近年「劇伴」が話題になっている。もともとは映像作品の中で使われる音楽を指す言葉だったと思うが、今ではテーマ曲も含めて映像に関連した音楽全般を示しており、サントラディスクだけでなく、シネオケのようなコンサートも人気という。そんな劇伴作品の走りとも言える作品がSACD/CDハイブリッド盤で登場した。

 昨年末にキングレコードから発売された『交響詩ウルトラマン/ウルトラセブン』は、1979年のアナログレコードをリマスターして現代に蘇らせた一枚。作曲家・宮内國郎さんによる『ウルトラマン』と、同じく冬木 透さんによる『ウルトラセブン』の楽曲を小松一彦指揮/東京交響楽団で演奏したもので、ファンの間でも名盤として知られている。

今回の試聴会のメインアイテム、SACD /CDハイブリッド盤「交響詩ウルトラマン/ウルトラセブン」(¥4,400、税込、キングレコードKIGC-38 )

 そして先日、秋葉原・オリオスペックのイベントスペースでこの作品をテーマにした試聴会が開催された。同社はオーディオPCなどを販売しているセレクトショップで、独自企画による試聴会も積極的に行っている。今回は、『交響詩ウルトラマン/ウルトラセブン』のアナログレコード、SACD/CDハイブリッド盤、さらにストリーミング音源を使った比較体験という内容だ。

 試聴会を企画したのは、オリオスペックの佐藤智将さんとキングレコードの中山良輝さん。ふたりは一昨年に『「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤』の試聴会も担当したことがあり、劇伴作品がオーディオ鑑賞としても充分楽しめる品質を持っていることを実感したそうだ。

イベントの企画と進行を務めた、オリオスペックの佐藤智将さん(左)とキングレコードの中山良輝さん(右)

 さらに1979年のアナログレコード制作に関わった元キングレコード・ディレクターの藤田純二さんと、今回のSACD/CDを企画したキングレコード ディレクターの松下久昭さん、リマスターを担当したキング関口台スタジオ エンジニアの辻 裕行さんをゲストに迎え、それぞれの皆さんと本作との関わりも紹介された。

 まず藤田さんから、1979年のアナログレコード発売の経緯が紹介された。

 「『ウルトラマン大百科!』というアルバムがそもそもの始まりですね。当時、毎月新譜の企画を出さなきゃいけないので、カタログを見ていたら、『ウルトラ』という名前の楽曲が結構あったんです。調べてみたら、『ウルトラQ』から始まって『ウルトラマン』『ウルトラセブン』ときて、『ウルトラマンレオ』まであった。じゃあコンピレーションアルバムにしたら喜んでもらえるんじゃないかと思って作ってみたら、売れたんですよ。3,000枚いけばという感じだったんですけど、一説には10万枚売れたんじゃないかと(笑)。

すべてのスタートになったという記念すべきレコード「ウルトラマン大百科!」も展示されていた

 『ウルトラマン』シリーズの音楽を聴いてくれる方が結構いらっしゃるというのが分かったわけです。そんな人たちに新しい作品、フルオーケストラにして聴いていただきたいと思いました。楽曲としては『ウルトラセブン』だったら向いているんじゃないかと。でも、いきなり『ウルトラセブン』から始めるよりは、『ウルトラマン』も含めてシンフォニーにできたらいいなという発想でした。

 そこで宮内さんと冬木さんに、フルオーケストラにしていただけないかとご相談しました。作曲家さんが嫌だったら諦めるしかないかったんですが、おふたりともやってくださるということで企画が進んでいったのです」(藤田さん)

 また実際の収録現場の様子についても、次のように解説してくれた。

1979年当時のアナログレコードの制作を担当したキングレコード・ディレクターの藤田純二さん

 「東京交響楽団はポップスも演奏してくれるということでお願いしました。会場は、都内のホールは使用料も高いし、スケジュールも埋まっていたんですよ。福生市民会館は新しいホールで、音もいいということでそこで録音させていただきました。

