現在GREEN FUNDINGで応援支援を実施中のエミライ、emブランドの完全ワイヤレスイヤホン「NEXIEM Limited(Studio Master Edition)」について、開催期間を7月末まで延長することが発表された。
NEXIEM Limited(Studio Master Edition)は、同じくemブランドの完全ワイヤレスイヤホン「NEXIEM」に搭載されたMEMSドライバーの可能性を更に拡大し、MEMSドライバー+10mmダイナミック型というハイブリッドシステムを搭載。さらにイヤホン内部の気流を最適化するETL(Embedded Transmission Line)技術を組み合わせている。
完全ワイヤレスイヤホン:
em「NEXIEM Limited(Studio Master Edition)」 一般販売予定価格¥19,800(税込)
●使用ドライバー:xMEMS Labs製Cowell MEMSドライバー、10mmマルチレイヤーLCPダイナミックドライバー
●非電子式音響モジュール:ETL(Embedded Transmission Line)
●再生周波数帯域:20Hz〜48kHz
●対応コーデック:SBC、AAC、aptX、aptX Adaptive(24/96、Lossless、Low Latency)、LDAC(330/660/990kbps、Adaptive)、aptX Voice(通話用)
●SoC:クアルコムQCC5171(Qualcomm S5 Sound Platform)、Snapdragon Sound
●アクティブノイズキャンセリング(ANC):第3世代適応型(フィードフォワード+フィードバック ハイブリッド方式)
●外音取り込み機能:適応型(Full-band ambient mode)
●連続再生時間(イヤホン本体):ANC OFF+音量60%時 約5.5時間、ANC ON+音量60%時 約4.5時間
●防水規格(イヤホン本体):IP54
●イヤホン本体重量:約5.8g(片側)、充電ケース重量約39.5g(イヤホン除く)
※付属イヤーピース:ウレタン製S/M/L(3サイズ付属・Mサイズ装着済み)
「NEXIEM Limited(Studio Master Edition)」 は、MEMSドライバーと10mmダイナミックドライバーを搭載したハイブリッド構成を採用する。上側中央の小さなパーツがETLETLユニット
※クラウドファンディングサイトはこちら → https://greenfunding.jp/lab/projects/9315
そしてこのハードウェアをベースに、音楽制作スタジオprime sound studio formの録音・ミキシングエンジニアが、サウンドチューニングを実施。マスタリングの現場で聴いている音を目指したEQ(イコライザー)の設定が行われている(現在進行形)。
今回そのprime sound studio formで、NEXIEM Limited(Studio Master Edition)の最新の音を体験できる説明会が開催された。会場には音質設計を担当している同スタジオのゼネラルチーフエンジニア森元浩二.さんとレコーディングエンジニアの峯岸良行さん、太田敦志さんも同席して、今回の企画に関わる思いを語ってくれた。
森元さんは浜崎あゆみの楽曲をデビュー以来担当しており、峯岸さんの最近の代表作はアイナ・ジ・エンドの「革命道中」、太田さんはエグザイル関係の楽曲を多く手掛けているそうだ。
エミライの取締役 ブランド戦略マーケティング統括 島 幸太郎さん
まずはNEXIEM Limited(Studio Master Edition)を企画したエミライの取締役 ブランド戦略マーケティング統括 島 幸太郎さんから、製品ついての説明があった。エミライでは様々なブランド製品の輸入販売も手掛けている。そんな中で、以前取り扱っていたNobleAudioの製品を開発する際にエミライも協力をしており、そこで様々な部品ベンダーとの付き合いも生まれてきたという。
それらを通して、輸入代理業務だけではなく、いわゆるハードウェアのメーカーが手を出しづらいようなコンセプト、ユニークな企画にも取り組んでみたいと考えたという。それを実現するために自社ブランドのemを立ち上げたという次第だ。
第一弾のNEXIEMは、MEMSドライバーに可能性を感じて、実際に製品化したらどんなイヤホンができるかにトライしたもの。続くNEXIEM Limited(Studio Master Edition)は、MEMSドライバーにETL技術を加えたらどうなるかに着目したという。
さらにハードウェア的な取り組みだけでなく、ここに適切なイコライジングを加えることが必要だと考えたそうだ。島さんはこの点について、「イヤホンは、製品として仕上げるためにEQが絶対必要だというのが、いわゆるピュアオーディオ的世界観との一番の違いだと思っています」と話す。
