ネットワークオーディオの音質を追求しているオーディオファイルなら、「Diretta(ディレッタ)」という高音質な手法を知っているだろう。音楽を送る側を「Host(ホスト)」に、再生側(ネットワークプレーヤーやUSB接続DAC)を「Target(ターゲット)」として定めて、その間のデータ転送を細かく平均化することで高音質化をもたらすという仕組み、専門的にいえば通信プロトコルである。
なぜ音が良くなるかというと、Targetの挙動=電力消費を一定にできるから。決して音楽データを操作しているわけではない。Targetが行なう処理を最小化していることもキモのようなのである。そのぶんHostが頑張ってくれているらしい。Direttaは日本発祥の画期的なアイデアだ。原田勇氏が代表を務めるメガテックエレクトロニクスが、Direttaを主宰している。
そしていま、さらなる高音質化を実現する「Diretta Direct Stream(以下、DDS)」が登場。ネットワークオーディオ界ではすでに話題になり、DDSを採用する海外勢も増えた。すでに自宅でDDSを実践しているという読者も少なくないだろう。
私自身はこれまでオリジナルのDirettaによるネットワークオーディオの音質に不満を抱いてこなかったけれども、本稿の取材から自宅でDDSを実践してみて、唖然とするほどの高音質ぶりに感動してしまった! もうDDSからオリジナルのDirettaに戻ることなどできない……。
積極的にディレッタを推進するオリオスペックとSOtMがDDSにも対応
DDSにとりわけ積極的なのは、秋葉原から高音質ネットワークオーディオを発信しているPCショップ「オリオスペック」と、韓国のオーディオブランドSOtM(ソム)のネットワークオーディオ関連機器を輸入販売している「ブライトーン」である。そこで本誌編集長は、Direttaの生みの親である原田勇氏に声がけして、オリオスペックの酒井社長とブライトーンの福林社長の3名からDDSをレクチャーしてもらった。インタビュアーは私になってしまったのだが(汗)、HiViは技術誌ではないし読者もそうではないだろう。というわけで、なるべく技術的に詳しい話はせずにDDSを解説していこう。
UPnP(Universal Plug and Play)など、多くのオーディオ用通信プロトコルではIPv4の環境で動いているのに対して、DDSは現在主流のIPv6で動作する。IPvとは、Internet Protocol versionという意味。IPv4のアドレス長が32ビット(桁)なのに対して、IPv6は128ビットとデータ量が4倍である。主要な通信プロトコルとしてはUDP(User Datagram Protocol)やTCP(Transmission Control Protocol)、ICMPv6(Internet Control Message Protocol for IPv6)などがあるなか、DDSでは高速性に優れたUDPを採用。UDPは動画配信や会議やオンラインゲームなどにも使われているプロトコルである。
ここまで書いた段階で意味不明に陥ってきてしまうのだが、前述したようにDirettaでのオーディオ信号伝送では、そもそも送り出し側と受け取り側をHostとTargetの関係として、ハッキリと定めている大前提があるため、DDSでは音楽データとは関係のないデータの冗長分を削ぎ落し、シンプルな伝送を行なう。開発者の原田氏は「DDSとはIP(Internet Protocol)を排除したデータ伝送」と理解するとわかりやすいと語ってくれた。細かく平均化したデータ転送という手法に変わりはない。
オーディオ専用プロトコル
Direttaとは?
