何か夢中になれるものがあると、いやなこと、むかつくこと、吐きそうになることが押し寄せてきても、どうにか生きることだけはあきらめずに乗り切っていこうと踏みとどまることができる。自分の場合はそれが音楽だが、この映画の主人公であるシストゥにとっては、それが「映画」なのだ。
とはいえ、最初は「映画」といっても、何を意味するからわからない。彼が住むアンデスの小さな村には、映画館などない。それどころか電気もままらない感じなのだ。だが偶然にも彼は「移動映画館」の広告を手にして、なんだろうと見に行って、壁に写される“動く写真”に完膚なきまでに心を捉えられた。そうなるとその感動、その衝撃を他の人に伝えたくなる。いつしか彼は「足を運んだことのない人たちに、映画というものがいかにすごいものであるか」、「今回はこんなストーリーだった」といったことに関するメッセンジャーとなった。が、「移動映画館」なのだから、その催しは一つの場所にとどまらず、移動する定めにある。だからいつまでもシストゥの目や手足の届く範囲にはいない。さあ、そこでシストゥはどうするか。彼の映画愛はもう止まらないのだ。そこに、「何かに夢中になっている自分」を重ね合わせてラストまで鑑賞するのも面白いだろうし、描写が細かいので「まだ何も夢中になれる者に出会っていない」というひとも見ているうちに引き込まれていくのではないか、とも感じた。
“スペイン版アカデミー賞”ことゴヤ賞のペルー代表に選出されるなど多くの賞に輝く一作。主演はビクトル・アクリオ、監督はこれが長編2作目にあたるセサル・ガリンド。
映画『今日からぼくが村の映画館』
2026年4月17日(金)新宿武蔵野館 ほか全国順次公開
監督:セサル・ガリンド
脚本:セサル・ガリンド、アウグスト・カバ、ガストン・ビスカラ
撮影:フアン・ドゥランD.F.P.
編集:ロベルト・ベナビデス
音楽:カリン・ジエリンスキ
出演:ビクトル・アクリオ、エルメリンダ・ルハン、メリッサ・アルバレス、アルデル・ヤウリカサ、ベルナルド・ロサード、フアン・ウバルド・ウアマン
ペルー・ボリビア/2022年/ケチュア語・スペイン語/88分
原題:WillaqPirqa, elcine de mi pueblo
配給:ブエナワイカ
(C)Casablanca Cine 2019