今シーズンのデノンの一体型AVセンター戦略は、エントリー〜ミドルクラスの充実だ。7chパワーアンプ内蔵のAVR-X2900Hと、9chパワーアンプ内蔵のAVR-X3900Hの同時発表である。しかも各々の先代モデルに比べ、内部にはかなり大胆にメスが入れられており、大幅刷新といっても過言でない。では早速改められた共通仕様から解説していこう。
DENON AVR-X2900H
¥202,400 税込
●型式 : 7.2ch対応AVセンター
●搭載アンプ数 : 7ch ●定格出力 : 95W+95W(8Ω、20Hz〜20kHz、T.H.D.0.08%、2ch駆動時)
●接続端子 : HDMI入力6系統、HDMI出力2系統、アナログ音声入力5系統(RCA×4、フォノ[MM]×1)、デジタル音声入力3系統(同軸×2、光)、サブウーファープリ出力2系統(RCA)、LAN1系統、ほか
●寸法/質量 : W434×H167×D341mm/9.7kg
AVR-X3900H
¥279,400 税込
●型式 : 9.4ch対応AVセンター
●搭載アンプ数 : 9ch
●定格出力 : 105W+105W(8Ω、20Hz〜20kHz、T.H.D.0.08%、2ch駆動時)
●接続端子 : HDMI入力6系統、HDMI出力3系統(モニター出力×2、ゾーン2出力×1)、アナログ音声入力6系統(RCA×5、フォノ[MM]×1)、デジタル音声入力4系統(同軸×2、光×2)、11.4chプリ出力1系統(RCA)、LAN1系統、ほか
●寸法/質量 : W434×H167×D389mm/12.5kg
まずはデザインだ。これらの新しいXシリーズは、上位機群Aシリーズのデザインを踏襲しており、シーリングパネルこそ装備していないものの、機能的にレイアウトされたボタンが力強さと精密性を強調するよう意識されたエクステリアとなっている。また、付属リモコンにバックライト機能が追加された。
続いて心臓部のデバイスを見よう。DACチップに新たに電流出力型が採用されたのは、デノンのサウンドマスター山内慎一氏がスローガンとする「Vivid & Spacious」を追求するためだ。これに合わせて周辺回路やカップリングコンデンサーも再検討され、I/V変換部には薄膜抵抗を採用するという贅沢なアプローチ。また、両機種共通としたパワートランジスターは、弟分にあたるAVR-X2900Hのパフォーマンスに大きなメリットがもたらされるものと期待できる。
電源部周辺も大幅にメスが入れられた模様だ。平滑用のブロックコンデンサーは、内蔵する電解紙の材質を吟味した上で、最上位機AVC-A1Hと同じ箔素材を使用し、引っ張り強度と巻きテンションの微調整を施している。またAVR-X2900Hの電源トランスに関しては、珪素鋼板とショートリングを追加してノイズ漏れを最小化し、振動を抑制するプレートを筐体に追加した。
機能面では、従来機から好評の「フロントL、Rチャンネルバイアンプモード」に加え、AVR-X3900Hには新たに「センターチャンネルバイアンプ」モードを追加。さらに先日発売されたHEOS搭載の一体型スピーカーの新製品DENON HOME 200、同400、同600をワイヤレス接続することを可能にする「ワイヤレスサラウンド」の実装がトピック。本機能は、いままでスピーカーケーブルを引き回すことが難しい、といったリビングルームなどでの5.1chシステムの設置を容易にするもので、将来的なアップデートで対応する予定だ。詳細は後日発表される見込みとなる。
なお、大きな注目が集まるであろう「チャンネルレベル表示」と「チャンネルエキスパンダー」の2つの機能は、後述したコラムにて詳しく解説している。
2chからアトモス環境まで非常に緻密に鳴らすX2900H
まずは、Qobuzのストリーミング音源を使ってAVR-X2900Hの2チャンネルの音からチェックしてみよう。なお、映像コンテンツの送り出しにはパナソニックDMR-ZR1を使用し、スピーカーシステムは本誌視聴室リファレンスのBowers & Wilkins 800D4シリーズとイクリプスTDシリーズのオーバーヘッドスピーカー/サブウーファーを組み合わせている。
サマラ・ジョイのヴォーカルはほど良い肉付きで、明瞭な音像定位と滑らかな質感でしっとり聴かせる。4管のブラスアンサンブルとリズムセクションの音場のレイヤーもきれいに提示。立体感の再現もまずまずだ。
