動画や音楽など、インターネットを使った配信サービスの普及は著しく、パッケージソフト再生と並ぶ主要な再生ソースになっている。そうした新しいサービスの普及に合わせて、われわれも、やれ光回線だ、Wi-Fiだと、環境を整えてきたはず。だが、それでは十分ではない。
筆者のネットワーク環境を見ても、せいぜいネットワーク機器の付属ACアダプターから、(オーディオ用とはうたっていないものの)音が良いと評判のACアダプターに換えたり、ネットワーク配線に加えたりするだけで効果があるというアクセサリーを試す程度だ。そんな方は少なくないだろう。ちなみに現状は図1の通り。それなりにネットワークの環境は構築しているというか、場当たり的に、なんとなく組み上げてきたというのが正直なところだ。
【図1】鳥居邸ネットワークシステム環境(2026年1月現在)
鳥居さんのご自宅全体のネットワーク環境を整理してみた。2階のリビング/仕事場に1G光回線が繋がれ、そのONU(終端装置)兼ルーターからWi-FiアクセスポイントにLAN接続。そこから壁内配線を経て、1階のオーディオ/シアタールーム(架空劇場)に送られ、スイッチングハブでネットワーク機器へと分配される流れだ
そんな現況を雑談の中で本誌編集長に話したところ「では根本的なところからできるだけ手軽にネットワーク環境を再整備し、得られた効果を読者にリポートしてみませんか」との提案があった。もともと興味はあったので渡りに船とばかり挑戦してみることにした。
外来ノイズの悪影響を徹底除去!劇的変化をもたらした光変換
まずはなんと言っても、外来ノイズの遮断だ。インターネットを含むネットワーク接続は基本的にノイズに強く、よほどのことがなければデータ自体の送受信は問題なく維持されるし、仮にノイズによってデジタルデータが一部破損しても復元が可能なエラー訂正の仕組みも内包されていると考えてよいだろう。だが、これは映像と音声の再生にこだわる、われわれのようなオーディオ、オーディオビジュアルファンが考える「良好かつ確実な伝送をキープできている」という意味ではない点には留意されたい。乱暴なことを言えば、信号が伝送できさえすれば「品質」はあまり問わないのだ。デジタルデータといっても、テキスト情報を正しく伝送されることと、映像や音声の品位に関わるネットワーク伝送とは、次元が異なり、同じ扱いをされては困るのだ。
ということで、まずはインターネット、あるいはネットワーク環境に混入するノイズを遮断したい。まず手軽に実施できる方策として、対象をオーディオ/シアタールーム(=架空劇場)内でのそれに絞ろう。
わが家では、インターネット回線として1G仕様の光ファイバー回線を使用しているので、まずは2階に置いたONU(光回線終端装置)に繋がれる。そこにバッファロー製Wi-Fiルーターをアクセスポイントとして繋ぎ、2階用と架空劇場がある1階用に分配し、壁内配線をしている。つまり、今回の連載では、この1階のネットワーク回線を改善していく。
まず使用したのはトップウイング「OPT ISO BOX」。これはネットワーク回線を通る電気信号を、一度光信号に変換することでノイズを絶縁する機器。電気的な伝送経路を一度遮断することで、効果的にノイズを遮断できる仕組みで、内部的に光信号は再び電気信号に変換されて、一般的なLAN端子の形で出力されるので、ネットワーク環境の中に、本機を挟むだけで効果を発揮し、後段のネットワーク機器は全てノイズを遮断した効果がそのまま生きる。
改善❶ 光絶縁ツールOPT ISO BOXを使う
トップウイングのOPT ISO BOX(¥39,600税込)。ネットワーク環境のノイズ遮断、低減のための光絶縁アイテムとして2024年末に発売され、ベストセラーを記録中だという。幅70×高さ32×奥行83mm、193gと非常にコンパクトかつ軽量なので、設置場所の制約はあまりないが、重量級LANケーブルを使うときは筐体が浮かないような工夫を施す必要があるかもしれない
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OPT ISO BOXを架空劇場内の壁面LAN端子からの1mほどのLANケーブル(エイムNA2)を1本購入し、繋いだ。
