トップウイングの「Sonic Corrector」は、いわゆる海苔音源の音質を補正するアナログアクティブフィルター。前回はStereoSound ONLINE試聴室のスピーカーシステムで試したところ、多くの楽曲で音の粒立ちが良くなり、一枚の絵のごとく平面的に音が配置されたように再現されがちなところを、立体感が出て、より生き生きとした音になることもあって、まるでCDの音が生演奏に変わったような印象を受けた。元の楽曲の印象はまるで変わらず、元々の楽曲の良さがより鮮やかに再現される。実によくできた製品だと感じた。

 その効果に驚き、自宅でも使わせてもらっている。そこで今回は、ヘッドホンでもアニソンを聴いてみることにする。現在はスピーカー再生だけでなく、ヘッドホンでアニソンだけでなく、さまざまな音楽を楽しんでいる人も多いだろう。ヘッドホンは、音源(音を出すドライバー)が耳の直近にあり、距離をおいた位置にあるスピーカーで鳴らす時とは、聴こえ方がやや違うというのはご存じだろう。

 特に音場感のような音の広がり、音に包まれる感じはかなり変わるはずだ。当然スピーカー再生を好む人もいるし、ヘッドホン再生が好ましい人もいる。これは個人の“好み”であって、どちらが優れるというほどのものではない。このあたりの微妙な感触の違いをひとつの記事で紹介するよりも、それぞれ分けた方が読者諸氏にもSonic Correctorの効果を理解してもらいやすいと考え、記事を分割している。

アクティブアナログフィルター:
TOP WING Sonic Corrector TW-SC-STD ¥99,000(税込)

●接続端子:アナログ入力2系統(XLR、RCA、排他)、アナログ出力2系統(XLR、RCA、同時出力)
●搭載フィルター:RECOVER、DE-EMPH、ANTI-ALIAS、独立オン/オフ設定可能
●各入出力ゲイン:RCA入力時には付属のショートピンをXLR入力に挿し込むことでゲイン調整が可能。RCA入力時:-6dB(ショートピン無し)、0dB(ショートピン有り)、XLR入力時:6dB
●THD+N:-102dB以下
●残留ノイズ:-9uVrms以下
●寸法/質量:W235✕H50✕D187mm(突起物等を含む)/1.3kg

Sonic Correctorの効果を、ヘッドホンシステムで聴く

 使用したヘッドホンは、ハイファイマンの「ANANDA UNVEILED」、駆動するヘッドホンアンプをイヤーメン「CH-AMP Signature」とした。

 ANANDA UNVEILEDは独自の平面振動板を使用した平面磁界型と呼ばれるタイプ。振動板の後ろをエンクロージャーで覆って音を外に漏れなくする密閉型ではなく、エンクロージャーに開口部を設けた解放型を採用している。ANANDA UNVEILEDはさらに開口率を高め、振動板の後ろから出た音が可能な限り振動板の動きに影響を与えないようになっている。非使用時は保護用のカバーを取り付ける必要があるなど扱いには少し注意が必要だが、こうした大胆な設計を採用したこともあり、振動板の前後の動きが完全に対称になるという理想的な動作が実現できている。

 音波というものは、一定のサイクルで山と谷を交互に繰り返している。たくさんの音が重なると波形は複雑な形になるが、基本はすべて同じ。山と谷の高低やサイクルが変わると、音が変わる。

 ANANDA UNVEILEDに話を戻すが、振動板の前後の動きが完全に対称になるということは、音の波形も完全に近い再現が可能になる。近年、ヘッドホンの世界でも平面磁界型が人気があるが、そこにはこうしたメリットがある。

 イヤーメンのCH-AMP Signatureは、音の良さも評価が高いが、一辺が10数cmというコンパクトさも魅力。机の上でも邪魔にならず使える。アナログ入力のほか、USB入力も可能で、Bluetoothも備える。さらに、ヘッドホン出力(6.3mm標準ジャック、4.4mmバランス出力)のほか、RCA音声出力もあるので、アクティブスピーカーなどを接続してプリアンプとしても使える。

今回は、鳥居さんにハイファイマンのオープン型ヘッドホン「ANANDA UNVEILED」(右)と、EARMENのヘッドホンアンプ/プリアンプ「CH-AMP Signiture」(左)をお預けして、自宅で試聴していただいた

