来る6月24日に、スタジオジブリのUHDブルーレイ第二弾となる『もののけ姫』が発売される。1997年に公開された話題作・人気作にして、昨年IMAX版がリバイバル上映、続いてドルビーシネマでも公開されて多くのファンが劇場に足を運んだことも記憶に新しい。
そんな注目作がいよいよ自宅で楽しめるということで、今回はディスクの制作作業を手掛けたパナソニック映像で、UHDブルーレイのパフォーマンスをひと足先に体験。さらにこのディスクがどのようにして作られたのかについて、スタジオジブリ 執行役員 映像部 部長 エグゼクティブ イメージング ディレクターの奥井 敦さんとポストプロダクション部 部長の古城 環さんにインタビューをお願いしている。
ジブリがいっぱいCOLLECTION「『もののけ姫』4K UHD+ブルーレイ セット」
¥11,880(税込)WDUG-1196
●2枚組(4KUHD 1枚、ブルーレイ1枚)●本編 約133分 ●1997年作品●16:9/ワイド
●音声:①日本語2.0chリニアPCM②日本語5.1chドルビーTrue HD5.1ch③日本語音声ガイド ドルビーデジタル2.0ch●字幕:日本語、バリアフリー日本語
※映像特典(ブルーレイに収録):『もののけ姫』4KデジタルリマスターIMAXプレミア試写会舞台挨拶、予告編集、告知映像、他
●発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン●発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
※UHDブルーレイの詳細はこちら ↓ ↓
https://www.waltdisneystudios.jp/studio/ghibli/0238
おふたりは、これまでも度々StereoSound ONLINEの取材にご協力いただいている。奥井さんは数々のアニメ作品で撮影監督を務めた後、『紅の豚』(92年)、『海がきこえる』(93年)の撮影監督としてジブリ作品に参加。その後スタジオジブリに入社し、撮影監督、映像演出などを担当している。古城さんは1993年にスタジオジブリに入社、撮影部を経て、現在はポストプロダクション部 部長としてパッケージの制作に深く関わっている。
『もののけ姫』の制作時は、奥井さんが撮影監督を担当、古城さんは奥井さんの部下として、「現場でひたすらコマ撮りをしている感じ」(本人弁)だったそうだ。
その頃の作業について奥井さんは、「当時のアニメーションの撮影は、背景の上にキャラクターが描かれたセルを重ねて、それをライティングをして、フィルムに1コマずつ撮っていくというのが基本的な仕事で、ひじょうに手間もかかりました。デジタル制作についてもその前から取り組んでいて、『もののけ姫』では社内にCGを制作する部署を作っています。しかし、当時映画用の映像をデジタルで作るって、ものすごく時間のかかるたいへんな作業だったんです」と解説してくれた。
インタビューをお願いした、スタジオジブリ 執行役員 映像部 部長 エグゼクティブ イメージング ディレクターの奥井 敦さん(右)とポストプロダクション部 部長の古城環さん(左)
実際に『もののけ姫』では、部分的にデジタル制作が採用されている。またスケジュール的な問題もあって、デジタルペイントも一部導入されたそうだ。最終的には全体の1割ぐらいがデジタル制作されたとのことだが、その段階でも実は苦労があったという。
「『もののけ姫』は、ジブリでアナログ制作した最後の作品で、当時のアナログ撮影の技術を詰め込んでいるんです。例えば劇中に多く出てくる煙の処理も、普通なら作画で描いてペイントしてダブらせたり、エアブラシで表現したりするんですけど、それを撮影の処理でディテイルを加えつつ動かすということをやったんです。それがうまくはまって白い煙ができたので、後半ではそれをデジタルで反転して黒煙として表現しました。こういったことで、表現できる世界観がだいぶ変わってきたと思います」(奥井さん)