効果を確かめてみよう。いつも通りリンのMAJIK DSでQobuzの音楽配信を聴いてみると、S/Nが良くなったことがすぐにわかる。音場の見通しがクリアーになるし、音の余韻やホールの響きのような微少な音の再現性が高まったことがわかる。信号の純度が高まったような感覚だ。ヴォーカルの質感が上がって、おなかから声が出ている感じ、息継ぎの気配のようなニュアンスが豊かに変化。ヴォーカル全体の雰囲気としても、音像がシャープになって、しかも芯の通った厚みのあるものになった。これは大きな違いだ。
【図2】OPT ISO BOXの動作イメージ
▲PT ISO BOXは、筐体内の電気/光変換回路で、LAN(RJ45端子)から受けた電気信号を一度光に変換し、光信号にしたうえで、光/電気変換回路で再び電気信号に戻し、LAN端子で出力するアイテム。光変換を行なうことでネットワーク伝送にまつわる様々なノイズの除去、低減を図る、光絶縁アイテムだ
Apple TV 4Kで動画配信を観ると、こちらは、前述のQobuzでの音質向上効果以上と言いたくなる画質/音質の改善が得られた。映像は細部のディテイルが増し、肌の質感が大きく高まった。しかもフィルム撮影とデジタル撮影という、映画におけるニュアンス、マチエール(感触)や解像感表現の違いまで明瞭に再現。まさにヴェールを1枚剥がしたような感覚が得られたのだ。ネット動画配信でここまでの画質が得られるとは思っていなかったので驚いた。
音質面では、特に低音の伸びが増し、爆発音などの迫力が大きく変わった。サラウンド描写もより立体感が高まった。極端にいうと、パッケージソフトに迫る音に近づいた、と言っていいかもしれない。OPT ISO BOXを追加した結果、驚くほど画質/音質が向上したのであった。
ただし、もともと架空劇場の壁面LAN端子と繋いでいたスイッチングハブ以後に配していたミュージックサーバー内に保管しているハイレゾ音源の再生では、わずかにS/Nの向上は感じたが、それほど大きな違いは感じられなかった。ハイグレードなオーディオ用LANケーブル(サエクSTRATOSPHERE SLA-1)で接続していたこともあって、光絶縁による効果が少なかったかもしれない。
独立したネット環境を作るために架空劇場「専用ルーター」を追加設置
続いては、交通渋滞の緩和。ネットワーク機器の信号伝送は多対多、信号の送受信が基本であり、オーディオ機器間の伝送とは全く異なる。オーディオ機器の接続は、それぞれの端子規格に合うケーブルを使って、プレーヤーとアンプ、スピーカーなどを一対一で、水が下流に流れるかの如く一方通行で伝送している。ネットワークの信号伝送では、ネットワークに繋がる機器、つまりオーディオ機器以外のパソコンや薄型テレビ、ゲーム機、その他のIoT家電と呼ばれるスマート家電(たとえばネット接続対応の冷蔵庫や照明、電子レンジ、防犯カメラなどはもう一般的だ)が同時にしかも常時接続されていて、同じ道路(=ネットワーク)を共用している。年末年始などの高速道路の大渋滞のような、頻繁なやり取りがネットワークで発生していると考えてもよいだろう。そうした信号の大渋滞のやり取りの激しさを、オーディオ機器はそのまま受け取ってしまう。高品質のままで、できるだけシンプルな状態で信号をやり取りしてほしい映像や音声のデータも一緒くたにしているのだから厄介だ。
そこで役立つのがトップウイングの「DATA ISO BOX」と「OPT AP」。前者はネットワークオーディオに特化した「オーディオ専用ルーター」、後者は「オーディオ用無線アクセスポイント」だ。これは、オーディオ機器以外がぶら下がっているネットワークとは別に、もう1つの独立した(=閉じた)ネットワーク環境を、簡単に作ってしまうアイテム。
改善❷ 静かなネットワーク環境を作るDATA ISO BOXを試す
