ソニーは、8月28日に発売を予定しているクリエイター向けインイヤーモニター「IER-M500」(市場想定価格2万円前後、税込)の試聴体験会を開催した。

都内のリハーサルスタジオに楽器を設置して、ライブパフォーマンスを「IER-M500」で体験した

 このモデルは、同社のオーディオ製品開発ノウハウを活かして開発されたもので、特にライブなどのステージパフォーマンス用としても使える製品として開発されている。

 そこでは、激しいステージパフォーマンスに耐えられるように装着安定性にも配慮している。まずパフォーマンス中にもイヤモニが外れてしまうことがないように5種類のフィッティングサポーターを付属させ、装着者の耳のサイズに応じて使い分けられるようになっている。

 ステージ上ではかなりの爆音になることもあり、イヤーピースの遮音性にも配慮している。本体は完全密閉構造とし、大型アコースティックチャンバーを組み合わせることで、遮音と高音質を両立。イヤーピースはポリウレタン素材で、高周波ノイズも削減した。他にも、様々な人の耳にフィットするよう、イヤーハンガーにはフレキシブルな素材を採用している。

 他にも実際のライブでは、汗で導管が塞がって音が聴こえなくなることもあるとかで、水分が侵入しないような構造として、導管の径も大きくするなどの工夫を加えているそうだ。

「IER-M500」はブラック、レッド&ブルー、クリアーの3色をラインナップ

 音質面では、5mmダイナミック型ドライバーを搭載。完全密閉型として容量の最適化を行い、高域から低域まで鳴らしきるスペックを実現した。

 そんなIER-M500一番の特長は、いわゆる音楽鑑賞用ではなく、ステージモニターに向けた音質チューニングが行われていることだ。音決めについても、アメリカの著名モニターエンジニアでビヨンセも担当したNoel Edwards氏と協業し、“ステージ上でアーティストが求めるサウンド” としてまとめ上げているという。

 そして先日、実際にミュージシャンが演奏中にどんな音を聴いているのかについて、IER-M500を使って体験できる試聴会が行われた。都内のリハーサルスタジオで、4人組ロックバンド ミーマイナーによる演奏を披露、最初はPAスピーカーで音を聴き、次に同じ楽曲をIER-M500を通じてそれぞれのメンバーが聞いているものと同じ音を確認するという内容だった。

受信機に「IER-M500」をつないで演奏の音をモニターした

受信機のチャンネルでヴォーカル、ギター、ベース、ドラムの4人が聞いている音を切り替え可能

 試聴会の前に、ソニーのシニアHeadphonesプロデューサー 松尾伴大氏から、IER-M500についての説明が行われた。

 「ここ数年、ソニーでは背面解放型モニターヘッドホン『MDR-MV1』や、密閉型モニターヘッドホンの『MDR-M1』を発売してきました。これらは音楽制作用モニターヘッドホンですが、そこに対してステージパフォーマンスでも使える製品として今回IER-M500を発表させていただきました。

 ミュージシャンに愛用してもらえるものにしたいと考えていましたので、今日はマスコミの皆さんにも実際にアーティストの方たちがどのように使っているのかを体験していただきたいと思っています」とのことだ。

 ライブなどでの演奏の際には、ミュージシャンはクリック音も聞いている。これは音楽の基準になるもので、演奏中にイヤモニが外れてしまうとクリック音が聞こえなくなってしまう。それもあり、装着性がひじょうに重要というわけだ。

ミーマイナーの皆さん

 ここでミーマイナーのメンバーが登場、持ち歌から「純文学」を演奏してくれた。ミーマイナーはわたさん(Gt)、美咲(Vo/Gt)、さすけ(Ba/Gt/Piano)、葵(Dr)というメンバー構成で、今年5月にTVアニメのタイアップ曲「部屋とガラクタと私」でソニー・ミュージックレーベルズ/gr8!recordsからメジャデビューしている。

 メンバーは全員IER-M500を装着し、それぞれに楽器や演奏に応じた最適な音が送られる仕組みだ。つまり聞いている音は4人とも異なっているわけで、今回は準備された受信機のチャンネルを切り替えることで、その音をIER-M500経由でリアルタイムにモニターできるようになっていた。