バイバ・スクリデの独奏とアンドリス・ネルソンス指揮/ボストン響によるショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲では、暗い雰囲気を抱かせるオーケストラのハーモニーが重厚に響き、ヴァイオリン独奏が描く悲哀的なムードも濃密だ。トレモロやヴィブラートの表情も細やかに再現されている。ここにさらに打楽器のどっしりとした支えがあればベターだが、この辺りは物量の制約もあることだろう。
ドルビーアトモス再生は、7chアンプ搭載機ということで、5.1.2というスピーカー構成で実施。コンテンツはまず、UHDブルーレイ『フォードvs.フェラーリ』のチャプター17を観た。チャンネル間を移動するエキゾーストノートの繋がりはシームレス。滑らかかつスムーズで、フレーム外の音もクリアーに繋がっている。その間に繰り広げられる首脳陣の対話もエキゾーストノートにかき消されることなく、くっきりと浮かび上がって画面に寄り添う。
アトモス音源のBD『TAR/ター』はチャプター14の途中、廃墟に主人公リディア・ターが入っていくシーンから。アングルの転換に合わせて歌声がきれいに旋回する。屋内の地下に滴り落ちる雫の音が背後にクリアーに響き、野良犬が歩くピチャピチャという足音やうなり声なども、背後の低い位置にピタリと定位。効果音のレイアウト描写が実に丁寧という印象を受けた。この辺りには、新たに採用された電流出力型DACチップの威力が現われているのだろうか。
最後に観たのは、ブラッド・ピット主演の『F1®/エフワン』のチャプター4。英シルバーストーンサーキットでの決勝レースシーンだ。出走前にリラックスしているソニーが突いているテニスボールの弾む音がリアル。レース実況のアナウンスの声は、トップミドル2本の再生ではあるが、しっかりと頭上で反響している様子がわかるし、サーキットの熱狂が観衆の歓声からも掴み取れる。ブレーキの音、巻き上げる砂利や風の音も生々しく、ステアリングスイッチの切替え音やバックファイヤーの音も非常に緻密。ドライバーのセリフからは、二人の焦りや苛立ちが明瞭に伝わってきた。
AVR-X2900Hのパワーアンプセクション。多機能かつ多チャンネルアンプを搭載しつつ、高音質と値ごろ感に優れた価格を両立させる必要のあるAVセンターのエントリー機では、コストを抑えつつ高音質を巧みに実現するワザが必要だ。1枚基板に折り曲げタイプのヒートシンクという、一見シンプルに思える構成こそ、長年のノウハウの固まりだ。空間を十分に空けることで、余計なコストを投ぜずに、放熱とノイズ対策を同時に実現する手練れのアンプデザインといえよう
AVR-X2900Hの内部。筐体前方に7chパワーアンプブロックを配置。中央の底部には電源部、その上部に各種信号処理基板をレイアウトしている。パワーアンプに使われている出力トランジスターは、X3900Hと同じパーツを採用。電源トランスは、珪素鋼版とショートリングを追加し、磁束漏れを最小化している
天井スピーカー4本対応の意味を大きく感じたX3900H
続いてAVR-X3900Hでの試聴。サマラ・ジョイのヴォーカルは、音像の克明さはX2900Hとほぼ変わらずだが、微細なニュアンス描写がわずかに優れるかなという印象。エネルギーバランスは腰の座ったもので、ピラミッドバランスの安定感を抱かせる。ブラスのアンサンブルは、4管の各々の定位がくっきりとして明瞭だ。リズムセクションも力強い。
ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲では、ティンパニの響きなどの打楽器の音が一段と太く鳴る。独奏ヴァイオリンの旋律も明晰だが、バイバの情感溢れるプレイがしなやかに、よりいっそうの迫真性を伴なって迫ってくる。オーケストラは木管楽器の瑞々しい音色が特に印象的で、楽器配列のレイヤーが一段と明瞭に見通せる感じがした。
ドルビーアトモス再生は、フロントハイトとリアハイトを加えた5.1.4構成となる。X2900Hと比較して、オーバーヘッドスピーカーが4本となったことでオブジェクトの実体感が一段と鮮明になったように感じられた。
それがより明白だったのが、BD『TAR/ター』、チャプター14である。廃墟内の鬱蒼とした空気感がより色濃く現われたのだ。歌声のエコー感もさらに濃密で、アングルに応じた移動もスムーズ。水溜まりを歩く犬の足音の様子も生々しく、主人公が階段で転ぶ際の鈍い音も痛々しいほどリアルだった。コンサートホールでのリハーサルシーンでは、合奏のハーモニーがフワッと立体的に広がる。
UHDブルーレイ『フォードvs.フェラーリ』のチャプター17では、エキゾーストノートがより濃密。そのチャンネル間の移動の様子はX2900Hとさほど変わりはないが、より重心の低いバランスに感じる。首脳陣のセリフの実体感もさらに分厚く感じられるところが兄貴分の余裕というか、貫禄か。