 収録は、当時のキングレコードの外録部門です。アナログ16チャンネルのマルチレコーダーで、収録したらすぐトラックダウン作業をして、2chのマスターテープを仕上げたわけです。今回もそのマスターテープを使っています」(藤田さん)

 続いて松下さんから、今回SACD/CDハイブリッド盤を発売することになった経緯が紹介された。

 「2年ほど前になりますが、冬木先生が2025年に90歳を迎えられるということで、記念アルバムを作ろうと思って色々探していたんです。この作品がいいだろうと思って連絡しようとしていた時に訃報が流れて……。本当は、生誕記念で出す予定だったんですよ。宮内さんも2026年で没後20年ということで、偉大な作曲家二人への追悼盤の想いも込めました」(松下さん)

今回のSACD/CDハイブリッド盤を企画したキングレコード ディレクターの松下久昭さん

 また佐藤さんからマスタリング作業を辻さんにお願いした理由を聞かれると、「前回の伊福部さんのSACD/CDハイブリッド盤のマスタリング作業をお願いした時にも、色々アイデアを出してくれたんです。それもあって、今回もお願いしました」との返事だった。

 その辻さんからは、アナログテープからどのようにしてSACD/CDハイブリッド盤の音源を制作したのかが紹介された。

 「再生用にはスチューダーのテープレコーダーA820を使いました。そこからドルビーのノイズリダクションを経由して、ベターメーカーのマスタリングコライザー、アヴァロンのイコライザー、マセレックのコンプレッサーで音調整を行った後、イーイーエムラボのA/DコンバーターでDSDに変換してDAWのSADIEに録音し、DSD2.8MHzを制作しています。その時にリニアPCM 44.1kHz/24ビット信号も出力されるので、44.1kHz/16ビットに変換してCDマスターに使っています」(辻さん)

キング関口台スタジオ エンジニアの辻 裕行さんは、伊福部作品に続いてリマスター作業を担当

 ハイレゾ配信用の音源については、「DAWのピラミックスでDSD2.8MHzから192kHz/24ビットに変換しました。デジタル上でダイレクトに変換できますし、音質劣化も少ないと思います」とのことだ。

 さらに佐藤さんからマスターテープの状態を聞かれて、「大きな剥がれなどはなかったです。ちょっとベタつきが見られたので、オープンで2時間ほど焼いて定着させました。そうするとベタつきがなくなって、無事再生できました」と、マスターテープの保存状態もよかったことを教えてくれた。

 これらのていねいな過程を経て作られた音源がどんなクォリティを獲得していたのか。その確認は、第一部で配信音源、第二部では物理メディアにフォーカスした内容で進行された。なお試聴会の再生システムは佐藤さんがセレクションを担当、国内ブランド製品にこだわって選んだそうだ。

<主な試聴機器>
●SACD/CDプレーヤー&D/Aコンバーター:ソウルノートS-3 ver.2 Reference
●ZERO LINK TRANSPORT:ソウルノートB-3
●レコードプレーヤー + カートリッジ・シェル:テクニクスSL-1200G + フェーズメーションPP-200/CS-900A
●フォノイコライザー:ソウルノートE-2 ver.2
●配信再生用PC:オリオスペックCANARINO FILS9
●アンプ:ソウルノートA-2 ver.2
●スピーカーシステム:TAD TAD-E2
●電源ユニット:オリオスペックCANARINO DC POWER SUPPLY 12V

第一部:『交響詩ウルトラマン/ウルトラセブン』から始める
ストリーミング・オーディオ入門

 第一部はストリーミングでこの作品がどんな風に聴こえるかをチェックしようという内容だ。そこではもうひとりのゲストとして、ザンドリージャパン株式会社 国内統括マネージャーの祐成秀信さんも登壇、同社が手掛けるストリーミングサービスQobuzの概要も紹介された。