一般的なネットワークオーディオプレーヤーで用いられているUPnPという通信プロトコルでの再生概念図(上)。音声信号の受信側が様々な処理を受け持つ。また間欠的にデータを伝送されるため、ネットワーク信号のパケット(固まり)が瞬間的に上昇、低下を繰り返す。下は、その様子を電流値として計測したものだ
「オーディオ」用として理想的なデータのやり取りを追求して作られたDirettaでは、通信にまつわる多くの処理を送り出し(Host)側に担わせることで、再生側=信号受信側(Target)ではシンプルな処理になるように工夫されている。また信号のやり取りも細かくしかも一定であるため、パルス的なノイズの抑制にも繋げている
音楽信号のデータ構造のイメージ。一般的に使われているUPnP(上)と比較すると、Diretta Direct Stream(下)は、圧倒的に制御用データが少なくシンプルなのがわかる
DDSは設定さえクリアーすれば再生アプリは従来のディレッタと不変
ここからはDDSの実際について述べていこう。最初にハッキリと知っておいてほしいのは、オリジナルのDirettaだけに対応していたHostとTargetは、DDSに非対応ということ(オリジナルDirettaの通信は可能)。たとえば定番的存在だったサウンドジェニックやフィダータのミュージックサーバーをDDSのHostにはできない。Targetではスフォルツァートやソウルノートの機器がそうである。主な対応機器は後掲のリストの通り。
実のところ、私が疑問を抱いていたのは、DDSで使うことができる音楽再生アプリについてだった。その答えはあっけなく、私が常用しているmconnect HDやRoonはもちろんのこと、音楽ストリーミングのQobuzもOKだった。全く心配なかったことを知って、私は大いに安心した次第。
レクチャーを受けたのはオリオスペックの店内スペースだった関係から、オリオスペックとSOtMの機材で実際にDDSの音を聴かせていただいた。
Hostが「canarino fils9 Rev.6」オーディオ用PCで、Targetが「Diretta Target Pi2」とD/AコンバーターのマイテックデジタルのマンハッタンⅡの組合せと、HostがSOtMのsMS-2000と、Targetが同じくSOtMのsMS-200ultra Neoというコンビの2パターンである。アンプはソウルノートA-0、スピーカーはPMCのtwenty5。いずれも高音質ぶりを感じさせる音の良さが伝わってきたので、私はルンルン気分で自宅に戻った。なぜって? もちろん自宅でDDSに挑戦するためだ。
私が自宅で試した機器環境を述べておこう。Hostは昨年に導入したSOtMのsMS-2000で、TargetはsMS-200ultra Neoに決定。SOtMはWebブラウザーで設定するようになっているので、私はsMS-2000をHostにすると同時に、ネットワークオーディオ再生で汎用的に使われることの多いUPnPプロトコル機能も有効にしておいた。sMS-200ultra Neoも同じようにTargetに指定してUPnP機能もアクティヴに。音源はデラのミュージックサーバーN1とフィダータAS2に入れてあるFLACとDSD形式のハイレゾファイル。USB接続DACは、音質に惚れ込んでいるマスターフィデリティのNADAC Dだ。このように設定することで、常用の再生アプリmconnect HDで通常のUPnPとDDSがPlayerの設定を切り替えることで再生ができるようになる。TargetとHostのUPnP設定をそれぞれQobuz Connectに替えるとQobuzのストリーミングでもUPnPとDDSとの音質比較が可能になった。
実際には試行錯誤やリブートを繰り返しており、備忘録的にメモを取りながらDDSの成功にこぎつけたことを述べておきたい。
DDS(Diretta Direct Stream)対応コンポーネント
(2026/6/1現在)
●Host対応
オリオスペック
canarino filsシリーズ
●Target対応
オリオスペックDiretta Target Pi2
スペック RMP-UB1、RMP-UB1SFP
オリオスペックDiretta Target Pi2(¥66,000税込/ベーシック仕様)。OSにRaspberry Pi5を用いてDirettaのTargetとして機能するアイテム。USB出力でデジタルデータを単体DACに送り出す、ネットワークブリッジだ
●Host/Target両対応
SOtM
sMS-2000 (PSおよびPSMC仕様含む)
sMS-200ultra Neo
sMS-200 Neo
韓国SOtMは設定次第で、DirettaのHostにもTargetにも対応するネットワークサーバー兼ネットワークトランスポートをリリース。写真はsMS-200 Neo(¥90,750税込/通常仕様、USB出力を装備)
三浦さんが自宅で使っているSOtMの最高峰サーバー&トランスポート、sMS-2000(¥2,090,000税込)
汎用のUPnPと比較再生すると余りにも大きな違いに驚く
汎用的なUPnPプロトコルとDDSの音質の違いは、あまりにも大きい! おそらくというか、間違いなく音楽データそのものに変化は全くないはずなのだが、DDSでは音楽の背景が「漆黒」もしくは「透明」という感覚の恐るべき静寂さを伴ない、そのぶん音楽の色彩的なコントラストがグッと高まって鮮やかさと解像感が増したという印象である。Qobuzのストリーミングでも音質変化のベクトルは全く同じだ。DDSによる音質改善は凄い!
別表に挙げた対応のTargetとHostであれば、自由な組合せでDDSが実践できる。自宅にあるDiretta専用USBブリッジのスペックRMP-UB1SFPをTargetに設定してみたが、全く問題なくDDSで動作した。
Diretta Direct Stream=DDSは、始まったばかりだ。これから対応機器も増えるだろうし、機器のファームウェアも洗練されていくだろう。DDSの登場によって、ネットワークオーディオの音質は究極的なレベルに進化を遂げたと断言できる。
取材協力:MegaTech Electronics 合同会社、有限会社オリオスペック、株式会社ブライトーン
>本記事の掲載は『HiVi 2026年夏号』