興味深かったのは、同じようなレース映画である『F1®/エフワン』では、『フォード〜』よりも、エンジン音の違いがより明確に違って聴こえたことだ。近年のF1では、「エンジン」すなわち「内燃機関(ICE)」だけではなく、ICEに加えてバッテリーや回生ブレーキなどを含めたハイブリッド構造の「パワーユニット」が動力源となり、1960年代の『フォード〜』の時代のような「エンジン」とは異なり、モーターなどの補器類の動作ノイズが加わったシャープで甲高い音がする。そうした差異をX3900Hはより鮮明に描写していたのだ。とりわけオンボードカメラの映像に切り替わった時のそれははっきりとわかった。
また、レースシーンの臨場感がより迫真的に感じられたのは、オーバーヘッドスピーカーが4本になったことで実況アナウンスや歓声が一段と濃密に再現されたこととも関係しているように思う。
AVR-X3900Hは、X2900Hと比べてパワーアンプが単に2ch増えたということにとどまらず、電源から筐体構造まで様々な要素で物量が投入されている。筐体内部の構造は、X2900Hというよりも上位機AVR-X4800Hに近い。X4800Hは、パワーアンプ基板をチャンネルごとに分割した「モノリスコンストラクション」が特徴だが、X3900Hでは、2枚の基板に分離させているのが大きな違いといえよう。DACチップは32ビット384kHz対応の電流出力タイプを搭載している
EIコア型の電源トランスは大型化しつつ、筐体前方左側に配置、その右側に、2つのパワーアンプブロックが、ヒートシンクを向かい合わせにするようにして搭載している。
音質差よりも再生チャンネルの差が製品選びの勘所になりそうだ
今回こうして兄弟モデルをじっくり横並びで比較してわかったのは、サウンドパフォーマンスの差は予想していたほどに大きくはなく(微細なニュアンス描写やリアリティ、音の分厚さに差は認められるが)、それらは機械的な物量と、オーバーヘッドスピーカーが2本か4本かという再生スピーカー構成の違いに負うところが大きいということだ。双方の価格差は8万円弱だが、使用するオーバーヘッドスピーカーが2本なのか、それとも4本設置できるのかといった使用環境次第で選んでも大きな後悔はないというのが私の結論である。
リファレンス機器
●4Kレコーダー : パナソニックDMR-ZR1
●8Kプロジェクター : ビクターDLA-V90R
●スクリーン : キクチ Dressty 4K G2(120インチ/16:9)
●スピーカーシステム : Bowers & Wilkins 802 D4、HTM 81D4、805 D4、イクリプスTD508MK4、TD725SWMK2
Column
AVR-X2900H / AVR-X3900Hに搭載された新機能の詳細
システムの有効活用を図りホームシアターの感動を高める2つのデノン独自機能に大注目
▪️チャンネルレベル表示機能
リアルタイムに、接続しているスピーカーから、どのくらいの音量で再生しているのかのレベルを表示する機能。特にドルビーアトモス再生の場合、天井スピーカーが鳴っていると思っていても実はフロアスピーカーで高さ方向を感じさせる音づくりをした、巧みな音響設計が施された作品もある。音響設計の把握もホームシアターの魅力の1つであり、その理解に繋がるのが本機能だ。2025年発売のAVR-X2850Hで初採用された。
採用モデル>
AVC-X2850H、AVR-X2900H、AVR-X3900H
▪️チャンネルエキスパンダー機能
チャンネルレベル表示機能により、使用スピーカーの音量のリアルタイムモニタリングができるようになると、オーバーヘッドスピーカーが案外使われていないことがわかる。せっかく設置したオーバーヘッドスピーカーを有効活用するための方策として、再生チャンネルを「エキスパンド(拡張)」させるのが本機能。デノンのAVセンター開発陣は、長期間をかけて「違和感がなく」「確かな効果」が図れるようなパラメーターを研究し、AVR-X3900Hで初搭載した。効き具合は「強」「弱」から選べるが、本文にあるように取材時は「強」でも不自然さは感じられなかった。なお音場モードが「Direct」や「Pure Direct」では本機能は動作しない。
採用モデル>
AVR-X3900H
今回発表された一体型AVセンター2機種に実装された目玉機能が、チャンネル毎の音声レベルを表示する「チャンネルレベル表示」機能と、ドルビーアトモス以外で、未使用のオーバーヘッドスピーカーを積極的に使おうという視点から誕生した「チャンネルエキスパンダー」機能(AVR-X3900Hのみ)だ。特に後者の機能はデノンのオリジナル技術で、そのパフォーマンスの成果は大いに気になるところ。今回はAVR-X3900Hでその効能を確認したい。
