いまから約20年前、米国ニューヨークの地に誕生したHIFIMAN/ハイファイマン。創立者のFang Bian氏が注力したのは、高級ホームオーディオ機器に見劣りしない質の高いポータブルオーディオ機器の開発だ。
特に最終的なクォリティに大きな影響力を持つヘッドホンへの思いは強く、実際、無垢材のイヤーカップが特徴的なHE5(2009年)や、平面駆動技術を世に知らしめたHE6(2015年)など、オーディオファンの間でいまも語り継がれる銘機を数多く送り出している。
HE1000 UNVEILEDの本格の音はHiViグランプリの受賞に相応しい
そうした流れのなかで登場したのが、世界のオーディオファンから高い評価を得た平面磁界駆動型ヘッドホンSUSVARA(2017年)であり、現在、同社の最高峰として君臨するSUSVARA UNVEILED(2024年)である。
Headphone
HIFIMAN HE1000 UNVEILED
¥456,500 税込
● 型式 : 開放型・平面磁界型ヘッドフォン
● 出力音圧レベル : 95dB
● インピーダンス : 28Ω
● 質量 : 450g(振動板カバー、ケーブル除く)
● 付属品 : 3.5mmミニフォーン・シングルエンドケーブル、6.35mm標準フォーン・シングルエンドケーブル、4ピンXLRバランスドケーブル
※HE1000 UNVEILEDの再生には、GoldenWave SERENADE(¥116,900税込)のヘッドホンアンプを使用。デラのミュージックサーバーNA1/3とUSB Type Bで接続。NA1/3のQobuz再生機能を活用してハイレゾおよびロスレス音源を再生した。HE1000 UNVEILEDとは、本機付属の4ピンXLRケーブルによるバランス接続としている
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昨年、HiViグランプリ2025のヘッドホンオーディオ部門賞の栄誉を射止めたHE1000 UNVEILEDはSUSVARA UNVEILEDの開発で培った技術、ノウハウを積極的に生かしつつ開発された注目作であり、バックパネルを着脱式としたフルオープンバックデザインが特徴的だ。
優れたトランジェント特性、低歪み、素早い反応を追求し、ナノメートル厚(100万分の1mm以下)の振動板を採用。ドライバーを保護するためのグリルをほぼ取り除き、完全開放型としたのは、音波の反射、屈折による悪影響を排除するため。同社では「音楽に真の深みと美しさをリスナーに伝えることができる」と説明している。
今回はデジタル入力対応の、GoldenWave SERENADE(ゴールデンウェイブ・セレナーデ)ヘッドホンアンプとの組合せで、デラのミュージックサーバーNA1/3でQobuzを再生。クラシック、ジャズ、ヴォーカルと、ハイレゾ音源を中心に試聴したが、ヴァイオリンの繊細な響きにしても、バスドラムの低音の張り出しにしても、品位が高く、輪郭のタッチが柔らかい。
リンダ・ロンシュタットの声は息づかいが温かく、艶やか。微小信号の描き分け、空間の静けさ、ピアニシモの表現と、随所で素性のよさを感じさせるサウンドで、空気のグラデーション、音の粒子まで鮮明に描き上げていく。
そして微小な信号から大振幅の信号まで、均一かつおおらかに描き出し、しかも音離れが良好。ヘッドホンでここまでの本格サウンドが体験できるとは……、スピーカー再生をメインにするにしても、この1台はぜひ手元に置いて、いつでも聴ける状態にしておきたい。そんな思いを抱かせるクォリティ感だった。
UNVEILED(アンベイルド)の名前の通り、平面磁界型振動板がイヤーカップの外側に完全に露出していることが大きな特徴。一般的な開放型ヘッドホンでは振動板の保護のため、メッシュ状グリルをイヤーカップ外側に配置しているため、振動板の音がグリルで反射し、振動板方向に音が戻って来る。ハイファイマンのUNVEILED仕様は、この音が濁る影響を避けるための構造だ。使用していないときは、付属カバーを装着し、振動板保護を図る仕組み
