人気作家・加門七海が自身の体験を元にしたためた同名小説を実写化した『祝山』が、いよいよ6月12日より公開される。禁忌に触れてしまった人物たちに次々と降りかかる怪奇現象。その様子を、繊細な心理描写とともに描いた注目の作品だ。ここでは、主人公・鹿角南(橋本愛)を山に侵食されてゆく最中に誘う矢口朝子を演じた石川恋にインタビュー。役作りの苦労から現場での印象などについて、話を聞いた。

――よろしくお願いします。作品が完成して、いよいよ公開を迎えます。出演を振り返っていかがですか。

 よろしくお願いします。そうですね、映画を観て改めて感じたのは、ホラー映画ではありますけど、鹿角 南(橋本 愛)と矢口(朝子:石川)の関係性が、すごくキーになっているお話だったなというものでした。いきなりネタバレはできないので少しボカしますが、二人にはかつて接点があり、朝子は鹿角を拠り所にしていた部分があった。でも当時は、矢口は自分勝手ながらに鹿角に救いを求めていたような印象があって、矢口の中には鹿角への執着のようなものが生まれていた。それ以降関わりがなくなった後も、鹿角に対しての特別な感情は密かに、それは無意識かもしれませんが、矢口の中にずっと残っていたのかなと思います。それがこの物語で2人を引き合わせるきっかけになったのではないかと。そうした二人の関係性が、この映画の面白い部分だと感じています。

――なかなか深い洞察ですね。そうした感情を抱いている矢口朝子の役作りについてお願いします。

 脚本とともに、原作も読ませていただいて感じたのは、面白いキャラクターだな、やりがいのある役だなというもので、ぜひ挑戦したいと思いました。しかしその反面、演じるのはすごく難しいだろうなとも感じていて、実際、本当に難しかったです。

 というのも、ふとした行動をきっかけに理性をどんどん失っていってしまうということが、自分では経験したことがないこともあって、それを掴むのが難しいというか、一番大変な部分でした。

 これはなかなか言語化が難しいんですけど、自分としてある意識の中に、もう一つ、こう重くて禍々しい異物感を常に持っているようにする。それを後から思い返すと、私もこの映画の中に取り込まれていた、朝子という強烈なキャラクターに自分も飲み込まれていたのだろうと思います。

 まあ、石川恋に戻ったら、お家に帰って、ご飯を食べて、寝るという普通の生活をするんですけど、(現場で)朝子として居る間は、朝子っていう軸――私が役作りとして作り上げた核みたいなもの――が頭の中にずっと存在していたという感覚で、それが大きくなったり(朝子が理性を失う)、小さくなったりして(理性を取り戻したように見える)、そのバランスを、シーンごとに取っていたっていう感じなんです。すごく感覚的なことなので、言語化が難しくて、すみません。

――それは初めての感覚ですか。

 そうですね。今回は外部の影響を受けて自分(朝子)が変わっていってしまう。結構、特殊な状態だったと思うので、そういうものを作り上げていくのは、初めてでした。

 これまでの他の作品では、(演じる)役と自分の心が一つに合わさっていく感覚があるのですが、今回は合わさっていくという感覚よりも、物語と矢口という役の持つパワーに段々と飲み込まれていった、という表現が近い気がします。

――結構序盤から、(矢口朝子は)豹変するシーンがありましたけど、その時の芝居は?

 そうしようと思ってやった感覚はなくて、自分の中にある核の中の、もう一つの何かがすごく大きく、気持ち悪くなっている状態のような感じなので、自分でこうしようという感覚はなくて、その何かが支配(芝居)していたという感じです。

――まさに、役に入り込んでいたっていうことでしょうか。芝居をしている感覚は残っているのですか。

 本番を迎えるまではいろいろとプランを練ってはいましたが、本番はその核だけを意識するようにしていました。というのも、どういう気持ちでいるか、やるか(演じるか)って、思考ができるのは人間(自己がある)だからじゃないですか。だから、その自己を手放していく中で、自分の思考より先に、核から起こる本能みたいなものが動いていってしまう感覚だと思うので、ああしよう、こうしようということは考えないようにしていました。だから、怖がらせたいとか、気持ち悪く見せたいということも一切、考えていませんでした。

――その場で求められる役の表現を、自然としていた。

 正解は分かりませんが、その場で自然と動く身体や感情に身を任せていました。

――少し話を戻しますが、さきほど役作りは難しかったと仰っていましたが、どのように行なったのでしょう。

 役作りはやはり、作品に入る前が一番、大変なんです。それはどの作品も同じで、さらに、自分の作ったプラン(役作り)が合っているのかという不安もあります。ただし、撮影初日、2日目を乗り越えたらもう、自分の言葉でセリフが出てくるようになることが増えるので、クランクインまではとにかく頭を悩ませていました。

 朝子が陥る、外部のものに取り込まれて、自分が自分ではなくなってしまう感覚とか、人格や理性が失われてしまう感覚はどういうものなんだろうっていうことを考えて行き着いたものがいくつかあって、それをヒントに、何回もトレースしてみたり、そういうことをいろいろと試して、もちろん監督ともお話をして、朝子っていうキャラクターが出来上がった感覚です。

――自分の中に黒い何かができるって経験は、今回初めて?