ネットワーク機器は、ネットワーク内に初めて繋がるタイミング以外でも、様々な通信が絶え間なく行なわれている。ネット対応家電(IoT家電)やテレビ、レコーダーなどが近くに対応する機器があるとの呼びかけを行なうマルチキャスト通信や、IoT家電のデータ送受信のためのユニキャスト通信がそれにあたるが、そうした「ネットワーク上の負荷」を遮断し、オーディオ機器、AV機器に「静かなネットワーク環境」を作り出すのが、「オーディオ専用ルーター」DATA ISO BOX(¥55,000税込)だ。単品で使う場合はネットワークの知識が必要であるため、単品の販売は指定特約店に限られている(OPT APのバンドルセット品は一般発売されている)
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DATA ISO BOXを使って、オーディオ用ネットワーク環境を分離すると、スマホやタブレットなどからネットワーク機器が操作できない状態になる。OPT AP(¥33,000税込)は、オーディオネットワーク用Wi-Fi親機(無線アクセスポイント)として開発され、DATA ISO BOXとの組合せにより、最小限の通信負荷としながら操作性の自由度を両立させるアイテム。単体アクセスポイントとして必要最小限の機能に絞り、安定した無線環境を、設定不要かつ接続するだけで構築できる。DATA ISO BOXとOPT APのセット品(¥77,000税込)もあり
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わが家の例で言えば、架空劇場だけを独立したネットワークグループとしてしまうカタチになる。2階にある仕事用パソコンやタブレット、薄型テレビ、2台のビデオレコーダーといった機器は1階にある架空劇場で独立させたネットワークには接続できなくすることで、これで架空劇場内の交通量が減る。渋滞がなくなれば伝送もスムーズになるし、無駄なやり取りがなくなることでオーディオ機器のネットワーク処理に関わる負担も減って、負荷変動によるノイズ発生なども減るというわけだ。
同じことは、汎用ルーターや汎用アクセスポイントの設定を自力で変更して対応することでも可能だが、それには高度な専門的ネットワーク知識が必要となる。だがDATA ISO BOXであれば、必要な設定が全て済んだ状態で出荷されるので、容易にその環境が実現できる。ただし、DATA ISO BOXを繋いだ環境では、スマホなどからネットワーク機器の操作ができなくなるので、あらかじめDATA ISO BOXとの最適な設定が済ませてある、OPT APを無線アクセスポイントとして組み合わせるという仕組みだ。
【図3】鳥居邸ネットワークシステム環境(2026年1月取材後)
今回の実施した2つの改善策を実施後の状態を整理してみた。大局をにらみつつ、ネットワークインフラの細部の詰めを行なっていく次第だ
さっそく試してみよう(OPT ISO BOXはそのまま使っている)。ネットワーク環境を独立化した結果、映像/音声ともにS/N感はさらに向上した。OPT ISO BOXが劇的といった効果を感じたのに比べると、激しい差ではなかったが、情報が緻密になるというか、リアリティが増すといった無視できない質感の向上があった。ミュージックサーバーの音源をMAJIK DSで再生したときも情報量の増大を確認でき、OPT ISO BOXの効果で既にかなり優秀になっていたQobuz再生と比べて、やはりローカルサーバーに保存したダウンロード音源が一枚上手と実感できるような、嬉しい音質差も感じられた。
ネット環境の抜本的改善は音、そして映像面での効果も大
今回試したのは、ノイズ対策アクセサリーの追加のような対症療法ではなく、ネットワーク環境の抜本的な改善であり、その効果は想像以上に大きかった。Qobuzがメインの音楽ソースの1つになりつつある現在、こうした根本的な整備が重要であることを強く実感した。
そして、オーディオ再生だけでなく、ネット動画再生の、特に映像面にもかなりの効果があることも強調したい。ネットワーク環境の整備は、音楽、動画を問わず、インターネットを活用したコンテンツ再生をしている人には誰にとっても不可欠なものだと言えよう。
(続く)
>本記事の掲載は『HiVi 2026年春号』