UNVEILED仕様にWi-Fi機能を内蔵させた新発想ヘッドホン登場
続いてつい先日、発売されたばかりの話題作、HE1000 WiFiとArya WiFiの2モデルを紹介しよう。その型番からお気づきの方も多いと思うが、同社の有線ヘッドホンのHE1000 UNVEILED、ARYA UNVEILEDをベースに、Wi-Fi対応を果たしたモデルである。
Wireless Headphone
Arya WiFi
¥236,500 税込
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[Arya WiFiとHE1000 WiFiの共通スペック]
● 型式 : Wi-Fi/Bluetooth内蔵・開放型・平面磁界型ヘッドホン
● 動作モード : Wi-Fi、Bluetooth、USB Type C
● バッテリー動作時間 : 6.5〜7.5時間(Wi-Fiモード時)、23時間(Bluetoohモード時)
● 充電時間 : 3〜4時間
● 対応フォーマット : PCM・最高768kHz/32ビット、DSD・最高22.5MHz
● Bluetoothコーデック : SBC、AAC、aptX、aptX HD、LDAC
● 質量 : 452g(ケーブル除く)
Wireless Headphone
HE1000 WiFi
¥456,500 税込
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これまでワイヤレスヘッドホンと言えば、Bluetooth接続と相場が決まっていたわけだが、音質面ではどうしても伝送コーデックの制約が伴ない、低ビットレートに抑えられる。「ワイヤレスでも、もっといい音で楽しみたい!」という声に応えて企画されたのが、Wi-Fiにダイレクトに繋がるWi-Fiヘッドホンという提案だ。
ヘッドホンがそのままWi-Fiに接続できれば、高速ビットレートが実現でき、ロスレスそしてハイレゾ音声の再生が可能。Qobuz Connect、Spotify Connectを活用すれば、スマホの専用アプリから快適な操作性が約束されるだけでなく、AirPlayに対応することでiPhoneやiPad、あるいはMacからも直接音源が送り出せるというわけだ。
晴れてその第一弾となったのが、前述したHE1000 WiFiとArya WiFiの2モデルだ。独自のNEOスーパーナノ振動板を採用したドライバーや、音波の乱れを抑えるステルスマグネット(磁気回路)など、基本設計はベースモデルを踏襲している。
ここで注目したいのが、ベースモデルの特徴をそのまま生かしつつ、Wi-Fi対応を果たしているところだ。Wi-Fiストリーミング基板は振動板部分をくり抜くようにデザインされ、そこに左右に独立させた独自開発のヒマラヤMINIと呼ぶDAC回路、アンプ回路、そしてWi-Fi関連の回路と、各種回路を凝縮し、完全開放型というスタイルを死守しているのである。
重量はわずかに増加しているが、ヘッドバンドやイヤーパッドの工夫によって、長時間の試聴でもストレスは感じにくい。有線接続については、USB限定で、アナログ接続はない。
専用アプリがないこともあって、初期設定はやや複雑に感じられるかもしれないが、1つ1つ説明書通りに進めていけば、そう難解なわけではない。しかもWi-Fi関連の設定は1度限りで終了。あとはQobuz Connectで快適に操作することが可能だ(編註:取材時は認証時期の関係でSpotify Connectは試していない)。
HE1000 WiFiの左側イヤーパッド内部の分解図。①が回路基板。電源からWi-FiおよびBluetooth処理を担うストリーミングモジュールからアンプ回路、左右独立構成のヒマラヤMiniと呼ばれるDAC回路を1枚の基板でコンパクトに集約。②は、平面振動板とそれを駆動する磁気回路を一体化したパーツ。内容を考えると驚異的な小型化を実現している。①の基板は、Arya WiFiにも用いられている。なお振動板はUNVEILED仕様とは異なり、完全に剥き出しではなく、最外周部に薄手の保護カバーを両機種ともに備えている
