マイケル・ジャクソン(以下、MJ)の楽曲をヘッドホンで聴く……と書くと、何の変哲もないが、ヘッドホンが「Wi-Fi」対応と来たら、それはブランニューのリスニングスタイルではないか。それがHIFIMANの“Wi-Fiヘッドフォン”「Arya WiFi」だ。HIFIMANは昨今急速に実力を高めている、高音質の平面磁界型振動板ヘッドホンブランドとして、わたしは認識している。
ヘッドホンやイヤホンで、ワイヤレスといったらBluetooth伝送が当たり前だが、広帯域のWi-Fi伝送にて、高音質を狙ったのが本機Arya WiFi。そのベースモデルはARYA UNVEILED。背面反射、共振の影響を低減させるアンベイルド構造(ドライバー背面のグリルやメッシュを極力排し、ほぼ完全に開放させた構造)はそのままに、Wi-Fiモジュール、DAC、アンプなどの各種回路を搭載した。ワイヤレス接続の手法としては、Wi-FiのほかにBluetoothにも対応し、有線ではUSB Type C接続も用意されている。
まずはウリのWi-Fi接続で聴こう。アクセスポイントから直接、Wi-Fi入力。今回はQobuz Connect機能を活用し、Qobuzアプリで楽曲再生を行なった。
Wireless Headphone
Arya WiFi
¥236,500 税込
●型式:Wi-Fi・Bluetooth内蔵・開放型・平面磁界型ヘッドホン
●動作モード:Wi-Fi、Bluetooth、USB Type C
●バッテリー動作時間:6.5〜7.5時間(Wi-Fiモード時)、23時間(Bluetoothモード時)
●充電時間:3〜4時間
●質量:452g(ケーブル除く)
ヘッドホンの右側ハウジングにWi-Fi、Bluetooth、USB Type Cを含む入力モジュールとDACセクション、アンプ回路を集積した基板をマウント。DACは、HIFIMANが独自開発した「ヒマラヤDAC」と呼ぶR2R方式を小型化したDAC回路を左右独立して搭載しているこだわりようだ
Wi-Fi で聴く「ベンのテーマ」はMJ の感情の表出が素晴らしい
1972年リリース、映画『ベン』の主題歌「ベンのテーマ」(192kHz/24ビット)。MJのソロ初のナンバーワンヒットであり、13歳の初期の佳曲として、私が愛する楽曲だ。大学で教えていたときは、珍しい長調から短調への同主転調の見本として、講義の題材でもあった。Arya WiFiで聴く「ベンのテーマ」はMJの優しさ、艶やかさ、感情の濃さがインティメット(親密)であり、粒立ちも緻密だ。スピーカーリスニングでは、エッジの尖った鋭さと強靱な剛性感も特徴として聴けるが、ヘッドホンでは輪郭が穏やかになり、耳馴染みも優しい。さらにヘッドホンならではの美点としては、音像位置の明確さ、ステレオ的な鮮やかな左右対比が挙げられる。センターに確実に定位したギターとヴォーカル、さらに左のヴァイオリン、右のチェロのオブリガードの音場的競演を、鮮明なセパレーションにて耳許で堪能できた。
MJのヴォーカルの艶と細かなアーティキュレーション。大きなヴィブラートが発するエモーション。それらを脳内でストレートに感じ取ることができたのである。特に短調に転調した時の、弦のマイナーコードの響きには痺れた。
「ビリー・ジーン」。1982年12月リリースの『スリラー』からの第二弾シングルで、翌1983年3月にナンバーワンを獲得した大ヒット曲。本曲も「ベンのテーマ」同様のインプレッションだ。スピーカーリスニングではシャープネスとエッジの強靱さが特徴だったが、Arya WiFiヘッドホンは、強音でも耳あたりが良い。キーボードもヴォーカルもドラムスも輪郭の強調感が薄く、すっきりとした質感だ。 音場感はやはり素晴らしい。センターのヴォーカル、左右に拡がるコーラス、右のパーカッション、ブラスという音像イメージがたいへん明瞭だ。この耳感覚がとても心地好い。特に「♪Do think twice」と歌う、左右に拡張されたコーラスの重唱感は快感。
再生操作にはiPhone / iPadを使用し、Qobuzアプリを使った。同アプリからQobuzConnect機能を活用したうえで、画像で囲っている部分をタップして、Arya WiFiでの再生を指定する仕組みだ。今回は、iPadを再生機としても使い、USB Type CケーブルでArya Wi-Fiと有線接続したパターンも試している
有線接続の「ビリー・ジーン」は突き抜けたワイドレンジ感が圧倒的
次に有線USB接続を聴こう。USBケーブルによるワイヤード伝送のデジタル信号をArya WiFi内蔵DACでアナログ化して駆動。iPadからUSB接続だ。楽曲は同じ「ビリー・ジーン」。iPadのQobuzアプリで再生する。たいへん素晴らしい。まさにこれこそHIFIMANの平面磁界型ヘッドホンならではの突き抜けたワイドレンジ感、透明感そのものだ。冒頭のドラムスとベースの強靱なアンサンブルが、畳みかけるように襲ってくる。低音のボリュウム感も巨大で、緻密だ。ビートのキレは先鋭で、コーラスの重唱感、疾走感もたいへんリアル。MJの声の先鋭さ、剛毅さ、豊かなメッセージ性も圧倒的なクリアーさで伝わってくる。
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Arya WiFiを、ワイヤレスWi-Fi、ワイヤードUSBで聴いた。音源の持つ情報量をハイフィディリティに伝えてくれるという意味では、オーディオ的に優れる有線USBがよい。だがヘッドホンだけの非常に手軽な再生ながら、MJの音世界に深く浸れるWi-Fiリスニングは、音楽が生まれる場の描写が秀逸。ケーブルなしの自由な再生でありながら、耳馴染みの良い音が嬉しい。
>本記事の掲載は『HiVi 2026年夏号』