三寒四温を肌で感じる2月下旬、素敵なヘッドホンが自宅に届けられた。SENDY AUDIO(センディーオーディオ)の「Egret」である。同社は2016年、中国東莞で誕生したヘッドホンメーカーで、ブランド名の「SENDY」は中国語の「声=SEN」と「笛=DY」の響きに由来し、「笛の音色のように美しい音を再生するヘッドホンを作りたい」という思想から生まれたと聞いている。

 またセンディーオーディオは、OEMメーカーが独立したブランドを出したというよりは、最初から自社ブランドとして音響機器を設計・製造することを目的として設立された点も注目だ。

オープン型ヘッドホン:SENDY AUDIO Egret ¥121,000(税込)

●型式:オープン型
●使用ドライバー:98×84mm プラナーマグネティック(平面磁界)型ドライバー
●振動板:ナノスケール複合ダイアフラム
●インピーダンス:24Ω
●再生周波数帯域:20Hz〜40kHz
●感度:95dB
●ケーブル:約1.8m 2重シールド設計3重複合材4芯線
●線材:エナメル加工金メッキ銅、銀メッキ銅、古河電工製OFC
●ヘッドホンジャック:3.5mm×2
●プラグ:4.4mmバランス(ストレートプラグ)
●質量:約443g(ケーブル含まず)
※付属品:Egretケーブル、4.4mm to 3.5mm変換ショートケーブル(約10cm)、3.5mm to 6.35mm変換プラグ、麻布アクセサリーポーチ、レザーキャリングケース

2重シールド設計の3重複合材採用プレミアム4芯ケーブルを同梱。長さは約1.8mで、ヘッドホン側コネクターはL/Rそれぞれに3.5mmプラグを、再生機側には4.4mmバランスプラグを採用する。4.4mm to 3.5mm変換ショートケーブルと3.5mm to 6.35mm変換プラグも付属する

堅牢なレザーキャリングケースも付属し、屋外に持ち出す時にも安心だ

Egretの公式サイトはこちら ↓ ↓

www.aiuto-jp.co.jp

 同社は3つのコンセプトを掲げている。ひとつ目は、長時間のリスニングに耐える、快適なフィッティング性能の追求、次に天然木材を使用したハウジングを始めとした、クラフトマンシップによる制作。

 みっつ目は高音質の探求で、独自のプラナーマグネティックドライバー技術を用いた振動板と、天然木材のハウジングを組み合わせることで、高解像度を狙いつつも、音楽性も犠牲にしないという、両立が難しい音を狙っている。木材加工のノウハウと音響設計を融合させることで、機械的な精度だけでは得られない音の質感を追求しているのだ。

 現在のラインナップとしては、ブランド初期の代表作として高く評価されている「Aiva」の後継機「Aiva 2」、エントリークラスに位置する「Apollo」、そしてフラッグシップのオープン型ヘッドホン「Peacock」が用意されている。いずれも、いわゆるモニターライクな音作りというよりは、音楽の世界にどっぷりと浸ることができる、豊かな音楽性を備えたサウンドが特徴だ。

 僕自身も、ステレオサウンドのYouTubeチャンネル(https://youtu.be/k79qNfr5yf8 )でこの3機種を試聴する機会があったが、所有欲を満たす造形美と音楽的な表現力の高さにすっかり魅了されてしまいPeacockを導入、自宅1階のリスニングルームを中心に愛用している。

 今回レビューするEgretは、そんなSENDY AUDIOの最新モデルで、もっともスタンダードなポジションに位置付けられるヘッドホンだ。最初に率直な印象を書いておくと、このモデル、かなりコストパフォーマンスが高い。

Egretは98×84mmという大型サイズのプラナーマグネティック(平面磁界型)ドライバーを搭載する。きわめて薄い振動板素材にアルミニウム回路をコーティングし、それを磁気回路でサンドイッチすることで振動させる仕組みだ

イヤーパッドの外縁部とヘッドバンドの内側には、柔らかく通気性に優れたラムレザーと肌に優しいベロアを組み合わせた素材が使われている。これにより、長時間の試聴でも疲労感が大幅に軽減され、没入感あふれる体験を提供してくれる

 堅牢な作りのレザーケースから取り出した瞬間、クラフトマンシップが感じられる美しい造形に目を奪われた。正直に言ってしまうと、これが10万円台前半のモデルとはにわかに信じがたいほどの完成度である。

 イヤーカップには北米産ブラックウォールナットの高密度木材が採用されているが、緩やかなアールを描くハウジング形状からも、加工精度はかなり高いレベルに達していることが分かる。Peacockを所有している自分としては、少々複雑な気持ちになるほどだ(笑)。

 デザインコンセプトは「Wings, bathed inlight」。白鷺が飛び立つ瞬間の優雅さと力強さを、音とデザインの両面で表現したという。イヤーカップ中央に配置されたメッシュデザインは、飛翔する白鷺の翼をモチーフにしたものだ。もっともこれは単なる装飾ではない。音響透過性を考慮した設計となっており、オープン型ヘッドホンとして自然な音の抜けを確保する役割も担っているという。

