リン製品でサラウンド再生を楽しまれている人々を訪ね、その姿を通してオーディオとオーディオビジュアルの醍醐味を探る連載企画の第16回。今回訪れたのは、広島近郊のとある街で開業医を営むMさん。黄金週間直前の日曜日の午前中、広島駅からほど近いMさんのマンションに向かった。

取材・構成/本誌・辻

 「遠いところまでよくお越しくださいました」とMさん。ご挨拶もそこそこにお話しをうかがおうとすると、Mさんの奥様から「珈琲豆を挽いてもよろしいでしょうか」と声をかけられた。豆を挽いたのち、丁寧に淹れてくださった絶品の珈琲という歓待に思わず心が弾む。

 Mさんのご自宅は、マンションの12階にあり、リンによるサラウンドシステムがセットされているスペースは、リビング・ダイニング・キッチンという構成で、広さは20畳程度といったところか。

ソウルミュージックとジャズを中心にアナログレコード2万枚を収集

「ここには、このマンションが新築された10年ほど前に引っ越しました。そのときにマックスオーディオさんに相談して、リビングシアターというか、スクリーンやプロジェクターの取り付けやサラウンドスピーカーの配線工事をしてもらいました。正直にいってホームシアターに強い興味があったわけではありませんでした。引っ越しのタイミングで、リンのオーディオシステムをどうしても入れたくて、でも、ただ単にリンのオーディオを入れるのもちょっと気が引けるというか、その言い訳じゃありませんけれど、家族で映画とか音楽作品が観られるということで、システムごとまとめて買いました」とMさん。

 どうしてMさんはリンのシステムに憧れていたのだろうか。

 「音が良さそうで、見た目も良いでしょう。元々音楽が好きでアナログレコードを中心に楽しんでいたんです。いろいろ調べてリンのオーディオがずっと気になっていたんですが、たまたまこのマンションに引っ越そうかというタイミングで、ちょうどマックスオーディオさん主催のオーディオフェアが博多で開催していて、そこに行って相談、リンのシステムを揃えてもらい、はじめて体験しました」

 

主な使用機器
●プロジェクター : JVC DLA-X590R
●スクリーン : オーエス ホワイトマット(100インチ/16:9)
●有機ELディスプレイ : レグザ65X9400
●BDレコーダー : パナソニックDMR-BRX6000
●ユニバーサルプレーヤー : オッポデジタルBDP-93 NuForce Edition
●アナログレコードプレーヤー : リンSONDEK LP12
●AVセンター : デノンAVR-4311
●スピーカーシステム : リンAKURATE 242(EXAKTドライブ仕様。L/R)、AKURATE 225(C)、CUSTOM 2K-104C(LS/RS)、MAJIK 126(LFE)
●ミュージックサーバー : デラN1A、QNAP TS112
●ネットワークプレーヤー+システムコントローラー : リンAKURATE EXAKT DSM
●デジタルクロスオーバー : リンAKURATE EXAKTBOX 10
●パワーアンプ : リンAKURATE 4200、MAJIK 6100

Mさんは、5ウェイ構成のトールボーイ型スピーカーAKURATE 242のグロスブラック仕様をお使い。導入当初は、スピーカー自体に帯域分割用のクロスオーバーネットワーク回路を内蔵した「パッシブ仕様」であったが、その後、クロスオーバーを単体コンポーネント化して、ユニットごとにパワーアンプを直結するマルチアンプ駆動(EXAKT駆動)に進化させている。高域から中高域を受け持つ3つのユニットを亜鉛ダイキャストパーツでマウントした「3K ARRAY」が立体的な音場定位の原動力だ

 

 

 

 広島出身のMさんは、医学生時代を博多で過ごされた。元々ヒップホップが好きだったのだが、そのネタ元の音楽を辿るうちに、ソウルミュージックやジャズにハマり、アルバイトで稼いだお金や仕送りの多くを使ってアナログレコード収集に励んだという。

