中国・深圳に拠点を置くハイファイオーディオブランド、Eversolo(エバーソロ)。ネットワークプレーヤー/トランスポートをはじめ、ネットワーク対応一体型システム、USB DACと、先進的なモデルを続々と送り出し、国内外のオーディオ賞を獲得するなど、新進気鋭のブランドとして注目を集めている。
同ブランドの運営母体はZidoo Technology Co., Ltd(ジドゥ・テクノロジー)。空間オーディオに対応した4Kメディアプレーヤー(国内ではストリーミングプレーヤー)、「UHD8000」を製品化しているZidoo(ジドゥ)もこの傘下にあるブランドだが、実はもうひとつ、主にヘッドホン関連機器を扱うブランドが存在している。Luxsin(ラグサイン)だ。
ヘッドホンアンプ:Luxsin X8 ¥199,100(税込、4月下旬発売予定)
●ディスプレイ:4インチTFTタッチスクリーン(水平960✕垂直400画素)
●DACチップ:Cirrus Logic CS43198×8
●オーディオプロセッサー:カスタムDigital Audio Core
●オペアンプチップ:OPA1612
●対応フォーマット:リニアPCM 768kHz/32ビット、DSD512
●接続端子:USB Type-A/B/C、光/同軸デジタル入力、HDMI(I2S)、アナログ出力2系統(RCA、XLR)、ヘッドホン出力3系統(XLR 4pin、4,4mmバランス、6.3mmアンバランス)、トリガー端子
●寸法/質量:W236.8✕H64✕D236mm/2.75kg
※対応アプリ:Luxsin App(compatible with Android and iOS)
ラグサインブランドの第二弾ヘッドホンアンプ「X8」は、横幅約24cmというコンパクトなサイズに、様々な機能を搭載している。背面端子もUSBに加えてHDMI(I2S)や光/同軸デジタル入力など豊富に備える
この名称は “Luxury” と “Sine” を結び付けた造語で、“優雅な波” の意味。製品開発においては、3ブランドの開発陣が広く、自由に協力しあい、技術やノウハウを共有しているという。エバーソロ、ジドゥ、そしてラグサインが協業し、各エンジニアが日々、ブランドの枠を越えて、ジドゥグループ全体の品質向上に取り組んでいるというわけだ。
DAC内蔵のヘッドホンアンプ「X9」がラグサインのデビュー作となったわけだが、さらに先日、姉妹機「X8」の発売が決まり、同ブランドがいよいよ日本国内でも本格的に動き出した。ここでは日頃から私が愛用しているシュアのモニターヘッドホン「SRH940」(生産終了)と、ZMFの開放型ヘッドホン「Caldera」(¥649,000、税込)の2種類を用意して、両モデルのパフォーマンスを検証していきたい。
まず発表されたばかりのX8から見ていこう。4インチのTFTタッチスクリーン(水平960×垂直400画素)を中心に、右側にボリュウムノブ、左側にヘッドホン端子(XLR、4.4mmバランス、6.3mmアンバランス)を配置するという前面デザインは、上位機のX9とよく似ている。
上段左がラグサイン「X8」で、右が「X9」。ソースには、ラック下段のエバーソロ「T8」でストリーミングサービスのQobuzを再生している。ヘッドホンのZMF「Caldera」にはラムスキンイヤーパッドを装着した
本体の高さもほぼ同等だが、横幅はX8の方が約63mm小さく、奥行きについては逆に30mmほど大きい。DACチップ、オーディオプロセッサー、あるいはオペアンプといった回路構成の変更(詳細はスペックコラム参照)が、そのままこのサイズの違いとなって表れているようだ。
