マイケル・ジャクソン(以下、MJ)を聴く企画に使うスピーカーとして、ソナス・ファベールは最も遠い存在ではないか。ヨーロッパ音楽の伝統から生まれたクラシック音楽を生成りのすがすがしさと音楽性で聴かせるスピーカーと、アメリカとブラック文化の粋を集めたビートとハイスピードなMJの音楽との相性はどうなのか。逆に言うと、JBLでMJというのは、予定調和的で意外性は全くない。普段なら、考えもしないような組合せこそ、リスキーだけど、たいへん興味深いではないか。
今回はソナス・ファーベルの最新製品群であるSonetto G2シリーズを選んだ。HiVi2025年冬号で、登場したての同スピーカーを聴き、刮目のサウンドに感心したことが選択の理由だ。同社のフラッグシップ「Suprema(シュプレーマ)」で開発された最新技術(共鳴を抑えるためのミッドレンジユニットに椿の花の形の、凹型エッジ形状、内部チェンバーにコルクを採用など)が積極的に採用されている。
Speaker System
Sonetto Ⅱ G2
¥506,000(ペア)税込
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:28mmドーム型トゥイーター、165mmコーン型ウーファー
●出力音圧レベル:87dB/2.83V/m
●クロスオーバー周波数:3.1kHz
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W227×H414×D355mm/10.4kg
●備考:スタンド(Stand Sonetto G2、¥165,000ペア税込)別売り
Sonetto Ⅴ G2
¥1,155,000(ペア)税込
●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:28mmドーム型トゥイーター、165mmコーン型ミッドレンジ、165mmコーン型ウーファー×2
●出力音圧レベル:90dB/2.83V/m
●クロスオーバー周波数:280Hz、2.5kHz
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W308×H1,088×D415mm/33.5kg
Sonetto Center G2
¥517,000(本)税込
●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:28mmドーム型トゥイーター、100mmコーン型ミッドレンジ、165mmコーン型ウーファー×2
●出力音圧レベル:88dB/2.83V/m
●クロスオーバー周波数:350Hz、4kHz
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W648×H235×D353mm/17.6kg
Subwoofer
Gravis Ⅱ
¥264,000(本)税込
●型式:アンプ内蔵サブウーファー・パッシブラジエーター型
●使用ユニット:260mmコーン型ウーファー、260mmコーン型パッシブラジエーター
●アンプ出力:350W〜700W
●接続端子:アナログ音声入力2系統(モノーラル用RCA、LFE用RCA)、アナログハイレベル入力1系統(スピコン端子)
●寸法/質量:W356×H404×D408mm/21.5kg
美的で明朗な音楽的響きがバイアンプ接続で濃厚に出現
早速、MJのCDとDVDビデオを使って、2ch&5.1ch音源を聴こう。まずCDから。SACD/CDプレーヤーとアンプ(AVセンター)はデノンのDCD-SX1 LIMITEDと、AVC-A1HのHiVi視聴室の標準システム。
Sonetto V G2の再生。28mmトゥイーター+165mmミッドレンジ+165mmダブルウーファー2基による3ウェイ機での2ch再生だ。本スピーカーの基本性能として、前述のHiVi2025年冬号で私は、こう記した。引用しよう。