 取材用のヘッドホンとヘッドホンアンプは、筆者がそれぞれの実力をよく知っているものを選んだが、偶然にもSonic Correctorの、海苔音源の振幅を復元し、元の音源に近い波形を再現する能力を確かめる上でも、ちょうどいい存在だった。

 試聴では、ネットワークプレーヤー+D/Aコンバーターの出力をSonic CorrectorにXLRケーブルで接続。Sonic Correctorの出力をCH-AMP SignatureのRCA入力に接続している。

ヴォーカルの繊細なニュアンスを聴き取りたいなら、ヘッドホン再生は魅力的

 さっそく聴いてみよう。ANANDA UNVEILEDが音場感の豊かなタイプということもあり、ステージが立体的に再現される。「RECOVER」フィルター(海苔音源化された楽曲の振幅を蘇らせる)をオンにして聴くと、やはり音の粒立ちが良くなり、奥行きの豊かなステージ感になる。全体的な印象としては、低域の力感が増し、ベースラインがしっかりと感じられ、リズム感の良い再現になる。

 このあたりはスピーカー再生と共通した印象だが、ヘッドホン試聴では、ディテイルがより細やかになり、ヴォーカルなどの表情が豊かになったと感じる。ベースのリズムにしても、アタックが力強くなるだけでなく、その後の残響までより鮮明になっているのがわかる。平面磁界型のANANDA UNVEILEDを使っているため、そうしたデリケートなところまでわかりやすくなっているのだろう。音の波形が正確に再現されている、というと身も蓋もないのだが、海苔音源化で圧縮され、ギュッと押さえつけられていたものから解放され、より軽やかに音が弾んでいるという感覚がある。

 「JANE DOE」は、宇多田ヒカルと米津玄師の声質の違いや歌い方のニュアンスが出てきて、より魅力的に感じる。宇多田ヒカルの「One Last Kiss」は、最近のポップスでも多い、シンセサイザーなどの電子楽器で音に包まれるような効果が加わっているが、頭というか、身体全体が音に包まれている感じがよりシームレスに再現される。これも、海苔音源から復元された波形が正しく再現されている効果だろう。

ヘッドホンで「Sonic Corrector」の効果を確認したい場合は、ソース機器とヘッドホンアンプの間にSonic Correctorを経由させればいい。RCAとXLRの2種類のアナログ入力を備えているので、様々な機器を接続可能だ

 音数をギュッと詰め込んだ感じのaimer「残響散歌」はにぎやかというか、やかましい感じが減り、パワフルでエネルギッシュなのに、ヴォーカルはもちろん、打楽器のひとつひとつの音をつぶさに聴き取れるような印象になる。

 クラシックの愛聴曲も再生してみた。Sonic Correctorオン/オフでの音の変化はアニソンよりは少ないものの、音の粒立ちや個々の音の分離が良くなったような感じになる。特に余韻や残響が美しく減衰していく様子が印象的だ。

 アニソンの多くで音がガチャガチャした感じになるとか、音同士が窮屈そうに鳴っている感じが、Sonic Correctorを通すことで減るのはスピーカー再生でも同様だが、そのあたりの乱雑な感じが耳障りになるという人は、ヘッドホン試聴だとより効果的に感じるだろう。

動画配信のアニメ番組で、Sonic Correctorの効果はあるか?

 実は、Sonic Correctorを自宅でも使ってみたいと思ったのは、テレビアニメの音はどうなるかを試してみたかったのも理由のひとつだ。今のテレビアニメの音(というかテレビ放送の音全般)は、前回解説した

 ダイナミックレンジの規制が行われているとはいえ、家庭での再生環境に向けてある程度のダイナミックレンジ圧縮は今も行われている。また、主題歌はCDや音楽配信用に制作された音源を使っているので、明らかに海苔音源だ。耳の良い人は気付いていると思うが、アニメ番組の主題歌と本編で音質が異なっているのはこのため。

オープン型ヘッドホン:HIFIMAN ANANDA UNVEILED ¥86,900(税込)

●再生周波数特性:5Hz~55kHz
●感度:93dB
●インピーダンス:22Ω
●質量:449g(付属のカバーとケーブルは含まず)

 2018年に発売された「ANANDA」が「ANANDA UNVEILED」に進化。メッシュグリルを取り外し、NEOスーパー振動板の厚さもANANDAまで薄膜化、強化マグネットを搭載するなど、細かい改良が多く施されている。その結果、音場が広がり、奥行きも増し、ピュアなサウンドを体験できるようになっているという。

