取材・構成/本誌・辻
Aさん宅は、小さな水路を挟んで、桜の木が悠々と鎮座するこぢんまりとした公園の前の小高い土地に作られた一軒家。住宅雑誌の巻頭ページを飾っても不思議ではないような、個性的でありながら、奇をてらったところのない、素晴らしい佇まいだ。オーディオルーム、ホームシアターの取材が取材目的ではあるが、まず洗練された住宅自体の姿に感銘を受けた。
Aさんにご挨拶を済ませ、さっそくオーディオシステムのある2階へご案内いただく。リビングとダイニング、キッチンが間仕切りなく一体化したスペースは、全体でおよそ30畳弱だろうか。そのうち幅5.5m、奥行4mほどのスペースが、オーディオおよびホームシアター機器を楽しまれるエリアとなる。
まず目に飛び込んでくるのが、リンの最新、最高峰スピーカーシステム360 EXAKT(イグザクト)と、Sondek(ソンデック)LP12とKLIMAX DSMが置かれた、ウェグナーデザインの横長キャビネット。その上方にはスクリーンボックスがきれいに収まっている。
主な使用機器
●4Kプロジェクター : エプソンEH-QL3000W
●スクリーン : スチュワートHD130G3(125インチ/16:9)
●4Kレコーダー : パナソニックDMR-ZR1
●ネットワーク端末 : アップルApple TV 4K
●ネットワークプレーヤー+システムコントローラー : リンKLIMAX SYSTEM HUB+Surround Processing Module
●スピーカーシステム : リン360 EXAKT、KLIMAX 350(ORGANIK DAC仕様)
●アナログレコードプレーヤー : リンKLIMAX LP12 SE
●オーディオ用ルーター : タイコオーディオExtreme Router
●オーディオ用スイッチングハブ : タイコオーディオExtreme Switch
リンの最高峰スピーカー、360 EXAKT。デジタルクロスオーバー、DACを含む様々な信号処理とチャンネルあたり合計1,600Wに達する強力なパワーアンプ、最先端素材を多用したスピーカードライバーを強靭で優美なフォルムの密閉型エンクロージャーに組み込んだ4ウェイ5スピーカー。入力はロスレス信号伝送を可能とするEXAKT LINK専用となる。仕上げはニューヨークの著名画家Ran Ortner氏が描く、海をテーマにした絵画からインスピレーションを受けたシグネチャーフィニッシュとなる「Triton(トリトン)」だ。Aさんはこの仕上げを見て、新居の床材カラーを選んだほどのお気に入りだ
天井はスクリーン側の高さは約3.4m、後方は約2.3mと約15度の角度で傾斜がつけられている。後方はエプソンのレーザープロジェクターEH-QL3000Wが天吊りされ、その下には2つのリスニングチェアが置かれている。そこを向くよう強く内振り設置されているのが、リンのKLIMAX EXAKT 350スピーカーだ。本機は、360 EXAKT登場以前のリン最高峰グレードスピーカー。つまりAさん宅では、リンの新旧フラッグシップスピーカー2組、4本でのサラウンド再生を実践されていることになる。
360 EXKATスピーカーは段違いの音。スピーカーが消えて音だけが残る
「リンの製品との付き合いは、ESPEK(イースペック)というスピーカーから。それ以前は、JBLやB&Wなどのスピーカーでオーディオシステムを組んでいたのですが、リンに出会ってからは、ほぼ一筋といっていいかもしれませんね。CDプレーヤーのIKEMI(アイケミ)やCD12、アナログプレーヤーSondek LP12、アンプも含めてたくさん使ってきました」(Aさん)
ESPEKスピーカーは2001年発売だから、ほぼ四半世紀の長きに渡る、熱烈なリンユーザーというわけだが、Aさんが「ほぼ一筋」と語ったのには理由がある。
「ESPEKのほかに、KOMRI(コムリ)も使っていたのですが、KLIMAX 350導入の前に、別のブランドのスピーカーに目移り、浮気したんです(笑)。米国製の金属筐体を使ったスピーカーをお店で聴いて、これはリンにはない音だ、オーディオ、オーディオしているのがいいぞと、つい導入してしまった。でも実際に、当時住んでいたマンションで使っていると最初はいいんですが、段々と硬いというか、エッジが立ちすぎているというか、なんだか聴き疲れして、長時間音楽が楽しめない。で、KLIMAX 350に変えると、細かい情報量や分解能など高い性能がしっかり備わっているのにも関わらず、全く聴き疲れしない。やはりリンの音の魅力って凄いと再確認したんです。