「白いカメリア・ミッドレンジが燦然と輝く。2基の165mmウーファー搭載機だから、ブックシェルフモデルのⅠとⅡとは当然、低音の量感が違う。一般的には大型化すると、低域の感覚的な速度が大なり小なり低下することが多いのだが、新Sonetto G2シリーズのフロアー型は違う。低域スピードが圧倒的に速いのである。「量感か速度か」でなく、「量感も速度も」だ。」
ジャクソン5の3作目『サード・アルバム』(1970年)からの佳曲「アイル・ビー・ゼア」。12歳のMJの可愛い歌声に注目。この曲をなぜ選んだかというと、音楽理論的にいわゆるカノンコード進行(音階が1コードずつ下降する)の最も快感的な調べであり、長年、私が大学で教材として採り上げてきた楽曲だからだ。Sonetto V G2で聴く同曲は温度感が高く、中央に位置する少年MJのラブリーなヴォーカルの、高域の突き上げの鋭さ、ヌケのクリアーさ、左右から取り囲むコーラスのハーモニーの美しさ、さらにヴォーカルとベースのセンター定位の確実さなど、音源を活かす本スピーカーの表現性の高さが聴けた。
ここから実験だ。Sonetto G2シリーズは、全製品が、バイワイアリング/バイアンプ接続対応仕様の端子を備えている。そこで、シングル接続の繋ぎ方を替え、次にバイアンプと順番に聴いていこう。いま述べたインプレッションは、ウーファー側のプラスとマイナス端子に繋いだシングルワイアリング接続の状態で、十分に楽しめる音だった。たすき掛け接続はどうか。トゥイーター側のマイナス端子と、ウーファー側のプラス端子に接続したところ、確実にクォリティが上がった。レンジが広く、ベースの剛性も上がり、コーラスの重唱がクリアーになった。明瞭度が増し、音の輪郭が先鋭に変化したのである。
次は本来バイワイアリング接続を試すべきであるが、AVC-A1Hのスピーカー端子が小さいため、2組のスピーカーケーブルを接続するのは難しく断念。一挙にAVC-A1Hのバイアンプ設定を活かしたバイアンプ接続を試してみた。
デノンのSACD/CDプレーヤーDCD-SX1 LIMITEDと同じくデノンのAVセンターAVC-A1Hを使い、Sonetto Ⅴ G2スピーカーを駆動、2chステレオシステムとしてCDを再生するが、ここでアンプとスピーカーとの接続の違いで、ニュアンスがどう変化するかを試す。具体的には、①低域側の端子にシングルワイアリング接続(写真上)、②高域側のマイナス端子と、低域側のプラス端子に「たすき掛け」、③AVC-A1Hのバイアンプ接続機能を活用した「バイアンプ」接続(写真下)の、3パターンを試した
これは凄い。これまで聴いていた音は何だったのだというほどの圧倒的なクォリティアップだ。全ての音の質が上がった。ヴォーカルの浸透力、伸び、突き抜け力が格段に向上し、ニュアンスも含め、音楽的なボキャブラリーが大幅に増えた! ヴォーカル音像は明晰でボディがしっかり。コーラスが美しく協和し、和声感が明瞭になった。ヴォーカルもピアノも清新だ。なによりソナスらしい美的で明朗な音楽的響きが、バイアンプ接続によって濃厚に感じられるようになる。少年時代のMJのラブリーな先鋭さが、ソナスのグロッシーな音楽性で練成され、まさにソナス的なMJ世界の扉を開けたと形容できよう、この環境で聴くならば、無限に天井が高いようなMJの先鋭さに、人間的な血流が色濃く、濃い感情が迸る。
「P.Y.T.(Pretty Young Thing)」。アルバム『スリラー』からの第6弾シングルで1983年9月にリリースされた。センターに正確に定位するベースの体積感がリッチで、躍動的。同じくセンターのスネアドラムスも鮮鋭。これらも含めて、Sonetto V G2の空間感は実に豊か。音数が多い音源だが、それらを整然かつ的確に音場内に配置し、緻密な実存感と定位感を打ち出す。互いの位置関係が離散的でなく、有機的なのが、ソナス・ファベール的といえよう。サビで、ヴォーカルに覆うように左右スピーカーの間に空間的に発せられる「♪P.Y.T.」のコーラスに対し、Sonetto V G2はしなやかにして、シャープな輪郭を与えている。人の声の再生という意味では、もちろん中心に定位するMJの声の人間味が素晴らしいが、私は「♪P.Y.T.」の切迫したキレキレの合唱声に陶酔した。2分30秒付近の、MJと姉妹であるラトーヤとジャネットたちとの掛け合いがスリリングだ。MJをソナスで鳴らすのは、MJの「音楽の使徒」として、MJ作品の音楽性をソナス流に全開させることだと、改めて痛感した。