「全景に煙が何本も出ているんですが、全部方向が違うのでひとつずつ撮らなきゃいけないんですよ。まず下絵を撮って、フィルムを一回巻き戻して多重露光の合成を延々とやるんです。十数秒のカットが、1日で終わらないみたいなこともありました(笑)。でも、後半の黒煙の演出はアニメーションの世界でもやってなかった表現だったので、ラッシュを見た時には、おぉって感動しました」(古城さん)
さて今回発売されるUHDブルーレイでは、そうやって作られたフィルムから4Kスキャンされた素材が使われているという。その詳細について奥井さんにうかがった。
「UHDブルーレイに使った大元の素材は、13年前のブルーレイ制作時にフィルムからスキャンしたものです。当時はいわゆるHD画質でパッケージを作ることを目的にしていましたけど、将来的なことも含めて、フィルムからスキャンしてデータ化するまで全部4Kで作業したんです。そのデータを有効活用できたということですね」とのことで、まさに先見の明があったということだ。
蛇足ながら、IMAXは4K/SDR、ドルビーシネマは4K/HDRと劇場上映のフォーマットにも違いがある。さらにUHDブルーレイは4K/Dolby Vision収録で、実はそれぞれの信号は微妙に異なっている。つまりメディアに合わせて映像マスターを作り直しているということだ。その点での苦労はなかったのかも、奥井さんに聞いた。
奥井さんは、『もののけ姫』のHDR化に際しても、その知見を活かして細かい作業を行っていたようだ
「4K/HDRとしても、SDRで作り込んだものがベースにあって、そこにハイライトやシャドウに調整を加えたものがHDR映像になります。たとえば、フィルムで撮影したシーンに関しては、当時も透過光という技術を使って発光部分を強く光らせる処理をしているんです。そうやって撮影したシーンというのは、スキャンしたデータ上でもそれを活かすことができます。
ただ、先ほど申し上げたように『もののけ姫』ではデジタル制作したカットもあるわけで、その中にも光らせたい部分がいっぱい入っているんですよね。でもそこにはハイライトの情報がない。デジタルデータからフィルムにレコーディングしていますが、それをスキャン・データ化しても、ハイライトの情報は存在しないんです。
そういった理由でフィルム撮影したシーンとの差異が出てきてしまうので、その部分について今回はハイライトを伸ばすような処理を加えています」(奥井さん)
ちなみに筆者は『もののけ姫』のリバイバル上映で、IMAXとドルビーシネマの両方を観ている。今回パナソニック映像の試写室で拝見した映像はそのどちらとも微妙に違う印象があった。そこで、今回のDolby Vision用に新たにHDRでの演出を変えた部分はあったのかも聞いてみた。
この点については、「4K/HDRで仕上げた素材から、ドルビーシネマとUHDの規格に落とし込んでいるので、データ的には違いはないと思いますが、視環境の影響は否めません」(奥井さん)とのことで、HDRという意味ではUHDブルーレイは劇場と同じ映像として楽しめることになる。
ではそのUHDブルーレイで、今回目指した映像のイメージ(ゴール)はあったのだろうか?
「ブルーレイでも、劇場用にDCP化する時もそうですが、古いものをリマスターする場合に、今は技術的に何でもできちゃうじゃないですか。でも理念として、制作当時のスタッフが初号試写で観たものを再現しようというものがありました。技術的なトラブルとか傷などは当然修正していますけど、それ以上のことはやりたくてもやっちゃダメよってところは、コンセプトとしてありました」(古城さん)
「リメイクはしていません。あくまでもリマスターで、当時関わっていたスタッフが作ることによって、その理念に近づけるんじゃないかと思っています」(奥井さん)
ジブリ作品のパッケージの多くを手掛けてきた古城さん。今回も「(チェックのために)あと何回この作品を観るんだろう……」と話していた
初号試写を目指した映像とのことだが、その中でも4K/Dolby Vision化したことで違いが出たシーン、おふたりがぜひ観て欲しいと感じた場面はなかったのだろうか?