「アナログレコードはたぶん2万枚くらいはあると思います。いまは仕事場に音楽を聴ける小さなスペースがあって、そこにレコードはほとんど置いています。ここにあるのは最近買ったものが多くて、好きなアルバムだけを置いているわけではありません」(Mさん)

 ちなみに仕事場では学生時代から愛用しているアナログプレーヤーをはじめてとしてJBLのホーンスピーカー、ラックスマンの真空管アンプなどをお使いとのことだ。それにしても2万枚のアナログレコードのコレクションは凄い。

「いまアナログレコードのブームのせいか、新品も中古も値段が上がってしまい、ちょっと信じられません。僕がいちばん買っていたころは、中古なら100円とか200円でたくさんいいレコードが買えましたからね。もう高すぎて、本当にほしい作品しか買わないですね」(Mさん)

 Mさんのお使いのアナログレコードプレーヤーは、リンの銘機Sondek LP12。本機は、アップグレード可能なコンポーネントとして様々なパーツの取り付けが可能なターンテーブルとして知られているが、Mさんはオークカラーの木枠(プリンス)に、サブシャーシKEELを組み込み、トーンアームのEKOS SEにはMCカートリッジのKRYSTALを、さらにフォノイコライザーをアナログとデジタルのハイブリッドタイプのURIKA2を内蔵させた組合せだ。電源はRADIKAL AKとかなりのハイグレードな仕様となる。

 

Sondek LP12。本体内部に、アナログ/デジタルのハイブリッド方式のフォノイコライザーURIKA2(ユーリカ2)を組み込み、デジタルの状態でAKURATE EXAKT DSMに信号を送る。軸受けベアリングは、最新のカローセルと呼ばれる仕様だ

 

テレビの右脇には、リンジャパン謹製ラックに、アナログプレーヤーからパワーアンプまで、エレクトロニクス機器が整然とセッティングされている。上からSondek LP12、AKURATE EXAKT DSM、AKURATE EXAKTBOX10、RADIKAL AK(LP12の電源)、AKURATE4200、MAJIK6100となる

 

 

5ウェイマルチ駆動で実現した「見えるような音」の世界

 インタビューもそこそこにMさんにレコード再生をお願いしてみた。

「何にしましょうか」といいつつ、Mさんは、ジョシュア・レッドマンの2023年作『where are we』から、A面1曲目「After Minneapolis (face toward mo[u]rning)」を演奏してくれた。

 フロントL/RスピーカーであるリンのAKURATE 242の間にポッと浮かび上がる、クリアーなソロサックス。シンプルなフレーズではあるが、一音一音が精魂込めて吹かれている旋律の、手に掴めそうなリアルさにハッとした。サックスと入れ替わるように単音ピアノが、ガブリエル・カヴァッサのヴォーカルを導き、彼女の魅惑的な声がリビングルームを満たす。クリーンで静謐さを極めた音だなと思ったところで、曲の中盤、バンドが一体となって、キメのフレーズを繰り出すと、それまでの「静謐な音」と対比するような「強い音」が鮮烈なインパクトを残す。

  「このスピーカー(AKURATE 242)は元々パッシブ接続仕様だったのですが、マックスオーディオのご担当である早見社長からの提案で、導入から数年後に、AKURATE EXAKTBOXを使った5ウェイマルチアンプ駆動に替えました。エレクトロニクス機器は増えたものの、スピーカー自体の見た目は一緒なのにも関わらず、音が全然違うことにとても驚きました。個々の音が強くなったと同時に、音場がものすごく広くなったんです。一言でいえば、音の気持ち良さが大きく向上した感じです」(Mさん)

ラック左には、リン以外のエレクトロニクスをセッティング。ラック上にはオッポデジタルのBDP-93 NuForce Edition、その下にはデノンのAVセンターAVR-4311、右側にはパナソニックの全録対応レコーダーDMR-BRX6000、その下にはデラのミュージックサーバーN1Aが収まる 

 

 

