ラジカセ、コンポ、ウォークマン――そしてオーディオ&ビジュアル黄金期。その時代をリアルタイムで楽しんできた世代にとって、趣味の機材やソフトは単なる「モノ」ではない。青春の記憶であり、長年かけて築き上げた情熱の結晶だ。一方で、音楽や映像の楽しみ方はストリーミング中心へと移り変わり、手元に残った膨大な機材やソフトをどう管理し、どう次世代へ引き継ぐかが、多くの愛好家にとって新たな課題になっている。本連載では、あなたにとっての「名機」を家族の「負債」にしないために、AV機器やソフトを「AV資産」として見える化し、整理・管理する方法を紹介する。大切なコレクションを未来へつなぐための実践術を考えていきたい。

第1回 "捨てない"終活。まずはAV資産を「見える化」する

筆者プロフィール

鳥居一豊/オーディオ・ビジュアル評論家

雑誌編集を経てフリーランス。AVに加え、PCオーディオ、ヘッドホン、ガジェット分野にも造詣が深い。自ら設計したシアター空間「架空劇場」はドルビーアトモス/DTS:X対応の6.2.4構成。最高の映像と音を求め、日々システムを更新している。大のアニメ好きでもあり、深夜アニメのエアチェックも欠かさない。

1.まずは「何を持っているか」から

音楽や映像をストリーミングで楽しむことが当たり前になった今、かつて主役だったアンプ、レコーダー、プレーヤー、ビデオデッキ、BD、DVD、LD、CD、レコードなどを使う機会は少しずつ減っている。機器はリビングのラックに鎮座したまま、ケーブルやリモコン、電源コード、取扱説明書は別の収納へ散らばり、本人以外には「何に使うものか」「価値があるのか」さえ分からない状態になりやすい。

この記事を書いている私(下津)も、まさにその一人だ。月刊誌『特選街』の編集部にいた頃は、仕事柄、毎日のように新製品の情報に触れていた。テレビ、レコーダー、オーディオ、カメラ、パソコン、デジタルガジェット、生活家電。新しい技術や機能が登場すれば記事の企画を考え、必要であれば自分でも機器を購入して試した。自宅にプロジェクターとスクリーンを備え、天井スピーカーまで組み込んだホームシアターを作ったのも、その延長線上にある。

ホームシアターは今もそのまま残っており、使用できる状態にある。ただし、使う頻度は当時に比べてかなり減った。映画を見るにしても、以前のようにスクリーンを天井から下ろし、照明を落とし、音響システムを整えて一本をじっくり見る機会は少ない。テレビのストリーミング機能やスマートフォンで、手軽に済ませることの方が多くなったからだ。

音楽や映像の楽しみ方の変化

筆者(下津)のホームシアター

2021年に『特選街』が休刊し、編集部を離れてみたところ、機器の買い方も驚くほど変わった。仕事で最新製品を追いかける必要がなくなると、新しいテレビやオーディオ機器、デジタルガジェットなどをほとんど買わなくなったのである。 

自分はもともと無類のモノ好きだと思っていた。しかし振り返れば、その「モノ好き」の半分くらいは仕事だったのかもしれない。もちろん、映像や音への興味がなくなったわけではない。ホームシアターもそのまま残っている。ただ、新しいものを迎え入れる時期が終わったことで、今度は「すでに持っているもの」が見えるようになった。

かつて人生の一時期を共にしたアンプやレコーダー、プレーヤー、そして棚を埋め尽くすディスクメディア。さらにカメラやガジェット、便利家電まで、自宅には驚くほど多くの機材が残っている。

それらはAVラックに並び、書斎の棚やクローゼットの中に積まれている。ケーブルやリモコン、アクセサリー類は整理ケースの中で眠ったままだ。

どの機器のものなのか判断がつきにくいケーブル類の一部

これらは自分にとっては人生の記憶であり、長年積み重ねてきた趣味の足跡でもある。しかし家族にとっては、価値も使い方も分からない「重くて邪魔な荷物」に見えてしまうかもしれない。オーディオやビジュアル機器は、その価値や扱い方が本人以外には極めて分かりにくいからだ。