「変わらないように頑張りました(笑)。もちろん、デジタルで作り込んだ絵柄はハイライト成分がないので、HDR化に際してはちょっと手が入っていますけど、ユーザーが観て違いがわかるかは難しいと思います。ただ、画面のきらめき感は、より分かりやすくなっているでしょう」(奥井さん)
「この作品では、フィルム撮影したカットと、フィルムで撮ったものをスキャンして、デジタル合成してからフィルムに戻したカット、背景画にデジタルでペイントしたキャラを乗せて、それをフィルムに戻すという3パターンが混在しています。
僕自身はどこをデジタルで作業したかなんとなく覚えているんですが、今回のUHDブルーレイでは、その差が分からないぐらいシームレスに観ることができました。その意味では、ひとつの作品としてのつながりも良くなったんじゃないかと思っています。4Kの試写の後、奥井さんに見分けがつかないと言ったら、ニャっと笑っていました」(古城さん)
「古城が言ったように、フィルムでセル画を撮影したものを、デジタル合成してからフィルムに戻したものは、どうしてもエッジがちょっと甘くなるんです。逆にデジタルでペイントしたキャラクターはパキッとしている。作品を作っている時は、フィルムに仕上げるので精一杯な状況でしたから、オリジナルのフィルムにもその違いが残っています。今回は、フィルムで撮影したカットをターゲットにして調整を追い込んでいったということです」(奥井さん)
ホームシアターファンがもうひとつ気になるのは、音声仕様だろう。『もののけ姫』は5.1chで劇場公開された作品で、今回のUHDブルーレイには、2.0chリニアPCMと5.1chドルビーTrueHDが収録されている(その他に、2.0chドルビーデジタル/日本語音声ガイドも収録)。その音声マスターには何が使われたのだろう。
「UHDブルーレイに関しては、劇場公開当時のダイナミックレンジの広い素材を使っています。ブルーレイの音声は家庭用としてダイナミックレンジを調整しているんですけど、UHDブルーレイに関してはその処理をしていません。というのも、UHDブルーレイならある程度環境が整った方に観ていただけるだろうということと、何人かの映画関係者からその仕様で出して欲しいと言われて、そんなニーズもあるのかなと」(古城さん)
ちなみにIMAX上映では5.0ch音声が使われていた。これはオリジナルの5.1chからIMAX用に作り直したものということなのだろうか。
「そうです。オリジナルは5.1chで、IMAXの5.0chはそこから作り直しています。ですので、(今回のUHDブルーレイなら)サブウーファーの低音感なども劇場と同じように楽しめます。実際にマスタリングスタジオでも、オープニングやメインタイトルがずーんと響いてきて、インパクトでか! と思いながら聴いていました」(古城さん)
さて今回UHDブルーレイが発売されることで、家庭でもかつてない高品質で『もののけ姫』を楽しめるようになる。この点についておふたりはどのように感じているのだろう。
「フィルムの弱点としては、複製すると画質が落ちるんです。劇場公開のプリントは複製物ですから、そういう意味で言うと、オリジナルネガをきちんとデータ化して作り込んでいる今回のUHDブルーレイは、初号試写のクォリティより良くなっていると、個人的には思っています。自宅の環境で見た限りでは、満足できる出来だと思います」(奥井さん)
「UHDブルーレイを観る時は、できるだけ大きな画面で、できるだけ大きな音で楽しんでいただきたいと思います。CMも入りませんし、好きなスナックや飲み物を手の届く範囲にいっぱい置いて2時間13分を使っていただければいいな、と。スマホの電源もオフにして、デジタルデトックスのつもりで楽しんでもらいたいですね。
ジブリの社内試写室で、そこそこでかい音で聴いたのですが、まったく不満はありませんでした。そういう意味で言うと、このUHDブルーレイは自宅に映画館を持ってくるぐらいの中身になっていると思います。環境さえ整備してもらえれば、素晴らしい体験をしていただけるでしょう」(古城さん)
パナソニック映像の社内試聴室で、UHDブルーレイ『もののけ姫』のプルーフ盤をチェックさせてもらった
制作に関わったキーマンが太鼓判を押しているだけあって、UHDブルーレイ『もののけ姫』の完成度はひじょうに高い。取材時にはパナソニックの有機ELテレビ「TV-65Z95B」とUHDブルーレイプレーヤー「DP-UB9000」、マランツのAVアンプ「CINEMA30」にB&Wの5.1chスピーカーという環境で全編通して観せてもらったが、画質・音質ともにひじょうに上質だし、さらに新たな驚きもあった。
具体的には冒頭のタタリ神の触手(?)のぬめりがよりリアルだったし、都の戦でも遠くにいる侍がかざす刀のきらめきが強い(もちろんDolby Visionの恩恵もあるが)。ディダラボッチの半透明の体のテクスチャーもよくわかるし、森を俯瞰したシーンでも多くのコダマたちひとつひとつまで識別でき、描き込みの細かさにも改めて感心した。最初の劇場公開以来何度観たかわからないが、今回もまた作品世界に引き込まれた次第だ。
古城さんの言葉にあった通り、UHDブルーレイ『もののけ姫』は、劇場の感動を自宅に持ってきてくれる、優れたクォリティを備えている。ぜひご自分のベストな環境で、思う存分本作の魅力に浸っていただきたい。
なおUHDブルーレイは再生できない、と残念に思っている方にも朗報だ。奥井さんによると、今回のパッケージに同梱されているブルーレイは、新しい4Kマスターから2Kにダウンコンバートしたマスターが使われているとのことで、既発売のブルーレイとも画質が違うということだ(音声は同じ)。つまりブルーレイ再生がメインという方にもリマスターの恩恵があるわけで、これはジブリファンには見逃せないだろう。(取材・文・撮影:泉 哲也)
© 1997 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli,ND
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6月19日(金)より 全国のIMAX劇場にて期間限定上映中