ヴォーカル/ギターの美咲さん

 なおメンバーもイヤモニを使ってライブを行うのは初めてだったとかで、ヴォーカルの美咲さんも「めちゃくちゃやりやすくて最高です。クリックも聞きながら演奏できるのもそうだし、バランスが自分の好きなように調整できているので、すごいやりやすい。楽しいなと思いながら演奏していました。また、ギターを弾きながら動いてもイヤモニがずれないので、すごくやりやすかったです」と話していた。

 ベースを担当したさすけさんは、「僕はそもそも、パソコンのDTMソフトでクリックに合わせてそ曲を作っているので、クリックに合わせて演奏することで曲の本来のグループに近づくことができるっていうのはメリットだと思っています。あと、ベースに関しては結構ライブハウスなどで自分が何を弾いているかモニターしづらい時があるんですけど、イヤモニで遅延なくベースの輪郭が入ってくるので、演奏もやりやすくてミスが少なくなりそうだなと思いました」とのことだった。

ベースのさすけさん

 続いて7月15日に配信をスタートした新曲「君はサイダー」が演奏された。この曲は、「夏のちょっと切ない青春の恋心みたいなものを歌った」(美咲さん)とのことで、こちらもPAスピーカー、IER-M500の順番でモニターしている。

 演奏後にドラムの葵さんに感想を聞と、「ドラムなのでこれまでもイヤモニをつけて演奏していたんですけど、ライブになると動きが大きいので結構イヤモニが取れやすいんです。でもIER-M500はフィッティングサポーターがついているので全然取れなくて、今も結構激しめに叩いていたんですけど、気にせずに演奏できました」と、装着の快適さが気に入ったようだ。

ギターのわたさん

 ギターのわたさんは、「イヤモニっていろんな種類あると思うんですけど、これまでは音が近くて痛いものが多かったイメージもありました。IER-M500はそこのバランスが良くて、なんならレコーディングモニター用のイヤホンとしても使いたいなって思うぐらい、バランスよく演奏できました」と、サウンドもお気に入りのようだった。

 なお取材陣から葵さんに、ドラムのハイハットを叩いた場合でも、クリックにかぶって聞こえにくくならなかったかという、ややマニアックな質問が出た。

 そこについても、「今までは音が合わさって聞こえるイヤモニが多かったんですけど、IER-M500はちゃんとパートごとの音が別々で聞こえてくるので、そのバランスがすごくいいんだなって感じてます」と、演奏にピッタリの音がモニターできていることを紹介してくれた。

ドラムの葵さん

 また4人がイヤモニで聞いていた音が異なっていた理由を聞かれて、「私だったら、自分のギターの音とクリックとボーカルがよく聞こえる設定にしてもらっています」(美咲さん)、「レコーディングの時に近い質感を求めて、クリックと自分の音を中心でいってます」(さすけさん)、「僕はレコーディングの時、他の楽器の音量を出して割と完成形に近いバランスのが好きなので、全部の音が聞こえるような感じです。ちょっとだけ僕の自分の音が大きいかな? ぐらいに設定してます」(わたさん)、「私は1番目に来るのがクリック、次がボーカルです。ドラムの音は、自分で叩いている感じ方の方が信用ができるので」(葵さん)とそれぞれのこだわりを話してくれた。

 僕も演奏の際にIER-M500を装着して、それぞれのパートのメンバーがどんな音を聞いているのかも確認したが、ボーカル用は声がきちんと前に出てきて、バランスも比較的整っている印象だった。ベース用はボーカルがやや抑えめになってクリックが明瞭に聞こえてくるし、ギター用はベース用に近い印象ながらもボーカルの声が少し前に出てくる。ドラム用はクリックがかなり鮮明で、低域というよりも全体のバランスを重視しているようだった。

 これらの異なる音をIER-M500はきちんと鳴らし分けているわけで、その情報再現力の高さも本機の大きな特徴なのだろう。音楽鑑賞用とは異なるが、クリエイターと同じ音を体験できるアイテムとして、IER-M500は独特の存在になっていくことだろう。 (取材・文:泉 哲也)

IER-M500の開発を担当したソニーの面々。左から西川さん、菊地さん、三林さん、青木さん、若林さん