「自分に何かあったら、そのときは家族が業者に頼んで全部処分してくれればいい」——そう考えている人も多いだろう。確かに、お金を払えば処分はできる。しかしそこには決して安くない費用がかかり、業者の手配や立ち会いなど、残された家族に少なくない手間を強いることになる。何より、大切にしてきた機材が、その価値を誰にも分からないまま一括で処分されてしまうかもしれない。

だからこそ、一度立ち止まって、自分のAV資産を整理してみる意味がある。それは将来への備えであると同時に、自分自身が「何を持っているのか」を改めて把握し、これからも趣味を気持ちよく楽しみ続けるためでもある。

本連載が目指すのは、「今すぐ捨てましょう」と迫ることではない。テーマは「捨てない。価値を守って、次へ渡す」。

長年AV機器の取材や試聴でご一緒してきた鳥居一豊さんと、同じ世代の愛好家として悩みを共有しながら、何から始めれば無理なく整理できるのかを一緒に考えていきたい。オーディオやビジュアルに精通したベテランはもちろん、「詳しくはないけれど、そろそろ何とかしなければ」と感じている人にも、肩の力を抜いて読んでもらえる連載を目指す。

第1回で行うのは、重い機器を動かしたり、必要・不要を決めたり、査定に出したりすることではない。まず、手元に何があるかを記録し、自分のAV資産を俯瞰できる状態にする。それだけである。

2.いきなり捨てなくていい

取材場所:鳥居一豊さんの自宅シアター「架空劇場」

下津:鳥居さんとは、私が『特選街』編集部にいた頃から長く仕事をご一緒してきました。この「架空劇場」に来るたびに思うんですが、よくここまで機材が入りますよね。

鳥居:それ、褒めています?

下津:半分は(笑)。もう半分は、これを将来どうするんだろう、と。

鳥居:そこは僕も考えていますよ。考えてはいるんです。

下津:「考えてはいる」という言い方が、少し怪しいですね。

鳥居:でも、下津さんのところも相当でしょう。ホームシアターは今も残っているし、レコードもCDも、カメラもある。

下津:人のことは言えません。しかも、何のケーブルか分からない箱まであります。先日開けたんですが、一本も捨てられずに、そのまま閉じました。

鳥居:それは案外、正しい判断かもしれません。古い機器を使うときに、その一本が必要になることがありますから。

下津:そう言われるから、また捨てられなくなるんですよ。

鳥居:だから、いきなり捨てる話から始めない方がいいんです。まず、何があるかを確認する。そこからでしょうね。

下津:そういえば、『特選街』にいた頃は、毎日のように新製品の情報を追っていました。鳥居さんにも、新しい機器が出るたびに原稿や試聴をお願いしていました。

鳥居:そうでしたね。下津さん自身も、かなり買っていたでしょう。

下津:買っていました。でも、2021年に『特選街』が休刊して独立したら、ほとんど新しい機器を買わなくなったんです。

鳥居:仕事で追いかける必要がなくなったからですか。

下津:たぶん、そうなんです。自分は生まれつきの物好きだと思っていたんですが、今になって考えると、半分くらいは仕事のためだったのかもしれない。

鳥居:半分ですか。残り半分はまだ相当ありそうですけど(笑)。

下津:だから家にこれだけ残っているんでしょうね(笑)。でも、新しいものを買わなくなったことで、今あるものが急に目に入るようになったんです。

鳥居:増えている間は、整理するより次の製品に興味が向きますからね。増加が止まって初めて、手元に何が積み上がったのかが見えてくる。

下津:そうなんです。ホームシアターは撤去していませんし、機材への愛着もあります。ただ、新製品を追いかけていた頃とは、モノとの距離感が変わった。その変化も、今回この連載を始めようと思った理由の一つです。ただ、正直に言うと、私はステレオサウンドの読者の皆さんのような「ストロングスタイル」のオーディオファンではないです。ホームシアターは今もありますが、使う回数はかなり減りました。映画を見るときも、テレビの配信サービスで済ませることの方が多い。そんな私が、この連載の聞き手でいいのだろうか、という気持ちもあります。

鳥居:そのくらいが、むしろこの連載には合っていると思いますよ。環境は残っていても、使い方や頻度は変わる。今は便利なものを使いながら、以前の機材も手元にある。そういう人の方が多いでしょう。