 だからSonic Correctorの効果もきっと得られると思い、試してみた。接続は動画配信サービスのアニメ番組を利用することにした。Apple TV 4KのHDMI出力をAVプリアンプのマランツ「AV10」に接続し、AV10のプロントチャンネル用プリアウトをSonic Correctorに接続、その出力をパワーアンプのマランツ「AMP10」に送っている。再生モードは2.1chのステレオ再生だ。

 アナログ出力を備えた動画配信プレーヤーやBDレコーダーを使うなら、再生機器とプリアンプの間に挟んでもいい。薄型テレビの内蔵アプリで再生するなら、テレビの音声出力(多くの場合ステレオミニ端子なので、ステレオミニ→RCA変換ケーブルを使う)でSonic Correctorに接続し、そこからアンプにつなぐことになる。

 接続が完了したらさっそく試聴。気に入っている『転生したらスライムだった件 第4期』『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』『令和のダラさん』などなど、アニメの動画配信を見てみたが、予想どおり、主題歌部分はもちろん、本編部分でもセリフが明瞭で聴きやすくなる。アクションパートなど、BGMに効果音と、多くの音が重なる場面でもセリフが聞こえにくいということもないし、むしろそれぞれの音が明瞭に分離して聴き取りやすくなる。こう言ってはなんだが、テレビアニメでもしっかりと作り込まれている作品が案外多いことに驚いた。

 今回の取材に際し、開発者であるトップウイングの菅沼洋介さんに、「Sonic Correctorは、テレビアニメの音も効果はあるでしょうか?」と質問していた。その時におすすめしてもらった『怪獣8号』の第1話は、“これは劇場用アニメか?”と驚くほど緻密な音響制作がされていて驚いた。なお、Sonic Corrector無しだと、ドカンドカンと激しい爆発が連続し、BGMが派手に鳴り響くという。その状態では、ここまで緻密な音響制作が行われているとは感じにくいだろう。

ヘッドホンアンプ/プリアンプ:
EARMEN CH-AMP Signiture オープン価格(市場想定価格¥198,000前後)

●接続端子:USB Type-C、アナログ入力(RCA、4.4mm BALANCE)、ヘッドホン出力(6.35mm、4.4mm BALANCE)、アナログ出力(RCA)
●USB-C入力再生フォーマット(最大):PCM 768kHz/32ビット、DSD256
●寸法/質量:W150×H30×D150mm/550g(本体)、W150×H60×D150mm/1590g(電源)

 「CH-AMP Signiture」はUSB DAC内蔵ヘッドホンアンプで、768kHz/32ビットとDSD512のデジタルファイルの再生も可能。内部は完全バランス構成で、4.4mmバランス端子と6.3mmの2系統のヘッドフォン出力も搭載している。RCA出力も備えているので、プリアンプとしても使用可能だ。

 音響監督を岩波美和さんが担当していて、安定して音が良いと感じることが多い『この素晴らしい世界に祝福を!』を観ると、“この音は劇場版でやれ!” と言いたくなるような轟音を収録している「エクスプロージョン!」の場面の迫力は文句なし、それでいてセリフも潰れず、BGMもしっかりと聴き取れる絶妙なバランスで仕上がっていることが改めて確認できた。いや、これは面白い。

 Sonic Correctorの良いところは、音楽の場合と同じく、動画でも悪いところを補正するというより、元々の音源の良さを引き出すように働くので、違和感を覚えることがない。しかも作り手が手間暇をかけて制作した苦労がわかるというか、音の出るタイミングをずらして、複数の音がカブらないようにするといった仕事ぶりまで聴き取れる音になっている。

 もちろんすべてのアニメ作品で高い効果があるわけではなく、多くは明瞭で聴きやすくなる程度だが、力を入れて制作したものはその良さがよりよくわかる音で楽しめる。これは毎週のアニメを見るのが楽しくなると感じた。筆者と同じくらいアニメ好きで、主要なアニメ番組は欠かさず視聴しているような人は、ぜひSonic Correctorでアニソンだけでなく、アニメ番組の視聴も体験してほしい。

 このように、Sonic Correctorは様々なシーンで有効だった。ここでは話をアニメに限っているが、アニソンだけでなく、ポップスやロック系の、今ヒットしている曲のほとんど、さらにテレビアニメやドラマなどの放送全般にも効果がある。アニメに限らず、好きな作品をとことまでしゃぶりつくしたいなら、ぜひSonic Correctorに注目してほしい。

(撮影:相澤利一)