ガラスを振動板に使ったスピーカーと聞いて、果たして貴方はどんなイメージを抱くだろうか。「脆くて割れそう」「大入力は難しいのでは」「音が硬そう」etc.……。大方のイメージはそんなところだと思うし、かくいう私も似たような感覚を抱いていた。
しかしGlaXfiブランドのBSP-24の音の印象は全く違った。常識的な範囲では充分にパワフルに鳴るし、もちろん脆そうなところも、割れるのではという不安も一切ない。これは大袈裟でなく、スピーカー振動板の1つの革命、パラダイムシフトかもしれない。そんな印象すら私はこの「超薄板ガラス振動板」Sonarion(ソナリオン)採用スピーカーから受けたのである。
Speaker System
GlaXfi
BSP-24
¥390,000(ペア)税込
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター、165mmコーン型ウーファー
●出力音圧レベル:87dB/W/m
●クロスオーバー周波数:2.4kHz
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W220×H390×D300mm/10.7kg
●カラリング:マットブラック、ウォールナット
というのも、『オフ・ザ・ウォール』の頃のマイケル・ジャクソンの楽曲特有の<跳ねるリズム>を、本機は完璧に追従しているのだ。しかも、ある程度大きめの音量で。ダルな低音は出さず、クリアー&クリーンでキレ味のよい低音が小気味よくストレートに繰り出したのには、いい意味で少々面食らった。
「ロック・ウィズ・ユー」のLチャンネルから終始刻まれるエレキギターのカッティング・リフや、キックドラムのマッシブなビートに乗って、マイケルの甘い声がくっきりと定まる。低音のピッチの正確さは素晴らしく、曖昧さが微塵もない。「ワーキング・デイ・アンド・ナイト」のハンドクラップのトランジェントの心地良さ、ヴォーカルのピンポイントの音像定位とその克明さ。この音にはマイケルのダンスと同様、滑らかさとキレ味が絶妙に両立している。
極め付きは「ゲット・オン・ザ・フロア」だ。ルイス・ジョンソンが繰り出すスラッピングベースの鋭さと量感が実に精巧に奏でられ、大きめの音量でもバランスが崩れたりしない。弦を弾く右手の動きが見えるかのような描写で、マイケルのスキャットもたいそう伸びやかに聴こえた。
高剛性の超薄板ガラス素材を台湾GAITが振動板へと加工する
試聴したBSP-24は、何の変哲もないオーソドックスな形式のバスレフ型ブックシェルフ2ウェイ。他社のスピーカーと少々趣きが異なるのは、振動板が透明で、165mmウーファーユニットでは振動板越しにボイスコイルやダンパーが見えるところ。このウーファーは、厚さ0.2mmのコーン型超薄板ガラスのSonarionを素材に用いる。一方の25mm口径トゥイーターには、厚さ50ミクロンの超薄板ガラスで作られたドーム振動板を搭載。この2つのドライバーは3次フィルター(-18dB/oct.)のクロスオーバーネットワークにて2.4kHzで帯域分割され、実に45Hz〜45kHzという広帯域特性をカバーしている。
25mmドーム型振動板を採用した高域ユニット。50ミクロン(0.05mm)厚の超薄板ガラス振動板により、低歪みかつ45kHzに至る超高域までの帯域を担う。中央のイコライザーは、指向制御を行なうために備わっているものだろう
165mmサイズの超薄板ガラス振動板を用いた低域ユニット。振動板の厚みは、200ミクロン(0.2mm)。センターキャップは独立しておらず、一体成型となっているが、日本電気硝子から納入されたガラス素材をこうした複雑なカーブに整形できる技術をGAITが保持している。エッジ/サラウンドの分厚さにも注目したい。磁石はフェライトのようだ
なお、今回の試聴モデルはパッシブ型で主にAmazonなどのネット通販等にて日本で展開中。他にBluetooth対応の200W出力のクラスDアンプを搭載したアクティブ型も台湾本国ではラインナップしているようだ。
一般に振動板に希求される要件は、軽さと堅牢さと適度な内部損失である。そうした点からガラスを見た時、どれも当てはまらないように一見思える。しかしそれを技術的にクリアーしたのが、超薄板ガラスSonarionを製造する日本の素材メーカー「日本電気硝子」と、それを台湾のスタートアップ企業「GAIT」による共同作業(協業)でスピーカーユニットとして完成させ、さらにそのユニットを使ってGAITが単体スピーカーシステムをGlaXfiブランドで展開している。
ガラスは「薄く、しかも高強度」という特性を持ち、音響的には「高い剛性、速い音速」(音速は紙製振動板の1.8倍。チタンやアルミニウムのそれをも上回る)という特徴がある。しかし一方で、質量と加工の難しさをクリアーしなければならない。日本電気硝子が開発した超薄板ガラスと、振動板加工技術力を持ったGAITが出会ったことで、スピーカー振動板としての可能性が一気に高まったというわけだ。