下津:確かに、テレビやレコーダー、カメラ、デジタルガジェットまで含めると、オーディオマニアだけの問題ではありませんね。

鳥居:そうです。高価な機材を持っているか、専門知識があるかに関係なく、「かさばる」「使わないうちに状態が変わる」「家族には引き継ぎにくい」という悩みは共通しています。むしろ詳しくない人ほど、価値や処分方法が分からず、そのままになりやすい。

下津:私は今、仕事で片づけや家事の実用書を作ることもあるのですが、AV機器や付属品、ケーブルは、一般的な片づけの方法だけでは整理しにくいと感じています。大きくて重い。用途が分からない。価値があるのか、もう処分していいのかも判断できない。だから後回しになる。

鳥居:その点では、僕も片づけの先生ではありませんからね。機材のことは分かっても、自分のケーブルを全部説明できるかと言われると、かなり怪しい(笑)。

下津:そこは少し安心しました。片づけの達人に教わる企画ではなく、同じようにモノを抱えている者同士で考える方が、この連載には合いそうです。

鳥居:下津さんが生活者や編集者の目線から「こうすれば整理できるのでは」と考える。僕はAVの側から、「それは査定に影響する」「これは古くても残す価値がある」「この付属品は捨てない方がいい」と補足する。そのくらいの役割分担が自然でしょう。

下津:では、最初からラックの機器を下ろしたり、必要・不要を決めたりするのではなく、まず「何を持っているのか」を書き出すところから始めるのはどうでしょう。機器を動かさず、型番や付属品、使っている頻度だけを確認する。いわば、片づける前の棚卸しです。

鳥居:それなら僕にもできそうです(笑)。見る、型番を控える、分かる範囲を台帳に書く。それだけでも、「これは今も使っている」「これは去年買ったのにほとんど使っていない」「これは古いけれど価値を調べた方がよさそうだ」と、手持ちの機材を少し客観的に見られるようになります。

下津:最初から汗をかく必要はない、と。

鳥居:そうです。片づける前の心の準備として、まず台帳を作る。そこから始めましょう。

下津:話してみると、AV機器の片づけが難しい理由は、単に数が多いからだけではなさそうですね。

鳥居:大きく分けると、「かさばる」「使わない間にも状態が変わる」「本体と付属品が離れてしまう」の三つでしょうね。

下津:この三つが重なるから、本人以外には正体も価値も分からない状態になる。

鳥居:ええ。だから、動かす前に記録しておく必要があるんです。

3.なぜAV機器は片づけにくい?

1 かさばる

スピーカー、アンプ、レコーダーなどの機器は、現代の住環境では大きなスペースを占める。重いものは家族だけでは安全に動かせない。

2 放置で状態が変わる

精密機器やメディアは、長期間使わない間にも劣化する。リモコンの電池の液漏れ、ゴム部品の劣化、コンデンサや基板、接点の腐食など、見た目では分かりにくい問題も多い。

3 本体と付属品が離れる

本体、純正リモコン、純正電源コード、専用ケーブル、充電器、取扱説明書などが別々になると、本人以外には一式を再構成できない。売却時の査定や再利用にも影響する。

これらを放置すると、家族には「正体も価値も分からないパズル」が残る。だからこそ、機器を動かす前に、何があり、何が揃っていて、どこにあるのかを記録しておく必要がある。

4.まずは10点だけ書き出してみる

STEP 1 今回確認する範囲を一箇所だけ決める

家中の機材を一度に調べようとしない。リビングのAVラック一段、書斎の棚一段、整理箱一つなど、今回見る範囲だけを決める。大型機器は無理に動かさず、見える範囲から始める。最初の目標は10点程度でいい。

まずは見えるところから

STEP 2 メーカー名と型番を確認する

型番は機器の「戸籍」にあたる。前面の製品名だけではなく、背面、側面、底面などに貼られた銘板やラベルを確認する。簡単に見えない場合は、機器を無理に動かさず「未確認」と記入しておけばいい。スマートフォンで銘板を撮影し、後で拡大して読む方法も便利だ。

型番が分かれば、製品仕様、発売時期、対応端子、中古流通状況、修理可否などを調べる手掛かりになる。古い製品では情報が少ない場合もあるが、型番は調査と査定の出発点になる。

鳥居 :古い機器ほど、型番が分かるかどうかで、その後の調べやすさが大きく変わります。すぐに価値まで判断できなくても、「これは何という製品なのか」が分かるだけで、家族にとっては正体不明の箱ではなくなります。

