冒頭が実にいい雰囲気だ。なんといっても音楽の選択が小気味よい。深い声でじっくりと語るラジオDJがフィーチャーされ、ジャズ・フュージョンの名門“CTIレコード”のレーべル(レコード中央の曲名などが書いてあるところ)が映し出されるあたり、すっかりいい気分にさせられるのは私だけではないはずだ。このままゴキゲンに続けば平和なのだが、これはなんと、以後、延々と繰り広げられる緊迫、スリル、サスペンスへの甘い序章なのであった。
1977年、レースの街として有名な(音楽ファンにはウェス・モンゴメリーの出身地として有名であろう)インディアナポリスで起きた実話を許にしたドラマ映画。ゆえに街並みも、ファッションも、髪形も、まるで70年代で、画面の色合いも私にはちょっとくすんでいたように見えた。「いまではない」ということに制作側が本当に力を入れているという感じだ。さて物語は、不動産投資会社に財産を騙し取られたと憤る男が、そのボスに謝罪や保証を訴えて会社に乗り込んだものの、そのボスはおらず、役員(息子)を人質にとり、監禁し、マスコミを巻き込んで……という感じ。題名の“デッドマンズ・ワイヤー”とは、自分の首と人質の首をショットガンとワイヤーで固定して、つまり動きしだいでは自動発砲されてしまう、男の考案による装置。そのくらい男は怒りに燃えていたということだ。
基となった実話に関する顛末は検索すれば出てくると思うが、男は、会社への恨みはあっても役員への直接的な恨みは薄いはずで、「ぶっ殺してやろう」と思ってはいたが、マスコミがつめかけて、カメラのフラッシュが当てられたりするようになると、その男はおそらく自分がスターになったような錯覚も覚えていたはず。そうした状況でデッドマンズ・ワイヤーを発動させたらどうなるか? 即、逮捕である。男はできるだけの時間、脚光を浴びていたかったのだと思う。もちろん悪の元凶は男ではなく不動産投資会社という声も出て当然だし、名監督ガス・ヴァン・サントの描き方はそのあたりも抜かりがない。出演はビル・スカルスガルド、デイカー・モンゴメリー、コールマン・ドミンゴ、アル・パチーノ他。
映画『デッドマンズ・ワイヤー』
7月17日(金)より全国公開
監督:ガス・ヴァン・サント
脚本:オースティン・コロドニー
音楽:ダニー・エルフマン
出演:ビル・スカルスガルド、デイカー・モンゴメリー、ケイリー・エルウィス、マイハラ、コールマン・ドミンゴ、アル・パチーノ
2026年/アメリカ映画/カラー/ビスタ/105分/G
配給:KADOKAWA
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