アイルランドに実在した「マグダレン洗濯所」をテーマにした一作。「マグダレン洗濯所」は単なるランドリーではない。実態についてはぜひ各自でお調べいただきたいが、とにかく、こんな悪の組織が19世紀から20世紀後半まで存在し、その実態が1993年の「ある事件」まで明らかにされなかった、というのは信じがたいことである。

 主演は、『オッペンハイマー』で第96回アカデミー賞 主演男優賞を獲ったキリアン・マーフィー。クレア・キーガン原作の小説「ほんのささやかなこと」をベースにした一作だ。マーフィーは自ら映画化を希望し、マット・デイモンへ企画を持ちかけ、そこにベン・アフレック、監督のティム・ミーランツらが合流した。

 内容が内容だけに、重く、沈潜していて、「では、あなたなら、この場合、どうしますか?」という問いを頻繁に浴びせられているような気になった。「マグダレン洗濯所」の中での実態は、基本的に外部には漏れず、おそらく外面としては“更生組織”というところなのだろう。が、1985年の冬、マーフィー扮する炭坑職人のビルは洗濯所に石炭を届けに行った時、現実を目撃してしまった。そして少女からの「ここから出してほしい」という命がけの懇願を受ける。ビルの心は当然ながら大いに揺らぐ。

 洗濯所といえば歴史ある巨大な組織。しかも宗教というバックグラウンドがある。黙っておいた方が自分の家族のためにも身のためなのだし、そもそもビルは波風ひとつ立てずにつつましく暮らしてきたのだ。だが人間として「見逃すわけにはいかなかった」。その描き方が実にいい。突如覚醒した感じもないし、ヒーロー然ともしていないから、ごくすんなりとビルの心情に近づける。このあたり、描き方の巧みさが奏功したという感じだ。

 エミリー・ワトソン(第74回ベルリン国際映画祭で助演俳優賞を受賞)が演じるマグダレン洗濯所/修道院の院長の、「主のもとに、自分たちは善いことをしているのだ」的な姿も強いアクセントとなっている。

映画『決断するとき』

3月20日(金)より TOHOシネマズ シャンテ ほか全国順次公開

出演:キリアン・マーフィー アイリーン・ウォルシュ ミシェル・フェアリー クレア・ダン ヘレン・ビーハン エミリー・ワトソン
監督:ティム・ミーランツ 脚本:エンダ・ウォルシュ 原作:クレア・キーガン「ほんのささやかなこと」(鴻巣友季子 訳/早川書房 刊) 製作総指揮:ベン・アフレック マイケル・ジョー ケヴィン・ハローラン 製作:マット・デイモン キリアン・マーフィー アラン・モロニー キャサリン・マギー ドリュー・ビントン 撮影:フランク・バン・デン・エーデン 編集:アラン・デソバージュ 音楽:センヤン・ヤンセン
2024年/98分/アイルランド/カラー/1.85:1/5.1ch 日本語字幕:山下美紗 配給:アンプラグド
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