開発用の「NEXIEM Limited(Studio Master Edition)」。開発ツールと専用ケーブルでつないで、EQの調整値をイヤホン本体に書き込む仕組みだ
「ピュアオーディオではイコライジングは極力避けて、ハードウェアの力でリニアリティ、忠実再現を追求することが正しいと思われています。しかしポータブル機器の場合は、多機能化によって形状的な自由度がとても少ないので、狙った音を出すためにEQはどうしても必要で、EQを加えて初めて製品が完成するというのが通常の考え方でしょう」(島さん)
ただ、実際にNobleAudioのチューニング関わった際に、島さん自身も気になったことがあったそうだ。というのも、EQを追い込んでいく際に、自分が感じたことを具体的に数値化して技術者に伝えなくてはならず、それが難しかったという。
その経験から、ワイヤレス製品ではEQの重要性が他の機器よりも大きく、ここをプロ(スタジオエンジニア)に作り込んでもらったら、もっといい音になるのではないかと思いついたわけだ。NEXIEM Limited(Studio Master Edition)では、エミライ側が素の特性に優れたハードウェアを準備し、EQについてはスタジオエンジニアに完全にお任せしている。
試聴会は、世田谷・池尻にあるprime sound studio formで行われた
これまでも、同様のアプローチでスタジオエンジニアが音の “監修” を行った製品はあったが、それはハードメーカーが仕上げた音に対してコメントをもらい、微調整を行うのが普通だった。つまり主体はオーディオメーカーで、スタジオエンジニアはサポートする立場だったわけだ。
これに対して、NEXIEM Limited(Studio Master Edition)は、スタジオエンジニアに音作りの主体になってもらい、ハードメーカーはサポートに徹している点が大きく異なるとのことだ。「普通のオーディオメーカーは、それぞれの音があるのでこういった企画は難しいでしょうが、エミライはそんな縛りはありませんので、音作りが自由にできます」と島さんは説明している。
「今回のコンセプトは、スタジオエンジニアの皆さんが仕事で使って、感覚的に違和感が極力少ないワイヤレスイヤホンを作って下さいというものです。ですので、今回は私から音についてこうして欲しいといった指示は一切行っていません。好きなようにして下さいとしかお願いしていません」(島さん)
ここから、音決めを引き受けた森元さん、峯岸さん、太田さんにNEXIEM Limited(Studio Master Edition)の音作りの方法やこだわりについてうかがった。
音響設定を担当した、prime sound studio formの皆さん。左からレコーディングエンジニアの峯岸良行さん、ゼネラルチーフエンジニアの森元浩二.さん、レコーディングエンジニアの太田敦志さん
NEXIEM Limited(Studio Master Edition)については、これまでもヘッドホン祭やポタフェスで参考展示され、来場者へのアンケートを行っている。現場では、微妙に異なる2種類の音を聴いてもらい、その場で具体的な感想や、どういったところに注意して音楽を聴いているかをインタビューしている。そそういったフィードバックを受けて、現在は2種類を統合したEQに仕上げたそうだ。
ちなみに開発ツールは、クアルコムの純正品を使っており、PC上の専用ソフトで設定したパラメーターをイヤホンに書き込んで音をチェックしている。その描き込みは有線で行うが、なぜかフラットケーブルの長さが限定されているので、書き込み用のツールボックスを肩にかけた状態で音をチェックできるようにするなど、現場ならではの工夫もあった。
こういった点についても島さんは、「ハードメーカーがこういったことをやりたいと思っても、協力してくれるスタジオエンジニアがいないと成立しません。今回はprime sound studio formさんとしても、若い方にスタジオエンジニアというお仕事に注目してもらいたいという思いもあったそうで、企画が実現できました」と話す。
スタジオエンジニアとしてNEXIEM Limited(Studio Master Edition)でどんな音を目指したのかについては、「エンジニア的には答えはひとつしかなく、そこを目指したということです。違うスタジオのエンジニアであっても、最終的に狙う音はほとんど違いがありません」(森元さん)とのことだ。
試聴時には、峯岸さんがEQの設定を切り替えてくれた。肩に乗っているのがクアルコムの開発ツール
また今回の取り組みについては、「普通は、ここまでパラメーターを触らせてくれることはありません。先ほど島さんの話にあったように、パラメーターを調整してくれる技術者に自然言語で音の抽象的な概念を伝えるのがひじょうに難しいし、そこでエラーが起きることもあります。今回は僕自身がレコーディングエンジニアで、信号処理もある程度わかっていますので、自分や森元さんが感じたイメージを直接設定できました」(峯岸さん)と、メンバーのスキルが幸運に働いたことを明かしてくれた。