 はい、そうです。

――それに気づいたのはいつごろなのでしょう。

 基本的に、お芝居をする時には、核みたいなものは意識するようにしています。すごくハッピーな気分だったら、軽くてふわふわした光っているものを、自分のコアに置くみたいな感覚です。それが今回は、今までに見たことのない、作ったことがないくらい気持ち悪くて、色も禍々しいものになっていた、という感じです。

――ホラー女優にはぴったりですね。

 いえいえ、それは一つの役の中でも、シーンごとに、感情に合わせて、形はどんどん変わっていくものですから。これは昔、ワークショップで習ったもので、海外の演技メソッド――演じる役柄に合わせたコアを自分の中に置く――なんです。だから毎回、どういう形になるのかなって常に考えているんですけど、今回はそれがすごく大きくて、気持ち悪くて、怖いものでした。

――石川さんは『コープスパーティー Book of Shadows』(2016)や『キリングカリキュラム~人狼ゲーム序章』(2015)にも出演されていますから、ホラーというか、心理的に追い詰められる役は経験されています。

 当時は、お芝居の経験もほとんどない状態でしたから、役作りをするというよりかは、見よう見まねでやっていて、何かを表現するというよりも、とにかく台本に書いてあるセリフを覚えて、発するということで精一杯でした。

 でも、その2作の経験は本当に大きかったです。それまでは映画やドラマを視聴者として観ることが大好きで、日常の一部だったんですけど、自分が演じる側になりたいとは思ったことがなくて。でも、映画に出演する機会に恵まれたことで、自分を超えて役としての感情が生まれてくる感覚に衝撃を受け、もっと勉強したいと思えたので、あの時演じる側としてお芝居と出会えて本当に良かったと思っています。

 自分じゃない感情が生まれてくる感覚が面白いと思えるようになったのは、その頃にお芝居に触れさせていただいたからだと思っています。

――話は変わりますが、ここにある色鮮やかな本は、脚本なんですね。

 そうなんです。表紙は彩り豊かで、メルヘンというか、ファンタジーっぽくて、ふわっとなりますよね。でも、この彩りというか、神秘的な部分は、どこかやはり映画を観ていると“ある”感じがするんです。

 朝子は理性を失ってしまいますけど、結局は、生きることへの執着だったり、生贄ではないけど、自分が(そこへ)戻らないと終わらない、ということをどこか本能的に感じているような気がしました。ネタバレしないように話せば、最後に(朝子が)見せる姿は、脚本の表紙から感じるものがうかがえたかなって、思いました。

――終盤へ向けて見せる矢口朝子の表情というか心理というか行動は、とても不思議でした。

 難しいですよね。おそらく観てくださる方にも、理解が難しいと思います。鹿角への執着ゆえの行動とも取れますし、監督は「ありがとう人生」って仰っていたのですが、すごくその印象が強くて、その究極の姿だったのかなって、私は考えています。

――今回、『祝山』に出演して、芝居や表現の手応えみたいなものはありましたか。

 完成されたものを見ると、もちろん、反省は毎回たくさんありますけど、その時にやれることはやり切れたのかなって思っています。すごく掴みどころのない、どう掴んだらいいのかも分からない、なんなら掴めたのかも分からない女性の役でしたけど、私なりの矢口朝子を、映画の中で存在させることはできたんじゃないかと、思いたいです。

――最後に、話は変わりますが、ステレオサウンドONLINEはオーディオビジュアルの専門サイトです。ご興味ありますか。

 ありますよ! 本当に映画が大好きで、特にここ数年の映像や音声の進化ってすごいじゃないですか。『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』も観ましたけど、映画館だからこそ見る価値があるって思いました。

 一方で、初週の口コミで観に行くかどうかを決める人も多いし、配信されるのも早いという状況もありますけど、とにかく、映画館で観たいっていう作品が増えていけばいいなって思うし、そういう映画にもっと携わりたいです。やっぱり私は、映画も映画館も大好きなので、それは今後の俳優としての展望にもつながるものだと思っています。

――ありがとうございました。

映画『祝山』

2026年6月12日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

原作:加門七海『祝山』(光文社文庫刊)
出演:橋本愛 石川恋 久保田紗友 草川拓弥 松浦祐也 利重 剛 ほか
脚本・監督:武田真悟
配給:S・D・P
製作:映画「祝山」製作委員会
2026年/日本/カラー/Dolby5.1/アメリカンビスタ/97分
(C)2026映画「祝山」製作委員会

●石川恋(いしかわ れん)プロフィール
1993年7月18日生まれ、栃木県出身。
2013年、書籍「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」の表紙モデルとして注目を集める。2022年まで「CanCam」の専属モデルを務め、現在は俳優・モデルを中心に活動中。近年の主な出演作として、映画『本を綴る』(2024/篠原哲雄監督)、『黄金泥棒』(2026/萱野孝幸監督)、ドラマ「黒崎さんの一途な愛がとまらない」(2026/日本テレビ)、「ゲームチェンジ」(2026/BS-TBS)、「ディープリベンジ」(2026/YTV)、「コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店」(2026/NHK)などがある。

公式サイト
https://tencarat.co.jp/ishikawaren/

スタイリスト:金野春奈
ヘアメイク:濱野由梨乃
衣裳協力:THE silhouette、Sorbet、SYKIA、ダイアナ