日本電気硝子の超薄板ガラスが、前述した振動板の要件の「薄くて高剛性」を満たしていることはわかった。では、もう1つの条件である「適度な内部損失」はどうか。
これに関しては、「アルカリガラス」の組成である「化学強化」がその目的を果たしている。アルカリガラスの内部には、アルカリイオンとペアとなる結合の切れが存在し、その動きの自由度に伴って振動が熱変換されて消失する。この作用がまさしく内部損失となるのだ。
超薄板ガラスの成型方法は、液体状のガラス溶材を樋状の成形体の上からカーテンのように両側に溢れさせ、その下で融合させてシート状にする。落下中にガラスが冷却されることで平坦かつ均一な厚みのガラスを製造することができるという。
軽くて硬くて適度な内部損失という要件を満遍なくクリアーにした超薄板ガラス。では、なぜこれまでスピーカー振動板として応用例がなかったのかといえば、それは単純に技術的な困難さがあったためで、今回はそれを打ち破ったプレイクスルーと発想の転換があったといえよう。
1949年創業の日本電気硝子は、ディスプレイ用ガラスで世界2位のシェアを有する。2000年代から超薄板ガラスの開発を進めてきたが、アプリケーション活用にはなかなか至らず、2015年頃から振動板への応用を音響メーカーに提案し続けたという。しかし、加工/ユニット化できるメーカーと出会うことが叶わなかったのである。そこに白馬の王子の如く(?)、颯爽と現われたのがGAITというわけだ。
GlaXfi BSP-24は、台湾のGAIT(Glass Acoustic Innovations Co., Ltd.)による超薄板ガラスユニットを搭載した2ウェイ構成のパッシブスピーカー。同社は、日本のガラスメーカー、日本電気硝子㈱と組んで、超薄板ガラス振動板を採用したドライバーユニットの開発に尽力している。自らが開発、製造した振動板を用いたスピーカーシステムとしてリリースしているのが、本機である
ダイナミックかつ有機的にマイケルを鳴らす超薄板スピーカー
今回のBSP-24スピーカーの試聴には、マグネターUDP900 MKⅡを用いて『オフ・ザ・ウォール』の初回日本盤CDを再生。バランス接続にてデノンのプリメインアンプPMA-SX1 LIMITEDに送り込んで駆動した。
今回聴いたマイケルの楽曲特有の強烈なビートやゴージャスなアレンジをどう表現するかは大いに気になるところ。冒頭に詳解したように、結論から述べればそれは想像以上に優れたものであった。
マイケルの大ヒットアルバムにして、レコード史の金字塔でもある『スリラー』も再生した。ダンサブルなビートと、クインシー・ジョーンズが捻りに捻ったアレンジの巧妙さを、BSP-24は実にダイナミックに再現したのである。
「スタート・サムシング」のシンセサイザーによる打ち込みビートを軽快なトランジェントにて再現する様には、これぞ軽量かつ音速の速いガラス振動板ならではの持ち味ではないかと感嘆した次第。クールな佇まいのスピーカーではあるが、マイケルの瑞々しくて伸びやかでしなやかな声には、むしろ有機的な響きと音色すら感じる。
ポール・マッカートニーとのデュエット曲「ガール・イズ・マイン」では、ほのぼのとしたインティメイトな楽曲の雰囲気がよく伝わってきて、コーラスの立体的な広がりやフィンガースナップのトランジェントの良さも実感した。
そして大ヒット曲「スリラー」である。軋むドアの音、風や雷鳴、右から左への足音の移動、獣の遠吠えなど、冒頭の様々なエフェクトがリアルに浮かび上がる。ボリュウムを若干上げてみたが、強力な反復ビートをがっちりグリップし、崩れる素振りなど全く見せない。間奏部のギターソロとバッキングのリフとのアンサンブルもくっきりと張り出し、当時何度もテレビで鑑賞したあのミュージックビデオが脳裏に浮かんできた。
「今夜はビート・イット」も強力だ。リズムマシーンのビート、ディストーションギターのストロークが鮮明に浮かび上がり、ダイナミックなサウンドが存分に堪能できる。曲の流れを主導するギターの多重録音のアンサンブルの中で、ギターのボディを叩くような音、主に左チャンネルに定位するエディ・ヴァン・ヘイレンのギターソロが実にシャープかつソリッドに響いた。
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試聴前に抱いていた「ガラススピーカー」に対する懸念は、試聴後にはきれいさっぱり霧散した。少なくとも私は、超薄板スピーカーSonarionの今後の展開には期待せずにはいられない気持ちになった。
リファレンス機器
●ユニバーサルプレーヤー:マグネターUDP900 MKⅡ
●プリメインアンプ:デノンPMA-SX1 LIMITED
>本記事の掲載は『HiVi 2026年夏号』