 さらに、イヤーカップやブラケットなどの金属パーツには航空機グレードのアルミニウムが使用され、CNC加工によって精密に削り出されている。実際に手に取って動かしてみるとひじょうに滑らかで、機械的な精度の高さにも感心させられた。SENDY AUDIOが掲げるクラフトマンシップという言葉は、決して誇張ではないことがよく分かる。このビルドクォリティだけでも、本モデルをゲットする価値があると思う。

 しかし、このヘッドホンの本質は外観ではない。Egretの核心は、そのドライバーにあると言っても過言ではない。

 本機には、98×84mmの大型プラナーマグネティックドライバー(平面磁気駆動の振動板)が搭載されている。振動板は「ナノスケール複合ダイアフラム」で、磁性切削層は800ナノメートル未満ときわめて薄い。振動板の質量を軽減することで、レスポンスを向上させる狙いだ。

 プラナーマグネティック方式は、振動板全体を均一に駆動する構造を持つため、一般的なダイナミック型ドライバーと比べて応答速度が速く、歪みが少ないという特性を持つ。微小信号の再現性にも優れ、音のディテイルや空間表現力が高いことから、近年ハイエンドヘッドホンの分野で採用例が増えている方式である。

リンやVOLUMIOのソース機器からゼンハイザーのヘッドホンアンプ「HDVD 800」に音声信号を入力し、これでEgretをドライブしている。写真右手前が取材機の「Egret」で、奥側が土方さんが愛用している「Peacock」

土方邸1Fリスニングルームで取材を行った。土方さんはネットワーク再生時の伝送経路にも気を配っており、複数の光アイソレーターも組み合わせられている

 さらにEgretでは、EB(電子ビーム)蒸着法を用いて、振動板表面にアルミニウム回路をナノレベルで精密に形成している。これにより振動板の駆動精度が向上し、より明確な音の階層構造と安定した周波数特性を実現しているという。

 ただし一般的な評価として、プラナーマグネティック方式にはひとつ弱点もある。それは低域のエネルギー感を出しづらいということだ。振動板駆動方式の特性上、量感のある低域を得るためには、ドライバー設計や磁気回路、ハウジング設計まで含めた総合的なチューニングが求められる。

 今回の試聴は、リンのネットワークプレーヤー「KLIMAXDS」と、VOLUMIOの「Motivo」を用意し、それらをゼンハイザーのヘッドホンアンプ「HDVD 800」にXLRケーブルでバランス接続した。

 HDVD 800は、同社のフラッグシップヘッドホン「HD800」シリーズのために設計されたモデルで、バランス/アンバランス出力時の駆動力や音場表現の自然さには定評がある。

 Egretは付属ケーブルにもこだわりが見られる。約1.8mの4芯構造で、導体にはエナメル加工金メッキ銅、銀メッキ銅、そして古河電工製OFCという三種類の素材を組み合わせた複合導体を採用。さらに絶縁体と電磁シールドを兼ねる素材としてグラフェン強化PVCが使用されている。こうした構造により、信号伝送の安定性とノイズ耐性を高めているという。

 ただし、付属ケーブルのプラグは4.4mmバランス仕様となっている。このままではHDVD 800につなぐことができないので、今回は秋葉原のケーブルショップ「オーディオみじんこ」で特注した「XLR4ピン→4.4mmバランス変換コネクター」を介して接続した。この方法を用いることで、ソース機器からヘッドホンまでの信号経路をフルバランスで構成することができるのだ。

 まず、愛用のバルセロナチェアに腰掛け、オーディオ雑誌やカメラ雑誌をめくりながら音楽を楽しむリスニングスタイルを試す。操作端末となるiPadを手元に置き、Roon+Qobuzから楽曲を選び再生していく。

HDVD 800はバランスXLR出力対応なので、特注のXLR4ピン→4.4mmバランス変換コネクター(写真の赤いパーツ)を使ってEgretとつないでいる

1Fリビングルームで「Egret」を体験していただいた。普段はここで、雑誌などを読みながら、お気に入り音楽をiPadで探しているとか

 最初に聴いたのは、J-Popから藤井 風のシングル「花」と、3rdアルバム『Prema』。近年の男性アーティストの中でも評判の高い藤井 風だが、楽曲の録音クォリティもかなり高い。特に感心したのが、Egretでの低域表現だ。これまでの同社製ヘッドホンと比べても、ベースとキックドラムの重量感が明らかに増している。

 しかも単に量感が増えただけではない。密度の高い音色は従来モデルの美点をしっかりと踏襲しており、音楽が楽しく聴ける。音像の距離感は比較的近めで、アーティストを客観的に眺めるというより、すぐ側で歌っているような親密な空気感を感じさせてくれる。

 続いて、昨年12月に発売された星街すいせいの「月に向かって撃て」を再生した。個人的に感じている彼女の魅力は、シティポップやエレクトロの要素を取り入れたサウンドの中で、疾走感のある都会的なビートをメロディアスに描き出すところにある。Egretはその特徴を魅力的に伝えてくれる。