 Qobuzはストリーミングだけでなく、音源のダウンロードも可能で、ユーザーのニーズに応じて楽曲ごとに選択可能だ。またお薦め音楽やオーディオ機器についての紹介を行うQobuzマガジンという情報発信ページも準備されている。参加者の多くはQobuzの音をちゃんとしたシステムで試聴したことがないとのことで、本当に音質に差があるのか興味津々の様子だった。

ザンドリージャパンの祐成秀信さんがQobuzのサービスについて紹介してくれた

 試聴は、1曲目「ウルトラマンの歌」からスタート。Spotifyのロスレス(44.1kHz/16ビット)とQobuzのハイレゾストリーミング(192kHz/24ビット)の違いを確認する。デジタル信号はCANARINO FILS9からUSB接続でB-3に送られ、次いでこのB-3上でZERO LINKデジタル出力に変換されて(D/Aコンバージョンを担う)、S-3 Ver.2 Referenceまで多段伝送される。そこからバランスアナログ接続したA-2 Ver2でTAD-E2をドライブするという再生系は同じだが、やはり音には違いがあった。

 ロスレスは、くっきりした力強い印象のサウンドで、各楽器の音も明瞭に聴き取れる。冒頭のマーチングも弾むようでキレがいい。一転しての不穏なメロディもどことなくすっきりと感じるから不思議だ。これに対しハイレゾ配信ではやや表情が優しくなるが、ひとつひとつの音はディテイルまで描き分けられており、消え際も聴き取りやすくなる。ステージの密度感も上がってきて、曲の緩急もいっそう印象的になる。ハイレゾらしいきめ細かさがちゃんと再現できているということだろう。

配信による音の違いや、パッケージソフトとの聴き比べも実施。その差に参加者の面々も驚いた様子だった

 参加者の皆さんにもこの差が感じられたようで、「ハイレゾではソロの楽器の演奏のニュアンスや、音のふくらみが違っていました。これは一聴して違いがわかりました」と、ハイレゾ音源の恩恵を実感してくれていた。「ハイレゾでは金管楽器の鳴り方も違いましたよね。オーケストラを聴いていると感動しました」と佐藤さんも興奮気味の様子だ。

 SACDの試聴では、来場者の希望により9曲目の「ウルトラホーク発進」を全曲再生すると、会場から大きな拍手が起こっていた。

第二部:『交響詩ウルトラマン/ウルトラセブン』制作当時
〜最新リマスタリングの証言&試聴比較

 お客さんが全員入れ替わった後、第二部が始まった。こちらはアナログレコードやSACD/CDハイブリッド盤といった物理ディスクを中心に、ハイレゾダウンロード音源も交えて試聴を行っている。

 まずアナログレコードで、1曲目「ウルトラマンの歌」を再生する。SL-1200GとPP-200、そしてE-2 ver.2という豪華システムの恩恵もあってか、S/Nもいいし、管楽器の高域も綺麗に伸びている。とても47年前のレコードとは思えないサウンドだ。

アナログレコードからストリーミング、SACD/CDまで高品位に再生できるシステムが準備されていた。今回は国内ブランドにこだわってセレクションしたそうです

 さらに2曲目「科学特捜隊の歌」で、CDレイヤーとSACDレイヤーの違いを聴く。ディスクはSACD/CDハイブリッド盤なので、S-3 ver.2 Referenceで読み取るレイヤーを切り替えることで、同一条件での比較もできるわけだ。

 ここでも来場者はその違いに驚いた様子で、「やっぱりSACDは伊達じゃない。エネルギー感がありました」という感想も飛び出してきた。中山さんも「SACDは見晴らしが良くなったように感じますよね」とコメントしている。

 ここで、冬木さんのインタビューが上映された。これは2013年に『ウルトラセブン クラシック』のCDプロモーション用に撮影されたが、実際には上映や公開もされることなく保存されていた貴重な映像だ。

