルに感じとれるとは……。
チョ・ソンジンが奏でるピアノでも、音離れの良さ、音像のリフトアップ、豊かな音場の拡がりと、その効果は明らか。まさに演奏会場の空気感が伝わってくるかのような生っぽさで、これぞハイレゾと言わんばかり雄大さ、スケール感を体験することができた。
取材は藤原さんのご自宅シアタールーム「山中湖ラボ」で実施した。メインスピーカーのウエストレイクBBSM15の天板にまずDice Cube Jをセットした
タワー型アイテムCubit Jでは響きの拡がり、低域の分解能が改善
手のひら大のDice Cube Jでここまでの効果が得られると、自ずと、Cubit Jへの期待が高まる。使い方はスピーカー本体の内側、バッフル面と合わせるように床置き設置するというもの(スピーカーとの接触はNG)。
Sound Radiation Adjuster
Cubit J
¥275,000 (ペア)税込
●寸法/質量 : W95×H440×D120mm/3.45kg
●付属品 : アルミニウム合金ベース×2
スピーカーシステムの内側の床に配置するタイプの放射特性調整アイテムがCubit J。ドライバーユニットは、キャビネットなしで空中に固定された状態で音を放射するのが理想だが、現実には実現不可能であり、キャビネットからの影響をどのように抑えるかがスピーカー設計者の腕の見せどころともいえる。この必要悪ともいえるキャビネット部分での放射特性への悪影響を低減するアイテムがTAKTである。その詳細技術は非公開ながら、様々なノウハウや理論が適応されているようだ
低域ユニットの放射調整に重点を置いた設計だが、必ずしもウーファーの真横に設置されている必要はない。たとえスピーカースタンドに設置したブックシェルフ型でも、スタンド内側の床に置くだけで、低域だけでなく、全帯域に渡って確かな恩恵が得られるという。
まずBBSM15のエンクロージャー端とCubit Jの最下部の間隔を15cm離して設置してみたが、音の変化は意外に少ない。わずかに低域が締まり、声の艶感が向上した印象だが、Dice Cube Jと比べると、効果は控えめに思える。そこで間隔を8cm、3cmと距離を変えながら、音の変化を確認したところ、声のニュアンス、響きの拡がり、低域の分解能と、確かに印象が違う。山中湖ラボの環境では8cmの間隔が最も好ましい効果が得られた。
Dice Cube Jをセットしたまま、本体内側にCubit Jを配置。本体とのCubit Jの間隔を15cm/8cm/3cmなど様々試すと効果が変化。写真の8cmの場合が最も望ましい効力が感じられた
トールボーイ型スピーカーではさらに大きな効果を実感した
次にトールボーイ型スピーカー、リンのAV5140との組合せを試す。本機は、一般的なスピーカーとは異なり、トゥイーターをミッドレンジの下に配置し、しかもウーファーは筐体背面に後方に向けて設置されているスピーカーとなる。ミッドレンジの下側にトゥイーターを配置したスピーカーの場合は、Dice Cube Jは、フロントバッフルからDice Cube Jの奥行と同じ分だけ、つまりスピーカー天面の先端から約5.5cm奥まった位置への設置を推奨している。今回は、Dice Cube Jをこの指示通りに設置して、Qobuzで楽曲再生。トゥイーター設置位置の関係なのか、もともとAV5140は高さ方向の豊かな空間の拡がりをアピールするタイプではなかったが、Dice Cube Jが加わると、目の前の音場空間が立体的に拡張され、天井方向の拡がりに余裕が生れる。
リンのAV5140はウーファーユニットを本体背面の中央付近に配置、バスレフポートを前面下部に備えたスタイル。本機の場合は、どこにCubit Jを配置するのが理論的に正しいのか、輸入代理店に確認すると後方に配置することが理屈では正しいが、ケース・バイ・ケースなので一概にはいえないとのこと。ということで、前面に配置した状態(写真左)と後方に配置した状態(写真右)の両者を試す。ここでは理論通り、後方配置の状態が望ましいようだった
リンAV5140スピーカーへのDice Cube J設置イメージ
ウエストレイクのBBSM15は、大型スタジオモニター用途のモデルで、やや特殊なスタイルのスピーカーなので、比較的一般的なモデルと思われるリンのトールボーイスピーカーAV5140での効果も試す。マニュアルによると、高域ユニットが中域ユニットより下に配置されたAV5140のようなスタイルの場合は、Dice Cube Jは天板の先端ではなく、Dice Cube Jを1つ分(つまり55mm)奥に配置するという指定があり、それに従っている
声の定位は大きく変わる印象はないが、空間の拡がりに余裕が感じられ、響きの質感も向上する感覚だ。チョ・ソンジンのピアノはホールに拡がる微細な響きの浸透力が増して、スピーカーからの音離れがいい。
この状態でCubit Jを加えてみよう。AV5140の左右スピーカーの内側に約5cm離して設置してみたところ、ベースの躍動、ピアノの響き、声の艶っぽさと、音が明らかに変化。ストレスのない清々しいサウンドが確認できた。
ただ「もう少し、いけそう」という感覚が残る。そこでセッティングを一工夫。Cubit Jを180度回転させ、ウーファーを配置している背面に合わせて設置し直してみたところ、ここでにわかに目の前に拡がる風景が変った。
特にベース、バスドラムといった低音の響きが引き締まり、軽やかに躍動する様子が好ましい。音の芯、骨格を明確に感じさせる分解能の高さで、空間の拡がりにも余裕がある。繊細さと力強さを併せ持ったような印象で、とにかく聴いていて楽しいサウンドなのである。
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こんな小さな装置でここまでスピーカーの表現力が変わってしまうとは……、驚きだ。それも声のニュアンス、響きの質感といったミクロ的な変化に止まらず、音離れが良く、低音が締まり、空間としての厚みが増すなどマクロ的な変化をもたらす。音響アクセサリーの革命といったら言い過ぎかもしれないが、テスト直後の今の気持ちはその感覚に近い。
[使用した機器]
●ネットワークプレーヤー/コントロールアンプ : エソテリックN-05XE
●パワーアンプ : マークレビンソンNo332L
●スピーカーシステム : ウエストレイクBBSM15+エラック4PI Plus.2、リンAV5140
>本記事の掲載は『HiVi 2026年秋号』