 高域に向かって伸びるヴォーカル、スピード感のあるリズムトラック、そして楽曲の中でふと見せる憂いを帯びた表情。そのコントラストや余韻のニュアンスもていねいに描き出している。

 続いて、今年のグラミー賞で「ジャズ・ボーカル・アルバム賞」を受賞したサマラ・ジョイのアルバム『Portrait』より「Loverbird」を聴いた。

 「血の通ったような温かいヴォーカル」という表現はオーディオの世界でもよく使われるかもしれないが、Egretの質感はまさにそれ。デビュー当時、サラ・ヴォーンの再来とも言われた彼女の見事な歌唱を、Egretは音楽性豊かに表現する。

 この曲を聴いて、このヘッドホンは低域表現が優れていることを再認識した。レスポンスの速さと重量感を両立した低音によって、ウッドベースの存在感も実にリアルだ。中音域が決して引っ込まず、ヴォーカルの表情が自然に前へと浮かび上がってくる。取材時に聴いた話では、SENDY AUDIOのスタッフはこの低域表現を求めるために、多くの改良を行なったという。そこでは、ラウンドした立体的なハウジングがその一役を担っているとのことだ。

リビングルームにはAstell&Kern「PD10」も準備されていたので、こちらでも「Egret」を試聴してもらった。オープン型なので屋外使用は難しいかもしれないが、ポータブルプレーヤーとの組み合わせはアリかもしれない

SENDY AUDIOの輸入元であるアユートの河野 亮さん(左)が取材に同席し、製品の詳細について詳しく解説してくれた

 次に、仕事机に常設しているAstell&Kernの「PD10」とバランス接続し、デスクトップ環境でも試してみた。本体と給電用USB端子を備えたクレードルがセットになったモデルで、デスクトップ用途には実に相性の良い構成である。

 試聴曲は、ドイツ・グラモフォンレーベルからリリースされているヴィクトル・ル・マスによる「ラヴェル:ボレロ」。伝統的なクラシック作品の演奏のようにも思えるが、実際にはまったく異なる。シンセサイザーによって構成された現代的なアレンジで、楽曲の途中からかなり低い帯域の重低音成分が現れるほか、女性ヴォーカルも加わる先鋭的な作品である。

 肝心の音質も、良好だった。分解能は高く、聴感上の周波数特性やダイナミックレンジがともに広い。再生難易度の高いこの楽曲に含まれる重低音や空間的なレイヤー構造も破綻なく描き出し、音場のスケール感も充分に表現できていた。

 Egretはインピーダンス24Ω、感度95dBと、プラナーマグネティック型としては比較的扱いやすい仕様になっている。実際、今回の試聴でも高出力DAPとの組み合わせで駆動力不足を感じることはなく、現代のポータブルプレーヤーなら実力を引き出すことができるだろう。

 装着の快適性は、レビュー前から少し気になっていた部分でもある。Egretは約443gと、ヘッドホンとしてはやや重い部類に入るのがその理由だ。しかし今回のふたつのシーンで使用した印象としては、頭部に圧力を均等に伝える形状のヘッドバンドがしっかりとホールドし、長時間のリスニングでも負担は最小限に抑えられていたことを報告したい。

伝統的な手作業による生産工程を継承し、高品質な物作りを守り続ける

 SENDY AUDIOは、木材を使用した伝統的な手作業による生産にこだわりを持っており、製品にも天然無垢材を多く採用している。その製造工程は、木材選択、カッティング、CNCカービング、研磨、塗装と空気乾燥を繰り返すというもので、ひじょうに手間がかかっている。「Egret」にも独特の木目が特徴の北米産ブラックウォールナット材が採用されている。

※写真はSENDY AUDIO製品の製造工程のイメージ

 近年、ヘッドホンの世界は群雄割拠の様相を呈している。振動板やマグネットといったドライバー技術の革新に加え、新興ブランドの登場による多様化、そして良くも悪くもハイエンド化が急速に進んでいる。

 しかし、SENDY AUDIOの製品は、単にスペックやデザインだけで語れるものではない。そこには常に「音楽をどのようにユーザーへ届けるのか、製品価値を高めていくのか」という明快な思想が感じられる。その結果、リスニングルームでの試聴はもちろん、書斎やデスクトップといった日常のさまざまなシーンでも、音楽に深く没入できるヘッドホンに仕上がっている。

 改めて目の前にあるEgretを眺めていると、ウォールナット材の選定からカッティング、CNCカービング、研磨、多層コーティング、そして自然乾燥といった工程を幾度も繰り返して仕上げられていく製造風景が目に浮かんでくるようだ。いつもは、こんなこと、あまり思わないのだけど……。

 もし同社が、Egretのように優れたコストパフォーマンスを持つモデルを今後も作り続けていくことができるのであれば、「SENDY AUDIO」というブランドの未来は、かなり明るいものになるのではないだろうか。

(撮影:嶋津彰夫)

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