本日UA(ウルトラアート)レコードから、45回転レコード『情家みえ/Bonheur(ボヌール)』が発売された。オーディオビジュアル評論家の潮 晴男さんと麻倉怜士さんが設立した同レーベルの最新アルバムで、潮さんの急逝により、奇しくも遺作となってしまった。今回は、潮さんがいい音のために本作に込めた思いについて、一緒に制作に関わってきた麻倉さんにお話をうかがった。
4月15日に、45回転レコード『情家みえ/Bonheur(ボヌール)』を発売します。UAレコードは私と潮 晴男さんの二人で創立した会社で、一緒にCDやレコードを作ってきました。その潮さんが急逝してしまったので、本作が遺作になってしまいました。
潮さんが亡くなったのは2月13日早朝でしたが、直前の2月11日に私は潮さんのオーディオルームにうかがって、このレコードのテスト盤をチェックしていたんです。その時は音のまとまりについて少し悩みましたが、最終的に機材を調整したらひじょうにいい音になり、無事製品版として発売することになったわけです。
それくらい親しく付き合ってきたので、潮さんがいなくなるというのはすごい損失感があります。未だに彼がいなくなったっていう感じもしないし、今でもドアを開けて入ってくるんじゃないかと思ってしまいます。
潮さんは本当に偉大な人でした。評論についてもオーディオだけでなく、オーディオビジュアルの開拓者ですし、UAレコードを作ろうと言い出したのも潮さんでした。さらにプロデューサーとして、すべてを開拓してくれました。実は、曲目も全部決めていたんですよ。
中でも潮さんがこだわったのは音質で、ここは絶対妥協しないんだと。最初に情家さんのCDを作った時から、情家さんの作品として一番いいものを作ろうという思いで取り組んでいました。
私は、音の評論をする際に他人が作った音源を聴くだけじゃなくて、自分の作った音源がなくてはいけないという思いもあって、企画・録音などのすべてのディスク制作に携わってみたいという願望がありました。そこで意見が合って、UAレコードを始めることになったわけです。
UAレコードの録音自体は、アーティストの評判は悪いと思います(笑)。普通のレコーディングだったら1回か2回録音して編集作業で仕上げるんですが、うちの場合はワンテイクなので何回もやり直します。その理由として潮さんがおっしゃっていたのは、ジャズのグループ感というか、熱気は編集では再現できないということでした。
『Bonheur』は、代々木スタジオでレコーディングしました。録音エンジニアは日本コロムビアの塩澤利安さんで、これまでもUAレコードのタイトルを手掛けてくれた名人です。CD用にデジタル録音も行いましたが、同時にスチューダの「A800」という24トラックの76cm RPMテープレコーダーでアナログ録音も行いましたので、そこから2チャンネルマスターを制作し、今回のアナログレコード用に使っています。
ディスクの仕様を決める際にも、潮さんのこだわりが爆発しました。というのも、先行発売したCDには10曲入っているんですが、33回転LPだと8曲しか入らないんです。じゃあ2枚組にするしかないねということになったんですが、そこで潮さんが、だったら45回転にしたらいいんじゃないかと。45回転だったらどのレコードプレーヤーでも再生できるし、音もいい。もちろん価格の問題はあったんですが、音がよければ買ってくれる方もいるだろうと思って決断したんです。
ラッカー盤のカッティングは、日本コロムビアの武沢 茂さんで、こちらも最高の腕を持った方にやっていただきました。それをメモリーテックの御殿場工場でプレスしています。今回プレスをお願いするに際して潮さんは御殿場工場まで見学に足を運んでいたんですよ。
それもあってか、どれくらいの温度で、どれくらいの時間でプレスをするかといった条件出しもすごく細かったですね。実際、最初のテスト盤では、潮さんから高域をもう少し滑らかにした方いいんじゃないのという指摘がありました。そこで、テスト盤を作り直してもらったんです。メモリーテックさんもよく頑張ってくれたと思います。結果としてレコードの発売も1ヵ月ほど遅れてしまいましたが……。
その音質は、CDはくっきり、すっきりという感じの情報重視の音で、レコードはアナログ録音由来のしなやかでソフトな感じがありつつ、力強さも備えていると思います。柔らかくて強いというか、剛性感があるような感じがするんです。情家さんの歌声も綺麗に伸びているし、本当にいい作品ができたんじゃないかと思いますので、ぜひ皆さんにも手にとっていただければ幸いです。
(インタビュー・まとめ:泉 哲也)
メモリーテック御殿場工場を訪問し、プレスの現場もチェック!
45回転レコード『Bonheur』は、メモリーテック株式会社の御殿場工場で製造されている。ここは1955年に株式会社東芝 川口工場レコード事業部として誕生し、その後幾つかの変遷を経て現在はメモリーテック御殿場工場として、アナログレコードやCD、DVDの製造を手掛けているディスク工場の老舗だ。近年はフラッシュメモリーや、新業態として化粧品・医薬部外品などの製造も行っている。
潮さんは今回のレコードを制作するにあたって、御殿場工場まで足を運び、レコードがどのように作られているのか、そこには現場の技術者のどんな思いやこだわりが盛り込まれているのかを見学している。残念ながら本人によるリポートは叶わなかったが、以下でその時の様子を紹介する。
潮さんは、昨年10月にメモリーテックの御殿場工場を訪問して、アナログレコードが作られる様子を取材していた。レコード製造の現場は潮さんも久々とのことで、楽しそうにされていました
アナログレコードは、スタジオでカットしたラッカー盤を元にメタルマザー/スタンパーを作り、そのスタンパーを塩化ビニールに押し付けて成型することで作られている。写真左の銀盤がスタンパーで、右は様々な種類の塩化ビニール
スタンパーの実物を見るのは初めて、と潮さんも興味津々だった(『ボヌール』のスタンパーではありません)
塩化ビニールは、130〜150度に熱した状態でプレスを行う(この温度も気候に応じて微調整するとか)。プレスマシンでは塩化ビニルの装填からプレス、不要な外縁部分のカットまで自動で行われる
アナログレコード人気もあり、御殿場工場では現在3台のプレスマシンが稼働中。ここではLP(140g、180g)、EP(40g)の両方に対応済で、月産100,000枚が製造可能とのこと
御殿場工場の試聴室で、同工場で制作されたレコードの音を聴かせていただいた。塩化ビニルの素材や、プレスの際の加熱温度の違いによっても音が変化することを確認し、潮さんも大いに感動していた様子でした
取材に対応いただいた方々。前列左からメモリーテック株式会社 事業戦略本部 本部長 兼 事業戦略推進室 室長 吉村 諭さん、同 技術部 製造技術グループ マネージャー 勝間田和樹さん、潮 晴男さん、株式会社EMP 制作技術部 ポニーキャニオンスタジオ 光井里美さん、メモリーテック株式会社 取締役 生産本部 本部長 兼 御殿場工場長 秋山 正さん。後列は左から株式会社クープ 事業開発本部 伊藤幸一さん、同 取締役 佐藤克己さん、株式会社EMP 代表取締役社長 能瀬秀二さん、メモリーテック株式会社 営業本部 営業部 部長 兼 企画営業グループ マネージャー 海老澤壽孝さん
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