音響設計の意図を理解できるチャンネルレベル表示機能
チャンネルレベル表示機能は、すでに2025年リリースのAVC-X2850Hで実装されていた機能と同様に、有効としたチャンネルのスピーカーにどの程度の信号レベルが送り込まれているかをオンスクリーン表示するもの。画面中央下にチャンネル毎に横一列でバーグラフ表示されるが、映像の一部がこの表示によってマスクされることを承知で使えば、なかなか使い手がある。
たとえば『TAR/ター』のチャプター15、ホールでのリハーサルシーンでは、オーバーヘッドスピーカーのレベル表示が動かないことから、ドルビーアトモスのミックスであっても、意外にもこのシーンの残響感とかプレゼンス感の創成にオーバーヘッドスピーカーが使われていないことが判明する。
また『F1®/エフワン』では、実況アナウンスが入るとオーバーヘッドスピーカーのレベルが上がるが、オンボードカメラ主体のレースシーンでは、さほどオーバーヘッドスピーカーが鳴っていないことがわかったりもするのだ。
他方では、やはり映画コンテンツではセンタースピーカーが最も忙しく使われていることが、センターのレベル表示が終始動いていることから確認できる(だからこそセンタースピーカーの役割は重要と再認識できる)。
こうして見ると「チャンネルレベル表示」機能は、サウンドデザインの意図を確認することもできるたいへん有用な機能であることがわかった。
UHDブルーレイ『ブレードランナー2049』の冒頭3分43〜44秒付近のほぼ同じシーンを撮影した。上がダイレクト再生の状態で、オーバーヘッドスピーカーは全く使っていないシーンだと分かる。下は「チャンネルエキスパンダー」を『強』で再生した状態。元々リスナーを包み込むような音響設計が施されているが、それがオーバーヘッドスピーカーにもわずかに音をこぼすことで、空間表現が大きく高まった。これみよがしの効果ではないが、「ドルビーアトモス感」が増強され、ホームシアターの意味、楽しみを高めてくれるアクティブな機能とも評価できよう。「製作者の意図」を忠実に再生したい向きは『オフ』あるいは「Direct」「Pure Direct」を選べばよい
チャンネルエキスパンダー機能は全く違和感がない「絶妙な機能」
一方のチャンネルエキスパンダー機能は、開発に3年以上を費やしたもので、過度な効果を求めるわけでなく、違和感が生じないよう、いい落としどころを見付けるのに苦労したようだ。その効能はまさしく的を射たもので、今回の視聴を通じて大いに感心させられたことをまずは記しておきたい。
たとえばフロントハイトチャンネルに信号がないケースでは、フロントチャンネル信号とトップミドル信号を、あるアルゴリズム処理によってミックスし、特定の割合でフロントハイト信号として送り込むように働く。
同機能は『強/弱/オフ』の3段階の切替えで、デフォルトは『オフ』。今回は『強』で試してみたが、効き過ぎという印象は全くなかった。『TAR/ター』では方向感や方位感を補強する印象で、チャプター14の夜中に寝室で叫ぶ少女の叫び声に効き目を感じたし、ホールでのリハーサルシーンでは、ホールトーンの補間という意味でむしろ「チャンネルエキスパンダー」機能を積極的に使った方がフワッとした残響感が付加されて好印象であった。
AVR-X3900Hをサラウンドバックなしの、5.1.4構成の状態でチャンネルレベル表示機能をオンにしてみた。本機能は、リモコンのオプションボタンから機能の「オン/オフ」を行なう
『F1®/エフワン』のチャプター4でも、実況アナウンスの声がさらに広がり、シーンの臨場感が高まって高揚するサーキットの様子が一段とリアルに伝わってきた。空間密度は明らかに上がる。
個人的な印象では、オリジナルのサラウンド感を変質させるようなことはなく、積極的に使いたいと思う機能である。しかもそれが『強』のポジションでも全く違和感ないことがわかったことは今回の収穫であった。
●
本来は入っていない信号を再生時に付け足すという点で、<ディレクターズ・インテンション>という面から確かにオリジナルのコンセプトを曲げることになるのかもしれない。しかし、あくまでユーザー責任(ユーザー目線)にて“拡大解釈”という観点でみれば、そこまで杓子定規に考えなくてもいいのではというのが私の率直な意見である。
デノン開発陣の綿密かつ真摯な研究成果が結実している印象で、今後同社の全てのAVセンターに実装してほしいと願うものである。
>本記事の掲載は『HiVi 2026年夏号』