対応信号のフォーマットに変更はなさそうだが、接続端子については後発のX8の方がわずかに充実している。具体的には、USB Type-B/CにType-A が追加され、HDMIコネクターを活用して優れたシールド効果を備えたI2S(アイ・スクエア・エス)入力も新設している。逆にHDMI(ARC)端子、サブウーファー出力(RCA)については、X9のみの装備としている。
技術的な詳細は明らかになっていない部分も少なくないが、機能面ではX9で実用化され、大きな話題を集めた「HP-EQテクノロジー」もそのまま装備している。これは接続されたヘッドホンの周波数特性に基づき、ハードウェアレベルで EQ(イコライザー)を調整するもの。
具体的にはHarmanカーブ(多くのリスナーが自然で心地よいと感じる周波数特性のターゲットカーブ)を基準とした音質補正に対応し、2,500機種以上のヘッドホンの特性を収録したデータベースからワンタッチでプロファイルを適用できる。
またアンバランス/バランスヘッドホン出力に、インピーダンス検出システムを装備している。これは接続したヘッドホンのインピーダンスを自動測定し、最適な出力ゲイン設定を実現するというもの。高精度なバイパス検出技術を採用しているため、音質への影響はほとんどないという。
HP-EQテクノロジーを使えば、愛用ヘッドホンに最適化したイコライザーカーブの選択が可能。アプリ画面にヘッドホンのブランドが一覧表示されるので、ここから愛用モデルを選べばいい。2500種類のヘッドホン用カーブが準備されている
さらに注目が、弟機のX8にはAIを駆使した音質調整機能が搭載されていることだ(WiFi接続が必須)。試聴者が専用アプリに好みの音――例えば「かわいい歌声」「歯切れのいいベース音」などーーを文字、あるいは音声でインプットすると、AIがその要望に応えて、音質をチューニングしてくれるというもの。なおX9については近日WiFi接続に対応した仕様が登場予定で(現行モデルはWiFi、Bluetoothに非対応)、その際にAI音質調整機能が搭載される見込みだ。
今回、試しにX8とSRH940の組み合わせで、宇多田ヒカル「花束を君に」(96kHz/24ビット)を再生し、「女性の歌声を可愛く聞きたい」とリクエストしてみたところ、抑揚をていねいにコントロールしつつ、彼女独特の芯のある声が、わずかに優しく、穏やかに感じられ、ささやくような歌い方のニュアンスも悪くない。完成度はまだ高いとは言えないが、オーディオの楽しみを拡げる新たな提案であることは間違いない。
ここで再度、SRH940のインピーダンス検出を行い、AI、HP-EQともにオフの状態で宇多田ヒカル、チョ・ソンジン『モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番、ピアノ・ソナタ第3番・第12番』(96kHz/24ビット)を再生。なお試聴音源としては、エバーソロのネットワークトランスポート「T8」でストリーミングサービスのQobuzを再生し、X8とデジタル接続(USB-BとI2S)している。
「X8」には、AI機能を使った音質調整機能も内蔵された。こちらはHP-EQで選んだカーブをベースに、ユーザーのリクエストに応じて微調整を加えるというもの。音楽ジャンルや歌い方といったリクエストに応じて、クラウド上のAIがお薦めカーブを提案してくれる
そのサウンドだが、低域は締まり気味に感じられるものの、音の質感はきめ細かく、繊細。ピアノの立ち上がり、響きが軽やかに浸透し、輪郭が際立つような違和感もない。宇多田ヒカルの声はビブラートが生々しく、ピアノの響きも克明。小気味のいい、ニュートラルな表現力は聴き応えがある。