 約20分のインタビューでは、『ウルトラセブン』での曲作りの苦労や思い出話が披露された。またその冒頭に、「『ウルトラセブン』の音楽はフルオーケストラでやりたいと思っていた」という冬木さんのコメントもあり、今回のSACD/CDはその思いを形にしたコンテンツだったということがわかったのも、ファンにとって嬉しいポイントだった。

第一部、第二部それぞれの参加者の中から1名ずつに、桜井浩子さんのサイン入りポスターがプレゼントされた

 これを受けて9曲目の「ウルトラホーク発進」が、192kHz/24ビットのハイレゾダウンロード音源(再生アプリはTuneBrowserを使用)と、SACDの2種類で再生された。佐藤さん曰く「キングレコード頂上決戦」とのことで、いずれも音の密度の高いハイファイサウンドが楽しめた。

 「どちらも情報量は多いと思うんですが、SACDは冒頭のきらびやかさや豊かさが違いました。鳴った途端に全体に音が広がってくるので、同じハイレゾでも随分印象が違うんだなって感じました」「SACDはすごく滑らかで、192kHz/24ビットは一音一音がくっきりしていますね、クラシックとDSDの相性がこんなによかったんだと思いました」という感想も飛び出し、来場者のオーディオ感度の高さも証明された形だ。

 「ここは女優さんの誰が好き? というのと同じで、本当に趣味・嗜好、好みの世界だと思います。その違いを分かってもらえて今日は成功でした」と、主催者の佐藤さんも嬉しそうだった。

会場には、ウルトラシリーズの貴重なレコードもディスプレイされていた

 最後にゲストの皆さんから、今回の試聴会の感想が話された。

 藤田さんは、「50年近く前の録音が、こういう形でより聴きやすく、あるいはより細かく聴こえたり、楽器の特性みたいなものが分かるように聴こえたりっていうのは、素晴らしいことです。古いから、アナログだからっていうことじゃなしに、その中に入っている情報量をどれだけ今の技術で引っ張り出すかで、聴いていていいなって感じになる。今日は楽しい体験をさせていただきました」と、技術の進歩を実感している様子だ。

 松下さんも、「今日はひじょうに勉強になりました。それぞれの仕様で音が違ったのと、演奏とか作品が良ければ、半世紀近く経っていても楽しんでいだけるっていうことがわかりました。これからもシリーズは続けていきたいと思いますが、それには熱心な皆さんのお力が必要です。どうぞよろしくお願いします」と制作者ならではの感想を話してくれた。

 辻さんは、「マスタリングスタジオ以外で(この作品の)音を聴くのは多分初めてですが、さすがに機材の性能もあって素晴らしいなと思いました。またこうやって古い音源を、若い人たちとかに聴いていただけるのはすごくいいなという感じがしました。ありがとうございます」と語った。

試聴会終了後にも、ゲストの皆さんに当時の思い出や今回のリマスターについての細かい質問をする来場者も多数あり、長い時間盛り上がっていた

 さらにとっておき情報として、「今回のマスタリングの際に、1ヵ所ノイズが入っていて、そこがどうしても見逃せませんでした。しかしDSDファイルは編集できないから、変換した後ではどうしようもない。だったらテープをカットしようということで、2〜3mmカットしました。40年ぶりくらいにテープ編集したんじゃないでしょうか」と、細かなこだわりまで披露してくれた。

 最後に祐成さんから、「僕らはハイレゾ音質にこだわって配信しています。とはいえ、こういった素晴らしい作品がないと成り立たないサービスですので、これからも優れた録音技術で作られた作品をも紹介していきたいと思います」との感想があって、イベントは終了となった。

 しかしながら、試聴会終了後も多くの来場者が会場に留まり、展示されていた1979年頃のアナログレコードを懐かしそうに眺めたり、ファン同士で思い出を語り合うなど、大きな盛り上がりを見せていた。その様子を見ていて、一人でも多くの特撮ファンが、劇伴を高音質に楽しんでくれることを期待したいと思った次第だ。(取材・文・撮影:泉 哲也)