型番を控える

STEP 3 使用頻度と付属品を記録する

型番を控えたら、現在どの程度使っているかを記録する。細かな回数は必要ない。「日常的に使う」「ときどき使う」「ほとんど使わない」「現在は使っていない」の4段階程度で十分だ。使用頻度は、思い入れとは別に、今の生活に必要な機器かどうかを客観的に見る材料になる。

次に、購入時の付属品を確認する。特に重要なのは、純正リモコン、純正電源コード、取扱説明書、専用ケーブルである。ビデオカメラではバッテリーと充電器、機種によっては記録用メモリーカード、古いレコーダーではB-CASカードなども対象になる。探し回る必要はない。「ある」「ない」「未確認」を記録するだけでいい。

下津:電源コードって、形が同じなら代用できると思ってしまいます。そこまで純正かどうかを見られるものなんですか。

鳥居:見られることがあります。僕も以前、手元にあった別の電源コードを付けて買い取り査定に出したら、「純正ではない」という理由で減額されました。正直、そこまで見るのかと思いましたが、中古査定では一本のコードも付属品なんです。

下津:付属品が別の場所にある場合、無理に本体のところへ集めなくてもいいですよね。家の中で移動させると、それはそれで迷子になりそうです。

鳥居:それでいいと思います。ただし、どこに保管したかは台帳に書く。本体だけあっても、付属品の場所が分からなければ、家族は結局セットを再構成できませんから。

元箱は大型機器を安全に輸送する際には役立つが、中古査定への影響は製品や買取店によって異なる。置き場所を圧迫する場合は、元箱の中に入っている付属品を取り出し、製品ごとの袋にまとめて保管する方法もある。

まずは「ある・ない」をチェック

5.そのリモコン、電池は抜く?

下津:台帳にリモコンの状態を書くなら、長く使っていないリモコンは電池を抜いておいた方がいいですね。ずっと使っていなかった古い機器のリモコンを確認したところ、電池が液漏れして端子が腐食しているものがありました。

鳥居:それはよくあります。使用頻度が下がったリモコンは、動作を確認したうえで電池を抜いておく方が安全です。本体の名称を書いた袋に、取扱説明書や純正電源コードなどと一緒にまとめておけば、後で探しやすくなります。僕は大きめのジップロックの袋に入れて保管しているものが多いですね。

下津:壊れてしまったリモコンは、処分してもいいものでしょうか。

鳥居:古い機器では、故障したリモコンでも修理や部品取りに使えることがあります。「故障しているが現物はある」と「紛失して存在しない」は別の情報です。台帳でも分けて記録しておきたいですね。

6.「AV資産管理台帳」をつけてみよう

今回配布する台帳には、第1回で記入する基本項目と、後続回で少しずつ埋めていく判断項目を用意した。最初から全欄を埋める必要はない。第1回では、メーカー、型番、本体の場所、使用頻度、リモコン、純正電源コード、取扱説明書、その他付属品、付属品の場所、購入時期が分かれば十分である。

ファイルは以下のリンクからダウンロード可能。Excel版はパソコンで入力でき、印刷用シートはA4用紙にプリントアウトして手書きで記入できる。分からない項目は空欄にせず「未確認」と記入する。未確認であること自体が、次に調べるべきポイントを示す情報になる。

DL01:Excel版をダウンロード DL02:印刷用PDF版をダウンロード 

台帳の記入ポイント

備考欄も重要

AV資産管理台帳(鳥居)記入例

AV資産管理台帳(下津)記入例

7.今日はここまででOK

何度もいうが、今回は、捨てるものを決めなくていい。機器を運び出さなくてもいい。まず一箇所を選び、10点だけ台帳に記録する。そこまでできれば、第1回の作業は完了だ。

台帳に並んだ機材を眺めると、「今も使っているもの」「長く使っていないもの」「付属品を探す必要があるもの」「価値を調べるべきもの」が少しずつ見えてくる。大切なのは、すぐに結論を出すことではない。まず自分の持ち物を、愛着だけでも、処分の面倒さだけでもなく、少し離れたところから眺められる状態にすることである。

次回は、この一覧をもとに、「残す/減らす/移す」の三択で判断する方法を、下津鳥居さんが引き続き一緒に考えていく。

次回予告
【第2回「残す/減らす/移す」—三択で迷いを止める判断軸】