ここでHP-EQから「フラット」を選び、同じ楽曲を再生。持ち前のS/Nのよさは変わらず、音の骨格はやや太く、抑えの効いた重厚な聴かせ方になる。HP-EQ/オフの明るく、開放的なサウンドも悪くはなかったが、HP-EQ/オンでは、中低域、低域にかけての押し出しが強くなり、理想に近い、ピラミッド型の帯域バランスに近づく印象だ。SRH940との組み合わせでは、HP-EQ/オンをスタンダードと考えていいと思う。
続いてZMFのCalderaとの組み合わせに変更。まずHP-EQ/オフで、ヴォーカル、ピアノ、ジャズトリオと、聴き慣れた楽曲を再生してみたが、空間が広く、にじみのない爽快なサウンドが楽しめる。低域の厚み、張り出しはやや控えめだが、音量を思い切ってあげていっても、帯域バランスが崩れず、うわずった感じにならない。
HP-EQをオンにすると、ベース、バスドラムの勢いが増して、弾み、躍動する様子が実に楽しい。チョ・ソンジンのピアノは繊細、かつ力強いタッチは良好だが、奥行き、高さ方向への空間の拡がりがやや抑えられる傾向。Calderaの持ち味を生かすという意味ではHP-EQ/オフで聴くのが好ましいように感じた。
ヘッドホンアンプ:Luxsin X9 ¥220,000(税込)
●ディスプレイ:4インチTFTタッチスクリーン(水平960✕垂直400画素)
●DACチップ:AKM AK4191EQ+AK4499EX
●オーディオプロセッサー:AKM 7739 DSP
●オペアンプチップ:OPA1612
●対応フォーマット:リニアPCM 768kHz/32ビット、DSD512
●接続端子:USB Type-B/C、光/同軸デジタル入力、HDMI(ARC)、アナログ入力(RCA)、アナログ出力2系統(RCA、XLR)、ヘッドホン出力3系統(XLR、4,4mmバランス、6.3mmアンバランス)、サブウーファー出力(RCA)、トリガー端子
●定格出力:25W
●寸法/質量:W300✕H65✕D206mm/3.72kg
※対応アプリ:Luxsin App(compatible with Android and iOS)
上位モデルの「X9」は、AKMのDACチップやオーディオプロセッサーを採用している点が「X8」との違いになる。フルバランスR2Rボリュウム回路も搭載済で、高音質プリアンプとしても使用可能だ
ここでX9にバトンタッチ。DACチップはAKMの最高峰となる「AK4191EQ」+「AK4499EX」。加えて、OP1612を用いたI/V変換回路、ローパスフィルター、R2R式ボリュウム回路、ヘッドホンアンプ部にいたるまで完全差動バランス構成という贅沢な回路技術を惜しみなく投入している。
T8とUSBケーブルで接続し、Qobuzの音を確認。まずSRH940との組み合わせでインピーダンス検出を行い(HP-EQ/オフ)、宇多田ヒカル、チョ・ソンジンなど、聴き慣れた楽曲を再生してみたが、全体に柔らかな感触を大切にしながら、音の芯、骨格を明確に感じさせる分解能の高さが特徴的だ。息づかいが温かく、手を伸ばせば届きそうな宇多田ヒカルの声についつい聴き入ってしまった。
HP-EQを「フラット」に切り替えても、基本的なS/N、解像力はほとんど変わらず、鮮度の高いサウンドが満喫できる。微小信号の再現性に長け、その場の空気感を鮮明に描き出す。ピアノ、アコースティックギターの響きが実に繊細で、空間に染み込むように拡がる。低域の力強さや空間の広がりを必要以上に主張せず、あくまでもニュートラルに、あるがままに描き出すイメージだ。HP-EQが入ることの情報量への影響はほとんど気にならなかった。
各種設定や音量調整も可能な、手のひらサイズのリモコンも付属している。普段の試聴にはこちらが便利かも
ヘッドホンをCalderaに変更。インピーダンス検出を行い、HP-EQ/オフの状態で同じ楽曲を再生してみると、まず音の粒子まで感じさせるような繊細な感触にドキッとさせられる。