 Mさんが長年愛聴しているソウルミュージックを、デジタル音源で再生してほしいとお願いしてみた。

 「それでは、僕のいちばん好きなソウルシンガー、カーティス・メイフィールドを再生しましょうか」とMさんは話しながら、ロスレス&ハイレゾ音楽ストリーミングサービスQobuzで1975年の名盤『There's No Place Like America Today』に収められた「So in Love」を演奏してくださった。

 メロウなカーティス・メイフィールドの歌声と、跳ねるハットワークながらゆったりとしたリズム、そして分厚いホーンセクションを中心に据えた曲だが、あえて音を埋め尽くさずに、リビングルームに広がるクリーンな音場にパラパラと音が散らばるように曲が描かれる。曲中盤の温かなオルガンの音色とギターカッティングの音の絡み合いも絶妙だ。ジョシュア・レッドマンでは「静謐さ」と「強さ」を感じたが、この曲では「温かさ」と「跳ねるリズム」が印象に残った。

 楽曲だけでなく、再生方法が異なるのだから、音の印象が変わるのは当然といえば当然。だがMさんのシステムでは、ミュージシャンが楽曲に込めた想いを、音としてそれを鏡のごとく描き出す、そんな感覚を抱いた。Mさんは語る。

「リンで聴くと、音楽が聴きやすくなるという印象があります。音楽のスペースというか、音が鳴っていないところまで、まるで見えるように聴こえるんです」

 

センタースピーカーはAKURATE 242と同シリーズのAKURATE 225、サブウーファーはMAJIK 126となる

 

サラウンドスピーカーは埋め込み型のリンCUSTOM2K104C。小型ながら3ウェイという本格構成のモデルだ

 

 

サッカーそして野球。スポーツ中継を中心に大画面を楽しむ

 映像は引っ越した際に導入したJVCのフルHDパネル搭載のプロジェクターDLA-X590Rと、オーエスの100インチスクリーンと、レグザの65インチ有機ELテレビをお使いだ。

「正直いってここでは映画はあまり観ないんです。スポーツを中心に、サッカーや野球、特にカープ戦をよく観ています」(Mさん)

 スクリーンによる大画面でパッケージソフトも再生していただいた。ダイアナ・クラールのモントリオール・ジャズ・フェスティバルの2004年のライヴDVDから「Temptation」の再生。5.1chサラウンド音声は、ダイアナ・クラールのピアノとウッドベースの掛け合いで始まり、彼女のクリアーなヴォーカルがゆったりとしたリズムで響き渡る。音の求心力が高いという印象だ。

 ちょうど取材時に大リーグ中継がNHK BSで行なわれていて、それもお見せいただいた。NHK BSの大リーグ中継は、実は臨場感たっぷりの音が含まれていることが多い。観客が放つ歓声や球場内の様々な暗騒音が音に含まれているからなのだが、そうした音は、テレビスピーカーではマスキングされる微小レベルの音である。Mさんのシステムでは、そうしたわずかな音をクリアーに描き出し、臨場感を明確に高めている。

 

プロジェクターはビクターDLA-X590R。フルHD解像度のD-ILAパネルをe-shift技術にて4K表示する4K表示対応モデルだ

 

スクリーンを上げると、レグザの65インチ有機ELテレビが現れる

 

 取材、そして撮影が終わったところで、奥様がまた珈琲を淹れてくださった。おそらく上等な豆を使っているに違いないが、単にいい豆を使っただけでは味わえない、その「雑味のなさ」に再び感動した。そして、これは、Mさんの音によく似たテイストだとも感じた。リンという上等なシステムをただ使っているだけではなく、機械を丁寧に使っているからこそ到達できる音の世界がそこにはあった。2万枚もレコードを収集するMさんの音楽にかける想いを、しっかりと音として昇華しているのだな、と思った次第だ。

 

取材にご協力いただいたインストーラー

●マックスオーディオ
http://www.maxaudio.co.jp/guide/guide.html

 

>本記事の掲載は『HiVi 2026年夏号』