いまサラウンドスピーカーとして使っているKLIMAX 350は、360 EXAKTの前のメインスピーカーでした。デビュー時のオリジナル仕様の350を導入したのち、KATALYST(カタリスト)DAC仕様にアップデート、さらにORGANIK(オーガニック)DAC仕様にも更新しました。どの進化も、お店で体験すると『うーん、困ったなぁ。今の音で十分に満足なんだけれど、この違いがあるなら仕方ないよなぁ』と毎回思ってしまう。家族からは相当呆れられていますが(笑)。同じようなリンらしい音のテイストではあるんですが、新しい製品や仕様になればなるほど、その魅力が増しているといえばいいのでしょうか。どのアップデートも凄い変化があるんです」(Aさん)
サラウンドスピーカーには360EXAKT登場以前のリンの最高峰スピーカーKLIMAX350のオーガニックDAC仕様を用いている。Aさんは元々、KLIMAX350を導入、その後登場したカタリストDACおよびオーガニックDACへのアップグレードを、それぞれ行なった
オーディオ、そしてオーディオビジュアルでは、解像度や分解能などの物理特性を高めていくと、エッジが立ち、ギラギラした感覚が薄れていき、また余計な介在物が消えることで、音楽と映像だけが残るというナチュラルかつスムーズな状態に感じられることがある。Aさんも、リンのコンポーネントが備えている、極めて高度な再生能力の魅力を、別ブランドのスピーカーに浮気したことで再認識したということだろう。しかもその進化はとどまることを知らない。最新の360 EXKATのパフォーマンスをAさんはどのように感じたのだろうか。
「KLIMAX 350のORGANIK DAC仕様は非常に満足していて、これを一生使おうと思っていたんです。でもオーディオ、シアター関連の機器でお世話になっているスカイラさんのお店で360 EXKATの音が聴ける機会があったんです。これが凄かった。全く違う世界というか、浸透力が桁違いに高いというか。よくスピーカーが消えて音だけが残る、といいますが、本当にそういう感じだった。で、エイって導入を決めました」(Aさん)
その後、現在のお住まいの新築工事が決まり、当時のマンションからの引越し、一時期の仮住まいを経て、昨年(2025年)に新居完成、入居となったそうだ。新居で初めて360 EXAKTを聴いたときの印象は?
「もう、良かった。手に入れて本当に良かった。お店で聴いたときの音が良かったんですが、ウチで聴いたら、それ以上というか、別次元。マンションで使っていたKLIMAX 350と音の系統は同じだけれども、全くの別物。あと360 EXAKTは、トリトンという深い海をイメージした仕上げを購入したのですが、これもとても気に入っています。リビングダイニング全体の床材も同じ色味にしたくらいです」
Qobuzとアナログレコード再生に徹底的かつイーブンにこだわる
ところで、Aさん現在Qobuzをメインの音楽ソースにしているそうだ。
「リンのDSシリーズを使っていたこともあって、いままでは手持ちのCDをリッピングしてSoundgenicのミュージックサーバーにデータの状態で保管して聴いたり、ダウンロード購入したハイレゾ音源を聴いたりしていました。2024年に始まったQobuzをあるオーディオイベントで聴いて、これは凄いと開眼。そのイベントでは、Taiko Audioのルーターとスイッチを使って、リンのKLIMAX DSM/3にSFPポート経由で繋げていたのですが、それがいい結果をもたらしたに違いないとそのまま導入しました。ここで聴く限り、CDをリッピングしたデータよりもいい音で快適に音楽が楽しめるとあって、いまはQobuzがメインの音楽ソースになっています。ジャンルを問わずいろいろな音楽が好きなので、Qobuzはぴったりのサービスなんです。でも、ストリーミングだけでなく、アナログレコードも大好きなんですよ」