響き、余韻、気配と、微小信号の再現性が圧倒的で、収録現場の情景、雰囲気まで感じとれるといってもいいくらい、音場の見通しがいい。チョ・ソンジンのピアノは、空間のグラデーションをきめ細かく描き上げ、緻密な響きが奥行き方向にスムーズに拡がった。
HP-EQの必要性を感じさせないほどの表現力だが、あえてHP-EQ/オンのサウンドも検証してみたが、きめ細かな質感といい、小気味よく反応するリズム感といい、基本的な持ち味には大きな変化はない。わずかに低域の厚みが増し、高域のクリアネスが加わる印象だが、私の好みとしては生成りの質感が得られるHP-EQ/オフをお勧めしたい。
最後にバランス接続も確認しておこう。CalderaとX9をXLR 4pinで接続する。低域の力強さや空間の拡がりを必要以上に主張せず、あくまでも穏やかに、清々しいサウンドを楽しませるという基本スタンスは変わらない。
ただ音の骨格はやや太く、1音、1音に重みが伴ったスケール感に富んだ再現性が得られる。特に中低域がどっしりと落ち着いて、大振幅の信号は躊躇なく一気に吹き上がり、空間に放出される。ジャズトリオの演奏ではバスドラとベースの躍動感が楽しい。
藤原さんの山中湖ラボに試聴機器一式を持ち込んで、様々な音源を確認していただいた
HP-EQ/オンでも基本的な音質傾向は変わらないが、微小信号の生々しさ、空間の静けさ、さらにはピアニシモの微細な表現と、飾らない、素朴な心地よさを求めるのであれば、HP-EQ/オフが好ましいと思う。
デビュー間もないX8とその上級機となるX9。ベースとなる技術が共通していることもあって、ワイドレンジ再生を追及しつつ、肌合いのいい穏やかなサウンドを楽しませるというヘッドホンアンプとしての基本的な表現力はよく似ている。特に繊細さと力強さを両立した独特の聴かせ方が特徴的で、音離れの良さ、消え際の滑らかさと、随所で非凡さを感じさせる。
ただここという場面の、ベース、バスドラムの吹き上がり、躍動といった部分では、やはり自力のあるX9に分がある。とは言え、X8の素姓の良さからして、HP-EQ、さらにはAIによる高度な音質調整を巧く活用することで、クラスを越えたパフォーマンスが充分に期待できる。特にAIは使えば使うほど進化する技術だけに、底知れぬ可能性がある。
X9を山中湖ラボのハイエンドシステムと組み合わせる!
プリアンプとしても優れたパフォーマンスを発揮した
X8、X9ともに、本格的なR2Rボリュウム回路を備え、デジタル入力、アナログ入力ともに完全差動バランス構成という贅沢なプリアンプ回路を内蔵している。アナログ出力装備についても、XLR/RCAの2系統を備え、X9については、サブウーファー出力まで搭載済だ。
試しにX9をオーディオ用プリアンプとして、山中湖ラボのシステムと組み合わせて試聴してみたところ、これが予想していた以上に頑張る。力みのない清々しいサウンドが特徴的で、質感が緻密で、リズム感が軽やかだ。
山中湖ラボのメインスピーカー、ウェストレイク「BBSM15」を使って、ラグサイン「X9」やエバーソロ「DSC-Z10」のプリアンプ性能を確認した
ハイレゾ音源で聴く宇多田ヒカルの声はビブラートがきめ細かく、輪郭の表現がスムーズ。刺激臭を抑えた穏やかな質感のサウンドは、ニュアンスが生々しく、聴いていて楽しい。
ジャズトリオの再生では、バスドラム、ベースが程よく伸びて、ピッチの変化をていねいに描き出す。低音はやや軽めだが、帯域バランスは良好。立ち上がり、消え際とにも素早く、音源の本質を素直に感じさせてくれる色付けのない再現性が好ましい。
ハードウェアとしての存在を主張することなく、音楽に寄り添って楽しめる感覚が実に新鮮。「アクティブスピーカーとの組み合わせで、良質なデスクトップシステムを構築したい!」、そんな気にさせてくれるパフォーマンスだった。(藤原陽祐)
(撮影:嶋津彰夫)