英国を代表するオーディオブランドとして知られるケンブリッジオーディオ。しばらく輸入が途絶えていたが、この6月から再上陸、多数の製品が日本で展開されることになった。再上陸のお披露目の場として、6月19日から開催されたOTOTEN2026が選ばれ、同社CEOのジェームズ・ジョンソン=フリント氏が来日。日本上陸を果たした製品や、ケンブリッジオーディオ・ブランドの開発思想や企業文化について話を聞いた。
音楽ストリーミング再生時の快適さにこだわる
すでにHiVi夏号の取材で、5つの製品、MXN10、MXW70、EXN100、EXA100、Evo 150 SEを取材しました。価格帯もコンセプトも異なりますが、使いやすさと躍動的な音質が共通の美点だと感じました。
ありがとうございます。お聴きいただいた製品に関しては、様々なこだわりやコンセプトがありますが、まず「StreamMagic」という弊社が長年開発を続けている独自のストリーミングプラットフォーム技術をご紹介したいと思います。
ネットワークを介したストリーミングサービスが音楽再生における中心になりつつある昨今、配信サービスを使うときのユーザー体験をどう向上させるかが、快適な音楽再生の大きなポイントになります。ケンブリッジオーディオでは、アプリなどのソフトウェア面も含めて、外部企業に依存せず、全てを自社で開発しています。「StreamMagic」技術に対して、長期的かつ継続的な投資を行ない、専門に担当するエンジニリングチーム、開発セクションが担当を受け持っています。
発表会でもお話ししましたが、ケンブリッジオーディオは、製品のハードウェア的なスペックや数値面だけではなく、日常的に使う体験そのものを重視しています。ストリーマー(=ネットワークプレーヤー)ではアプリの使い勝手が重要ですし、その考え方は価格帯を問わず、ストリーム機能を搭載する全製品に共通です。ネットワークサービスが音楽再生の重要なポジションを占めているいま、「StreamMagic」はケンブリッジオーディオの大きな技術的資産、心臓部だと考えています。
ケンブリッジオーディオのCEO、ジェームズ・ジョンソン=フリント氏が来日、OTOTEN2026のプレスアワーでの発表会に登壇した
OTOTEN 2026で展示されたケンブリッジオーディオ製品群。左から、MXN10(ネットワークプレーヤー)+MXW70(パワーアンプ)、CXA81MKII(DAC内蔵プリメインアンプ)、EXN100(ネットワークプレーヤー)+EXA100(DAC内蔵プリメインアンプ)、Evo 150 SE(ネットワークプレーヤー内蔵プリメインアンプ)
価格帯や製品コンセプト、使われているアンプ技術などは異なりますが、音質面での共通した方向性を感じました。
それを感じてくださってとてもありがたいです。われわれの開発体制について紹介すると、CTO(最高技術責任者)のマシュー・ドアが、ワンチームでエンジニアリング部門を率いています。チームは、デザイン、メカニカル設計、エレクトロニクス設計、ソフトウェア開発、スピーカードライバーやエンクロージャーを受け持つアコースティック開発、UX(ユーザーエクスペリエンス)関連、アプリ、品質管理などのエリアごとに分かれ、それぞれ3〜4人から10人ほどの人数で運営されています。
オーディオブランドとしてどのように音をチューニングしていくのか、という方法論はブランド自体根幹をなす重要なことだと考えますが、ケンブリッジオーディオの音質チューニングでは「リスニングパネル」というシステムで運営しています。様々な音楽ジャンルを愛する人たちで試聴チームを組み、彼らが先入観を排して音を評価するためにブラインドテストを行ない、音の方向性を決め、開発にあたります。その一連のシステムのことを「リスニングパネル」と呼んでいます。
オーディオ機器の音質チューニングは、ある特定の耳のいい個人が判断するという方法があり、そのような仕組みで音を作っているブランドもあると思いますが、ケンブリッジオーディオでは、そのような<ゴールデンイヤー>に頼る方法は採用していません。
AB比較テストを行なう場合でも、ブランドや製品の価格帯などの先入観を排し、本当に良い音を導く必要があります。そのために多くのメンバーで構成される試聴チームがブラインドテストを実施し、多様な意見を寄せ合いながら音を決めていくのです。この「リスニングパネル」により、先入観を排し、複数の人数で普遍的な音の良さを目指す。それが音楽をより深く楽しむために、私たちは製品を作ることに繋がる。これこそが私たちの音に対するフィロソフィーです。
ネットワークプレーヤー機能内蔵のプリメインアンプEvo 150 SE。オランダHypex社と共同開発した「Hypex NCOREx(Tuned by Cambridge)Class Dアンプモジュールを搭載、150W×2の強力なパワーを発揮する。ストリーミング再生やHDMI eARC入力のほかに、フォノ入力端子も備わり、多彩な音楽再生をサポートする
Evo 150 SEの内部。電源部はデュアル仕様という音質重視の設計で、「StreamMagic」という最新のストリーミングプラットフォームの採用も大きな特徴だ 。本機を含む製品の最終的な音質チューニングは、社内のスタッフで構成された「リスニングパネル」という試聴チームにより、ブラインドテストを含む様々なテストを経て、実施されているそうだ
ケンブリッジオーディオでは、エレクトロニクス機器のほかに、スピーカーシステムも充実。写真はアンプを内蔵しない、いわゆるパッシブスピーカーの、左からSX50、SX60
「信頼」を築いて、日本市場に長期的に向き合っていく