Aさんは前述の通り、リンのアナログプレーヤーSondek LP12をお使いだが、20年以上前に購入した中古品をベースに、少しずつアップグレードし、現在は、KLIMAX LP12 SEと呼ばれる仕様と同じ状態まで進化させたそうだ。ちなみにプリンス(木枠)の強化仕様BEDROK(ベッドロック)と、最新のサブシャージKEEL SE、そして電源KLIMAX RADIKAL(クライマックス・ラディカル)もすでに注文したそうで、その到着を心待ちしているのだとか。ハイレゾ音楽ストリーミングサービスと、アナログディスクの2つの再生に徹底的かつイーブンにこだわっているのがAさんの流儀だ。
Aさんのシステムは、スピーカー、プロジェクター、スクリーン以外は、キャビネット内外に整理して設置。天面には、リンを代表する銘機Sondek LP12の事実上の最高峰グレードKLIMAX LP12 SE(写真左)と、KLIMAX SYSTEM HUB(写真右)を配置している
125インチスクリーンと4.0chサラウンドの協演に大満足
大画面スクリーンとサラウンド再生は、この新居に引っ越しされる前のマンション住まいのころから楽しまれていたという。ここでは16:9アスペクトの125インチサイズのスチュワートHD130。マンション時代から使っていたスクリーンを移設した。
「マンションのときも天井が高かった部屋でシアターを楽しんでいたので、上黒(うわぐろ)と呼ばれる、黒帯部分をかなりとっていたスクリーンを使っていました。これが新居でもぴったり。偶然にもちょうどキャビネットの少し上くらいからスクリーン面になるカタチだったので、そのまま使っています。画質には不満はありませんし、このスクリーンは凄くいい買い物をしたということですね」(Aさん)
プロジェクターは、マンション時代はエプソンのEH-LS10000、新居でもエプソンのEH-QL3000Wを選択した。
プロジェクターはエプソンのホームシアター用途としての最高峰EH-QL3000W。高輝度が必要とされる業務用モデルを家庭用にモディファイし、6,000ルーメンの超高輝度を実現。レンズは別売り仕様で、Aさんは中焦点レンズをお使いだ
「壁紙を暗くする遮光対策をあえてとらないリビングダイニングで使う前提があったので、プロジェクターは明るいタイプを選びました。他社製品も検討したのですが、6,000ルーメンという、際立って明るいEH-QL3000Wを選んで大正解でした。映像ソフトは、放送はもちろんBDやUHDブルーレイを中心に楽しんでいます。最近ではAmazon Prime Videoなどのネット動画もよく観ますね。Qobuz用にルーターやハブなど、ネットワーク環境を整えてから、特に画質が極めて向上した印象ですね」(Aさん)
Aさんに最近購入したパッケージソフトを教えてもらうと『セブン』、『エイリアン:ロムルス』、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』などのUHDブルーレイを挙げてくださった。特に『シビル・ウォー〜』は国内盤がBDでしか発売されていないせいもあって、米国盤UHDブルーレイをご覧になっているのだそう。
「この作品の明るいシーンは、エプソンで観ると光のパワーがしっかり感じられていいんですよ。音も360EXAKTとKLIMAX 350によるサラウンド4.0ch再生は低音もしっかり出るし、鳥肌ものですね」(Aさん)
EH-QL3000Wの光出力は、家庭用として抜きん出た6,000ルーメンという圧倒的なパワーを誇る。その映像力と、リンの新旧フラッグシップスピーカーの協演によるスムーズかつ迫力満点のサラウンドの合せ技に、Aさんは酔いしれる毎日だそう。
斜めに傾いた天井と陽光が射し込む大きな窓ガラスにより、非常に明るい印象を醸し出すAさんのシアター空間。リンのサウンドが日々の暮らしを彩る
Aさん自身は、穏やかな物腰で柔らかな雰囲気の方であったが、自ら夢中になっている音楽、映像作品への想い、リン製品への愛を語るときの熱さは隠しきれないものがあった。その熱こそが、ここまでのシステムを組み上げる原動力になっているのだと実感した。
良きハードウェアが、コンテンツの魅力をしっかりと伝え、それを生きる糧として受け止める愛好家がいる。そんな素晴らしい三者の美しい関係が強く印象に残った取材だった。
>本記事の掲載は『HiVi 2026年春号』