イギリスの名匠ケン・ローチ監督が自ら「最後の作品」と語っているという一作。余力を残さぬほど全精力を傾けたということなのだろう。2023年カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された一作が、いよいよ4月24日よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館他の劇場で公開される。
舞台は、イギリス北部の、炭鉱のある村。タイトルにある「オールド・オーク」は、物語の中で“会合所”のような役割も果たしているパブの名前だ。私の故郷である北海道も昭和50年代の半ばまではずいぶん炭鉱で栄えていたとのことだが、とある大事故があってから、見る見るうちに退潮していった。それとの関係はないとしても、イギリスのこの村も実に活気がない。
さらに、このエリアにはシリア難民が住み始めた。するとどうだろう、「ネガティヴな活気」が、一部の人々に沸いてきた。「よそ者が」、「ロクな英語もしゃべれないような奴が」などの言葉が、新しい住民に浴びせられる。もっとも映画だし、ローチ監督は品格があるので、すさまじいまでの差別的な言葉が出るわけではなく、現実はこんなものではないヘイトぶりなのだろうが、体を切れば共に赤い血が出るだろうし、火葬されれば共に白い骨だろうに、つまり同じ人間だというのに、とにかく差別や憎しみに心を燃やす奴はどこにでもいるものだ。
が、ローチ監督はほんのわずかかもしれない「善」をすくいあげて、じっくりと「人と人の心のふれあい」に触れていく。TJと呼ばれるパブのオーナーとシリアから来たヤラが、人間同士として信頼関係を強めていく。互いの違いに興味を示し、理解を深めていく。おだやかに、楽し気にしている人たちが周りにいれば、ひねくれた意地悪な連中もいつしか、そちらになびいていく。だいいち、憎み続けるのはとても疲れることだし、それなら少しでも共通点を見つけて、認めあって、笑顔でいた方が健康にもいいからだ。
脚本はポール・ラヴァティ、出演はデイヴ・ターナー、エブラ・マリ、クレア・ロッジャーソンほか。この映画は設定こそイギリスだが、世界の人々への呼びかけだと私は理解した。
映画『オールド・オーク』
4月24日より ヒューマントラストシネマ有楽町 ほか公開
監督:ケン・ローチ
配給:ファインフィルムズ
(C)Sixteen Oak Limited, Why Not Productions, Goodfellas, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinema and The British Film Institute 2023