MJ全盛期の映像と強烈にマッチするSonetto G2シリーズでの5.1ch再生
メインがSonetto V G2、センターがSonetto Center G2、サラウンドがSonetto Ⅱ G2、サブウーファーGravis Ⅱという陣容でのサラウンド再生。
DVDビデオ『ライヴ・アット・ウェンブリー』のドルビーデジタル5.1ch音源の再生。1988年6月伝説の『BAD』ワールドツアーのロンドン、ウェンブリー・スタジアムでのライヴだ。Sonetto G2シリーズの5.1chシステムで再生する音のポイントは「拡がり」と「集中」。アンコール前の最後の曲「BAD」の再生が始まって、約1分20秒は、シンセの和音と会場の大歓声だけ。リズムや歌はなし。だから、本ディスクとシステムが織りなすアンビエント再現性が手に取るようにわかる。サラウンド的に完璧に音色統一されたシステムだから、まさに大歓声に取り囲まれている、生々しい実体感を痛感。スピーカーの間からも、観客が騒ぎ、空間的なディップがない。歓声は極言すると騒音ではあるが、本システムでは、刺激的なとげとげしさがたいへん少なく、歓声の質感(?)が高い。全周に拡がる心地好い騒音(?)の大波をまず体感した。
もうひとつのキーワードが「集中」だ。演奏が始まると、鮮鋭なキレ味、先鋭で衝撃的なリズム、そして低音の偉容感に圧倒される。これはスクリーン側の設置したSonetto V G2+Sonetto Center G2の表現性が大いに効いている。MJのアグレッシブで先鋭的なフレージング、ベースのうごめき、パーカッションの衝撃音、MJとコーラスの交錯などの強靱な音情報が駆け抜ける。音進行の鮮烈さが部屋の空気を引き裂く。
Sonetto V G2を使った音だけのステレオ再生のMJも素晴らしかったが、それを中心にサラウンドシステムでのMJは特段の臨場感に加え、映像とのマッチングが濃密だ。MJのキレキレの激しい動き、ハイエナジーな歌唱姿、大観衆の喝采……。そんな映像に、Sonetto G2シリーズが感化されたように聴けたのだ。実際は、そんなわけはなく、脳内の映像/音声の相互作用なのであるが……。いずれにしてもSonetto G2シリーズが持つ、ウェッティで有機的な質感と豊かな響きが、MJ全盛期のライヴ映像という強烈な視覚刺激を得て、より生々しいライヴ感に繋がったのであろう。
冒頭に「MJとソナス・ファベールの組合せはリスキーだ」と述べた。いやいや、MJの音の情報性とソナスの情緒性が交錯し、実に想いの深いワン・アンド・オンリーのMJ劇場になった。
最後にBD映画『ウィズ』を再生した。『オズの魔法使』の翻案版で、MJはカカシ役だ。センターのMJ、リズムセクション、コーラスに加え、左右に拡がるブラス隊……と音像イメージは非常にリジッドなのだが、同時に空間感も実にリッチなのである。コンテンツの音世界を、ソナス流の解釈で巧みに聴かす。音色の華麗さ、エッジの鋭さは、まさに新世代のソナスならでは切り口だ。
『ウィズ』では音の厚み、音の重層感、プレスのキレ味というクインシー・ジョーンズ&MJ一流の音世界を貫徹しながら、映画的な人肌感覚を加えている。まさにコンテキスト(文脈)をリスペクトした音であった。
リファレンス機器
●8Kプロジェクター:ビクターDLA-V90R
●スクリーン:キクチDressty 4K/G2(120インチ/16:9)
●4Kレコーダー:パナソニックDMR-ZR1
●SACD/CDプレーヤー:デノンDCD-SX1 LIMITED
●AVセンター:デノンAVC-A1H
>本記事の掲載は『HiVi 2026年夏号』