HE1000 WiFiの操作部。上から音量上下ボタン、Wi-Fi/USBモードインジケーター+機能切り替えボタン、電源ボタン+Bluetooth/電源モードインジケーター、USB Type C端子となる。USB端子は充電およびデジタル接続が可能だ
Qobuz Connectで簡単ハイレゾ再生。Bluetoothとは段違いの高鮮度だ
まずブラックのシックな雰囲気に仕上げられたArya WiFiから聴いていこう。Qobuz Connectを使用して、Qobuz音源を再生したが、その音の透明感、響きの繊細さはベースモデル譲りだ。Bluetooth接続と比較すると鮮度感の高さが段違いといえる。リンダ・ロンシュタット「デスペラード」はアコースティックな響きがスムーズに拡がり、声は艶っぽく、若々しい。
ささやくように歌うエミルー・ハリスの「How She Could Sing the Wildwood Flower」は、ニュアンスが生々しく、ギターの柔らかな響きとの共演は聴き応えがある。柔らかなエコーが目の前の拡がり、広い空間に浸透していく様子がとにかく清々しい。
チョ・ソンジン独奏「モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番」を聴いても、独特の繊細なタッチ、浸透力のある響きと、広々とした雄大なスケール感が体験できる。低音は誇張せずに、しなやかに浸透していく印象で、ピラミッド型の帯域バランスが好ましい。
続いてゴールドカラーでゴージャスな雰囲気をかもしだすHE1000 WiFi。そのサウンドはワイドレンジで、低域の描写にもやや余裕がある。明瞭さ、ヌケの良さを印象づけるニュートラルな音調で、透明感、繊細さといった部分でも、上級機の強みを感じさせる。
リンダ・ロンシュタットは透き通るように滑らかで、活気に満ちた表情で歌う「デスペラード」は聴き応えがある。「エンドレス・ラブ」でのライオネル・リッチーの声は胸板の厚みを感じさせるほどニュアンスが豊かで、浸透力がある。繊細で透明感に富んだダイアナ・ロスの歌声も素敵だ。
そしてチョ・ソンジンのピアノはタッチの描き分けが実に克明、ホールの奥深くまでうねるように拡がる重厚な響きも聴き応えがある。オケの多彩な響きも柔らかな感触を伴ないながら、スムーズに浸透し、緻密な響きが大きな空間にスッと吸い込まれるように消えていく様子が実に新鮮だ。もうしばらくの間、聴き続けていたい。けっして大袈裟ではなく、そう感じさせるほどの心地よさだった。
HiVi視聴室のアクセスポイントと両モデルをWi-Fiで繋げる設定を施したうえで、iPhoneのQobuzアプリを立ち上げ、「スピーカーアイコン」をタップしたところ。「HIFIMAN」製品が2つ「Qobuzコネクト」対応機器として認識されている状態で、そこをタップすると当該ヘッドホンでハイレゾ音源を含むQobuzの再生が可能だ
手軽に、本格の音が楽しめる「Wi-Fiヘッドホン」に注目
低音が豊かだとか、高域が伸びているとか、持ち味を際立たせるのではなく、自然な空間の拡がりを楽しませるのは両モデルに共通している。雑味を感じさせない透明感に溢れたサウンドは、実に堂々として、軽やか。ヘッドホン再生であることを忘れてしまいそうなこの清々しさは、まさにUNVEILEDの血統と言っていいだろう。
自宅で手軽に、だが本格の音で、ヘッドホン再生を楽しみたいという方にとって、HE1000 WiFiとArya WiFiは極めて合理的な選択であり、こんなモデルを待っていた、という方も少なくないのではないか。ヘッドバンドやイヤーパッドの工夫に加えて、側圧も強すぎず、緩すぎず、実際の装着感も良好。1時間を越える試聴でも、さほど苦にならないのも大きな魅力だ。
また通勤/通学などの屋外での利用はなかなか考えづらいが、その気になれば、スマホとUSB接続してQobuz再生が可能。お昼休みにお気に入りのアーティスト、楽曲を楽しんで、リラックスするのもいいだろう。
この快適さと、爽快なサウンドを、ぜひ1度、ご自身で体験していただきたい。
>本記事の掲載は『HiVi 2026年春号』