日本市場での再びケンブリッジオーディオが展開されることになりました。
オーディオブランドにとって重要なのは、なにより「信頼」だと思います。オーディオブランドがお客さまを信頼し、お客さまもオーディオブランドを信頼する。特に自国に多数のオーディオブランドがある日本では、信頼関係をお客さまと築けなければ、ビジネスを長く続けることができないと考えています。今回、エミライという強力なパートナーとタッグを組んで、日本市場に再び参入を果たすわけですが、これは長期的な視点にたったプロジェクトだとお考えいただけたらと思います。一時的な挑戦ではなく、長期的に日本市場と向き合っていきたいと考えています。
Evo 150 SEやEXA 100アンプは、HDMI ARC入力に対応しています。テレビと2chオーディオシステムの連携はHiViとして非常に重要なテーマです。
全く同意見です。家庭においてテレビはエンターテインメントの中心です。そのため2chオーディオ機器との連携は重要だと考えます。その鍵がHDMI ARC対応です。
HDMI ARCの対応は、単にHDMI端子を機器につければ済む、という簡単なものではありません。ライセンスの取得からテレビとの互換性の継続的な確保など、技術的な意味でも、手間やコストの点でも、非常にやっかいなものなのですが、多くの人たちがリビングルームで音楽を楽しむ以上、私たちのオーディオ機器をテレビと連携して、安心して使えることは非常に重要だと捉えています。われわれの社の近くに、様々なメーカーの多数のテレビを備えている外部の設備があって、以前からそこにわれわれのコンポーネントを持ちこんで互換性テストを実施しています。
テレビとの連携に関しては、われわれは2chステレオスピーカーをいかに快適に鳴らすかということにフォーカスします。たくさんのスピーカーを使って、サラウンドシステムを構築することを楽しまれている方がお使いになるAVアンプのようなコンポーネントを、われわれ自身が開発する予定はございません。
リビングルームでの音楽再生を素晴らしいものにする。それを真摯に考える方に向けたアイテムを作るのが、ケンブリッジオーディオだ
アクティブスピーカーこそケンブリッジオーディオの未来
発表会では、アクティブスピーカーの「L/Rシリーズ」の登場をアナウンスしましたね。
私たちは以前からパッシブスピーカーを開発し、自社製品としてリリースしてきました。ただ、スピーカー自体はわれわれのアンプとの推奨組合せのモデルとして位置付けの限定された展開にとどまっていました。
われわれは基本的にはディスクプレーヤーやネットワークプレーヤー、アンプというコンポーネントで長らく強みがあるブランドという自負が背景にあったからなのですが、数年前「スピーカー分野での成功がケンブリッジオーディオの未来」と考え、皆さまにお使いいただける、よりいっそう魅力的なスピーカーを作る、という方針を定めました。
ご存知の通り、いま住環境やリスニングスタイルが大きく変化しています。単体コンポーネントを組み合わせる従来の音楽鑑賞スタイルに加えて、もっとシンプルに、スムーズで、使い勝手もよく、音楽をいい音で楽しみたい、というニーズが高まっています。特に女性からのニーズが高いということもあります。そこでストリーミング機能とアンプ、スピーカーを統合したアクティブスピーカーの新提案である「L/Rシリーズ」を開発しました。
「L/Rシリーズ」は、サイズが小さい方から「L/R S」、「L/R M」、「L/R X」の3製品での展開となります。「L/R S」はすでにペア400ポンドで英国にて発売済、「L/R M」や「L/R X」は、もうすぐ英国でリリースできる見込みです。特にStreamMagic機能とHDMI ARC端子を備えたL/R MとL/R Xは、日本でも多くのお客さまに快適にお使いいただける魅力的な製品に仕上がっていると思います。日本上陸を楽しみにお待ちください。
ケンブリッジオーディオでは新たな製品ジャンルとして、アクティブスピーカーを大いに推進するとのこと。新製品群の「L/Rシリーズ」を展開していくとのこと。写真は、最小モデルの「L/R S」で、美しい色合いにも注目だ
「L/Rシリーズ」はサイズ違いで3製品をラインナップ。最上位機「L/R X」(写真)とセカンドモデル「L/R M」は、いわゆる音楽ストリーミング再生機能とHDMI ARC入力を備えた製品群で、リビングルームでの音楽再生ギアとして最適だという。日本でもそう遅くない時期にリリースされる見込みだ
インタビューを終えて〜ユーザーの音楽体験を豊かにすることこそ最重要課題
今回のインタビューを通じて感じたのは、ケンブリッジオーディオが単なる製品ブランドではなく、「音楽体験をどう豊かにするか」を中心に据えた企業であることだ。
その実践のために、自社開発でネットワークオーディオ技術「StreamMagic」のシンプルかつ高機能、しかも洗練されたインターフェイスを仕上げたり、リスニングパネルというブラインドテストを用いた音質チューニングを実施したり、テレビの連携に欠かせないHDMI ARC対応への真摯な取り組みなど、製品として目立たないが実際の使い勝手、操作感覚への投資を惜しまない企業姿勢も感じられた。
彼ら自身も強く認識しているように、日本市場では、製品単体の評価だけでなく、ブランドの継続性やサポート体制も重要な評価軸となる。今回の取材を通じて、ケンブリッジオーディオがその期待に応え得る体制と哲学を備えたメーカーであることを確認できた。今後登場するアクティブスピーカーの「L/Rシリーズ」を含め、その動向を注視していきたい。
(取材・まとめ/HiVi編集部・辻 潔)