音決めの手順としては、まず音源自体に “スタジオエンジニアとしてこういう風に聴こえてほしい” というチューニングを加えた音をDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)で作り、そのターゲットに近い音になるようにイヤホン側のEQを調整していったそうだ。
というのもDAWとクアルコムのSoCでは扱えるパラメーターにも違いがあるので、まずは理想の音を決めて、そこにどう近づけるかを探っていったわけだ。ここでの理想の音を仕上げるまでに10名近いスタジオエンジニアの意見も聴いたと言うし、3ヵ月ほどの時間をかけたというから、いかにこだわっていたかうかがえる。
開発中の「NEXIEM Limited(Studio Master Edition)」
その理想の聴こえ方については、「みんな頭の中で理想としている音が鳴っているんです。この曲はこう聴こえるというゴールは決まっているので、そこに向けて調整しました」(太田さん)だそうだ。
参考までに、スタジオエンジニアの皆さんが考えるモニターヘッドホンとはどんなものかも聞いてみた。すると、「それは難しい質問です。そもそも収録用とミキシング用かで違いがあります。収録用はタイミングやピッチなどがわかりやすいものがいいし、ミキシング用は音場がきちんとわかるものが好まれます」(森元さん)とのことで、いわゆる音楽鑑賞で言われるモニターヘッドホンとは捉え方が違っていることがわかった。
もうひとつイヤホンの低音再現についても聞いてみた。「密閉度さえきちんと確保できたら、パッシブヘッドホンやスピーカーよりも低音の再生は正確にできますし、低域寄りのチューニングもできます」(峯岸さん)とのことで、いわゆるオーディオ再生で低域が足りないとわれるのは、低域の正確な再現ではなく、音を体感できるかどうかという側面の方が大きいかもしれない。
「今回のケースで面白いのは、今までのイヤホン開発はオーディオ的なスペックが先にきて、そこからパーツを選んで製品の仕様を決めていくという流れが中心だったんですが、今回のようにEQを主体にした製品開発ならチューニングの幅が広い方がいい音をつくりやすいという側面もありますので、今後は調整の柔軟性のあるチップを狙うのもありかなと考えています」と島さんは既に今後の展開を考えているようだ。
完成度が9割ほどというEQの音を確認
さてここからNEXIEM Limited(Studio Master Edition)の現時点での音を確認させてもらった。森元さんによると現在のEQの完成度は9割ほどということで、今回はEQをオフにした場合(素の音)とEQをオンにしたものを聴き比べさせてもらっている。
マックのApple Musicアプリから、ジェニファー・ウォーンズの「First We Take Manhattan」を再生し、BluetoothでNEXIEM Limited(Studio Master Edition)の試作機に送信する。まずEQオンで再生すると、イントロのノイズを含んだナレーションから演奏への流れ、ジェニファーの歌声がひじょうに滑らか。さらにそれぞれの音の明瞭で、演奏の情報を正確に描き出している。低域はあまり強調していない印象で、正確なビートを刻んでいる。
EQをオフにすると音のつながりが曖昧になり、どことなくぱさついたトーンに変化する。低域は盛り上がってきて、ある意味迫力は出てくるが、全体の情報がマスクされて音場としては物足りなくなってしまう。同じユニットなのに、こんなに音の再現性が変わってくるのは本当に驚きだ。イヤホンでのEQの重要性をあらためて教えてもらった気がする。
個人的にはEQオンで、もう少し声の余韻感、低域の力感が欲しいところ(もちろん定価で2万円を切る完全ワイヤレスイヤホンとしては、既に充分な音質なんだけど)。その希望もスタジオエンジニアの皆さんにお伝えしたので、完成版ではちょっとだけ反映してもらえるのかもしれない。
なお、NEXIEM Limited(Studio Master Edition)の応援購入を申し込んでくれた方には7月下旬から順次製品が届く予定だ。ただし当初のイヤホンは素の状態なので、音質的には未完成。イヤホンが届いた時点で最終のEQファームウェアが提供されるので、ユーザーは自分でアップデートすることで、本来の音として楽しめるそうだ。EQがどれくらいの効果があるのか、アップデートのビフォー&アフターを確認してみるのもいいだろう(アップデートしたら、素の状態には戻せない)。
なお最新のパラメーターをインストールしたNEXIEM Limited(Studio Master Edition)は、7月1日から蔦屋家電で展示されるほか、7月11日〜12日に開催される「ポタフェス2026夏 秋葉原」、および18日に開催される「ヘッドフォン祭mini 2026夏」で、スタジオエンジニアの方々も同席のうえでの試聴会を予定している。ぜひこの機会に、ワイヤレスイヤホンの新しい音を体験していただきたい。(取材・文・撮影:泉 哲也)